- 著者: Shirai Y, Shukuya T, Asao T, Takahashi K, Shintani Y, Sekine I, Takayama K, Inoue A, Okamoto I, Kawaguchi T, Yamamoto N, Miyaoka E, Yoshino I, Date H
- Corresponding author: Takehito Shukuya (Department of Respiratory Medicine, Juntendo University Graduate School of Medicine, Tokyo, Japan)
- 雑誌: Lung Cancer
- 発行年: 2025
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 40319778
背景
肺LCNEC (large cell neuroendocrine carcinoma) は全肺癌の約3%を占める稀少な高悪度腫瘍である Fasano et al. JThoracOncol 2015。2021年WHO分類では、神経内分泌癌 (NEC) としてSCLC (small cell lung cancer) とともに高悪度神経内分泌腫瘍に分類されている。LCNECとSCLCは臨床的・組織学的類似特徴を共有するものの、ゲノム変異プロファイルと転写産物プロファイルは異なることが報告されている George et al. NatCommun 2018、Sen et al. Lancet Oncol 2025。LCNECの至適化学療法(SCLCレジメン vs NSCLCレジメン)については依然として議論があり、SCLC類似の高い奏効率が得られるとする報告と、NSCLCレジメンの方が有効とする報告が混在している Niho et al. JThoracOncol 2013、LeTreut et al. AnnOncol 2013、Derks et al. EurRespirJ 2017。
これまでSEER (Surveillance, Epidemiology, and End Results) データベースを用いたLCNECとSCLCの比較研究は米国で存在したが Kinslow et al. ClinLungCancer 2020、アジア・日本における大規模登録データに基づく比較は行われていなかった。特に、LCNECの疫学、臨床経過、および他の肺癌組織型との比較に関する詳細なリアルワールドデータは不足しており、その治療戦略を確立するための重要な課題が残されている。
目的
日本肺癌登録合同委員会 (JJCLCR) の全国前向きフォローアップ研究データを用いて、LCNEC患者の疫学的特徴と臨床経過を明らかにすること。さらに、SCLC、扁平上皮癌、腺癌といった他の主要な肺癌組織型との差異を検討し、LCNECの臨床的特徴を包括的に評価することを目的とする。
結果
コホート構成とLCNECの頻度: JJCLCR全国登録データベースに登録された14,260例から、データ欠損、不適格、病期未確定、追跡不能などの理由で1,940例が除外された。最終的に11,310例が解析対象となり、そのうちLCNECは80例 (0.7%) であった。他の組織型はSCLC 2,353例 (34.0%)、扁平上皮癌 2,602例 (23.0%)、腺癌 6,275例 (55.5%) であった (Fig. 1)。LCNECの発生頻度0.7%は、過去に報告された外科切除例における約3%よりも低いが、SEERデータベースやオランダ癌登録の報告と類似していた Derks et al. EurRespirJ 2016。
LCNEC患者の臨床的特徴: LCNEC患者 (n=80) の年齢中央値は68歳 (範囲 36-86歳) であった。男性が93.8%、喫煙歴ありが97.5% (現喫煙55.0%、過去喫煙42.5%) と、喫煙との強い関連が示された。喫煙指数中央値は950であった。75歳以上の高齢患者の割合は18.8%であり、SCLCの31.1%と比較して有意に少なかった (p=0.019)。病期はStage IVが70.0% (56例) を占め、Stage I-IIIBは30.0% (24例) であった。転移部位では、脳転移が32.1%と4癌腫中最多であり、肝転移28.6%、骨転移26.8%も高頻度であった。EGFR変異は0%であり、SCLCと同様に稀であった Miyoshi et al. ClinCancerRes 2017。肺気腫の合併は41.3%に認められ、高喫煙率を反映していると考えられた (Table 1)。
Stage IVにおける1次化学療法の奏効率: Stage IVの患者で1次化学療法を受けた症例の治療効果を評価した (Table 2)。Cisplatin系化学療法におけるLCNEC (n=23) のORRは34.8%、DCRは43.5%であった。これに対し、SCLC (n=436) のORRは60.6% (95% CI 55.9-65.0, p=0.017)、DCRは69.7% (95% CI 65.2-73.8, p=0.011) と、LCNECの奏効率はSCLCより有意に低かった。Carboplatin系化学療法では、LCNEC (n=17) のORRは29.4%、DCRは41.2%であった。SCLC (n=718) のORRは56.1% (95% CI 52.4-59.8, p=0.071)、DCRは68.4% (95% CI 64.9-71.7, p=0.032) と、LCNECの奏効率はSCLCより劣る傾向を示し、DCRは有意差が認められた。Cisplatin系およびcarboplatin系化学療法のいずれにおいても、LCNECのORRおよびDCRはSCLCと比較して有意または有意傾向に劣っていた。
全生存期間 (OS) 解析: 3年OS率は、LCNEC 14.2%、SCLC 15.9%、扁平上皮癌 17.8%、腺癌 27.1%であった。LCNECとSCLCのOS曲線は全体 (p=0.604)、Stage I-IIIB (p=0.63)、Stage IV (p=0.877) のいずれの病期においても類似しており、log-rank検定で有意差は認められなかった (Fig. 2A-C)。Cox多変量解析では、LCNECとSCLCのOSに有意差はなく (HR 0.818、95% CI 0.611-1.096、p=0.178) (Table 3)。しかし、LCNECは腺癌と比較して有意に予後不良であった (HR 0.621、95% CI 0.465-0.831、p=0.001)。また、1次化学療法または放射線療法でCR (complete response)、PR (partial response)、SD (stable disease) を達成した患者群におけるOSは、LCNECとSCLC間で有意差はなかった (p=0.503) (Fig. 2D)。LCNEC患者における肝転移や脳転移の有無によるOSの差は、患者数が少ないため有意差は認められなかった (p=0.167、p=0.227) (Fig. 3)。副腎転移を有するLCNEC患者は、他の転移部位と比較して最も不良な生存転帰を示した。
考察/結論
本研究は、日本全国を代表するJJCLCR登録データを用いた日本初の大規模レジストリベース解析であり、LCNECの疫学および臨床経過を明らかにした点で重要な貢献をしている。主要な知見は、(1) LCNECの患者特性 (男性優位、高喫煙率、Stage IVが多い、脳/肝転移率が高い) はSCLCに類似するが、(2) cisplatin/carboplatin系化学療法に対するORRおよびDCRはSCLCより有意に低いこと (LCNEC 34.8% vs SCLC 60.6%、p=0.017)、そして (3) 3年OS率はSCLCと類似しており統計的有意差は認められなかった (HR 0.818、95% CI 0.611-1.096、p=0.178) という3点である。
先行研究との違い: 本研究で示された化学療法感受性が患者特性の類似性に反してSCLCより低いという知見は、LCNECとSCLCが同様の患者プロファイルを持ちながらも、腫瘍の生物学的特性および化学療法感受性において異なることを大規模データで実証したものであり、臨床上重要である。これは、SCLC類似のゲノムプロファイルを持つLCNEC (RB1+TP53共変異など) であっても、SCLC標準療法への奏効率が必ずしも高くない可能性を示唆するデータとも解釈できる。この点は、従来のSCLCとLCNECの治療アプローチを同一視する見方とは対照的である。
新規性: これまでアジア・日本におけるLCNECの大規模レジストリデータに基づく疫学および臨床経過の報告はなかった。本研究は、日本におけるLCNECのリアルワールドデータを提供し、その患者特性、治療反応性、および生存期間を他の主要な肺癌組織型と比較した点で新規性がある。特に、LCNECの化学療法に対する反応率がSCLCよりも劣ることを大規模データで示したことは、これまで報告されていない重要な知見である。
臨床応用: 本研究の結果は、LCNECの治療戦略を検討する上で重要な臨床的意義を持つ。LCNECがSCLCと類似の患者特性を持つにもかかわらず、標準的なSCLCレジメンに対する反応性が低いという事実は、LCNECに対してSCLCとは異なる、あるいはより個別化された治療アプローチが必要である可能性を示唆する。これは、LCNEC患者の予後改善に向けた新たな治療法開発の必要性を強調するものであり、臨床現場での治療選択に影響を与える可能性がある。
残された課題: 本研究にはいくつかのlimitationが存在する。第一に、LCNECの登録例数が80例と少なく、サブグループ解析の検出力が不足している可能性がある。第二に、1999年WHO分類 (旧版) に基づく組織診断であり、中央病理判定が行われていないため、LCNECの誤診率が高い可能性を否定できない。第三に、登録期間が2012年であり、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) や最新の分子標的薬が導入される以前のデータであるため、現代の治療成績とは乖離がある。第四に、分子サブタイプ、Ki-67、PD-L1 (programmed death-ligand 1) 発現などの生物学的データが欠如している。今後の検討課題として、ICIを含む現代的治療を反映した大規模前向き研究と分子マーカーを統合した解析が必要である。
方法
本研究は、JJCLCR第6次肺癌登録研究のデータを用いた前向きコホート研究である。研究デザインは、2012年1月1日から12月31日までに診断されたLCNEC、SCLC、扁平上皮癌、腺癌患者を対象とした多施設共同観察研究である。登録施設は314施設、追跡期間は2016年4月30日までであった。適格基準は、病理学的または細胞学的に診断された進行期肺癌患者で、非治癒的外科治療、化学療法、化学放射線療法、または支持療法を受けた患者とした。根治術後再発例は除外された。病理診断はWHO組織分類第3版 (1999年) に準拠した。
データ収集項目には、年齢、性別、喫煙歴、ECOG PS (Eastern Cooperative Oncology Group Performance Status)、TNM病期 (UICC第7版、Goldstraw et al. JThoracOncol 2007)、転移部位、EGFR (epidermal growth factor receptor) 変異、治療内容、治療効果 (RECIST v1.1、Eisenhauer et al. EurJCancer 2009)、および死亡情報が含まれた。本研究は大阪大学病院倫理委員会の承認を得て、ヘルシンキ宣言の原則に準拠して実施された。統計解析には、患者特性およびORR (overall response rate)/DCR (disease control rate) の比較にFisher正確検定、OS (overall survival) 曲線の作成にKaplan-Meier法、生存率の比較にlog-rank検定、多変量OS解析にCox比例ハザードモデルを用いた。統計的有意水準はp < 0.05とした。本研究は、JJCLCRの全国登録データに基づくリアルワールドデータ解析であり、特定のNCT番号は付与されていない。