- 著者: Miyoshi T, Umemura S, Matsumura Y, Mimaki S, Tada S, Makinoshima H, Ishii G, Udagawa H, Matsumoto S, Yoh K, Niho S, Ohmatsu H, Aokage K, Hishida T, Yoshida J, Nagai K, Goto K, Tsuboi M, Tsuchihara K
- Corresponding author: Shigeki Umemura (Department of Thoracic Oncology, National Cancer Center Hospital East, Chiba, Japan)
- 雑誌: Clinical Cancer Research
- 発行年: 2017
- Epub日: 2016-08-09
- Article種別: Original Article
- PMID: 27507618
背景
肺の大細胞神経内分泌癌 (LCNEC: large-cell neuroendocrine carcinoma) は高度悪性腫瘍で、外科切除を受けた肺がん患者の約3%に診断される希少腫瘍である。WHO第4版分類ではSCLC (small cell lung cancer) と同じ高悪性度神経内分泌腫瘍に分類され、組織学的基準 (大型細胞、豊富な細胞質、明瞭な核小体、多角形形態) でSCLCと区別される。Asamuraらは外科切除LCNEC 141例とSCLC 113例の大規模日本人多施設研究で、両者の臨床病理学的特性と予後が類似することを示した。
SCLCの包括的ゲノム解析は複数の研究グループが実施しており、Peifer et al. NatGenet 2012 および Rudin et al. NatGenet 2012 はSCLCにおけるTP53・RB1の高頻度不活性化変異を報告した。さらに George et al. Nature 2015 はSCLC包括的ゲノム解析でPI3K/AKT/mTOR経路変異が17%に認められ治療標的候補となることを示した。また Umemura et al. JThoracOncol 2014 は日本人SCLCコホートでPI3K/AKT/mTOR経路が治療優先標的であることを確認している。一方、LCNECはその希少性から治療に関連するゲノム変異の情報が不十分 (insufficient) であり、特に日本人コホートにおけるLCNECのゲノムプロファイルとSCLCとの比較は gap in knowledge として残されていた。さらに、NSCLC成分を伴う複合型LCNECの各組織成分を分離解析した研究は存在せず、LCNECとNSCLCの腫瘍起源や遺伝的共有性も不明であった。Nihoらによる多施設第II相試験ではイリノテカン+シスプラチン併用がLCNECでSCLCより劣る全生存期間をもたらし、両腫瘍間の生物学的相違が示唆されていたため、分子レベルでのLCNEC固有の特性解明が求められていた。
目的
化学療法未施行の日本人LCNECとSCLCを対象に、標的キャプチャーNGS (next-generation sequencing) による包括的ゲノムプロファイリングを行い、(1) LCNEC特有の遺伝子変異とSCLCとの比較、(2) PI3K/AKT/mTOR経路を含む潜在的治療標的の同定、(3) NSCLC成分を伴う複合型LCNECにおける各組織成分間の遺伝的一致性の評価、を達成することを目的とした。
結果
患者背景とコホート特性: LCNECコホート (n=78) の診断時年齢中央値は70歳 (範囲22-84)、男性67例 (86%)、喫煙歴あり76例 (97%)、喫煙pack-year中央値51 (0-208) であった (Table 1)。外科切除65例の病理病期分類はI/II/III=38/14/13例、進行例生検13例の臨床病期はII/III/IV=1/4/8例であった。比較対象のSCLCコホート (n=141) の年齢中央値は67歳 (範囲37-86)、男性113例 (78%)、喫煙歴あり138例 (97%) であった。外科切除後の中央観察期間は37ヶ月で、切除65例の3年全生存率は65%であった。PI3K/AKT/mTOR経路変異・MYCファミリーコピー数増加・RB発現・p16発現による予後サブグループ解析では有意差は認められなかった。
LCNECとSCLCの遺伝子変異プロファイル比較: LCNECにおけるTP53変異は71% (55/78例) に認められた (Fig. 2)。RB1変異は26% (20/78例) で、SCLCの40% (56/141例) と比較して有意に低率であった (OR=0.52、95% CI 0.28-0.96、p=0.039)。LCNECで有意に高頻度な変異として、LAMA1 (laminin subunit alpha-1) がLCNEC 10% vs SCLC 2% (p=0.019)、PCLO (piccolo presynaptic cytomatrix protein) が6% vs 1% (p=0.023)、MEGF8 (multiple EGF-like domains 8) が5% vs 0% (p=0.015)、RICTOR (rapamycin-insensitive companion of mTOR) が3% vs 0% (p=0.044) に検出された。コピー数解析ではERBB2とSETBP1 (SET binding protein 1) のコピー数増加がLCNECで有意に高率であった (各4% vs 0%、p=0.044) (Fig. 2)。
治療標的となりうる活性化変異: PI3K/AKT/mTOR経路変異は12例 (15%) に検出された (Fig. 3): PIK3CA (3%)、PTEN (4%)、AKT2 (AKT serine/threonine kinase 2) (4%)、RICTOR (5%)、mTOR (1%)。その他の活性化変異: KRAS (6%)、FGFR1 (5%)、KIT (4%)、ERBB2 (4%)、HRAS (1%)、EGFR (1%)。RTK (receptor tyrosine kinase) 遺伝子に変異を持つ18例のうち3例はprotein tyrosine kinaseドメインのactivating mutationを保有した: EGFR (E746_A750 del)、KIT (D816H)、ERBB2 (V842I) (Table 2)。MYCファミリー遺伝子のコピー数増加は14% (11/78例) に認められ、MYC/MYCL1/MYCN各遺伝子の増加は相互排他的であった。SCLC (n=141) でもPI3K/AKT/mTOR経路変異が17% (24例) に認められた: PIK3CA (4%)、PTEN (6%)、AKT2 (2%)、RICTOR (6%)。
病期間比較と進行癌固有の変異: MYCファミリーコピー数増加は進行期生検例 (n=13; MYC 15%/MYCL1 23%/MYCN 8%) で早期外科切除例 (n=65; MYC 0%/MYCL1 8%/MYCN 0%) と比較して有意に高率であった (p=0.002)。MYCファミリー各遺伝子のコピー数増加は相互排他的パターンを示し、個別遺伝子レベルでは切除例においてもMYCL1増加が8% (5/65例) に認められた。TP53変異・RB1変異・PI3K/AKT/mTOR経路変異を含むその他の遺伝子変異は早期vs進行期で有意差を認めなかった (いずれもp>0.05)。
免疫組織化学所見: 外科切除LCNEC 65例でALK染色は全例陰性であり、ALK融合遺伝子陽性例は存在しないと考えられた。RB蛋白発現低下は74% (48/65例) に認められた。RB1変異例の93% (13/14例) でRB蛋白発現が陰性であり、RBとp16蛋白発現の相互排他性が明確に確認された (Supplementary Fig. S6)。RTK過剰発現とゲノム変異の関係については、RTK強陽性発現とゲノム変異の間に有意な相関は認められなかった。
複合型LCNECの遺伝子解析: 複合型LCNEC 10例 (腺癌合併5例、扁平上皮癌合併5例) を個別成分解析した (Table 3, Fig. 4)。LCNEC成分の変異数中央値は3.5個 (範囲2-9)、NSCLC成分は4個 (範囲2-8) であった。10例中5例 (50%) でNSCLC成分にもKRAS、EGFR、PIK3CA等のドライバー変異が確認され、いずれもLCNEC成分と共有していた。2成分間の体細胞変異一致率の中央値は71% (範囲60-100%) であり、高い共通変異率が示された。腺癌合併例では1例がEGFR (E746_A750 del)、1例がKRAS (G12V) を両成分で共有、扁平上皮癌合併例では1例がPIK3CA (E545K)、1例がFGFR1コピー数増加を共有した。NSCLC成分の変異アレル頻度 (VAF: variant allele frequency) はLCNEC成分と共有される変異より低い傾向があり、NSCLC成分の腫瘍細胞純度が低いことを反映していた。
考察/結論
本研究は化学療法未施行の日本人LCNECを対象とした最大規模のシーケンスベース分子プロファイリング研究であり、LCNECとSCLCが類似したゲノムプロファイルを共有すること、とりわけPI3K/AKT/mTOR経路が有望な治療標的であることを示した。また複合型LCNECを各組織成分別に分離解析した初めての研究として、新規な知見を提供した。
SCLCとの類似点と相違点: TP53変異 (71%) とRB1変異 (26%) の高頻度はLCNECとSCLCの組織学的類縁性を遺伝子レベルで支持する。一方、RB1変異頻度はSCLC (40%) と比較して有意に低く (p=0.039)、これまでの研究でSCLCにおけるRB1変異が80-89%のTP53と39-67%のRB1として報告されているのとは異なる。RekhtmanらによるLCNEC 45例のNGS解析でも同様にRB1変異・欠失・蛋白消失が報告されており、本研究の知見と一致する。RBとp16蛋白発現の相互排他性が明確に確認されたことは、RB/p16経路がLCNEC腫瘍形成において生物学的に重要な役割を果たすことを示唆し、NSCLC (non-small cell lung cancer) における既報と一致する。IHC所見では74%でRB蛋白発現低下が認められたことから、RB1変異以外のエピゲノム修飾等のメカニズムがRB機能不全に寄与する可能性がある。
新規な治療標的の同定: PI3K/AKT/mTOR経路変異が15%に検出されたことは、本研究で新規に確認された臨床的含意の高い知見である。この経路はSCLCでも17%で変異が報告されており (Umemura et al. 2014)、LCNEC腫瘍形成においても中心的役割を果たしている可能性がある。特にRICTOR変異 (5%) はmTORC2経路の活性化を示唆し、選択的mTOR阻害薬の有効性候補となりうる。MYCファミリー遺伝子のコピー数増加が相互排他的に14%に認められたことは、MYCファミリーがドライバー癌遺伝子として機能することを示唆する。また、進行期においてMYCファミリー増加が有意に高率であった (p=0.002) ことは、これらが疾患進行と関連する負の予後因子となりうることを示す。ERBB2コピー数増加 (4%) やKIT (D816H)、FGFR1 (5%) などのRTK変異は分子標的薬の適応評価のために、日常的な遺伝子検索パネルに含めることの臨床的意義がある。
複合型LCNECの起源と治療戦略への示唆: 複合型LCNECにおける両成分間の変異一致率中央値71%という高値は、これまで報告されていない新規の知見であり、LCNECとNSCLC成分が共通の前駆細胞から由来し、腫瘍内分化の過程でLCNEC成分が生じた可能性を支持する。共有されたドライバー変異 (EGFR、KRAS、PIK3CA等) はこれらが腫瘍進化の比較的早期に獲得されたことを示唆し、Zhang らが腺癌で報告した多領域シーケンシングによる76%の変異一致率と同程度の一致を示した。この知見は複合型LCNECにおける治療戦略を考える上で重要であり、LCNEC成分に適した治療がNSCLC成分に対しても有効である可能性があるという臨床応用上の示唆をもたらす。
残された課題: 本研究の limitation として、コピー数解析の感度が43.6%と低く (特異度99.9%)、コピー数増加の実際の頻度が過小評価されている可能性がある点、またSTK11変異が244遺伝子パネルに含まれていなかったためNSCLC-likeサブタイプの完全な層別化ができなかった点がある。今後の検討課題として、分子サブタイプ (SCLC-like vs. NSCLC-like LCNEC) 別の化学療法感受性の前向き検証、免疫チェックポイント阻害薬の有効性予測因子としてのゲノムプロファイルの役割、LAMA1・PCLO・MEGF8などLCNEC固有変異遺伝子の機能的解析、および複合型LCNECにおける各成分を標的とした治療法の開発が必要である。さらに、日本人コホートで低率であったKRAS変異 (6%) の欧米コホートとの差異の臨床的意義についても future research が求められる。
方法
国立がん研究センター東病院にて1992-2014年に収集した化学療法未施行のLCNEC 78例 (外科切除65例、進行例生検13例) と、同院にて1995-2013年に収集したSCLC 141例 (外科切除50例、生検91例) を対象とした。全検体は10%ホルマリン (LCNEC 52例・SCLC 90例) または100%メチルアルコール (LCNEC 26例) で固定しパラフィン包埋処理後、腫瘍細胞純度50%以上の組織を選択した。複合型LCNEC 10例はLCNEC成分とNSCLC成分を顕微鏡下で同定し、各成分を2mm径パンチで個別にコアリングして分離解析した。
標的キャプチャーシーケンスには244がん関連遺伝子のコーディングエクソン全域を網羅するカスタムパネル (SureSelect XT (Extended Target enrichment; hybridization-based capture) custom 0.5-2.9 Mb、Agilent Technologies、最終キャプチャーサイズ1.499 Mb) を使用した。シーケンスはHiSeq 1500 (Illumina) で100 bp paired-endデータを生成。シーケンシングリードはBWA (Burrows-Wheeler Aligner) でGRCh37/hg19 (Genome Reference Consortium Human build 37) にマッピングし、SNV (single nucleotide variant) およびindel (挿入・欠失) はGATK (Genome Analysis Toolkit) version 1.6で検出した。変異フィルタリング基準: GATKコンフィデンススコア≥50、各方向のバリアントリード数≥1、変異アレル頻度≥10%。dbSNP build 131 (既知生殖細胞変異)、1000 Genomes Project第I相エクソームデータ、274例の日本人内部エクソームを用いて生殖細胞変異を除外。候補体細胞変異はCOSMIC (Catalogue of Somatic Mutations in Cancer, v.72) データベースの「confirmed somatic」または「previously reported」に登録された変異と定義した。コピー数解析は244標的遺伝子の総カバレッジ比を用いた二項確率関数法で実施し、コピー数≥4かつp<0.05をコピー数増加、コピー数≥10かつp<0.05を増幅と定義した。検証としてOCP (Oncomine Cancer Research Panel) でLCNEC 7例・SCLC 13例の変異を検証し一致率100%を確認。Sanger法でPI3K/AKT/mTOR経路変異5件を追加検証した。
IHC (immunohistochemistry) は全65例の切除LCNECでALK、RB (retinoblastoma protein)、p16蛋白の染色を実施した。統計解析はカテゴリ変数の2群比較にカイ二乗検定 (chi-square test) またはFisher正確検定 (Fisher’s exact test) を使用した。全p値は両側検定で有意水準p<0.05とし、SPSS (Statistical Package for the Social Sciences) 22 (SPSS Inc.) を用いた。