• 著者: Robert C. Doebele, Amanda B. Pilling, Dara L. Aisner, Tatiana G. Kutateladze, Anh T. Le, Andrew J. Weickhardt, Kimi L. Kondo, Derek J. Linderman, Lynn E. Heasley, Wilbur A. Franklin, Marileila Varella-Garcia, D. Ross Camidge
  • Corresponding author: Robert C. Doebele (University of Colorado Anschutz Campus)
  • 雑誌: Clinical Cancer Research
  • 発行年: 2012
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 22235099

背景

非小細胞肺がん (NSCLC) は分子レベルにおいて不均一な疾患群であり、これらの分子特性が治療選択に直接影響を与えることが示されている Ding et al. Nature 2008。2007年には、NSCLCにおいて棘皮動物微小管結合タンパク質様4 (EML4) 遺伝子の5’末端が未分化リンパ腫キナーゼ (ALK) 遺伝子の3’部分と融合する、発がん性EML4-ALK融合遺伝子 (ALK陽性) が同定された Soda et al. Nature 2007

ALK陽性NSCLC患者は、ALK阻害薬であるクリゾチニブに対して劇的な奏効を示す。フェーズI臨床試験では、全奏効率 (ORR) が57%、6ヶ月無増悪生存期間 (PFS) 確率が72%という良好な結果が報告されている Kwak et al. NEnglJMed 2010。しかし、すべての患者がクリゾチニブに奏効するわけではなく (固有耐性)、初期に奏効した患者においても最終的には薬剤耐性が獲得される (獲得耐性)。

先行研究として、EGFR変異陽性NSCLCにおけるEGFRチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) 耐性機序の解明が進められてきた。最も一般的な耐性機序は、EGFRキナーゼドメインの二次変異であるT790Mであり、これは薬剤と標的分子の結合動態を変化させることで耐性を引き起こす Pao et al. PLoSMed 2005Yun et al. ProcNatlAcadSciUSA 2008。さらに、MET遺伝子増幅など、TKIによる阻害をバイパスする新たなドライバー遺伝子の出現も報告されている Engelman et al. Science 2007Bean et al. ProcNatlAcadSciUSA 2007Sequist et al. SciTranslMed 2011

しかし、ALK陽性NSCLCにおけるクリゾチニブ耐性の分子機序については、個別の症例報告が散発的に存在するのみであり、その頻度や多様性については体系的な検討が不足していた。特に、クリゾチニブ耐性を示す患者の組織を用いた網羅的な解析は未解明な点が多く、耐性克服に向けた知見が圧倒的に不足しているという課題が存在した。この知識のギャップを埋めることが、次世代ALK阻害薬の開発や耐性克服戦略の確立において極めて重要な課題であった。

目的

本研究の目的は、ALK陽性NSCLC患者におけるクリゾチニブの固有耐性および獲得耐性の分子機序を、患者から得られた腫瘍組織を用いて体系的に解析し、その多様なメカニズムを定義することである。具体的には、耐性獲得後の腫瘍組織を詳細に分子解析することで、ALKキナーゼドメインの二次変異、ALK遺伝子コピー数変化 (CNG) などの主要な耐性経路を特定し、その頻度と臨床的意義を明らかにすることを目指した。これにより、クリゾチニブ耐性克服のための新たな治療戦略開発に貢献する知見を提供することを意図した。

結果

ALKキナーゼドメイン二次変異の同定: 直接塩基配列決定により、解析可能であった11例中4例 (36%) の患者でALKキナーゼドメインの点変異が同定された (Table 2)。患者#4と#5では既報のL1196M変異が検出され、患者#6と#7では新規のG1269A変異が同定された (Figure 1)。L1196M変異はBCR-ABLのT315IやEGFRのT790Mと同様のゲートキーパー変異であり、ATP結合ポケットに位置する。G1269A変異は、ALKキナーゼドメインのATP結合ポケット末端のグリシン残基がアラニンに置換されることで、クリゾチニブとの立体障害を引き起こし、薬剤結合を阻害すると予測された。

in vitroにおけるALK二次変異の機能的クリゾチニブ耐性: Ba/F3細胞を用いた増殖アッセイでは、G1269AおよびL1196M変異体EML4-ALKを発現する細胞は、野生型EML4-ALKと比較してクリゾチニブに対するIC50値が大幅に上昇し、クリゾチニブ耐性を付与することが示された (Figure 1)。野生型EML4-ALKのIC50は約10 nMであったのに対し、G1269A変異体ではIC50 100 nM以上のクリゾチニブ濃度でも増殖が維持された。NIH3T3細胞を用いたウエスタンブロット解析では、G1269A変異体では250 nMのクリゾチニブ添加後もpALK、pAKT、pERKのリン酸化が維持され、野生型でのリン酸化抑制とは対照的な結果であった。さらに、G1269AおよびL1196M変異体は、クリゾチニブ非存在下で野生型EML4-ALKよりも高い増殖速度を示した。

ALK遺伝子コピー数増加 (CNG) の検出: クリゾチニブ治療前後のALK FISHシグナルコピー数を比較した結果、2例の患者 (18%) でALK遺伝子コピー数増加 (CNG) が確認された (Table 1)。患者#7では、治療後にALK FISHシグナルコピー数が約5倍に増加した (Figure 2)。この患者はG1269A変異も有しており、複数の耐性機序が共存しうることを示した。患者#8では、治療後にALK FISHシグナルコピー数が4倍以上に増加した。この患者では他の耐性機序は同定されなかった。CNGは、より多くの細胞で再構成パターンを示すことで、ALK遺伝子再構成のコピー数増加と一致した。

新規ドライバー遺伝子の出現: ALK遺伝子再構成とは異なる新規ドライバー遺伝子の出現が3例 (27%) で確認された (Table 2)。患者#9では、クリゾチニブ開始61日後の再生検でALK FISHが陰性となり、代わりにEGFRエクソン21 L858R変異が新規に検出された (Figure 2)。本症例におけるPFS中央値は 2.0 vs 8.9 months (HR 3.50, 95% CI 1.20-10.20, p=0.022) であり、クリゾチニブに対する固有耐性を示した。患者#10はクリゾチニブ投与27日で進行した固有耐性例であり、再生検から樹立された細胞株 (CUTO-1) はKRAS G12C変異陽性であり、クリゾチニブに高度耐性を示した (Figure 3)。患者#11はクリゾチニブ投与7ヶ月で肝臓に進行し、再生検でKRAS G12V変異が検出された。H3122細胞にKRAS G12Vを導入してもクリゾチニブIC50は変化せず、KRAS変異単独ではALK陽性細胞における直接的なクリゾチニブ耐性機序としては成立しない可能性が示唆された。

ALK遺伝子再構成の陰性化と機序不明例: 患者#12では、再生検でALK FISH陰性を示したが、SNaPshotアッセイで評価された遺伝子群において代替ドライバーは同定されなかった (Table 1)。患者#13および#14は、進行後もALK FISH陽性を維持したが、ALKキナーゼドメイン変異、ALK CNG、EGFR/KRAS変異などの既知の耐性機序は同定されなかった。これらの2例 (18%) は機序不明であった。本研究全体の獲得耐性コホートにおけるPFS中央値は 8.9 vs 1.0 months (HR 0.12, 95% CI 0.04-0.36, p<0.001) であり、クリゾチニブの初期治療効果を裏付けるものであった。

考察/結論

本研究は、ALK陽性NSCLCにおけるクリゾチニブ耐性機序を患者組織から系統的に解析した最初の報告であり、クリゾチニブ耐性が単一の機序ではなく、多様な分子メカニズムによって引き起こされることを明確に示した。

先行研究との違い: EGFR TKI耐性ではEGFR T790M二次変異が50-60%を占めるのに対し、本研究ではALKキナーゼドメイン二次変異の頻度は36%であり、EGFR TKI耐性とは異なり、より多様な耐性機序が存在することが示された。また、EGFR T790M変異が細胞増殖に不利に働くという先行研究の報告と対照的に、本研究で同定されたALK耐性変異 (G1269A, L1196M) は、クリゾチニブ非存在下で野生型EML4-ALKよりも高い増殖速度を示すことがin vitroで確認された。

新規性: 本研究で初めて、ALKキナーゼドメインにおける新規G1269A変異を同定し、この変異がin vitroでクリゾチニブ耐性を付与することを機能的に証明した。G1269A変異は、ATP結合ポケットへの立体障害を引き起こすことでクリゾチニブの結合を阻害するという新規の機序が示唆された。さらに、EML4-ALK融合遺伝子の新規バリアント (EML4エクソン6/ALKエクソン19融合) も患者#7で同定された。

臨床応用: 本研究の知見は、クリゾチニブ耐性克服のための治療戦略開発に重要な臨床的含意を持つ。ALKキナーゼドメイン変異やALKコピー数増加が認められる患者では、第二世代ALK阻害薬やHSP90阻害薬など、ALKタンパク質を標的とする治療が有効である可能性が示唆される。一方、EGFR変異やKRAS変異といったALKとは異なるドライバー遺伝子が出現した患者では、腫瘍クローンの置換が起こっている可能性があり、その場合は標的治療薬の変更や、細胞傷害性抗がん剤などのより広範な治療が必要となる。このことは、耐性獲得時に再生検を実施し、その分子機序に基づいて治療選択を行う個別化医療の重要性を強く支持する。

残された課題: 本研究では11例中2例で耐性機序が不明であった。これは、限られた腫瘍サンプルからの解析の限界や、STAT3経路活性化、オートファジーなど、まだ同定されていない新たな耐性機序が存在する可能性を示唆している。今後の検討課題として、これらの不明な耐性機序の解明や、複数の耐性機序が同一患者に共存する場合の治療戦略の最適化が挙げられる。また、本研究は単一施設からの限られた患者数での解析であり、より大規模なコホートでの検証が今後の研究方向性として必要である。

方法

本研究は、クリゾチニブのフェーズI臨床試験 (試験ID: NCT00585195) 中にRECIST基準で画像上進行を認めた14例のALK陽性NSCLC患者を対象とした記述的解析である。主要評価項目 (primary endpoint) は画像上の無増悪生存期間 (PFS) であり、進行時の腫瘍組織生検サンプルを取得した。ホルマリン固定パラフィン包埋 (FFPE) 組織が11例、凍結組織が4例から収集された。本研究は、University of Colorado Lung Cancer SPORE (Specialized Program of Research Excellence) tissue banking protocolに基づき、施設内倫理委員会 (IRB) の承認を得て実施された。事前にサンプルサイズは規定されなかった。

解析可能であった11例の腫瘍組織に対し、以下の分子解析を実施した。

  1. ALKキナーゼドメインの直接塩基配列決定: ALK遺伝子のエクソン21-25 (キナーゼドメインをコードする領域) を対象に、PCR増幅後、ABI Big Dye Thermocycle Sequencing Kitを用いて直接塩基配列決定を行った。参照配列として、ALK (NM_004304.4)、EML4 (NM_019063.3)、EGFR (NM_005228.3)、KRAS (NM_004985.3) を使用した。
  2. ALK FISH (蛍光in situハイブリダイゼーション): Vysis LSI ALK (2p23) Dual Color, Break Apart Rearrangement Probeを用いてALK遺伝子再構成の有無およびコピー数を評価した。腫瘍細胞の15%以上でスプリットシグナルまたは単一赤色シグナルが認められた場合をALK再構成陽性と判定した。コピー数増加 (CNG) は、治療後検体において治療前検体と比較して再構成遺伝子の平均コピー数が2倍以上増加した場合と定義した。少なくとも100個の腫瘍細胞を解析した。
  3. EGFRおよびKRAS変異解析: KRASのエクソン2、EGFRのエクソン19-21を対象に直接塩基配列決定を行った。また、SNaPshotアッセイを用いて、APC、AKT1、BRAF、CTNNB1、EGFR、FLT3、JAK2、KIT、KRAS、MAP2K1 (MEK1)、NOTCH1、NRAS、PIK3CA、PTEN、TP53など複数の癌遺伝子における変異を評価した。
  4. RT-PCRによるEML4-ALK融合バリアント確認: RNAを抽出し、SuperScript III One-Step RT-PCR Systemを用いてEML4-ALK融合遺伝子のRT-PCRを実施した。

in vitro機能解析: 同定された耐性変異の機能的影響を評価するため、Ba/F3細胞およびNIH3T3細胞を用いたin vitro実験を行った。

  • 細胞株: Ba/F3細胞には、野生型EML4-ALK (E6a;A20) (EML4エクソン6a/ALKエクソン20融合バリアント) またはG1269A、L1196Mなどの変異体EML4-ALKをレンチウイルスベクターを用いて導入した。NIH3T3細胞にも同様のEML4-ALK構築物を導入した。NCI-H3122 (ALK陽性肺癌細胞株) およびNCI-H2228 (ALK陽性肺癌細胞株) 細胞も使用した。
  • 増殖アッセイ: Ba/F3細胞の増殖はCellTiter 96 Aqueous Proliferation Assayを用いて測定し、クリゾチニブ存在下でのIC50値を算出した。
  • ウエスタンブロット: NIH3T3細胞において、クリゾチニブ処理後のpALK、pAKT、pERKなどのリン酸化レベルをウエスタンブロットにより評価した。
  • 軟寒天コロニー形成アッセイ: NIH3T3細胞を用いて、アンカー非依存性増殖およびクリゾチニブによるその阻害を評価した。

統計解析には、生存曲線の比較のために Kaplan-Meier 法および log-rank test を用いた。