• 著者: June Koo Lee, Heae Surng Park, Dong-Wan Kim, Se-Hoon Lee, Jong-Seok Lee
  • Corresponding author: Dong-Wan Kim (Seoul National University Hospital, Seoul, Korea)
  • 雑誌: Cancer
  • 発行年: 2012
  • Epub日: 2011-11-15
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 22086654

背景

EML4-ALK融合遺伝子は2007年にSoda et al. Nature 2007によって同定され、NSCLCの約3〜7%に検出されるドライバー変異として急速に注目を集めた。この融合遺伝子は染色体2pの小さな逆位によって形成され、肺がん細胞の増殖を促進するドライバーとして機能し、がん遺伝子依存性(oncogene addiction)の現象を示すことが報告されたWeinstein et al. Science 2002。臨床病理学的特徴として若年・非喫煙者・腺癌との関連が報告されており、EGFR変異との相互排他性も示されていたShaw et al. JClinOncol 2009Wong et al. Cancer 2009。これらの知見は、NSCLCの分子サブタイプに基づく層別化医療の重要性を強調するものであったPao et al. LancetOncol 2011

EML4-ALK転座の同定から3年足らずで、ALKおよびMETのデュアル阻害薬であるクリゾチニブ(crizotinib)の第I相試験が実施され、前治療歴のある患者群において、従来の化学療法では奏効率が約10%であるのに対し、クリゾチニブは全奏効率(ORR)55%、6ヶ月無増悪生存期間(PFS)率72%という顕著な活性を示したKwak et al. NEnglJMed 2010。これにより、ALK陽性がALK阻害薬治療の強力な予測マーカーであることが明確になった。しかし、ALK陽性NSCLCの予後的特徴、特にALK阻害薬なしで治療された場合の自然経過については、当時十分に検討されておらず、その予後に関する知見は未確立であった。

既存の研究では、ALK陽性患者のサンプルサイズが小さく、クリゾチニブを使用した患者が含まれていることで全生存期間(OS)が影響を受けていたため、純粋なALK陽性NSCLCの予後基準値(historical baseline)を確立することが困難であった。例えば、Shaw et al. JClinOncol 2009の研究では、ALK陽性患者17例中7例がクリゾチニブの臨床試験に登録されており、これがOSの結果に影響を与えた可能性が指摘されている。ALK陽性NSCLCがEGFR変異陽性やALK/EGFR双方野生型(WT/WT)群と比較してどのようなOS、化学療法奏効、EGFR-TKI感受性を示すかを適切にコントロールした研究が不足していた。本研究は、ALK阻害薬を使用していないALK陽性患者の歴史的コホートを解析することにより、ALK陽性NSCLCの純粋な予後的特徴を明らかにすることを目的とした。これにより、ALK阻害薬の導入がもたらす臨床的利益を評価するための重要な比較データを提供できると考えられた。

目的

本研究の目的は、ALK阻害薬が登場する以前の時代(2003年1月から2009年8月)に診断・治療されたALK陽性進行NSCLC患者(クリゾチニブ未使用)の全生存期間(OS)を、年齢、性別、病期、喫煙状況で厳密にマッチングしたEGFR変異陽性患者およびALK/EGFR双方野生型(WT/WT)患者と比較することである。具体的には、ALK陽性NSCLCの予後的特徴、一次化学療法に対する感受性、およびEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)に対する感受性を明らかにすることを目的とした。これにより、ALK陽性NSCLCが適切な分子標的治療を受けられない場合に、他の遺伝子型と比較してどのような臨床経過をたどるのかを明確にし、将来的なALK阻害薬の臨床的意義を評価するための歴史的対照データを提供することを目指した。また、ALK陽性NSCLCにおけるEGFR-TKIの無効性を客観的な臨床データで示すことも重要な目的の一つであった。本研究は、ALK陽性NSCLC患者の治療選択肢が限られていた時代の予後を明確にすることで、新たな治療法の開発と評価のための重要な基盤データを提供する。

結果

ALK陽性NSCLCの同定と患者背景: 262例の検査対象腫瘍のうち、23例がALK FISH陽性であった(陽性率8.8%)。これらのALK陽性患者は、年齢、性別、病期、喫煙状況でマッチングされたEGFR変異陽性患者46例、およびWT/WT患者46例と比較された。全3群において、ほとんどの患者がStage IV疾患または再発腫瘍を有していた(ALK陽性群100%、EGFR変異陽性群97.8%、WT/WT群100%)。病理組織学的には、ALK陽性群は非小細胞癌NOSの割合が他の群よりも高かった(ALK陽性群30%、EGFR変異陽性群11%、WT/WT群20%)。また、印環細胞癌はALK陽性患者で3例(13%)に認められた。転移部位に関して、初回評価時のCNS転移率はALK陽性群で30%であり、EGFR変異陽性群の63%と比較して有意に低かった(P<.001)。全経過を通じたCNS転移率も同様に、ALK陽性群で30%に対し、EGFR変異陽性群で63%と有意差が認められた(P<.001)。肝転移については、WT/WT群で経過中の発生が少なかった(P=.034)。EGFR変異との相互排他性が支持され、ALK陽性とEGFR変異の重複例は認められなかった。喫煙歴を有するALK陽性例が22%存在し、喫煙状況のみでのALK検査患者選択には注意が必要であることが示唆された(Table 1, Table 2)。

全生存期間(OS):ALK陽性群が最短: OS中央値は、ALK陽性群で12.2ヶ月(95% CI 6.60-17.87)であった。これはEGFR変異陽性群の29.6ヶ月(95% CI 24.73-34.53)と比較して統計的に有意に短かった(P=.001)。一方、WT/WT群の19.3ヶ月(95% CI 9.11-29.55)との差は統計的有意差に至らなかった(P=.127)。多変量Cox解析(年齢、性別、病期、喫煙状況、組織型を調整)では、EGFR変異陽性群のハザード比(HR)は0.446、WT/WT群のHRは0.631であった(参照群:ALK陽性群)。組織型を含む他の変数はOSに独立した影響を与えなかった。この結果は、ALK阻害薬が利用できない状況下では、ALK陽性NSCLC患者の予後がEGFR変異陽性患者と比較して著しく不良であることを示唆している(Figure 2A, Table 4)。

一次白金系化学療法奏効率・PFS:3群間で同等: 一次白金系化学療法は、ALK陽性群21例、EGFR変異陽性群34例、WT/WT群37例に施行された。奏効率は、ALK陽性群27%(PR 6/21例、PD 6例)に対し、EGFR変異陽性群32%(PR 11/34例)、WT/WT群35%(PR 13/37例)であり、群間に統計的に有意な差は認められなかった(ALK vs EGFR P=.857、ALK vs WT/WT P=.695)。一次化学療法後のPFS中央値も、ALK陽性群3.87ヶ月(95% CI 0.43-7.31)に対し、EGFR変異陽性群4.93ヶ月(95% CI 4.40-5.46)、WT/WT群3.73ヶ月(95% CI 2.32-5.14)であり、統計的に有意な差はなかった(ALK vs EGFR P=.825、ALK vs WT/WT P=.474)(Figure 2B, Table 3, Table 4)。これらの結果は、ALK陽性NSCLCが白金系化学療法に対して他の群と同様の感受性を持つことを示しており、化学療法抵抗性であるという根拠は示されなかった。

EGFR-TKI奏効率・PFS:ALK陽性群に完全な抵抗性: EGFR-TKI(ゲフィチニブまたはエルロチニブ)は、ALK陽性群10例(EGFR-TKI非奏効を登録基準とした9例を除外)、EGFR変異陽性群42例、WT/WT群27例に投与された。EGFR-TKI奏効率は、ALK陽性群で0%であったのに対し、EGFR変異陽性群では80.9%(CR 7.1%+PR 73.8%)、WT/WT群では14.8%であった。ALK陽性群とEGFR変異陽性群の間には著しい差が認められた(P<.001)。ALK陽性群のEGFR-TKI後PFS中央値は1.37ヶ月(95% CI 1.07-1.67)であり、EGFR変異陽性群の9.80ヶ月(95% CI 4.94-14.66, P<.001)と比較して著しく短かった。WT/WT群の2.07ヶ月(95% CI 0.15-3.99)との比較でも有意差(P=.037)が認められ、ALK陽性NSCLCはWT/WT群よりもさらにEGFR-TKIに抵抗性であることが示された(Figure 2C, Table 3, Table 4)。ALK陽性患者にEGFR-TKIを投与した10例中8例(80%)が病勢進行(PD)であった。この結果は、ALK陽性NSCLCがEGFR-TKIに対して実質的に無効であることを明確に示している。

考察/結論

本研究は、ALK阻害薬登場前の時代における韓国単施設コホートで、年齢・性別・病期・喫煙状況マッチングにより交絡を最小化した上でALK陽性NSCLCの予後的特徴を明確に示した初期の系統的研究である。主要知見は以下の通りである。

先行研究との違い: 従来のALK陽性NSCLCの予後に関する研究、例えばShaw et al. JClinOncol 2009では、ALK阻害薬の投与がOSに影響を与えていた可能性がある。本研究では、ALK阻害薬の治療歴がない患者のみを対象とすることで、その影響を排除し、より純粋なALK陽性NSCLCの自然経過を評価した点で、これまでの研究と異なる。また、ALK陽性NSCLCが化学療法に特に抵抗性であるという明確な根拠は示されず、これは一部の先行研究で示唆された数値上の傾向とは対照的であった。

新規性: 本研究で初めて、ALK阻害薬が利用できない状況下でのALK陽性NSCLCのOS中央値が12.2ヶ月であり、EGFR変異陽性群(29.6ヶ月)と比較して統計的に有意に短いことを明確に示した。これは、適切な分子標的療法がない場合のALK陽性NSCLCの予後不良性を定量的に示す新規の知見である。また、ALK陽性NSCLCがEGFR-TKIに対してWT/WT群よりもさらに強い抵抗性を示すことを、PFS中央値1.37ヶ月という具体的な数値で示した点も新規性が高い。この知見は、Koivunen et al. ClinCancerRes 2008による前臨床データとも整合する。

臨床応用: 本研究の知見は、ALK阻害薬の登場以前のALK陽性NSCLC患者の予後を明らかにし、クリゾチニブなどのALK阻害薬の開発・普及により達成された予後改善の意義を歴史的なベースラインとして定量化した点で臨床的意義が大きい。PROFILE 1007(クリゾチニブ vs 化学療法、PFS HR 0.49)やALEX(アレクチニブ vs クリゾチニブ)などの後続試験でのOS改善評価の参照データとして、本研究の12.2ヶ月という数値が用いられた。また、ALK陽性NSCLCがEGFR-TKIに実質的に無効であるという結果は、EGFR-TKI投与前に適切なドライバー変異検査を行うことの重要性を強く示唆し、臨床現場での治療選択に直接的な影響を与える。

残された課題: 本研究の限界として、サンプルサイズ(ALK陽性 n=23)の小ささによる統計的検出力不足が挙げられる。特に、ALK陽性群とWT/WT群のOSの差が統計的有意差に至らなかった点は、サンプルサイズが大きければ異なる結果が得られた可能性を残している。また、韓国単施設の後方視的研究であるため、結果の一般化には注意が必要である。今後の検討課題として、より大規模な多施設共同研究や、前向き研究による検証が望まれる。さらに、ALK陽性NSCLCにおける特定の組織型(例:印環細胞癌)の予後や治療反応性について、より詳細な解析を行うことも今後の研究方向性として考えられる。

方法

本研究は、ソウル大学病院(Seoul National University Hospital)のNSCLCデータベースを用いた後方視的コホート研究(retrospective cohort study)である。2003年1月から2009年8月までにStage IIIB/IVの非扁平上皮NSCLCと診断された1,166例からデータを収集した。

ALK検査対象の選定方針として、まずEGFR変異陽性例、または過去のEGFR-TKI奏効例(EGFR変異の代理マーカーとして)を除外した。これは、EML4-ALK転座がEGFR変異と相互排他的であるという先行研究の知見に基づいている。残余例のうち、病理組織が十分に残存した262例にALK蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)を施行した。FISH陽性の判定基準は、50個の腫瘍細胞の15%以上にbreak-apart信号または5’欠失を認めることとした。全病理診断はWHO分類に基づき、1名の専任病理医(H.S.P.)が盲検下で判定した。

ALK陽性23例とマッチングを行うため、各ALK陽性患者を年齢、性別、病期、喫煙状況でEGFR変異陽性患者2例、およびWT/WT患者2例にマッチングした(2:1マッチング)。最終的な解析対象は、ALK陽性23例、EGFR変異陽性46例、WT/WT 46例の合計115例であった。全例がクリゾチニブによる治療歴を持たなかった。

評価項目は、OS(転移性疾患診断日から死亡まで)、一次化学療法後PFS、EGFR-TKI治療後PFS、および奏効率であった。放射線学的奏効はRECIST 1.0基準で評価された。統計解析にはKaplan-Meier法によるOSおよびPFSの推定、ログランク検定(log-rank test)による群間比較、およびCox比例ハザードモデル(Cox proportional hazards model)による多変量解析を用いた。統計的有意水準は両側P値<.05とした。データカットオフ日は2011年1月13日であり、追跡期間中央値は26ヶ月であった。本研究はソウル大学病院の施設内倫理審査委員会(IRB No. H-1008-035-326)の承認を得て実施された。

患者背景として、ALK陽性群の年齢中央値は47.8歳、女性が60.9%、Stage IVが100%であった。組織型は腺癌が69.6%を占め、残りの30.4%は「非小細胞肺癌NOS(not otherwise specified)」であり、そのうち3例は印環細胞癌を含んでいた。ECOG PS 0が30.4%、PS 1が56.5%であった。喫煙歴(10 pack-year以上)は21.7%であった。これらの患者背景はマッチングにより、各群間で統計的に有意な差がないように調整された(Table 1)。