• 著者: Jussi P. Koivunen, Craig Mermel, Kreshnik Zejnullahu, et al.
  • Corresponding author: Pasi A. Jänne (Lowe Center for Thoracic Oncology, Dana-Farber Cancer Institute, Boston)
  • 雑誌: Clinical Cancer Research
  • 発行年: 2008
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 18594010

背景

EML4-ALK融合遺伝子は、2007年にSoda et al. Nature 2007が日本人非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者の6.7%で初めて報告した染色体2p短腕内の逆位[inv(2)(p21p23)]によって生じる癌遺伝子である。この融合遺伝子は構成的に活性化されたチロシンキナーゼとして、下流のAkt、STAT3、ERK1/2シグナルを駆動することが知られている。非ホジキンリンパ腫におけるNPM-ALK融合と同様の分子機構を持つが、NSCLCにおけるEML4-ALKの頻度、臨床病理学的特徴、およびALK阻害薬に対する感受性については、当時まだ未解明な点が多かった。特に、白人集団におけるEML4-ALKの頻度に関するデータは不足しており、その臨床的意義を評価するための大規模な疫学調査が求められていた。また、PF02341066 (crizotinibの前身) やTAE684などのALK特異的阻害薬が前臨床開発段階にあり、EML4-ALK陽性NSCLCに対するこれらの薬剤の有効性をin vitroおよびin vivoで検証することが喫緊の課題であった。これまでの研究では、EGFR変異陽性NSCLCに対するEGFR-TKIの効果が劇的であることが示されており Paez et al. Science 2004、同様にEML4-ALK陽性NSCLCにおいても「oncogene addiction」の概念が適用されるかどうかも不明であった Weinstein et al. Science 2002

目的

本研究の目的は、白人 (米国) およびアジア人 (韓国) のNSCLC患者およびNSCLC細胞株におけるEML4-ALK融合遺伝子の頻度を明らかにすることである。さらに、特異的ALK阻害薬TAE684がEML4-ALK陽性NSCLC細胞株に対してin vitroおよびin vivoで有効性を示すかを評価することであった。特に、EML4-ALK陽性細胞株におけるTAE684への感受性の違いを解析し、耐性機序の可能性を探索することも本研究の重要な目的であった。

結果

EML4-ALK融合遺伝子の頻度と臨床病理学的特徴: 305例の原発性NSCLC腫瘍のうち8例 (3%)、および83株のNSCLC細胞株のうち3株 (3.6%) でEML4-ALK融合遺伝子が検出された。検出された融合遺伝子には4種類のバリアントがあり、そのうち2種類 (variant 3a/3bおよびvariant 4) は新規に同定されたものであった (Fig. 1C)。EML4-ALK陽性腫瘍は全て腺癌であり、非喫煙者または軽度喫煙者 (<10 pack-years) で有意に高頻度であった (6% vs 1%; P=0.049) (Table 1)。EML4-ALK陽性症例ではKRASおよびBRAF変異は認められず、1例のみEGFR変異 (del E746_A750) との共存が確認された。この頻度は、米国だけでも年間約5,000人の患者に相当すると推計された。

ALK阻害薬TAE684のin vitroおよびin vivoにおける有効性: EML4-ALK陽性細胞株のうち、H3122 (variant 1) はTAE684に対して最も高い感受性を示し、IC50は10 nmol/Lであった (Fig. 3A)。100 nmol/LのTAE684処理により、H3122細胞ではAktおよびERK1/2のリン酸化が完全に抑制され、有意なアポトーシス (FACSによるsub-G1分画の増加およびPARP切断) が誘導された (Fig. 3B, C)。一方、EML4-ALK陰性の細胞株 (EGFR変異H1650、PC9、KRAS変異H358など) はTAE684に感受性がなく (IC50 >10 μM)、EML4-ALK陽性細胞に対する選択性が確認された。H3122異種移植モデルでは、TAE684 10 mg/kg/dayおよび25 mg/kg/dayのいずれの用量でも、対照群およびエルロチニブ群と比較して有意な腫瘍増殖抑制効果が認められた (Fig. 4)。特に25 mg/kg/day群では、腫瘍縮小後に53日間プラトーが維持され、EML4-ALKに対するoncogene addictionが示唆された。対照群およびエルロチニブ群のマウスは、治療開始後15日目までに平均腫瘍体積が2,000 mm³に達し、全て安楽死されたが、TAE684投与群では53日間の治療期間後も腫瘍体積は2,000 mm³に達しなかった。

EGFR/ERBB2共活性化による原発性耐性機序: EML4-ALK variant 1を有するDFCI032細胞株では、TAE684によるALKリン酸化は完全に阻害されたにもかかわらず、細胞増殖抑制効果は認められなかった (Fig. 3D)。リン酸化RTKアレイ解析の結果、DFCI032細胞ではEGFRおよびERBB2が強く共活性化されていることが判明した (Fig. 5A)。TAE684とEGFR/ERBB2非可逆的阻害薬CL-387,785の併用でのみ、有意な増殖抑制、アポトーシス誘導、およびAkt/ERK1/2下流シグナルの抑制が達成された (P < 0.001) (Fig. 5B, C, D)。DFCI032細胞におけるTAE684単独 vs 併用療法の増殖抑制効果は、未治療群と比較して有意差が認められ (P < 0.001)、アポトーシス誘導も有意に増加した (P < 0.05)。

H2228細胞株における別の耐性機序の示唆: H2228細胞株 (variant 3) では、TAE684によりALKリン酸化は完全に阻害されたものの、増殖阻害は不完全であった (IC50 1-10 μM)。DFCI032細胞とは異なり、H2228細胞ではEGFRやERBB2の共活性化は認められず、EGFR/ERBB2以外のバイパスシグナルによる耐性機序の存在が示唆された。H2228細胞ではTAE684処理後にAktおよびERK1/2リン酸化の不完全な抑制が観察されたが、STAT3リン酸化は最小限の減少にとどまった (Fig. 3D)。

考察/結論

本研究は、白人およびアジア人NSCLC患者においてEML4-ALK融合遺伝子が約3%の頻度で存在することを初めて確認した。この頻度は、米国だけでも年間約5,000人の患者に相当し、ALK転座が以前に検出されていた未分化大細胞型リンパ腫の患者数よりも多い。EML4-ALK陽性NSCLCは腺癌、非喫煙者または軽度喫煙者、KRAS/BRAF変異非共存という臨床病理学的特徴を持つことが示され、これはその後の臨床研究で繰り返し確認される特徴と一致する。

先行研究との違い: これまでのEGFR変異陽性NSCLC細胞株の多くがゲフィチニブやエルロチニブに高い感受性を示すのと対照的に Paez et al. Science 2004Sordella et al. Science 2004、本研究でEML4-ALK陽性細胞株のうちTAE684単独に感受性を示したのは3株中1株のみであった。この違いは、ALK阻害薬単独療法がEML4-ALK陽性NSCLC患者の一部にのみ有効である可能性を強調する。

新規性: 本研究の重要な発見として、DFCI032細胞株におけるEGFR/ERBB2共活性化による原発性ALK阻害薬耐性のモデルを提示した点が挙げられる。これは、ALK阻害薬単独では効果が不十分な場合があることを示唆し、その後の臨床耐性機序研究 (バイパスシグナル活性化) の先駆けとなり、現在のALK阻害薬耐性研究の基盤を形成した Rikova et al. Cell 2007。TAE684によるH3122細胞のin vitroおよびin vivoでの増殖抑制効果は、EGFR変異陽性NSCLCにおけるゲフィチニブの有効性と類似した「oncogene addiction」の原理を支持するものであった Weinstein et al. Science 2002。この結果は、crizotinib (PF-02341066) の臨床開発に対する強力な前臨床的根拠を提供した Zou et al. CancerRes 2007Christensen et al. MolCancerTher 2007

臨床応用: 本知見は、EML4-ALK陽性NSCLCという新規分子サブタイプの臨床的重要性と治療可能性を初期に示した先駆的研究であり、ALK阻害薬の臨床開発を加速させる上で重要な役割を果たした。特に、バイパスシグナル活性化による耐性機序の発見は、将来的な併用療法戦略の必要性を示唆するものであり、臨床現場での治療選択に影響を与える可能性がある。例えば、DFCI032細胞株ではTAE684とCL-387,785の併用により増殖抑制とアポトーシス誘導が認められ (P < 0.001)、ALK阻害薬単独では効果が不十分な患者に対する併用療法の臨床的有用性を示唆する。

残された課題: 本研究は前臨床研究に限定されており、TAE684自体は毒性の問題から臨床開発には至らなかったという限界がある (PF-02341066 [crizotinib]が臨床開発された)。また、H2228細胞株におけるEGFR/ERBB2以外のバイパスシグナルによる耐性機序の詳細は不明であり、今後の検討課題として残されている。EML4-ALKバリアント間のシグナル伝達の違いや、STAT3シグナルの意義についてもさらなる研究が必要である。

方法

本研究は以下の主要な2つのフェーズで実施されたレトロスペクティブコホート研究である。

① EML4-ALK融合遺伝子の頻度調査: 305例の原発性NSCLC腫瘍組織 (米国患者138例、韓国患者167例、いずれも切除標本) および83株のNSCLC細胞株を対象とした。EML4-ALK融合遺伝子のスクリーニングには、逆転写PCR (RT-PCR) を主要な手法として用いた。また、Affymetrix HuEx-1.0エクソンアレイデータを用いてALK転座のスクリーニングを行い、RT-PCRでその結果を確認した。融合遺伝子の存在は、蛍光in situハイブリダイゼーション (FISH) により形態学的に確認された。KRAS、EGFR、HER2、BRAF、PIK3CAなどの既知の癌遺伝子変異の有無も、SURVEYOR-WAVE変異解析および直接シーケンスにより評価された。統計解析にはFisherの正確検定が用いられた。

② ALK阻害薬TAE684の前臨床評価: EML4-ALK陽性細胞株 (H3122、H2228、DFCI032) を用いて、TAE684 (特異的ALK阻害薬、NPM-ALKに対するIC50は10 nM) の有効性を評価した。

  • In vitro評価: MTS増殖アッセイにより細胞増殖抑制効果を測定した。フローサイトメトリー (FACS) 解析によりアポトーシス誘導を評価し、ウエスタンブロット解析によりALKおよび下流シグナル伝達分子 (Akt、STAT3、ERK1/2) のリン酸化状態を分析した。
  • In vivo評価: H3122細胞株を用いたヌードマウス異種移植モデルにおいて、TAE684の腫瘍増殖抑制効果を評価した。マウスは4群 (n=5/群) にランダム化され、ビヒクル投与群、EGFR阻害薬エルロチニブ投与群、TAE684 10 mg/kg/day投与群、TAE684 25 mg/kg/day投与群が設定された。腫瘍体積は週2回測定され、平均腫瘍体積が2,000 mm³に達した時点で実験を終了した。
  • 耐性機序の探索: TAE684に感受性を示さないEML4-ALK陽性細胞株 (DFCI032) に対しては、リン酸化RTKアレイを用いて他の受容体型チロシンキナーゼ (RTK) の共活性化の有無を探索した。共活性化が認められた場合には、TAE684と他のRTK阻害薬 (CL-387,785など) との併用効果をin vitroで評価した。併用効果の統計学的有意差は対応のあるt検定 (paired t test) で評価された。