• 著者: Madhusmita Behera, Camille Ragin, Sungjin Kim, Rathi N. Pillai, Zhengjia Chen, Conor E. Steuer, Nabil F. Saba, Chandra P. Belani, Fadlo R. Khuri, Suresh S. Ramalingam, Taofeek K. Owonikoko
  • Corresponding author: Taofeek K. Owonikoko (Emory University, Department of Hematology and Medical Oncology)
  • 雑誌: Cancer
  • 発行年: 2016
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 26441041

背景

肺癌は世界的に癌関連死の主要な原因であり、米国では年間22万例以上が新たに診断されると推定される。その中でも小細胞肺癌 (SCLC) は全肺癌の約13〜15%を占め、年間約3万例の新規診断がある。SCLCは極めて悪性度が高く、未治療患者の全生存期間 (OS) 中央値は2〜4か月と報告されており、予後が不良である点が特徴である vanMeerbeeck et al. Lancet 2011。化学療法はSCLC管理の要であり、プラチナ製剤を基盤としたダブレット療法、トポイソメラーゼI阻害剤であるトポテカン単剤、およびシクロホスファミド・ドキソルビシン・ビンクリスチン (CAV) 療法が確立されたレジメンとして用いられている Pillai et al. SeminOncol 2014

しかし、過去30年間においてSCLCの治療法には限られた進歩しかなく、新たな治療選択肢の確立は困難であった。小規模な第II相試験で有望な効果を示した薬剤(パクリタキセル、イリノテカン、ゲムシタビン、ドセタキセルなど)が、専門機関のガイドラインに基づいて実臨床で用いられることはあったものの、その実態や実際の生存改善効果については包括的な評価が不足していた。特に、進行肺癌患者の多くが治療を受けないという問題は以前から指摘されており、SCLC患者においても約50%が何らかの化学療法を受けていないという実態が問題視されていた Govindan et al. JClinOncol 2006。このような背景から、実臨床におけるSCLC患者の化学療法使用の傾向、その予測因子、および生存への影響を大規模なデータを用いて詳細に分析する必要があった。特に、高齢患者が多いSCLCにおいて、実世界での治療効果を評価することは、臨床試験のデータだけでは捉えきれない側面を明らかにする上で重要である。また、プラチナ製剤間の有効性の比較や、非標準的な薬剤の使用実態とその効果についても、大規模な実臨床データに基づく検証が不足しており、これらの知識ギャップが残されている。本研究は、これらの未解明な点を埋めることを目的としている。

目的

本研究の目的は、SEER-MEDICAREデータベースを用いて、1985年から2005年までに診断されたSCLC患者における全身化学療法使用の傾向、化学療法使用の予測因子、および患者の全生存期間への影響を包括的に評価することである。具体的には、化学療法使用率の経時的変化、人種・性別・年齢・居住地・病期などの患者特性が化学療法選択に与える影響、そして化学療法が生存に及ぼす実臨床でのベネフィットを明らかにすることを目的とした。さらに、カルボプラチンとシスプラチンといった主要なプラチナ製剤間の生存効果の比較や、トポテカンなどのセカンドライン治療の導入とその効果についても検討し、実臨床におけるSCLC治療の現状と課題を明らかにすることを目指した。

結果

患者背景と化学療法投与率の経時変化: 本研究では、SCLCと診断された47,351例の患者を特定した。このうち23,535例 (49.7%) が化学療法を受け、23,816例 (50.3%) が化学療法を受けなかった。全患者集団の中央年齢は71歳であり、白人が87%、男性が52%を占めた。化学療法投与率は、ベースライン期間である1985-1990年の38%から、2001-2005年には53%へと有意に増加した (p<0.001) (Figure 1a)。しかし、依然として約半数の患者が化学療法を受けていない実態が明らかになった。人種別の化学療法投与率にはばらつきがあり、アジア系患者で最も高く53.4%であったのに対し、黒人患者では47.5%、白人患者では50.3%、ヒスパニック患者では48.8%であった。女性患者の投与率は男性患者よりも高かった (50.9% vs 48.6%; p<0.001)。また、地方居住者 (60.4%) は都市居住者 (48.7%) よりも化学療法を受ける割合が高かった (Table 1a)。

化学療法施行の予測因子: 多変量解析 (後退選択法) により、診断年 (後期ほど投与率が高い)、白人 (黒人やその他の人種と比較して投与率が高い)、女性、MEDICARE年齢資格、早期病期、地方居住、放射線療法併用、および若年年齢が化学療法施行と有意に関連することが示された (Table 1b)。特に、診断年が新しいほど化学療法を受けるオッズ比は有意に高く、2001-2005年の期間では1985-1990年と比較してオッズ比は1.54 (95% CI 1.42-1.66, p<0.001) であった。

化学療法の生存利益: 全患者のOS中央値は7.2か月であった。化学療法投与群のOS中央値は9.6か月であり、非投与群の3.6か月と比較して有意に良好であった (p<0.001) (Figure 1b)。傾向スコア調整解析 (n=34,819) では、化学療法が生存に与えるハザード比 (HR) は0.691 (95% CI 0.676-0.706, p<0.001) であり、交絡因子を補正した後も有意な生存利益が確認された (Table 4a)。各期間における化学療法群と非化学療法群のHRは、1985-1990年で0.59、1991-1995年で0.61、1996-2000年で0.64、2001-2005年で0.62と、全期間を通じて一貫した生存利益を示した (Table 2)。また、化学療法非投与群においても経時的な生存改善が認められ (HR: 1.0→0.99→0.94→0.92; p<0.001)、これは支持療法の改善を反映している可能性が示唆された (Table 3a)。

プラチナ製剤間の生存同等性: 化学療法投与群に限定した解析では、カルボプラチン単独投与患者とシスプラチン単独投与患者の間で生存差は認められなかった (HR: 0.99, 95% CI 0.81-1.19, p=0.875) (Figure 2a, Table 4a)。同様に、プラチナ製剤 (カルボプラチンまたはシスプラチン) 含有レジメンと非プラチナ含有レジメン (CAV) の間でも生存差は認められなかった (HR: 0.98, 95% CI 0.86-1.12, p=0.766) (Figure 2b, Table 4a)。パクリタキセル、ドセタキセル、ゲムシタビンなどの非標準的な薬剤も、傾向スコア調整解析において実臨床での有意な生存利益が確認された (Table 4a)。

セカンドライン治療の推移と効果: トポテカン使用は1990年代後半から2000年代初頭にかけて大幅に増加し、1991-1995年の0.2%から2001-2005年には14.3%に達した (p<0.001) (Table 4b)。セカンドライン治療としてのトポテカンは、パクリタキセルと比較して生存が良好であった (HR: 0.60, 95% CI 0.43-0.82, p=0.001) (Table 4a)。プラチナ製剤ベースの化学療法後の追加治療は生存改善と関連し (HR: 0.78, 95% CI 0.75-0.81, p<0.001)、2剤以上の化学療法を受けた患者は1剤のみの患者よりも生存が良好であった (HRs: 0.88, 0.86, 0.83; p<0.001) (Table 4c)。化学療法投与群において、脳または中枢神経系 (CNS) への放射線治療を受けた患者は、非CNS部位への放射線治療を受けた患者と比較して生存期間が不良であった (HR: 1.21, 95% CI 1.13-1.29, p<0.001)。

考察/結論

本研究は、SEER-MEDICAREデータベースを用いて1985年から2005年までに診断された47,000例以上のSCLC患者を対象とした最大規模の実臨床データ解析であり、実臨床においても全身化学療法がSCLC患者の生存改善に寄与することを明確に確認した。

先行研究との違い: 過去の臨床試験では、SCLCにおけるプラチナ製剤間の直接比較は限られていたが、本研究では実臨床データに基づき、シスプラチンとカルボプラチンの生存同等性を示した (HR: 0.99, 95% CI 0.81-1.19, p=0.875)。これは、非小細胞肺癌におけるメタアナリシス Ardizzoni et al. JNatlCancerInst 2007deCastria et al. CochraneDatabaseSystRev 2013 の結果と一致しており、SCLC治療においてどちらの薬剤も適切であることを示す重要な実臨床エビデンスである。また、パクリタキセル、ドセタキセル、ゲムシタビンといった、これまで限られたエビデンス(主に第II相試験)に基づいて使用されてきた薬剤についても、実臨床での生存利益が確認された点は、これまでの報告と対照的であり、これらの薬剤の有用性を裏付けるものである。

新規性: 本研究で初めて、SCLC患者における化学療法使用率が1985-1990年の38%から2001-2005年には53%へと有意に増加したことを大規模なコホートで示した。しかし、依然として約50%の患者が化学療法を受けていないという実態は、SCLCに対する治療ニヒリズムや、喫煙関連合併症による治療不適格が関与している可能性を新規に示唆する。また、地方居住者の方が都市居住者よりも化学療法を受ける割合が高いという興味深い所見も新規であり、これは医療アクセスや終末期ケアの利用状況の違いを反映している可能性が考えられる。

臨床応用: 本研究の知見は、SCLC患者の治療選択と予後予測に関する臨床現場での意思決定に直接的な臨床的意義を持つ。化学療法が実臨床において生存利益をもたらすことの再確認は、治療の推奨を強化する。特に、プラチナ製剤間の生存同等性は、患者の合併症や忍容性に基づいて薬剤を選択する際の柔軟性を提供する。1990年代後半以降のトポテカン使用の増加は、第III相臨床試験の結果 vonPawel et al. JClinOncol 1999OBrien et al. JClinOncol 2006Eckardt et al. JClinOncol 2007 とFDA承認が実臨床に迅速に反映された好例であり、新たな治療法の導入が患者アウトカムに与える影響を示す。

残された課題: 本研究にはいくつかのlimitationが残されている。第一に、後ろ向き研究であるため、パフォーマンスステータス (PS)、合併症、疾患負担といった重要な予後因子を完全に制御することは困難であった。傾向スコア調整解析によりこの弱点は一部緩和されたものの、完全な交絡制御はできない。第二に、5年間隔で設定された期間区分は任意であり、特定の治療パラダイムシフトと必ずしも一致しない可能性がある。第三に、脳照射が予防的頭蓋内照射 (PCI) なのか、あるいは治療的照射なのかを区別できなかった点も課題である。PCIはSCLCの標準治療として確立されているが Slotman et al. NEnglJMed 2007、本研究ではCNS照射を受けた化学療法群の患者で生存期間が不良であったという予期せぬ結果も得られており、この点については今後の検討が必要である。

方法

本研究は、SEER-MEDICAREデータベースを用いた後ろ向きコホート研究である。対象患者は、1985年から2005年の間にSCLCと診断された患者 (ICD-O-3コード8041〜8045) 47,351例であった。SEERデータベースは米国17の癌登録機関からデータを収集しており、MEDICAREデータベースは米国人口の97%を占める65歳以上の高齢者をカバーしている。本研究の対象患者の大部分 (84%) は65歳以上であった。SCLC以外の癌診断を持つ患者は、競合リスクや化学療法使用の交絡を避けるため除外された。

化学療法情報の抽出は、MEDICARE請求ファイル (MEDPAR, DME, HHA, HSPS, NCH, OUTSAF) から、各薬剤に特異的なコードを用いて行われた。対象薬剤には、ビンクリスチン、シクロホスファミド、エトポシド、カルボプラチン、シスプラチン、トポテカン、ドキソルビシン、パクリタキセル、ドセタキセル、ゲムシタビン、ビノレルビンが含まれる。化学療法を受けたか否か (Yes/No) は、化学療法処置または投与コードに基づいて判断され、特定の薬剤は薬剤特異的コードで識別された。1985年から1990年の期間に診断された患者は、特定の化学療法剤情報が利用できないため、特定の薬剤の生存影響分析からは除外された。放射線治療や緩和ケアなどの他の治療介入も、該当するコードを用いて特定された。

統計解析では、化学療法使用の有無、または特定の化学療法剤の使用と生存期間との関連を評価した。診断期間 (1985-1990、1991-1995、1996-2000、2001-2005の5年間隔)、診断時年齢、性別、人種 (白人、黒人、アジア系、ヒスパニック、その他)、病期 (IV期 vs その他)、MEDICARE資格事由 (年齢 vs その他)、居住地 (都市部 vs 地方)、放射線治療の有無、手術の有無を予測因子として分析した。

化学療法群と非化学療法群の患者特性の差は、Wilcoxon順位和検定、カイ二乗検定、またはFisherの正確検定を用いて評価された。化学療法使用の予測因子を特定するため、多変量ロジスティック回帰モデル (後退選択法、除去基準のαレベルは0.1) が用いられた。全生存期間 (OS) の調整済み効果を推定するため、Cox比例ハザードモデルが使用され、年齢、性別、人種、病期、MEDICARE資格、居住地、放射線治療の有無で調整された。治療効果のより正確な推定のために、傾向スコア調整解析が実施された。傾向スコアは、診断年、年齢、性別、人種、病期、MEDICARE資格、居住地、放射線治療で調整した多変量ロジスティック回帰モデルを用いて算出され、Cox比例ハザードモデルの共変量として使用された。生存関数はKaplan-Meier法により推定され、ログランク検定で比較された。全ての解析はSAS 9.3およびR 3.21を用いて行われ、統計的有意水準はp<0.05と設定された。本研究は後ろ向きコホート研究デザインであり、NCT番号は付与されていない。