• 著者: Zachary R. Chalmers, Caitlin F. Connelly, David Fabrizio, Laurie Gay, Siraj M. Ali, Riley Ennis, Alexa Schrock, Brittany Campbell, Adam Shlien, Juliann Chmielecki, Franklin Huang, Yuting He, James Sun, Uri Tabori, Mark Kennedy, Daniel S. Lieber, Steven Roels, Jared White, Geoffrey A. Otto, Jeffrey S. Ross, Levi Garraway, Vincent A. Miller, Phillip J. Stephens, Garrett M. Frampton
  • Corresponding author: Garrett M. Frampton (Foundation Medicine Inc., Cambridge, MA)
  • 雑誌: Genome Medicine
  • 発行年: 2017
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 28420421

背景

近年、免疫療法は皮膚がん、膀胱がん、肺がん、腎臓がん、およびミスマッチ修復欠損腫瘍において、一部の患者で極めて持続的な奏効を示す画期的な治療法として注目されている Topalian et al. NEnglJMed 2012Le et al. NEnglJMed 2015Motzer et al. NEnglJMed 2015。これらの薬剤は、免疫チェックポイント阻害を介して抗腫瘍活性を高めることで、免疫応答の制御経路を調節する Pardoll et al. NatRevCancer 2012。しかし、免疫療法に反応する患者は一部に限られており、治療効果を最も得やすい患者を特定するバイオマーカーの確立が喫緊の課題であった。

PD-1/PD-L1タンパク質発現を免疫組織化学 (IHC) で測定するアッセイは一部の薬剤のコンパニオン診断薬として承認されているが、技術的に困難であり、解釈が難しく、常に免疫療法への反応を正確に予測するわけではない。新たなバイオマーカーとして、腫瘍変異負荷 (TMB: Tumor Mutational Burden) が注目されている。高TMB腫瘍は、より多くのネオアンチゲンを保有し、活性化された免疫細胞の標的となりやすいと仮説されている。TMBは、いくつかの腫瘍型において、CTLA-4およびPD-1阻害の両方に対する患者の反応と相関することが示されており、ある臨床試験では、PD-L1 IHC発現よりもTMBの方が奏効率と有意に強く関連することが報告された Rizvi et al. Science 2015

TMBを増加させるメカニズムとして、DNAミスマッチ修復 (MMR) 遺伝子 (MLH1、MSH2、MSH6、PMS2) の機能喪失変異、DNAポリメラーゼ (POLE、POLD1) のエキソヌクレアーゼドメインの変異、TP53機能喪失などが知られている Alexandrov et al. Nature 2013Lawrence et al. Nature 2013。従来のTCGAベースの研究は20〜30癌種に限定されており、より多様な癌種におけるTMB分布と高TMB患者の割合は不明であった。また、包括的ゲノムプロファイリング (CGP) によるTMB測定が全エクソームシーケンス (WES) と同等の精度を持つかどうかの大規模な検証も不足しており、臨床応用にはその精度検証が不可欠であった。これまで、10万例を超える大規模コホートにおけるTMBの包括的なランドスケープ解析は未解明であり、特に希少癌種におけるTMBの分布や、高TMBと関連する新規の体細胞変異の同定は手薄であった。

目的

本研究の目的は、FoundationOneアッセイ (CGP: 315遺伝子、約1.1 Mbのコーディング領域) によるTMB測定の精度をWESと比較して検証することである。さらに、Foundation Medicine社 (FMI) の10万例を超える多様な癌種コホートにおけるTMBの横断的分布を記述し、TMB高値と関連する体細胞変異および遺伝子を同定することを目指した。特に、PMS2プロモーター変異など、これまで報告されていない新規のTMB関連変異を探索し、その臨床的意義を明らかにすることも重要な目的であった。これらの知見は、免疫療法の適応拡大と、未試験の癌種における臨床試験設計に貢献すると考えられる。CGPによるTMB測定がWESと同等の精度を持つことを大規模に検証し、臨床実装可能なTMB測定ツールとしてのCGPの有用性を確立することも重要な目標であった。

結果

TMB測定の精度検証: CGP (1.1 Mb) によるTMB測定は、29検体で並行実施されたWESとの間で良好な相関を示した (R²=0.74) (Figure 1a)。また、TCGA WESデータ (35研究、8,917検体) との比較でもR²=0.98と高い精度が確認された。測定再現性は60対のレプリケートでR²=0.98であり、高い精度が示された (Figure 1b)。ダウンサンプリングシミュレーションでは、0.5 Mb以上のシーケンス解析でTMB測定の精度が担保されるが、0.5 Mb未満では特に中程度のTMB (10〜20 mut/Mb) において測定誤差が有意に増大することが示された (Figure 1c)。これは、CGPがWESと同等の精度でTMBを評価できることを裏付ける。

167癌種のTMBランドスケープ: 全コホート (n=92,439患者) の中央TMBは3.6 mut/Mb (範囲0〜1,241 mut/Mb) であった。TMBは年齢と有意な正の相関を示し (p<1×10⁻¹⁶)、10歳時の中央値1.67 mut/Mbから88歳時の中央値4.50 mut/Mbへと、線形モデルで約2.4倍の差が予測された。性差は有意ではなかった。167癌種におけるTMB中央値は、骨髄異形成症候群の0.8 mut/Mbから皮膚扁平上皮癌の45.2 mut/Mbまで広範に分布した (Figure 2)。小児悪性腫瘍 (18歳未満) の中央TMBは1.7 mut/Mbで、成人の中央値3.6 mut/Mbを大きく下回り、白血病、リンパ腫、神経芽腫、肉腫は特に低値であった。高TMB (>20 mut/Mb) が10%以上を占める腫瘍型として20以上の癌種が、5%以上を占める腫瘍型として38癌種が同定された (Table 1)。特筆すべき高TMB癌種には、皮膚基底細胞癌 (70.7%が>20 mut/Mb、中央値47.3 mut/Mb、n=92)、皮膚扁平上皮癌 (67.3%、中央値45.2 mut/Mb、n=266)、皮膚黒色腫 (39.7%、中央値14.4 mut/Mb、n=879)、肺大細胞神経内分泌癌 (19.8%、中央値9.9 mut/Mb、n=288)、子宮内膜腺癌 (18.5%、n=459)、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫 (18.4%、中央値10.0 mut/Mb、n=348)、肺非小細胞癌NOS (17.0%、中央値8.1 mut/Mb、n=2,636)、肺腺癌 (12.3%、中央値6.3 mut/Mb、n=11,855)、膀胱尿路上皮癌 (11.9%、中央値7.2 mut/Mb、n=1,218)、頭頸部扁平上皮癌 (10.1%、中央値5.0 mut/Mb、n=1,184) などが含まれた。軟部組織血管肉腫では、中央TMBが3.8 mut/Mbであったにもかかわらず、13.4%の症例で20 mut/Mbを超える高TMBが認められた。

MSI-HighとTMBの関係: 62,150検体でMSI測定を実施した結果、MSI-High症例の83%が高TMBであり、97%がTMB≥10 mut/Mbを示した (Figure 3a)。しかし、高TMB症例のわずか16%のみがMSI-Highであった。この共存関係は癌種によって大きく異なり、胃腸管腺癌 (胃、十二指腸、小腸腺癌) では高TMBとMSI-Highがほぼ常に共存するのに対し、黒色腫、肺癌、皮膚扁平上皮癌では高TMBが頻繁に見られるにもかかわらずMSI-Highは非常に稀であった (Figure 3b)。これは、MSIとTMBが部分的に重複するものの、異なる生物学的現象であることを示唆する。

MMR遺伝子変異・POLE変異とTMBの関連: MMR遺伝子 (MSH2、MSH6、MLH1、PMS2) およびPOLEの機能変異は、高TMB症例の13.5% (858/6,348例) で同定された (MSH6が最も頻繁に変異していた)。これは、高TMB症例の86.5%がMMR/POLE変異を持たないことを意味し、現行のMSIやPOLE変異検査では同定できない高TMB症例が多数存在することを示した。全変異の関連解析では、POLE P286R変異 (p=1.1×10⁻⁷²) が2番目に有意な変異として検出され、そのハイパーミューテーターとしての既知の役割が確認された。FDR=0.0001で257遺伝子が高TMBと有意に関連し、effect size >0.5の48遺伝子にはMMR遺伝子およびPOLEが含まれていた (Figure 4a)。

PMS2プロモーターのリカレント体細胞変異という新規発見: PMS2遺伝子の転写開始点の上流50〜100 bpに相当する12か所に、高TMBと有意に関連するリカレント体細胞プロモーター変異クラスターを同定した (Figure 5a)。最も有意な変異であるchr7:6048788:C>T (p<0.0001、FDR p=1.2×10⁻⁴⁹) は、黒色腫においてTMB中央値を5.3倍増加させた (PMS2プロモーター野生型との比較) (Figure 5b)。この変異はしばしばジヌクレオチド置換 (chr7:6048788-6048789:CC>TT) の一部として出現した。PMS2プロモーター変異は、黒色腫の10.0% (173/1,731例)、皮膚基底細胞癌の23% (17/72例)、皮膚扁平上皮癌の19% (39/203例) に認められた。TCGA WESデータで3変異の体細胞由来が確認され (50例中4例、8.0%)、dbSNPおよびExACデータベースには存在せず、93.1% (274/294例) が体細胞由来アルゴリズムで確認された。黒色腫におけるPMS2プロモーター変異のアレル頻度中央値は0.26 (範囲0.05〜0.85) であり、BRAF V600変異の中央値0.37より低く、後発変異の可能性を示唆した。PMS2コーディング領域変異の頻度は0.2% (191/92,438例) とプロモーター変異より低頻度であった。

考察/結論

新規性: 本研究は、10万例を超えるCGPデータを用いてTMBの癌種横断的分布を初めて大規模に記述した点で画期的である。先行するTCGAベースの研究が20〜30癌種を扱っていたのに対し、本研究は167癌種を網羅し、免疫療法が未試験の多数の癌種でも高TMB患者が一定割合存在することを示した。CGP (1.1 Mb) によるTMB測定がWESと同等の精度を持つことを実証したことで、臨床実装可能なTMB測定ツールとしてのCGPの地位を確立した。さらに、PMS2プロモーター領域における新規のリカレント体細胞変異を同定したことは、これまで報告されていないTMB増加メカニズムの発見であり、腫瘍形成における制御領域変異の新たな役割を示唆する。

先行研究との違い: 従来のMMR遺伝子変異やPOLE変異による高TMBの報告とは異なり、本研究で同定されたPMS2プロモーター変異は、高TMBを示す皮膚がんにおいて高頻度に見られる新規の変異であり、特に紫外線変異シグネチャー (CC>TT変換) と一致する。この発見は、TMB増加のメカニズムが遺伝子コーディング領域の変異に限定されないことを示し、これまでの研究では見過ごされてきた制御領域の変異が重要なドライバーとなりうることを対照的に示している。

臨床応用: 高TMBの86.5%はMMR/POLE変異を持たず、現行のバイオマーカー (MSI/POLE) では同定できないことが示された。このことはTMBを直接測定するCGPの独自の臨床的価値を意味する。20以上の腫瘍型で10%超が高TMB (>20 mut/Mb) を示すことは、免疫チェックポイント阻害薬の適応拡大を支持するデータとして、疾患横断的な臨床試験 (basket trial) 設計に活用できる。年齢とTMBの正相関 (10歳時中央値1.67 mut/Mb vs 88歳時中央値4.50 mut/Mb) は高齢者での免疫療法感受性を示唆する一方で、小児癌の低TMBは免疫療法戦略上の課題を提起する。PMS2プロモーター変異は、黒色腫や皮膚扁平上皮癌といった免疫療法が有効な癌種で高頻度に見られ、これらの患者集団における免疫療法の奏効予測バイオマーカーとしての臨床的意義が期待される。

残された課題: 今後の検討課題として、本コホートが進行・転移癌患者主体であるため、早期癌におけるTMB分布や免疫療法反応との関連を評価する必要がある。また、真の免疫療法反応率との直接的な関連を示すデータが不足しており、今後の臨床試験で検証されるべきである。さらに、異なるプラットフォーム間でのTMB測定値の標準化も重要な課題である。PMS2プロモーター変異のアレル頻度中央値がBRAF V600E (0.37) より低い0.26であることは、この変異が腫瘍進化の後期に獲得されるサブクローナルイベントである可能性を示唆しており、変異の機能的・治療的意義のさらなる解明が今後の研究方向性として挙げられる。

方法

CGPプラットフォームとコホート: Foundation Medicine社のFoundationOneアッセイを用いて、合計102,292検体を解析した。病理学的診断はヘマトキシリン・エオシン染色スライドのレビューにより確認され、DNA抽出に進んだ全てのサンプルは最低20%の腫瘍細胞を含んでいた。ホルマリン固定パラフィン包埋 (FFPE) された臨床がん検体から抽出された50 ng以上のDNAに対し、185、236、315、または405のがん関連遺伝子のエクソン領域と、がんにおいて頻繁に再配列する19、28、または31遺伝子の選択されたイントロンのハイブリダイゼーションキャプチャーを実施した。これらのライブラリは高均一な中央カバレッジ (500倍以上) でシーケンスされ、塩基置換、短い挿入・欠失 (indel)、コピー数異常、および遺伝子融合/再配列が評価された。FoundationOneアッセイの全バージョンからのデータが解析に用いられた。品質管理 (中央エクソンカバレッジ300倍以上、重複除外) 後、最終的な解析対象は92,439検体であり、少なくとも50例が存在する167の癌種を主要解析に用いた。患者の中央年齢は60歳 (範囲1歳未満〜89歳超)、小児症例は2.5%を占め、男性41,964例、女性50,376例であった。

TMBの定義と測定: TMBは、解析されたゲノムのメガベースあたりの体細胞性、コーディング領域の塩基置換およびindel変異数として定義された。標的遺伝子のコーディング領域における全ての塩基置換およびindelは、同義変異を含め、フィルタリング前にカウントされた。同義変異はサンプリングノイズを減らすためにカウントされた。既知の体細胞変異、腫瘍抑制遺伝子の切断変異、および体細胞-生殖細胞接合性アルゴリズムによって生殖細胞系列と予測された変異はカウントから除外された。また、dbSNPおよびExACデータベースに存在する既知の生殖細胞系列変異も除外された。CGPによるTMB測定精度は、WES (29検体で並行実施) およびTCGA WESデータ (35研究、8,917検体) と比較された。測定再現性は60対のレプリケートで確認された。0.5 Mb以下のシーケンス量におけるTMB測定誤差はシミュレーションで評価された。TMBの平均値の有意差検定には、ノンパラメトリックなMann-Whitney U検定が用いられた。

MSI解析: 62,150検体でMSI (マイクロサテライト不安定性) 解析を実施した。CGPパネル上で十分なカバレッジを持つ114のイントロン内ホモポリマー反復座位の長さ変動を解析し、主成分分析を介して全体的なMSIスコアに集約することでMSI-High/MSSを分類した。これらの114座位は、FMI FoundationOneベイトセット上で十分なカバレッジを持つ1897のマイクロサテライトから、サンプル間の変動を最大化するように選択された。

統計的関連解析: 全遺伝子の機能変異とTMBの関連は、線形モデル (log10(TMB) ~ 変異状態 + 癌種) を用いて評価され、多重検定補正としてFDR (False Discovery Rate) が適用された (FDR=0.0001で257遺伝子が有意)。特定の変異とTMBの関連は、全ての変異 (1/2,000検体以上) について同様に検討された (FDR=0.05かつeffect size >0.15で117変異が有意)。PMS2プロモーター変異の体細胞由来の確認は、TCGA WESデータ、dbSNP、ExACデータベース、およびアレル頻度アルゴリズムを用いて実施された。これらの解析は、遺伝子変異の機能的影響を評価するための計算手法 (例: CADD、FATHMM、DeepSEA) も活用し、変異の機能的スコアを統合した。