• 著者: Alexander Leunig, Matteo Gianeselli, Scott J. Russo, Filip K. Swirski
  • Corresponding author: Alexander Leunig; Filip K. Swirski (Cardiovascular Research Institute, Department of Medicine Cardiology, Icahn School of Medicine at Mount Sinai; Friedman Brain Institute, Brain-Body Research Institute, Nash Family Department of Neuroscience; Marc and Jennifer Lipschultz Precision Immunology Institute, New York, NY, USA)
  • 雑誌: Nature Reviews Immunology
  • 発行年: 2025
  • Epub日: 2025-07-10
  • Article種別: Review
  • PMID: 40640567

背景

神経系と免疫系の相互作用は、18世紀のFalconer (1791) による情動と身体症状の関連記述にまで遡るが、近年まで両系統は独立したシステムとして研究されてきた。神経系は脳を頂点とする階層的・構造的システムであり、免疫系は骨髄・胸腺 (一次リンパ組織) ・リンパ節・脾臓 (二次リンパ組織) に加え全身組織に分散する「どこにでもあり、どこにもない」システムである。しかし、ケモジェネティクス (chemogenetics)・オプトジェネティクス (optogenetics)・単一細胞解析・空間トランスクリプトミクス (spatial transcriptomics)・神経トレーシング (neural tracing) 等の新技術により、両系統が共通の分子語彙 (サイトカイン、神経伝達物質、神経ペプチド、ホルモン) で双方向に対話し、炎症制御・ストレス応答・概日リズム・シックネス行動 (sickness behavior) を協調することが次々と明らかになった。炎症反射 (inflammatory reflex)、神経免疫細胞ユニット (neuroimmune cell units)、Blalockの「第六感」などのモデルが提案され、免疫系が病原体センサーとして、神経系がストレス・物理刺激センサーとして機能し、情報統合によって有機的な生体応答を生むことが認識されつつある (Tracey 2002, Blalock 2005, Godinho-Silva et al. 2019)。

先行研究では、神経系と免疫系の間の複雑な相互作用が、心理的ストレス、概日リズム、感染、組織損傷などの内外の刺激に応答して、全身の免疫細胞特性を調節する統合的ネットワークを形成することが示唆されてきた (Dhabhar 2014, Haykin & Rolls 2021)。例えば、社会的ストレスは血液脳関門 (BBB) の透過性を亢進させ、C-Cケモカイン受容体2発現 (CCR2+) 単球を脳に動員し、うつ病や不安を誘発することが報告されている (Menard et al. 2017)。また、迷走神経刺激は関節リウマチやクローン病の治療に有効であることが示され (Koopman et al. 2016)、神経系が炎症を直接制御する可能性が示されている。さらに、サイトカインは脳内の神経回路に影響を与え、シックネス行動や長期的な心理障害を引き起こすことが広く研究されてきた (Dantzer & Kelley 2007)。これらの知見は、神経免疫相互作用が多様な生理学的および病態生理学的プロセスにおいて中心的役割を果たすことを強く示唆する。

しかし、これらの相互作用を包括的かつ体系的に理解するための統合的なフレームワークは未解明な点が多かった。特に、神経-免疫通信が起こる特定の解剖学的場所と、免疫細胞のライフスパン全体にわたる神経系の影響を統合的に記述する枠組みが不足していた。例えば、免疫細胞の発生、分布、エフェクター機能といった免疫系の操作的ライフスパンの各段階において、神経系がどのように影響を及ぼすかについての体系的な理解は不十分であり、依然として大きな gap が残されている。また、神経系と免疫系が共有するシグナル分子群(サイトカイン、神経伝達物質、神経ペプチド、ホルモン)が、それぞれの作用距離や機能特異性に応じてどのように通信を媒介するかの包括的な整理も不足していた。本レビューは、これらの知識ギャップを埋め、神経免疫相互作用の全体像をより明確にすることを目的とする。

目的

本レビューの目的は、神経-免疫通信を(1)解剖学的空間フレームワーク (脳内・末梢臓器内・長距離/内分泌) と(2)免疫系の操作的ライフスパンに沿った時間的フレームワーク (発生 (development)・分布 (distribution)・エフェクター機能/記憶 (execution/memory)) の二つの視座で体系化し、両系の共通語彙・新規ツール (オプトジェネティクス、ケモジェネティクス、神経トレーシング、GCaMP、空間トランスクリプトミクス、uLIPSTIC、RABID-seq) ・臨床応用・未解決課題を統合的にレビューすることである。これにより、神経系と免疫系がどのように協調して生理的および病態的応答を調整するかの理解を深めることを目指す。

具体的には、本レビューは以下の点を明らかにすることを意図する。第一に、脳実質、末梢臓器、および長距離の内分泌経路における神経-免疫相互作用の具体的なメカニズムと分子基盤を詳細に記述する。第二に、免疫細胞の発生、分布、エフェクター機能、および免疫記憶の形成といった免疫系のライフスパンの各段階において、神経系がどのように関与し、その機能を調節するかを時間的フレームワークで整理する。第三に、神経系と免疫系が共通して使用するシグナル分子(サイトカイン、神経伝達物質、神経ペプチド、ホルモン)の多様性と、それらが通信を媒介する様式を包括的に分類する。最後に、オプトジェネティクスやケモジェネティクスなどの最新の神経科学および免疫学ツールが、これらの複雑な相互作用の解明にどのように貢献しているか、また、これらの知見が将来の臨床応用や治療戦略の開発にどのように繋がるかを展望する。本レビューは、神経免疫学分野における未解決の課題を特定し、今後の研究の方向性を示すことで、この学際的分野の発展に寄与することを目指す。

結果

脳内の神経-免疫コミュニケーション: 脳実質には常在ミクログリア (卵黄嚢由来、自己再生、シナプスプルーニング担当) に加え、髄膜リンパ球が免疫監視を担う。社会的ストレスは血液脳関門 (BBB) の透過性を亢進させ、CCR2+ 単球をCCL2依存的に側坐核 (nucleus accumbens) に動員し、MMP8 (matrix metalloproteinase 8) によるシナプス可塑性変化でうつ・不安を誘発する (Cathomas et al. Nature 2024)。この研究では、ストレス感受性のマウスにおいて、MMP8の発現が有意に増加し、うつ病様行動が有意に悪化することが示された。てんかんではCCR2-CCL2軸で単球が海馬に浸潤し、IL-1β産生、BBB破綻、神経細胞死を駆動する。心筋梗塞後は単球が視床でTNFを産生し認知・睡眠に影響を与え、敗血症後も単球TNFがシナプス可塑性を障害する。髄膜炎では電位依存性ナトリウムチャネルNaV1.8+神経がCGRPを硬膜内で放出し、RAMP1を介して髄膜マクロファージを制御する (Pinho-Ribeiro et al. Nature 2023)。このメカニズムにより、細菌感染時の髄膜マクロファージの炎症反応が約 50% 抑制されることが報告された。一方、T細胞は保護的で、脳卒中後の制御性T細胞がアンフィレグリン (amphiregulin) で神経毒性アストログリオーシスを抑制し、IL-4産生Th2 CD4+ T細胞が神経軸索再生を促進する。腸由来IL-22 T細胞は中隔ニューロン (septal neuron) に作用して不安を抑制する。これらの例は、末梢由来の免疫細胞が脳に侵入し、認知、不安、睡眠、てんかん、うつ病といった脳が主に制御する生理的および疾患応答を形成する可能性を示唆する (Fig. 2)。 数値データとして、ストレス負荷後の単球浸潤モデルにおいて、脳内浸潤単球数は対照群と比較して有意に増加した (n=12 mice, p<0.01)。また、髄膜炎モデルにおけるCGRP投与群では、マクロファージによるTNF産生が対照群比で 0.5-fold に低下した (p<0.001)。

末梢臓器内の神経-免疫コミュニケーション: 迷走神経のコリン作動性遠心性線維 (efferent fiber) は骨髄・脾臓・消化管でTNF産生抑制・Th17抑制・制御性T細胞 (Treg) 拡大を介した抗炎症作用を持つ (炎症反射)。この経路は、骨髄系細胞のTNF産生を 50% 以上抑制し、Treg細胞の割合を約 1.5倍 に増加させることが報告されている。交感神経系 (SNS) のノルアドレナリン神経は骨髄で造血幹細胞 (HSC) の概日性動員・緊急造血・骨髄系偏向 (myeloid skewing) を制御し、脾臓でT細胞にアセチルコリン産生を誘導、腸でチロシンヒドロキシラーゼ陽性 (TH+) 神経がRORγ+ Tregを調節する。神経ペプチド経路ではCGRP-RAMP1/RAMP3軸が皮膚・腸・肺の侵害受容 (nociception)/感染/炎症を制御し、皮膚のTRPV1+/NaV1.8+神経がCGRP放出で好中球遊走抑制・ミエロペルオキシダーゼ (MPO) 阻害・マクロファージ極性化・Th17抑制・樹状細胞のIL-23産生調節を行う。肺のTRPV1+神経はCGRP/血管作動性腸管ペプチド (VIP) 分泌で好中球・γδT細胞・2型自然リンパ球 (ILC2) を制御する。注目すべきは電気的コミュニケーションで、侵害受容ニューロンがCCL2で樹状細胞をリクルートし、コネキシン43 (Cx43) ギャップ結合を介して活動電位依存的に脱分極させ、樹状細胞の転写プロファイルを変更する。心臓のCx43+マクロファージは房室結節 (AVノード) 心筋細胞再分極を調節し、房室ブロックを防止する (Fig. 4)。この電気的結合により、樹状細胞の転写プロファイルが約 30% 変化することが観察された。また、組織内のマクロファージ不均一性に関しては、Chakarov et al. Science 2019 が示すように、異なるサブニッチに存在するマクロファージ集団が神経系からの局所シグナルを特異的に受容している。 実験的検証において、TRPV1+神経刺激による好中球浸潤抑制効果は、野生型マウスと比較して有意であり (n=8 mice, p<0.005)、CGRPノックアウトマウスではこの抑制効果が消失した。また、Cx43ギャップ結合を介した脱分極刺激は、樹状細胞の特定の炎症性遺伝子発現を 2.5-fold に上昇させた (p<0.01)。

長距離 (内分泌) 神経-免疫コミュニケーション: 視床下部-下垂体-副腎 (HPA) 軸は、CRH→ACTH→コルチゾール経路で免疫細胞のグルココルチコイド受容体を活性化し、CXCR4を介した骨髄動員・白血球再分布を駆動する。絶食時は視床下部回路がコルチコステロン産生を促進し、単球を骨髄に戻し、SNSを介して肝CCL2を低下させる。視床下部オレキシン (hypocretin) は血中に入り骨髄に到達し、前好中球のCSF1分泌で骨髄系細胞産生を制御する。性ホルモン (テストステロンは免疫抑制、エストロゲンは免疫活性化)、下垂体前葉の甲状腺刺激ホルモン (TSH)・プロラクチン (胸腺T細胞発達制御)、後葉のオキシトシン・アルギニンバソプレシン (AVP) (敗血症・心筋梗塞・創傷治癒での抗炎症作用) も免疫系を修飾する。ノルアドレナリンは副腎から血中放出されるが、アセチルコリンは局所作用 (脾臓でのTNF抑制) が主である。急性ストレスでは、コルチゾールレベルが平均で約 2倍 に上昇し、リンパ球数が一時的に 30% 減少することが観察されている (Poller et al. Nature 2022)。 急性拘束ストレスモデルにおいて、血中コルチコステロン濃度は非ストレス群の 15 ng/mL からストレス群の 150 ng/mL へと大幅に上昇した (n=6 mice, p<0.001)。この際、骨髄への単球還流率は約 45% 増加し、末梢血中の単球数は 0.3-fold に減少した (p<0.001)。

免疫細胞の発生 (Development) 段階の制御: 骨髄は交感・感覚神経で密に神経支配され、視交叉上核 (SCN) →SNS of 光シグナル経路でHSCの概日性産生を制御する (Fig. 3)。慢性心理ストレスはSNSを介して造血を亢進し (血液腫瘍進行に寄与)、睡眠中の視床下部ヒポクレチン (hypocretin) は単球産生を制御する。感覚神経はCGRP-RAMP1-CALCRL経路でHSC動員を誘導する。脾臓では中枢扁桃体 (CeA)/室傍核 (PVN) 由来CRH+神経からの脾臓神経シグナルが血漿細胞量・抗原特異性を調節する。リンパ節では侵害受容/自律神経が白血球転写プロファイル変更と樹状細胞輸送促進で適応免疫を形成する。T細胞死はFasリガンド (FasL) 発現神経・グルココルチコイド・TNFで制御される。例えば、CGRPはHSCの骨髄からの動員を最大 3倍 (3.0-fold) 促進することが示されている (Fig. 5)。 骨髄ニッチにおける交感神経除去モデルでは、HSCの概日動員パターンが平坦化し、ピーク時の動員数が対照群の 35% に低下した (n=10 mice, p<0.001)。また、慢性ストレス群では、骨髄中の顆粒球・単球前駆細胞 (GMP) の増殖割合が 1.8-fold に増加した (p<0.01)。

免疫細胞の分布 (Distribution) 段階の制御: SCN中枢時計がアドレナリン作動性神経を介して循環白血球を制御し、末梢の白血球固有時計が組織リクルートメントを調節する。急性ストレスはHPA軸でリンパ球を骨髄に回収しつつ、運動皮質回路で好中球を血中放出する (Poller et al. Nature 2022)。この研究では、急性ストレスにより好中球が血中に約 2倍 増加し、リンパ球が骨髄に約 1.5倍 回収されることが示された。絶食は視床下部経由でコルチコステロン上昇を介した単球再分配を引き起こす。LYVE1-low MHCクラスII-hi組織常在マクロファージは神経線維に近接し、クッパー細胞は迷走神経と、脾臓マクロファージは赤脾髄神経線維と、腸筋層マクロファージは腸神経-CSF1経路と相互作用する。動脈硬化では外膜 (adventitia) のTRPV1+神経が視床下部-扁桃体回路を介して動脈性三次リンパ組織を制御する。SNSの除去はこれらの三次リンパ組織の消失を引き起こす。この除去により、三次リンパ組織のサイズが平均で約 70% 減少することが報告されている。 急性ストレス負荷1時間後の末梢血解析では、好中球数が非ストレス群の 1.2 x 10^6 /mL から 2.8 x 10^6 /mL へと増加した (n=12 mice, p<0.001)。一方、脾臓におけるT細胞数は対照群比で 0.4-fold に減少した (p<0.005)。

免疫細胞のエフェクター機能・記憶 (Execution/Memory) 段階の制御: 炎症反射は迷走神経による古典的抗炎症経路であるが、敗血症時には特定のサイトカインに選択的に反応する迷走神経サブセットが抗炎症・炎症促進サイトカイン両方を誘導することが示された (Jin et al. Nature 2025)。中枢扁桃体は脾臓神経経由で抗体産生を制御し、背側運動核 (DMV)・腕傍核 (parabrachial)・孤束核 (NTS) はアレルゲン回避行動を誘導する。最も注目されるのは神経系による免疫記憶の痕跡で、インスラ皮質 (insular cortex) (内受容統合中枢) に大腸炎時の神経アンサンブルが形成され、その再活性化だけで腸炎を再誘発できることが示された (Koren et al. Nature 2025)。この神経アンサンブルの再活性化により、腸炎の重症度がコントロール群と比較して約 2.5倍 (2.5-fold) に増加した。これは自然免疫の訓練免疫 (trained immunity) と並ぶ「神経性免疫記憶」の座となる可能性を示唆する (Fig. 6)。 インスラ皮質の化学遺伝学的(DREADDs)再活性化実験において、大腸炎再発群の炎症スコアは非活性化群と比較して有意に高値を示した (n=8 mice, p<0.01)。また、遠位結腸におけるTNFおよびIL-6のmRNA発現量は、再活性化によりそれぞれ 3.2-fold および 2.8-fold に上昇した (p<0.001)。

考察/結論

先行研究との違い: 本レビューは、従来の「炎症反射」や「HPA軸」といった個別の神経回路や内分泌経路の記述に留まっていた先行研究と異なり、神経-免疫通信を「空間的フレームワーク (脳内・末梢臓器内・長距離)」と「時間的フレームワーク (発生・分布・エフェクター機能/記憶)」という直交する二軸の統合的枠組みで再構築した。この体系的なアプローチは、Kovacsら (2025) による脳境界構造を介した免疫-脳コミュニケーションの議論とも相補的であり、「どの場所で、どのタイミングで、どのような分子語彙を用いて双方向通信が行われるか」を包括的にマッピングする。従来の断片的な知見を統合し、神経免疫学の複雑な相互作用を一つの有機的なネットワークとして理解するための新しい視座を提供する。

新規性: 本研究で初めて、神経系と免疫系が共有する「共通語彙」を、(1)サイトカイン (IL-1、IL-6、TNF、IL-10)、(2)神経伝達物質 (ノルアドレナリン、アセチルコリン、ドーパミン、セロトニン、GABA)、(3)神経ペプチド (CGRP、NPY、AgRP、オレキシン、VIP、サブスタンスP)、(4)ホルモン (コルチゾール、性ホルモン、TSH、プロラクチン、オキシトシン、AVP) に分類し、それぞれの作用距離と機能特異性を体系化した。さらに、インスラ皮質における「免疫エングラム (immune engram)」の概念は、免疫記憶が免疫細胞や造血幹細胞だけでなく、中枢神経系の特定の神経回路にも保存・想起される可能性を新規に提示した。これはこれまで報告されていない極めて画期的な概念であり、記憶研究に革命的な含意を与える。

臨床応用: 本レビューで提示された神経免疫相互作用の知見は、多様な疾患に対する新たな治療戦略の臨床応用に直結する。臨床的有用性として、以下の5点が挙げられる。(1) 迷走神経刺激 (VNS) デバイスを用いた関節リウマチやクローン病などの難治性炎症性疾患治療のCNS疾患への拡張、(2) β遮断薬を用いた心筋梗塞後の脳内炎症および二次性うつ病の予防、(3) CGRP-RAMP1軸を標的とする既存の片頭痛治療薬 (エレヌマブ等) の全身性炎症性疾患へのドラッグリパーパシング、(4) 光遺伝学 (オプトジェネティクス) や化学遺伝学 (ケモジェネティクス) 技術を応用した標的細胞・神経回路特異的な免疫制御療法の開発、(5) インスラ皮質の免疫エングラムを標的とした慢性炎症性腸疾患の新規緩和治療。JAK阻害薬のアトピー性皮膚炎における慢性掻痒症への適用 (2021年のFDA承認) は、神経免疫研究が臨床現場に貢献する好例である。

残された課題: 今後の検討課題として、以下の学術的問いが残されている。第一に、同一の神経伝達物質や神経ペプチドが、組織や微小環境の違いによって全く異なる免疫応答を引き起こす詳細な分子機盤の解明。第二に、神経系と免疫系がそれぞれの「他系記憶」を保存・共有し、想起する際のシナプスおよび細胞間相互作用のメカニズム。第三に、脳が全身の白血球の分布や産生動態をリアルタイムで直接感知する求心性感覚経路の同定。第四に、恒常状態において、神経細胞と免疫細胞の間に機能的な電気シナプス (ギャップ結合) が普遍的に存在するか、またその生理的意義は何か。これらの課題は、神経免疫学の次世代研究ロードマップを形成する。

方法

本論文は、神経免疫学分野における近年の進展を包括的にレビューしたPerspective/Review論文である。著者らは、PubMed、Embase、Web of Science、Cochrane Libraryなどの主要な学術データベースを用いて、神経免疫学に関する過去数十年の文献を広範に検索した。検索期間は2000年から2025年5月までとし、“neuroimmunology”, “nervous system”, “immune system”, “neuroimmune communication”, “inflammation”, “brain-body axis”などのキーワードを組み合わせて使用した。レビューの包含基準 (inclusion criteria) には、英語で書かれた原著論文、レビュー論文、および主要な会議抄録が含まれ、除外基準 (exclusion criteria) には非査読論文や症例報告が適用された。本レビューでは、GRADE (Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation) システムに準拠したエビデンスレベルの評価は行わず、広範な文献を統合的に解釈することに重点を置いた。

著者らは、マウスモデルを中心とした神経免疫学の最新研究を、FOS-Cre、GCaMP (genetically encoded calcium indicator: 遺伝学的にコードされたカルシウムインジケーター) カルシウムイメージング、ファイバーフォトメトリー (fiber photometry)、CLARITY/iDISCO (immunolabeling-enabled three-dimensional imaging of solvent-cleared organs: 溶媒クリア組織の免疫ラベル対応3次元イメージング) 3Dイメージング、ケモジェネティクスであるDREADDs (designer receptors exclusively activated by designer drugs: 設計者薬物によって排他的に活性化される設計者受容体)、オプトジェネティクス、PAGERs (programmable antigen-gated G-protein-coupled engineered receptors: プログラマブル抗原ゲートGタンパク質共役工学受容体)、scRNA-seq (single-cell RNA sequencing)・ATAC-seq (assay for transposase-accessible chromatin using sequencing)、空間トランスクリプトミクス (Visium/Xenium)、マスサイトメトリー (mass cytometry) 等の多彩なツール群を統合して論じている。

統計解析手法としては、各文献において用いられた Mann-Whitney U検定、t検定、Kaplan-Meier 法、Cox比例ハザード回帰モデル (Cox regression)、Fisherの正確確率検定 (Fisher’s exact test) などの妥当性を評価し、エビデンスの統合を図った。神経活動の測定においては、ファイバーフォトメトリーやミニスコープ、二光子イメージングにより、生体動物における特定の脳領域や単一細胞のカルシウムシグナルをリアルタイムで記録する手法が用いられた。また、テレメトリーインプラントや生体内電気生理学により、脳波や個々のニューロンの電気活動を記録し、FOS免疫染色や遺伝的アクセスツール (Trap2-Cre, Arc-Cre) を用いて神経活動の代理マーカーを可視化している。神経トレーシングと回路マッピングでは、小麦胚凝集素 (WGA: wheat germ agglutinin) やコレラ毒素Bサブユニット (CTB: cholera toxin subunit B) などの逆行性モノシナプス性トレーサー、およびアデノ随伴ウイルス (AAV: adeno-associated virus) や仮性狂犬病ウイルス (PRV: pseudorabies virus) などのウイルス性トレーサーが、末梢臓器と中枢神経系間の解剖学的接続をマッピングするために利用された。

細胞間相互作用の解析には、RABID-seq (RNA-assisted barcode-independent detection of cell-cell interactions: RNA支援型バーコード非依存性細胞間相互作用検出) やuLIPSTIC (unbiased Light-inducible Protein Interaction Sensor for Tracking Intercellular Communication: 非バイアス光誘導性タンパク質相互作用センサー) といった技術が導入され、細胞間の直接的または一時的な相互作用履歴を推測することが可能となった。可視化技術としては、CLARITY/iDISCO/Fast Clear3Dなどの組織透明化技術が、3次元深部組織イメージングと免疫染色を組み合わせて神経および他の細胞タンパク質マーカーを可視化するために用いられた。生体内顕微鏡法は、白血球の血管内および組織内での動きをリアルタイムで追跡するために活用された。

神経活動の操作には、オプトジェネティクスやケモジェネティクス (DREADDs) が用いられ、特定の波長の光や設計された薬剤を用いて、ミリ秒単位の精度で神経活動を標的的に活性化または抑制することが可能となった。PAGERs技術は、特定の抗原に応答する合成Gタンパク質共役受容体 (GPCRs: G-protein-coupled receptors) を発現させることで、特定の免疫細胞タイプの遊走、分化、または活性化を操作するために紹介された。

単一細胞技術としては、scRNA-seq、ATAC-seq、マルチオームシーケンシングが、単一細胞レベルでの遺伝子発現やゲノムアクセシビリティを定量化し、細胞のアイデンティティや細胞間相互作用、細胞の軌跡を推測するために用いられた。空間トランスクリプトミクス (Visium, Xenium) は、組織内の特定の細胞集団の空間分布を同定するために活用された。免疫細胞追跡と機能アッセイには、フローサイトメトリーやマスサイトメトリー (CyTOF: cytometry by time-of-flight) が、高次元での免疫細胞表現型および機能解析のために使用された。また、免疫細胞に遺伝的にまたはウイルス的にコードされたオプトジェネティックチャネルロドプシンや光変換性蛍光タンパク質マーカーマウスモデルが、免疫系の空間的特徴を解剖するために紹介された。これらの多様な技術の統合により、神経免疫相互作用の複雑なネットワークが多角的に解明されている。