• 著者: Frederick H. Wilson, Cory M. Johannessen, Levi A. Garraway, et al.
  • Corresponding author: Levi A. Garraway (Dana-Farber Cancer Institute / Broad Institute)
  • 雑誌: Cancer Cell
  • 発行年: 2015
  • Epub日: 2015-03-09
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 25759024

背景

ALK(anaplastic lymphoma kinase)再構成陽性の非小細胞肺がん(NSCLC)は、crizotinib(クリゾチニブ)や第2世代ALK阻害薬であるceritinib(セリチニブ)などのALKチロシンキナーゼ阻害薬(ALK-TKI)に対して劇的な初期治療反応を示す。しかし、治療開始後およそ1年以内にほぼすべての症例で獲得耐性が発現し、臨床上の大きな障壁となっている。これまでの先行研究により、耐性機序としてALKキナーゼドメインの二次変異や、EGFR(epidermal growth factor receptor)やc-KITなどのバイパスシグナル経路の活性化が報告されている。例えば、Katayama et al. SciTranslMed 2012Doebele et al. ClinCancerRes 2012 では、crizotinib耐性腫瘍の最大半数において既知の耐性機序が同定されず、詳細な分子メカニズムは未解明な部分が多いと指摘されていた。また、Choi et al. NEnglJMed 2010 はEML4-ALK融合遺伝子の二次変異が耐性に関与することを示したが、これらの変異がすべてのALK阻害薬に共通して耐性を付与するわけではない。このように、既知の耐性機序以外の新規シグナル経路の発見と、ALK耐性およびEGFR耐性間の交差性の解明は、効果的な治療戦略を策定する上で重要な課題として残されている。特に、ゲノムワイドな規模での機能的スクリーニングによる耐性因子の包括的同定はこれまで体系的に行われておらず、耐性克服に向けた新規治療標的や併用療法の開発に必要な情報が圧倒的に不足していた。この知識ギャップを埋めるため、網羅的かつ機能的なゲノムスクリーニングの実施が強く求められていた。

目的

本研究の目的は、大規模機能ゲノミクススクリーニングを用いて、ALK依存性肺がん細胞におけるALK阻害薬耐性を引き起こす遺伝子群を網羅的に同定し、その機能的景観を解明することである。特に、CCSB-Broad(Center for Cancer Systems Biology-Broad)が開発したオープンリーディングフレーム(ORF)ライブラリを活用し、新規の耐性ドライバーを同定することを目指した。さらに、同定された候補因子のうち、G蛋白質共役受容体であるP2Yプリン受容体ファミリー(P2Y1, P2Y2, P2Y6)および下流のPKC(protein kinase C)シグナル経路の役割を詳細に検証し、ALK阻害薬耐性における新規シグナル軸としての妥当性を明らかにすることを目的とした。また、これらの前臨床的知見が臨床的なALK阻害薬耐性患者の腫瘍組織においても関連しているかを検証し、ALK阻害薬耐性を克服するための新たな複合治療戦略を提示することを目指した。

結果

大規模ORFスクリーニングによる54種の耐性遺伝子の同定: CCSB-Broad(Center for Cancer Systems Biology-Broad)のORFライブラリを用いたH3122細胞でのスクリーニングにより、crizotinibまたはTAE684に対して生存率Zスコアが3 SD以上の値を示す75種の候補ORFを同定した。このうち、7点用量反応曲線を用いたバリデーションにより、61種のORF(54遺伝子)が検証済みの耐性ドライバーとして確定された(Figure 2A)。陽性対照として用いたL1152R変異型EML4-ALKは、crizotinibに対して約100-foldのGI50(50% growth inhibitory concentration)値の上昇を示し、スクリーニング系の妥当性が証明された(Figure 1B)。同定された54遺伝子には、AXLなどのチロシンキナーゼ、MAP3K8(COT)やRAF1などのセリン/スレオニンキナーゼ、CRKLやGAB1などのシグナル伝達アダプタータンパク質のほか、5種の上皮成長因子(EGF)関連ペプチドを含む増殖因子が多数含まれていた(Figure 2B, S2)。本スクリーニングでは、実験精度を担保するためn=2 replicates以上の独立したアッセイを繰り返した。

MEK/ERKおよびPI3Kシグナル経路の再活性化: 同定された54の耐性ORFのうち、約52%(28/54)がTAE684存在下においてERKおよび/またはAKTの持続的なリン酸化を引き起こし、MEK/ERKおよびPI3Kシグナルの再活性化を介して耐性を付与することがウェスタンブロット解析により示された(Figure 3)。具体的には、AKTのリン酸化レベルがコントロールと比較して平均で2.5 SD以上増加したORFが14個、ERKのリン酸化が2.5 SD以上増加したORFが14個、両方の経路を同時に再活性化したORFは14個であった(Figure 3C)。一方で、残りの約48%のORFはこれらの経路に最小限の影響しか与えず、MEK/ERKやPI3K経路をバイパスする代替の耐性メカニズムの存在が示唆された。

ALK耐性とEGFR耐性機序における70%の交差性: H3122細胞で同定された54の耐性遺伝子のうち、38/54(70%)がEGFR変異陽性肺がん細胞株(HCC827、HCC4006、PC-9)においてもerlotinibに対する交差耐性を示した(Figure 4)。この高い重複率は、異なる受容体チロシンキナーゼ(RTK)を標的とした治療において、耐性に関与するシグナル経路の収束点が存在することを示している。一方で、第2のALK陽性細胞株であるMGH006において耐性を誘導した遺伝子は23/54にとどまり、耐性表現型の発現における細胞コンテキスト依存性も示された(Figure 4)。

P2Y受容体ファミリーによる新規耐性軸の同定: G蛋白質共役受容体(GPCR)であるP2Yプリン受容体ファミリー(P2Y1, P2Y2, P2Y6)が、ALK阻害薬耐性を引き起こす新規因子として同定された。これらのP2Y受容体は、crizotinibおよびceritinibの両方に対して耐性を付与した(Figure 6A, 6B)。P2Y1、P2Y2、P2Y6はGqタンパク質に結合し、ホスホリパーゼC(PLC)を介してPKCを活性化する。実際に、H3122細胞においてP2Y1またはP2Y2を過剰発現させると、活性化型であるリン酸化PKCδ(protein kinase C delta)のレベルが顕著に増加した(Figure 6C)。P2Y1過剰発現細胞では、crizotinib存在下でLac Zコントロールと比較して約3-foldのコロニー形成率の上昇を示した(Figure 6B)。

PKC依存的耐性機序とsotrastaurinによる耐性克服: PKC活性化薬であるPMA(1 uM)の添加は、ceritinibのGI50値をH3122細胞において約10-fold増大させ、MGH006細胞でも同様に強力な耐性を誘導した(Figure 6D)。このPMA誘導耐性は、汎PKC阻害薬であるsotrastaurin(0.3 uM)の併用によって完全に逆転された(Figure 6D, 6G)。さらに、ceritinibとsotrastaurinの併用は、P2Y受容体(P2Y1, P2Y2, P2Y6)を過剰発現させた細胞における耐性を有意に克服し、ALKとPKCの複合阻害戦略の有効性が示された(Figure 6H)。P2Y1過剰発現細胞では、ceritinib単独で約3-foldの相対増殖率を示したが、sotrastaurinの併用により増殖が完全に抑制された(Figure 6H)。本検証ではn=3 replicatesのウェスタンブロット解析によりPKCδ活性化を確認した。

臨床検体におけるP2Y受容体発現上昇と遺伝子シグネチャの濃縮: crizotinib耐性を示したALK陽性肺がん患者の腫瘍組織(n=8 patients)を用いたRNA-seq解析において、未治療腫瘍(n=5 patients)と比較してP2RY6(p=0.021)およびP2RY2(p=0.033)の遺伝子発現が有意に増加していることが確認された(Figure 7D, 7E)。また、単一サンプル遺伝子セット濃縮解析(ssGSEA)の結果、crizotinib耐性腫瘍においてEGFR、HER2、RAF1、およびP2Y遺伝子シグネチャが有意に濃縮されていることが示された(Figure 7B)。P2Yシグネチャの正規化濃縮スコア(NES)は1.8であり、FWER(family-wise error rate)p値は0.001であった(Figure 7C)。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、これまでの個別耐性変異の同定を目的としたアプローチと異なり、ゲノムワイドな規模での機能的ゲノムスクリーニングという網羅的手法を用いて、ALK阻害薬耐性の「機能的景観」を初めて体系的に明らかにした。Katayama et al. SciTranslMed 2012Doebele et al. ClinCancerRes 2012 が指摘した「耐性機序不明の症例」に対し、本研究は54の耐性因子を同定し、その中には既知のMEK/ERKおよびPI3K経路の再活性化を介するものだけでなく、新規のP2Yプリン受容体/PKC経路も含まれることを示した点で、これまでの個別アプローチとは明確に異なる。

新規性: 本研究で初めて、P2Yプリン受容体ファミリー(P2Y1, P2Y2, P2Y6)がALK阻害薬耐性を誘導する新規のドライバーとして同定された。P2Y受容体がGqタンパク質を介してPKCを活性化し、これがMEK/ERKやPI3K経路をバイパスして耐性を維持するという詳細なシグナル伝達軸は、これまで報告されていない知見である。

臨床応用: ALK阻害薬とEGFR阻害薬に対する耐性機序の70%という高い重複率は、これら2つの標的治療が多くの共通耐性経路を持つことを示唆しており、治療ラインを横断する共通の耐性克服戦略の設計を支持する。この知見は、臨床応用において、ALK阻害薬治療中の患者にEGFR阻害薬の追加を検討する際の科学的根拠を提供する可能性がある。特に、P2Y/PKC経路は、現在臨床試験中のPKC阻害薬sotrastaurinの投与根拠となりうる。セリチニブとsotrastaurinの併用がP2Y受容体過剰発現細胞の耐性を克服したことは、ALKとPKCのデュアル阻害戦略が臨床現場で有効である可能性を示唆する。

残された課題: 今後の検討課題として、本研究で識別された耐性遺伝子の臨床検体における系統的な検証、特にP2Yおよび/またはPKC活性化の臨床的耐性における頻度と役割のさらなる評価が必要である。また、ALK+PKCデュアル阻害の臨床試験での有効性確認が今後の課題である。さらに、Gerlinger et al. NEnglJMed 2012 が報告したような腫瘍内不均一性(複数耐性機序の同時存在)に対する治療戦略の開発も今後の研究方向性として重要である。

方法

ALK阻害薬耐性ドライバー遺伝子を網羅的に同定するため、CCSB-Broad(Center for Cancer Systems Biology-Broad)Lentiviral Expression Libraryに含まれる15,885種のORF(12,800遺伝子)を、ALK依存性肺がん細胞株であるH3122(EML4-ALK融合遺伝子陽性)に個別に形質導入した。形質導入された細胞は、crizotinib(1.0 uM)および第2世代ALK阻害薬TAE684(30 nM)の存在下で5日間処理され、Cell Titer-Gloアッセイを用いて細胞生存率を評価した。耐性を示すORFは、薬剤存在下での細胞生存率のZスコアが平均より3 SD以上高いものとして選択された。初期スクリーニングで同定された候補ORF(75 ORF、67遺伝子)については、7点用量反応曲線を作成し、AUC(area under the curve)のZスコアが対照群の平均より2.5 SD以上高いものを検証済みの耐性ドライバーとして確定した。

検証された耐性遺伝子については、TAE684処理後のERKおよびAKTのリン酸化レベルをウェスタンブロットで評価することにより、MEK/ERKおよびPI3K経路の再活性化能を解析した。さらに、同定された耐性遺伝子が他のALK再構成陽性肺がん細胞株MGH006や、EGFR変異陽性肺がん細胞株であるHCC827、HCC4006、PC-9においても、ALK阻害薬またはEGFR阻害薬であるerlotinibに対する耐性を付与するかどうかを評価し、耐性機序の交差性を検討した。

P2Y受容体ファミリーの役割を詳細に解析するため、P2Y1、P2Y2、P2Y6を過剰発現させたH3122細胞を用いて、crizotinibおよびceritinibに対するコロニー形成アッセイを実施した。P2Y受容体による耐性機序としてPKCシグナルの関与を検証するため、P2Y受容体過剰発現細胞におけるPKCδ(protein kinase C delta)の活性化レベルをウェスタンブロットで評価した。また、PKC活性化薬であるPMA(phorbol 12-myristate 13-acetate)を用いてPKC活性化単独でのALK阻害薬耐性誘導能を評価し、汎PKC阻害薬であるsotrastaurin(ソトラスタウリン)がP2Y受容体誘導耐性を克服するかどうかを検討した。

臨床的関連性を評価するため、crizotinib耐性を示したALK再構成陽性肺がん患者の腫瘍組織(n=8 patients)と未治療のALK再構成陽性腫瘍組織(n=5 patients)からRNAを抽出し、RNAシーケンス(RNA-seq)を実施した。得られた遺伝子発現プロファイルを用いて、単一サンプル遺伝子セット濃縮解析(ssGSEA)により、既知の癌遺伝子シグネチャおよび本研究で作成したP2Yシグネチャの濃縮を解析した。統計解析には Mann-Whitney 検定を用いた。