- 著者: Thibault Voron, Elie Marcheteau, Simon Pernot, Orianne Colussi, Eric Tartour, Julien Taieb, Magali Terme
- Corresponding author: Magali Terme (INSERM U970, PARCC, Université Paris-Descartes)
- 雑誌: Frontiers in Oncology
- 発行年: 2014
- Epub日: 2014-04-02
- Article種別: Review
- PMID: 24765614
背景
腫瘍形成は、細胞の増殖シグナル維持、増殖抑制因子回避、細胞死抵抗性、複製不死化、浸潤・転移活性化、血管新生誘導という6つの特徴的能力から構成されるが (Hanahan et al. Cell 2000)、2011年の改訂版では「免疫破壊の回避」が新たな特徴として追加された (Hanahan et al. Cell 2011)。免疫監視仮説は1909年のEhrlichの提唱以来、RAG2欠損マウスでの腫瘍発生頻度増加や免疫抑制移植患者での非ウイルス性がん発生増加の臨床データによって支持されてきた (Shankaran et al. Nature 2001)。大腸癌では腫瘍内のエフェクター記憶T細胞 (CD45RO+) 浸潤がTNM分類より良好な予後予測因子となることが示されており、T細胞密度はUICCのTNM分類よりも優れた独立予後因子であることが報告されている (Galon et al. Science 2006)。これらの知見は、腫瘍が免疫系による排除を回避するメカニズムを獲得していることを強く示唆している。
一方、VEGF-A (vascular endothelial growth factor A) は血管新生促進因子として長らく注目されてきたが、近年、その免疫調節作用も明らかとなり、VEGF-A/VEGFR軸を標的とする抗血管新生療法が腫瘍免疫抑制微小環境を変容させる可能性が示唆されていた。しかし、これらのpro-angiogenic factorsが免疫細胞に与える具体的な影響や、抗血管新生療法が免疫抑制を解除する詳細なメカニズムについては、依然として未解明な点が多く、体系的な整理が不足していた。特に、抗血管新生療法と免疫療法の組み合わせという実践的戦略の理論的根拠を整理し、その最適化に向けた知見を提供することが喫緊の課題であった。本レビューは、この知識ギャップを埋めることを目的として執筆された。
目的
本レビューの目的は、VEGF-AおよびPlGF (placental growth factor) などのpro-angiogenic factorsが腫瘍免疫抑制微小環境に与える影響、具体的にはDC成熟阻害、免疫抑制細胞 (MDSC、Treg、TAM、Tie-2+単球) の蓄積、T細胞機能抑制、T細胞浸潤阻害のメカニズムを体系的に整理することである。さらに、抗血管新生療法の免疫調節効果と、それが免疫療法との組み合わせ戦略の理論的根拠となることを論じ、臨床応用への展望を示すことを目指す。
結果
VEGF-Aの分子生物学と免疫細胞への広範な作用: VEGF-Aは約45kDaの糖タンパク質であり、ほぼすべての腫瘍細胞が産生し、がん患者の血中に高濃度で検出される。VEGFR1 (Flt-1) とVEGFR2 (Flk-1/KDR) に結合し、血管新生に加えて多数の免疫細胞サブセットにも直接影響を与える。PlGFはVEGFファミリーメンバーでVEGFR1に選択的に結合し、腫瘍の病期進行・転移浸潤と生存率が逆相関することが複数の固形腫瘍で示されている。VEGFR1はVEGF-Aに高親和性で結合するが、弱いチロシンキナーゼ活性を持ち、decoy receptorとしてVEGF-AのVEGFR2への結合を競合阻害する側面もある。腫瘍内の低酸素はHIF-1αを安定化させてVEGF-A産生を誘導し、慢性的な血管新生シグナルが持続するという悪循環が形成される。これらのVEGFR経路の多面的な調節機能が腫瘍免疫微小環境を多層的に制御しており、VEGF-Aは「がん細胞の生存を助けながら免疫細胞の排除機能を妨げる」二重の役割を担う分子として理解される。VEGF-A、PlGF、Angiopoietin-2はそれぞれ異なる経路で免疫抑制細胞を蓄積させ、その協調作用が腫瘍免疫逃避を促進する (Figure 1)。VEGFR2の活性化はPLCγ、Raf、PI3K経路を誘導し、VEGFR1はErk/MAP (mitogen-activated protein) キナーゼ、PI3K/Akt、PLCγ、p38/MAPキナーゼ経路を活性化することが示されている (Figure 1)。
DCの成熟阻害と抗原提示機能の低下: 成熟DCはプロフェッショナル抗原提示細胞として腫瘍特異的抗原をナイーブT細胞に提示し、適応免疫応答を始動させる。しかし、がん患者では血液中の未熟DC比率が上昇しており、この増加は腫瘍ステージの進行と相関し、手術切除後に一部是正されることから、腫瘍由来の液性因子が関与していることが示唆された。VEGF-AはVEGFR1を介したNFκB活性化阻害によりDC成熟を抑制する機序が同定された。PlGFも同様にVEGFR1経路を介してDC分化を阻害する。VEGF-Aを浸透圧ポンプで腫瘍非担癌マウス (n=6 mice) にがん患者と同等の濃度で投与した実験では、DCの同種異系T細胞増殖刺激能が有意に低下した (Huang et al. Blood 2007)。Dikov et al. のin vitro研究では、VEGFR1が胚性幹細胞由来DCの最終成熟に、VEGFR2が初期造血前駆細胞からのDC分化に関与することも示された (Dikov et al. J Immunol 2005)。モノサイトから成熟DCへの分化もVEGF-AによってVEGFR1・VEGFR2の両経路で阻害され、この効果は抗VEGF-A抗体 (bevacizumab) やsorafenibで逆転した (Alfaro et al. Br J Cancer 2009)。このDC機能障害により、腫瘍抗原特異的なCD8+T細胞プライミングが初期段階から妨げられ、適応免疫応答の出発点が損なわれる。
免疫抑制細胞の蓄積誘導:MDSC、Treg、TAM、Tie-2+単球: VEGF-AはMDSC (骨髄由来免疫抑制細胞) をVEGFR2・JAK2/STAT3経路を介して蓄積する。転移性腎細胞癌患者でのsunitinib 1サイクル後にMDSC比率が5.42%から2.28%へ有意に低下 (p=0.007)、2サイクル後にはさらに1.29%へ低下することが示された (Ko et al. Clin Cancer Res 2009)。MDSCはArginase1、iNOS、ROS、IDO、ペルオキシナイトライト等の多彩な機序でT細胞増殖・機能を抑制する。腫瘍担癌マウスおよび転移性大腸癌患者のTregがVEGFR2を直接発現し、VEGF-AがTregの直接増殖を促進することも示された (Terme et al. Cancer Res 2013)。CT26大腸腫瘍モデルでsunitinibまたは抗VEGF-A抗体処置によりTreg比率・絶対数が有意に減少し、このTreg減少は全生存改善と相関した。TAM (腫瘍関連マクロファージ) はVEGF-A、IL-10、IL-4によって腫瘍促進型M2様に誘導される。Angiopoietin-2により動員されるTie-2 (tyrosine kinase with immunoglobulin-like and EGF-like domains 2) 発現単球はIL-10産生を介してFoxp3+Tregの拡大を促進する (Figure 2)。MDSCはArginase1 (アルギナーゼ1) を用いてL-アルギニンを代謝し、T細胞増殖に必要なL-アルギニンを枯渇させる。また、iNOS酵素を用いてNOを生成し、T細胞の増殖を阻害しアポトーシスを誘導する。これらのMDSCの機能は、腫瘍微小環境におけるT細胞の活性化と浸潤を強力に抑制する。
T細胞浸潤の物理的・機能的阻害: VEGF-A高値は胸腺萎縮・胸腺細胞数減少を誘導して (VEGFR2経由) T細胞産生を全体的に低下させる (Ohm et al. Blood 2003)。腫瘍新生血管の異常構造 (蛇行・拡張・高間質圧) がT細胞の血管外遊出を物理的に阻害する機序については、Rgs5 (Regulator of G-protein signaling 5) ノックアウトマウス (血管正常化モデル) での養子移入T細胞の腫瘍浸潤著明改善実験が確認している (Hamzah et al. Nature 2008)。HRG (histidine-rich glycoprotein) 過剰発現によるPlGF下方制御でも腫瘍血管正常化とCD8+T細胞浸潤増加が確認された (Rolny et al. Cancer Cell 2011)。VEGF-A自体が卵巣癌患者T細胞の増殖・細胞傷害機能を直接抑制し (VEGFR2経由)、低酸素→HIF→VEGF-A誘導がSTAT3活性化依存的にCTL溶解感受性を低下させることも示された (Noman et al. J Immunol 2009)。これらの知見は、VEGF-A阻害による血管正常化がT細胞の物理的アクセス改善と機能的回復の両面で免疫療法を補完しうることを示す。
抗血管新生療法の免疫調節効果と免疫療法との組み合わせ: 抗VEGF-A抗体投与でリンパ節・脾臓DC数・機能が増加し、VEGFR1+MDSCサブセットが減少する (Gabrilovich et al. Clin Cancer Res 1999)。sunitinibはSTAT3阻害を介してMDSCを減少させ (単球系サブセット増殖抑制・顆粒球系サブセットのアポトーシス誘導)、Foxp3+Tregを減少させ、血管正常化によってCD4+・CD8+T細胞の腫瘍浸潤を促進する (Ozao-Choy et al. Cancer Res 2009)。さらにsunitinibは転移性腎細胞癌患者の末梢血MDSCを1サイクルで5.42%から2.28%へ (p=0.007)、2サイクルでさらに1.29%へ減少させた (Ko et al. Clin Cancer Res 2009)。Treg減少は全生存改善と正相関した (Adotevi et al. J Immunother 2010)。sorafenibも肝臓腫瘍モデルで脾臓・骨髄のMDSC・Tregを減少させることが示された (Cao et al. Lab Invest 2011)。免疫療法との組み合わせでは、sunitinibをワクチン前に投与するスケジュール (同時投与ではなく前処置) が最良効果をもたらし、同時投与ではリンパ節CD11c+CD11b+ APCの一過性消失によるT細胞プライミング障害が生じることが示された (Farsaci et al. Int J Cancer 2012)。フェーズ2試験 (sunitinib+AGS-003 DCワクチン、n=21例) で良好なPFS・OSが示され、第3相試験 (NCT01582672) へ進展した。抗PD-1・抗CTLA-4抗体との組み合わせ試験も複数進行中であり (bevacizumab+pembrolizumab (NCT02039674)、bevacizumab+nivolumab (NCT01454102)、sunitinib+nivolumab (NCT01472081) 等)、抗血管新生療法の免疫強化効果とICBの組み合わせは現代的な標準療法開発への礎となった (Table 1)。
考察/結論
本レビューは、VEGF-AがDC成熟阻害、MDSC/Treg/TAM蓄積、T細胞胸腺産生抑制、T細胞遊走阻害、T細胞直接抑制という多層的機構により腫瘍免疫抑制微小環境を形成することを体系的に整理した。PlGFもVEGFR1経路を介してDC分化とMDSC蓄積を調節するが、VEGF-Aほど詳細には研究されていない点も明示された。
先行研究との違い: MDSCの免疫抑制機能は従来からArginase1・iNOS経路が知られていたが、本レビューはMDSCとTregの蓄積がともにVEGF-A/VEGFR2経路によって直接促進されることを一体的に整理した点で、これまでの報告と異なり、より包括的な理解を提示した。特に、腫瘍担癌状態でのみTregがVEGFR2を発現し直接的なVEGF-Aシグナルを受容するという知見は、腫瘍微小環境特異的なTreg制御機構として重要である。
新規性: 本研究で初めて、抗血管新生療法が腫瘍縮小という直接的抗腫瘍効果に加えて、免疫抑制解除という間接的効果を持つが、単独では腫瘍抗原特異的T細胞応答を再活性化するには不十分であることを強調した。VEGF-A/VEGFR2標的療法はTregとMDSCの両方を標的化でき、かつ血管正常化によるT細胞浸潤促進効果も持つため、免疫療法との組み合わせに最も適した抗血管新生薬であるという新規の視点を示した。
臨床応用: 本知見は、抗血管新生療法と免疫療法の併用が、前臨床モデルで強力な抗腫瘍効果を示し、臨床試験でも有望な結果が得られていることを強調しており、がん治療における新たな臨床応用戦略の基盤となる。投与スケジュール (抗血管新生薬は免疫療法前に先行投与が最適で、同時投与はリンパ節APCの一過性消失でT細胞プライミングを障害する) と用量 (低用量の血管正常化ドーズが免疫細胞浸潤を促進する可能性) の最適化が重要な課題として示された。
残された課題: 今後の検討課題として、抗血管新生療法と免疫療法の最適な組み合わせ、投与量、および投与スケジュールのさらなる最適化が残されている。また、VEGF-A以外のpro-angiogenic factorsが免疫抑制に与える影響についても、より詳細な研究が必要である。これらの課題を解決することで、より効果的ながん免疫療法の開発に繋がるだろう。本レビューは、2014年時点でこれらの組み合わせ戦略の理論的根拠を包括的に整理した先駆的な総説として、現代標準療法の基礎理論形成に貢献した歴史的に重要な文献である。がん免疫療法における抗血管新生療法の役割は、腫瘍免疫学のますます重要なテーマとして継続的に研究されている。
方法
本論文はレビュー記事であるため、特定の前向き研究デザインや実験プロトコルは適用されない。本レビューの執筆にあたり、主要な医学データベース (PubMed、Web of Scienceなど) を用いて、pro-angiogenic factors、VEGF-A、PlGF、腫瘍免疫抑制、MDSC (myeloid-derived suppressor cell)、Treg (regulatory T cell)、抗血管新生療法、免疫療法、併用療法などのキーワードで関連する文献を検索した。検索期間は主に2014年以前に発表された論文に焦点を当てたが、がん免疫学および血管新生研究の分野におけるランドマークとなる論文も含まれる。収集された文献は、VEGF-AおよびPlGFの分子生物学的特性、免疫細胞 (特にDC、MDSC、Treg、TAM、Tie-2+単球) への直接的・間接的影響、腫瘍血管新生とT細胞浸潤の関連性、抗血管新生療法の免疫調節効果、および免疫療法との併用戦略に関する前臨床および臨床研究に分類された。各文献の内容は批判的に評価され、pro-angiogenic factorsが腫瘍免疫抑制を誘導する多面的なメカニズムと、抗血管新生療法がこれらのメカニズムを解除する可能性について、既存の知見を統合し、体系的に整理した。特に、VEGF-A/VEGFR軸を標的とする薬剤 (bevacizumab、sunitinib、sorafenibなど) の免疫調節作用に関するエビデンスに重点を置いた。また、抗血管新生療法と免疫チェックポイント阻害剤やワクチン療法などの免疫療法との併用に関する前臨床データおよび進行中の臨床試験 (NCT02039674、NCT01633970、NCT01472081など) の情報も収集し、その理論的根拠と臨床的意義について考察した。本レビューでは、文献の選択と評価において、関連性の高い主要な研究を優先し、がん免疫と血管新生の相互作用に関する包括的な理解を深めることを目的とした。系統的レビューの厳密な統計手法は適用していないが、各研究の質とエビデンスレベルを考慮して議論を構築した。