• 著者: Niho S, Kenmotsu H, Sekine I, Ishii G, Ishikawa Y, Noguchi M, Igarashi T, Yoshida T, Nishio K, Goto K, Igawa S, Saito H, Kenmotsu H, Saijo N
  • Corresponding author: S. Niho (National Cancer Center Hospital East, Chiba, Japan)
  • 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
  • 発行年: 2013
  • Epub日: 2013-05-07
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 23774385

背景

進行肺大細胞神経内分泌癌 (LCNEC) に対する最適な化学療法レジメンは長らく未解明な課題であった。小細胞肺癌 (SCLC) に準じたシスプラチン/エトポシド (GFPC 0302試験) の奏効率 (ORR) 38%、全生存期間 (OS) 中央値7.7ヶ月という成績は不十分であり、より有効なレジメンの探索が求められていた。イリノテカンとシスプラチン (IP) 併用療法は、Noda et al. NEnglJMed 2002Hanna et al. JClinOncol 2006Lara et al. JClinOncol 2009 らの報告にあるように、SCLCに対して日本で広く使用され、ORR 60-80%と高い有効性を示していた。LCNECはSCLCと分子生物学的に類似性を持つことから、IP療法がLCNECにも有効である可能性が期待された。しかし、LCNECを対象とした前向き多施設試験はこれまで報告されておらず、特に中央病理診断によるLCNEC診断の精度と治療反応性の関連は未検討であり、この点が重要な課題として残されていた。

目的

進行LCNEC患者に対するイリノテカンとシスプラチン (IP) 併用療法の有効性 (主要評価項目:奏効率) と安全性を前向き多施設第II相試験で評価すること。また、中央病理診断によるLCNEC診断の精度を検証し、中央病理診断結果に基づくサブグループ別 (LCNEC確定例 vs SCLC再分類例) の治療成績を比較検討すること。

結果

患者背景と中央病理確認結果: 2005年1月から2011年11月の間に44例の患者が登録された。患者背景はTable 1に示されており、年齢中央値は62.5歳 (範囲 28-74歳)、男性が35例 (80%)、ECOG PS 0の患者が21例 (48%)、PS 1の患者が23例 (52%) であった。中央病理確認の結果、41例の検体が入手可能であり、30例 (68%) がLCNECと確定診断され、10例 (23%) がSCLCに再分類され、1例が神経内分泌構造を持つ非小細胞肺癌 (NSCLC) と診断された。SCLCへの再分類率が23%であったことは、LCNECの診断が困難であることを示唆している。

全登録44例での治療成績: 全登録患者44例におけるORRは54.5% (95% CI 38.8-69.6%) であり、主要評価項目である事前設定の閾値 (30%) を上回った (Table 2)。完全奏効 (CR) は0例、部分奏効 (PR) は24例であった。病勢安定 (SD) は12例 (27.3%) であり、病勢制御率 (DCR) は79.5%であった。無増悪生存期間 (PFS) 中央値は5.9ヶ月 (95% CI 5.5-6.3ヶ月) であった (Figure 2)。全生存期間 (OS) 中央値は15.1ヶ月 (95% CI 11.2-19.0ヶ月) であった (Figure 1)。1年生存率は62.1%、2年生存率は18.4%であった。

中央病理確定LCNECサブグループとSCLC再分類サブグループの比較: 中央病理診断によりLCNECと確定された30例のサブグループでは、ORRは46.7% (95% CI 28.3-65.7%) (PR 14例) であった。PFS中央値は5.8ヶ月 (95% CI 3.8-7.8ヶ月)、OS中央値は12.6ヶ月 (95% CI 9.3-16.0ヶ月) であった。一方、SCLCに再分類された10例のサブグループでは、ORRは80.0% (95% CI 44.4-97.5%) (PR 8例) とLCNEC確定群を大きく上回った。PFS中央値は6.2ヶ月 (95% CI 5.2-7.2ヶ月) であったが、OS中央値は17.3ヶ月 (95% CI 11.2-23.3ヶ月) とLCNEC確定群よりも有意に良好な成績を示した (p=0.047) (Figure 3)。この結果は、SCLCがIP療法に対して高い感受性を持つことを反映していると考えられる。LCNEC群とSCLC群のPFSには有意差は認められなかった (p=0.382)。

安全性プロファイル: 全登録患者44例における安全性評価の結果、グレード3以上の有害事象として、好中球減少が55% (24例)、貧血が16% (7例)、下痢が5% (2例) であった (Table 3)。発熱性好中球減少 (FN) は7% (3例) に認められた。グレード3の感染症は好中球減少を伴うものが3例 (7%)、好中球減少を伴わないものが3例 (7%) であった。治療関連死亡は認められなかった。毒性プロファイルは、IP療法がSCLC治療に用いられた際の報告と類似していた。

考察/結論

本試験は、進行LCNEC患者を対象とした日本初のイリノテカンとシスプラチン (IP) 併用化学療法の前向き多施設第II相試験であり、全体としてORR 54.5%、OS中央値15.1ヶ月という比較的良好な成績を示した。これは、事前設定された主要評価項目の閾値 (30%) を上回るものであった。

先行研究との違い: 本研究の最も重要な知見の一つは、中央病理診断により登録患者の23%がSCLCに再分類された点である。これは、LCNECの診断が施設内診断のみでは困難であり、LCNECの臨床試験の解釈が歪む可能性を示唆する点で、これまでのLCNEC研究とは対照的な結果である。LCNEC確定例のORR 46.7%およびOS中央値12.6ヶ月は、SCLC再分類例のORR 80%およびOS中央値17.3ヶ月と比較して明らかに劣っており、LCNECがSCLC型化学療法に対してSCLCほど高感受性ではないことを示唆している。SCLC群のOS中央値17.3ヶ月はLCNEC群の12.6ヶ月と比較して有意に良好であった (HR 0.60, 95% CI 0.35-1.03, p=0.047)。この結果は、Derksらによる後続研究 (Derks et al., European Respiratory Journal 2017; Derks et al., Clinical Cancer Research 2018) で示されたNSCLC型化学療法のLCNECに対する優位性を予期するものであった。

新規性: 本研究で初めて、進行LCNECに対するIP療法の有効性と安全性を前向きに評価するとともに、中央病理診断の重要性を実証したことは新規性がある。特に、LCNECとSCLCの鑑別診断が治療成績に与える影響を明確に示した点は、これまでの報告にはない知見である。

臨床応用: 本研究の結果は、LCNECの診断において中央病理診断が臨床的に極めて重要であることを示唆しており、今後のLCNECの臨床試験デザインにおいて中央病理確認を組み込む必要性を強調する。また、LCNECに対するIP療法の有効性が示されたことで、臨床現場における治療選択肢の一つとして考慮される可能性がある。

残された課題: 本研究の主なlimitationは、中央病理確定LCNECサブグループの症例数が30例と比較的少ない点である。この30例のLCNEC群では、ORRの95% CIの下限 (28.3%) が事前設定された閾値 (30%) を下回っており、IP療法がLCNECに対して明確な活性を持つと断定するにはさらなる検討が必要である。また、LCNECの分子サブタイピング (SCLC-like vs NSCLC-like) が実施されていないため、治療反応性の異質性を詳細に解析できていない点が残された課題である。LCNEC確定例のOS中央値12.6ヶ月は、先行研究であるGFPC 0302試験の7.7ヶ月より良好であったが、IP療法とSCLC-PE療法を直接比較する無作為化比較試験が実施されていないため、両レジメンの優劣は確定できない。今後の研究では、より大規模なLCNECコホートでの分子サブタイピングに基づいた治療戦略の検討が望まれる。

方法

本研究は、日本国内の9施設が参加した前向き多施設第II相試験である (UMIN Clinical Trials Registry: UMIN000004796)。組織学的または細胞学的にLCNECと診断され、未治療の進行LCNEC患者44例を登録した。主要評価項目は、RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) version 1.0に基づく部分奏効以上の奏効率 (ORR) とした。副次評価項目として、全生存期間 (OS)、無増悪生存期間 (PFS)、および有害事象を評価した。

治療プロトコルは、イリノテカン 60 mg/m² (day1, 8, 15) とシスプラチン 60 mg/m² (day1) を4週ごとに最大6サイクル投与するものであった。患者は20歳から75歳まで、ECOGパフォーマンスステータス (PS) は0または1、測定可能病変を有し、十分な臓器機能を持つことが求められた。先行化学療法、間質性肺炎、症候性脳転移は除外基準とされた。

中央病理診断は、3名の専門病理医 (Ishii G、Ishikawa Y、Noguchi M) が盲検下で実施し、最終診断は合意形成により決定された。LCNECの組織学的診断基準には、臓器様配列、索状増殖、ロゼット様および柵状配列パターンが含まれ、クロモグラニン、シナプトフィジン、CD56などの神経内分泌マーカーによる免疫組織化学的確認が必須とされた。

統計解析にはSimonの二段階デザインが用いられ、閾値奏効率を30% (P0)、期待奏効率を50% (P1) と設定した。有意水準は0.05、統計的検出力は80%とした。OSおよびPFSはKaplan-Meier法を用いて推定し、群間比較にはログランク検定を用いた。