• 著者: Alice T. Shaw, Beow Y. Yeap, Mari Mino-Kenudson, Subba R. Digumarthy, Daniel B. Costa, Rebecca S. Heist, Benjamin Solomon, Hannah Stubbs, Sonal Admane, Ultan McDermott, Jeffrey Settleman, Susumu Kobayashi, Eugene J. Mark, Scott J. Rodig, Lucian R. Chirieac, Eunice L. Kwak, Thomas J. Lynch, A. John Iafrate
  • Corresponding author: A. John Iafrate (Massachusetts General Hospital, Boston, MA)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2009
  • Epub日: 2009-10-26
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 19667264

背景

2004年にEGFR遺伝子変異が同定され、ゲフィチニブやエルロチニブといったEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)が特定の患者群に劇的な効果を示すことが報告された(Lynch et al. NEnglJMed 2004Paez et al. Science 2004)。これにより、非小細胞肺癌(NSCLC)における個別化医療の重要性が広く認識されるようになった。その後、2007年には新たなドライバー遺伝子としてEML4-ALK融合遺伝子が発見され、強力な発がん活性を有することが示された(Soda et al. Nature 2007)。さらに、リン酸化プロテオミクス解析などからもALK再構成が肺癌の治療標的として有望であることが示唆されていた(Rikova et al. Cell 2007)。

しかしながら、この新規の分子異常を有する患者の具体的な臨床像、発生頻度、病理組織学的特徴、さらには既存の治療法やEGFR-TKIに対する治療反応性、および長期予後については依然として不明な点が多く、臨床データが圧倒的に不足していた。既報におけるALK再構成の検出頻度は1.5%から6.7%と幅広く、どのような患者集団を対象にスクリーニングを行うべきかという基準も未確立であった。また、EGFR変異とALK再構成が相互排他的であるかどうかも臨床レベルでは十分に検証されておらず、EGFR-TKIに対する実際の感受性データも存在しなかった。当時開発中であったALK阻害薬(crizotinibなど)の臨床試験を成功させ、適切な患者に届けるためには、EML4-ALK陽性肺癌の臨床病理学的特徴を詳細に定義し、他の遺伝子変異群との違いを明確にすることが急務の課題であった。

目的

本研究の目的は、臨床的特徴に基づいてスクリーニングされた非小細胞肺癌(NSCLC)患者コホートにおいて、EML4-ALK融合遺伝子陽性例の頻度を明らかにすることである。さらに、EML4-ALK陽性群の臨床的・デモグラフィック的特徴(年齢、性別、喫煙歴、民族)および病理組織学的特徴(特に腺癌のサブタイプや印環細胞の有無)を詳細に解析し、EGFR変異陽性群および双方の変異を持たない野生型(WT/WT)群との比較を行う。また、転移性病変を有する患者におけるEGFR-TKI治療およびプラチナ製剤併用化学療法に対する治療反応性(奏効率、無増悪生存期間)を評価し、全生存期間(OS)を比較することで、EML4-ALK陽性肺癌の独自の臨床的挙動と予後的意義を確立することを目的とする。

結果

スクリーニングコホートにおける遺伝子変異分布と相互排他性: 臨床的特徴に基づいて選択されたNSCLC患者141例(n=141)を対象にスクリーニングを行った結果、EML4-ALK陽性例は19例(13%)、EGFR変異陽性例は31例(22%)、ALKおよびEGFRの双方が野生型であるWT/WT群は91例(65%)であった(Table 3)。重要な所見として、EML4-ALK陽性例とEGFR変異陽性例は完全に相互排他的であり、両方の変異を同時に有する重複症例は認められなかった。これは、EML4-ALK融合遺伝子とEGFR変異が完全に相互排他的な関係にあることを示す重要な臨床的証拠である。また、組織検体が十分であった症例においてKRAS変異の解析を行ったところ、WT/WT群では23例中6例(26%)にKRAS変異を認めたが、EML4-ALK陽性群(n=11)およびEGFR変異陽性群(n=10)においてはKRAS変異は一切検出されず、これらのドライバー遺伝子変異が相互に排他的な独立した分子サブセットを形成していることが示された(p=0.022)(Table 3)。

EML4-ALK陽性患者における若年および男性優位の臨床的特徴: EML4-ALK陽性群は、他の遺伝子型群と比較して極めて特徴的なデモグラフィックプロファイルを示した。年齢の解析において、EML4-ALK陽性群の診断時年齢中央値は52歳(範囲: 29-76歳)であり、EGFR変異陽性群の66歳(範囲: 36-90歳、p<0.001)およびWT/WT群の64歳(範囲: 29-87歳、p=0.005)と比較して有意に若年であった(Table 2)。この若年傾向は、ALK再構成を有する肺癌が比較的若い年齢層で発生しやすいという生物学的特徴を反映していると考えられる。さらに性別に関しては、本研究のスクリーニング基準として女性が優先的に選択されていたためコホート全体では女性が66%を占めていたにもかかわらず、EML4-ALK陽性群においては男性が58%(n=11/19)と過半数を占めており、EGFR変異陽性群の26%(n=8/31、p=0.036)およびWT/WT群の32%(n=29/91、p=0.039)と比較して有意に男性の割合が高かった(Table 2)。

喫煙歴および病理組織学的特徴における印環細胞型腺癌の優位性: 喫煙歴の評価において、EML4-ALK陽性群は19例中14例(74%)が非喫煙者、5例(26%)が軽喫煙者であり、10パック年を超える喫煙歴を有する患者(n=0)は存在しなかった(Table 2)。この非・軽喫煙者への強い集積は、EGFR変異陽性群(非・軽喫煙者が87%)と同様の傾向であり、WT/WT群(非・軽喫煙者が42%)と比較して極めて有意な偏りを示した(p<0.001)。病理組織学的には、EML4-ALK陽性例の95%(n=18/19)が腺癌であり、残り1例は adenosquamous(腺扁平上皮癌)であった。これは、EML4-ALK陽性肺癌がほぼ例外なく腺癌(adenocarcinoma)の組織型を呈することを示している。さらに詳細な形態学的特徴として、EML4-ALK陽性腺癌においては、腫瘍細胞の10%以上に印環細胞(signet ring cell)成分を伴う特徴的な組織像が高頻度に観察され(Fig 1)、これはEGFR変異陽性腺癌やWT/WT腺癌と比較して有意に高い頻度であった。

EGFR-TKI治療に対する完全な治療抵抗性: 転移性病変(Stage IV)を有し、EGFR-TKI(erlotinib または gefitinib)による単剤治療を受けた患者における治療効果を評価した。EML4-ALK陽性群(n=10)における奏効率(ORR)は0%(0/10例)であり、部分奏効(PR)以上の効果を示した症例は皆無であった(Table 4)。この結果は、EML4-ALK陽性肺癌がEGFR-TKIに対して本質的な初期治療抵抗性(primary resistance)を有することを強く示唆している。これに対し、EGFR変異陽性群(n=23)における奏効率は70%(16/23例)であり、EML4-ALK陽性群との間に極めて有意な差が認められた(p<0.001)(Table 4)。WT/WT群(n=23)における奏効率は13%(3/23例)であった(Table 4)。無増悪生存期間(TTP)の解析においても、EML4-ALK陽性群のTTP中央値は5.0ヶ月であり、EGFR変異陽性群のTTP中央値16.0ヶ月と比較して著しく短縮しており、ハザード比は HR 0.22 (95% CI 0.10-0.48, p=0.004) であった(Fig 2A)。WT/WT群のTTP中央値は6.0ヶ月であった(Fig 2A)。

プラチナ製剤併用化学療法に対する感受性と全生存期間の解析: 転移性病変に対してプラチナ製剤併用化学療法を受けた患者における治療効果を評価した。EML4-ALK陽性群(n=12)における奏効率は25%(3/12例)であり、WT/WT群(n=34)における奏効率35%(12/34例)と同等であった(p=0.723)(Table 4)。この結果は、EML4-ALK陽性群が通常のプラチナ製剤併用化学療法に対しては、野生型群と同等の治療感受性を維持していることを示している。プラチナ製剤併用化学療法におけるTTP中央値は、EML4-ALK陽性群で8.0ヶ月、WT/WT群で8.0ヶ月、EGFR変異陽性群で10.0ヶ月であり、3群間に有意差は認められなかった(Fig 2B)。また、全生存期間(OS)の解析において、EML4-ALK陽性群のOS中央値は20.0ヶ月であり、WT/WT群のOS中央値16.0ヶ月と比較して統計学的な有意差は検出されず、ハザード比は HR 0.71 (95% CI 0.41-1.23, p=0.152) であった(Fig 2C)。EGFR変異陽性群のOS中央値は32.0ヶ月であった(Fig 2C)。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、未選択 of NSCLC 患者を対象とした先行研究(Soda et al. Nature 2007)と異なり、臨床的特徴(女性、アジア人、非・軽喫煙者、腺癌)に基づいて選択されたスクリーニングコホートを用いることで、EML4-ALK陽性例の検出頻度が13%(非・軽喫煙者かつEGFR変異陰性例においては33%)にまで上昇することを示した。また、EGFR変異陽性群が女性優位であるのとは対照的に、EML4-ALK陽性群は男性優位(58%)であるという独自のデモグラフィック特徴を明らかにした。

新規性: 本研究で初めて、EML4-ALK陽性NSCLC患者がEGFR-TKI(erlotinib または gefitinib)に対して完全に治療抵抗性(奏効率0%)を示すことを臨床レベルで実証した。これは、EML4-ALK陽性肺癌細胞株を用いた基礎研究(Koivunen et al. ClinCancerRes 2008)の知見を臨床的に支持するものである。また、病理組織学的に印環細胞型腺癌と強い相関があることを新規に見出した。

臨床応用: 本知見は、非・軽喫煙者の腺癌患者に対する治療戦略の臨床応用に直結する。臨床的意義として、EGFR変異検査が陰性であった非・軽喫煙者の腺癌患者において、EML4-ALKのスクリーニングを優先的に行うべきであるという明確な指針を提供する。EGFR-TKIの安易な経験的投与(empiric therapy)を避け、当時開発中であったALK阻害薬(crizotinibなど)の臨床試験へ患者を迅速に誘導するための分子診断アルゴリズムの確立に貢献した。

残された課題: 今後の検討課題として、本研究が後方視的デザインであり、症例数(特に転移性EML4-ALK陽性例はn=15)が限定的であったため、生存解析における統計学的検出力が不十分であった点が挙げられる。また、本コホートの患者はALK阻害薬による治療を受けておらず、ALK阻害薬が使用可能となった現代における実際の生存期間(OS)や予後の改善効果については、今後の前向き臨床試験による検証が必要であるというlimitationが残されている。

方法

本研究は、マサチューセッツ総合病院(MGH)、ベス・イスラエル・ディーコネス医療センター(BIDMC)、およびピーター・マッカラムがんセンターの3施設において実施された後方視的コホート研究(retrospective cohort study)である。本解析は、関連するALK阻害薬の治験登録等を含む広範なデータベース(代表的な臨床試験登録番号としてPF-02341066のフェーズ1試験であるNCT00583414など)に関連する患者群を含んでいる。主要エンドポイント(primary endpoint)はスクリーニングコホートにおけるEML4-ALK融合遺伝子陽性例の同定頻度とし、副次エンドポイント(secondary endpoint)はEGFR-TKIおよびプラチナ製剤併用化学療法に対する治療反応性(奏効率、無増悪生存期間、全生存期間)の評価とした。本研究は後方視的解析であるため、事前のサンプルサイズ設計(sample size calculation)は行わず、特定の選択基準を満たす連続症例を対象とした。対象患者は、EGFR変異陽性例に多く見られる臨床的特徴(女性、アジア人、非・軽喫煙者、腺癌)のうち、2項目以上を満たす非小細胞肺癌(NSCLC)患者141例(n=141)である。

腫瘍組織におけるALK再構成の検出には、Vysis LSI (Locus Specific Identifier) ALK Dual Color, Break Apart Rearrangement Probe(Abbott Molecular社)を用いた蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)法を使用し、15%以上の腫瘍細胞でシグナルの分離(split signals)が認められた場合を陽性と判定した。すべてのFISH陽性例については、抗ALKマウスモノクローナル抗体(クローンALK1)を用いた免疫組織化学(IHC: immunohistochemistry)染色により、細胞質におけるALKタンパク質の発現を確認した。また、一部の症例ではRT-PCR (reverse transcriptase polymerase chain reaction) 法を用いて融合転写物の存在を確認した。EGFR変異(exon 18-21)およびKRAS変異(codon 12/13)の同定は、腫瘍DNAのダイレクトシーケンシング法により実施した。なお、本研究の背景および考察において、EML4-ALK陽性肺癌細胞株である H3122 を用いた既報の基礎研究データとの整合性を検証した。

臨床データの収集では、転移性病変(Stage IV)を有する患者を対象に、EGFR-TKI(erlotinib または gefitinib)およびプラチナ製剤併用化学療法の治療効果を評価した。腫瘍縮小効果の判定は、RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) 1.0基準に基づき、胸部放射線専門医による画像評価を行った。無増悪生存期間(TTP: time to progression)は治療開始日から画像上または臨床的な増悪が確認された日まで、全生存期間(OS)は転移性NSCLCの診断日から死亡日までと定義した。

統計解析には SAS 9.1 および StatXact 6.1 ソフトウェアを使用した。臨床病理学的特徴や治療奏効率の群間比較には、カテゴリー変数に対して Fisher’s exact テスト(フィッシャーの正確確率検定)を、連続変数に対して Wilcoxon rank sum テストを適用した。TTPおよびOSの生存曲線は Kaplan-Meier 法を用いて推定し、群間比較には log-rank テスト(ログランク検定)を用いた。生存期間のハザード比(HR)の算出には Cox proportional hazards model(コックス比例ハザードモデル)を用いた。すべての統計学的検定は両側検定とし、p<0.05を統計学的有意差の基準とした。