• 著者: Caroline E. McCoach, Anh T. Le, Katherine Gowan, et al.
  • Corresponding author: Caroline E. McCoach (UCSF Helen Diller Comprehensive Cancer Center)
  • 雑誌: Clinical Cancer Research
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2018-04-10
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 29636358

背景

非小細胞肺癌 (NSCLC) におけるROS1およびALK遺伝子融合は、それぞれROS1チロシンキナーゼ阻害剤 (TKI) およびALK TKIに対する劇的な奏効を可能にし、患者の予後を大幅に改善した。クリゾチニブは、ALK陽性NSCLCに対してFDA承認された初のTKIであり、ROS1陽性NSCLCに対しては唯一のFDA承認TKIである。ALK陽性患者におけるクリゾチニブの無増悪生存期間 (PFS) は9.7ヶ月、ROS1陽性患者では19.2ヶ月と報告されている Shaw et al. NEnglJMed 2014。しかし、これらのTKI治療を受けた患者は最終的に薬剤耐性を獲得し、疾患が進行することが知られている Katayama et al. SciTranslMed 2012

これまでの研究により、ALK陽性NSCLCにおけるクリゾチニブ耐性機序として、キナーゼドメイン変異 (KDM)、遺伝子コピー数増加 (CNG)、および他の癌遺伝子変異によるバイパスシグナル経路の活性化が報告されている Gainor et al. CancerDiscov 2016。次世代ALK TKIに対する耐性機序も報告されているが、多くのALK陽性腫瘍では明確な耐性機序が同定されていない状況である Gainor et al. CancerDiscov 2016。一方で、ROS1陽性NSCLC患者におけるクリゾチニブおよびその他のROS1 TKI治療後の耐性機序については、ほとんど未解明な点が残されている。特異的な耐性機序の同定は、その後の薬剤選択や併用療法戦略に影響を与える可能性があるため、ROS1陽性およびALK陽性NSCLCにおける多様な耐性機序のタイプと頻度に関するデータはますます重要になると考えられる。特に、KDM以外のバイパスシグナル経路の全体像を包括的に捉えるための知識が不足している。

目的

本研究の目的は、ROS1陽性およびALK陽性NSCLC患者において、ROS1/ALK標的療法後に進行した症例を対象に、TKI耐性機序を包括的に解析することである。特に、異なる種類および/または治療ラインのROS1/ALK標的療法後に進行した患者群における潜在的な耐性機序を特定し、キナーゼドメイン変異 (KDM) に加えて、バイパスシグナル経路の活性化を含む多様な遺伝子変化の全体像を明らかにすることを目指した。

結果

患者背景と治療歴: ROS1陽性患者12例およびALK陽性患者43例が、ROS1またはALK TKI治療後の疾患進行時に生検を受けた。ROS1陽性患者の25% (n=3) およびALK陽性患者の42% (n=18) が、本研究で評価された生検前に複数のROS1/ALK標的療法を受けていた。全患者が初回TKI療法としてクリゾチニブを投与されており、ROS1陽性患者のクリゾチニブ治療期間中央値は187日 (範囲 106-533日)、ALK陽性患者は206日 (範囲 28-1,035日) であった (Table 1, 2)。

ROS1融合パートナーとキナーゼドメイン変異 (KDM): 次世代シーケンス (NGS) 解析を行ったROS1陽性患者10例中8例で融合パートナーが同定された (Fig 1A)。既報の融合パートナーが確認された。ROS1陽性患者のキナーゼドメイン変異 (KDM) は非常に稀であり、12例中1例 (8%) のみで同定された。この患者では、クリゾチニブ治療後約17ヶ月で進行し、L2026M (バリアントアレル頻度 (VAF) 19%) とL1951R (VAF 9%) の二つのROS1 KDMが検出された (Fig 2A)。これらの変異はin transで存在することが確認された。患者由来の細胞株 (CUTO16) を用いたin vitro試験では、クリゾチニブおよびセリチニブによるROS1活性化および下流シグナル (SHP2, ERK1/2) の部分的な阻害が認められた (Fig 2B)。この患者はセリチニブ治療を受けたが、3ヶ月で進行し化学療法へ移行した (Fig 2C)。

ALK融合パートナーとキナーゼドメイン変異 (KDM): ALK陽性患者において、同定された全てのALK融合パートナーはEML4であった。最も一般的なバリアントはE13;A20 (41%) およびE6;A20 (31%) であった (Fig 1B)。ALK陽性患者のKDMはROS1陽性患者よりも頻繁に認められ、43例中15例 (35%) で検出された。初回クリゾチニブ治療後の28例中8例 (25%) でKDMが認められ、L1196Mが最も多かった (n=3) (Fig 3B)。複数のALK TKI治療を受けた21例中9例 (45%) でKDMが検出された (Fig 3C)。患者17はクリゾチニブ、セリチニブ、クリゾチニブ再投与後の3回の生検でF1174C変異を維持していた。患者29はクリゾチニブ後E1210K変異、ブリガチニブ後にはE1210KとS1206Cの複合変異 (in cis) が検出された (Supplementary Fig S3B)。

FISHによるコピー数増加 (CNG): ROS1陽性患者2例の比較FISH解析ではROS1遺伝子コピー数増加 (CNG) は認められなかった。一方、ALK陽性患者28例の比較FISH解析では、6例 (21%) でALK融合遺伝子のCNGが同定された (Table 3)。これらの患者では、細胞あたりの再配列コピー数とALK再配列陽性細胞の両方が増加していた。CNGが認められた患者のうち、患者7はKDM (G1269A, VAF 29%) も有しており、患者31はEGFR exon 19欠失変異を有していた。

ROS1およびALK非依存性の耐性機序: ROS1陽性患者12例中、KIT (D816G) 変異およびβ-カテニン (CTNNB1 S45F) 変異がそれぞれ1例で同定された。また、ROS1-8患者由来の細胞株CUTO23では、HER2経路の活性化がROS1 TKI耐性に関与していることが示唆された。クリゾチニブはpERK1/2を阻害せず、SHP2のみを阻害した (Fig 2E)。汎HER阻害剤アファチニブの追加により、クリゾチニブ感受性が部分的に回復し、AKTおよびERK1/2シグナルが阻害された (Fig 2D, E)。

ALK陽性患者43例中、13の新規癌遺伝子変異または融合遺伝子が同定された。患者ALK-22では、アレクチニブ治療後にRALGAPA1-NRG1融合遺伝子が検出された (Supplementary Fig S4A, S4B)。この融合遺伝子をH3122細胞株に導入すると、クリゾチニブに対する顕著な耐性が誘導され、アファチニブにより感受性が回復した (Fig 4A)。ウェスタンブロット解析では、pHER3 (ERBB3) の増加と、クリゾチニブ存在下でのpAKTおよびpERK1/2の持続的な活性化が示された (Fig 4B)。このRALGAPA1-NRG1融合は、患者のクリゾチニブ治療前の検体にも存在しており、内因性耐性機序である可能性が示唆された。

患者ALK-44_2では、ブリガチニブ治療後にCCDC6-RET融合遺伝子が新規に検出された。また、EGFR変異 (L858R、exon 19欠失) が2例、KRAS変異 (G12C、G12V、G13D) が3例で認められた。KRAS G12C変異はクリゾチニブ治療前の検体にも存在し、一次耐性に関与していた。その他、IDH1 (R132C) 変異、NF1 (Q642X) 変異、新規のRIT1 (K139N) 変異、NOTCH1変異 (D1533、D1538) がそれぞれ異なる患者で同定された。

コピー数変異 (CNV): NGSデータを用いたコピー数変異 (CNV) 解析により、ROS1陽性患者3例 (ROS1-1: SRC, ERBB2, STK11, NOTCH1; ROS1-9: PDGFRA, KIT, KDR; ROS1-11: FGFR3, RET, ERBB2) およびALK陽性患者数例 (KRAS, EGFR, FGFR1, GNAS, DDR2, HRAS, NTRK1, RIT1) で癌関連遺伝子のCNV増加が認められた (Fig 5)。ROS1-9およびALK-33サンプルでは、肺癌で頻繁に増幅される4q12染色体領域の遺伝子CNVが認められた。

考察/結論

本研究は、ROS1陽性12例およびALK陽性43例のNSCLC患者を対象に、TKI耐性機序を包括的に解析した。

先行研究との違い: これまでの研究ではALK陽性NSCLCにおけるKDMの頻度が高いことが報告されてきたが、本研究ではROS1陽性患者におけるKDMの頻度が非常に低い (8%) ことが示された点で、先行研究と異なる。また、KDMに加えて多様なバイパスシグナル経路の活性化が耐性機序として重要であることを示した点は、KDMに焦点を当てた従来の解析が耐性機序の全体像を見逃す可能性を指摘しており、これまでの報告とは対照的である。

新規性: 本研究で初めて、ALK陽性NSCLC患者においてRALGAPA1-NRG1融合遺伝子を新規に同定し、これがHER3を介したバイパスシグナルによりALK TKI耐性を誘導することを機能的に示した。また、ROS1陽性患者でL2026MおよびL1951Rという既報の変異がin transで共存するKDMを患者検体で初めて報告した。さらに、ALK陽性患者におけるCCDC6-RET融合遺伝子の新規獲得も確認され、これはこれまで報告されていない耐性機序である。

臨床応用: 本研究の知見は、ROS1陽性およびALK陽性NSCLC患者のTKI耐性克服に向けた臨床応用において重要な含意を持つ。KDMに限定されない広範な遺伝子検査戦略の必要性が示唆され、特にNGSによるバイパス経路関連遺伝子の変異やCNVの検出が、新たな治療戦略の策定に役立つ可能性がある。HER2/HER3経路の活性化がROS1およびALK TKI耐性に関与する複数のケースで確認されたことから、汎HER阻害剤やSHP2阻害剤などの併用療法が臨床現場で有効な選択肢となる可能性を示唆する。

残された課題: 本研究はレトロスペクティブな解析であり、一部のケースでは治療前後の比較可能な組織サンプルが不足していた点がlimitationとして挙げられる。これにより、耐性機序が治療中に新規に獲得されたものか、あるいは既存のクローンが選択されたものかを明確に区別できない場合があった。今後の検討課題として、各治療ライン前後での包括的な遺伝子およびタンパク質解析を伴うプロスペクティブな研究デザインが必要である。また、同定されたバイパスシグナル経路の機能的検証をin vitroおよびin vivoモデルでさらに深掘りし、最適な併用療法を特定することが今後の研究方向性となる。

方法

本研究は、ROS1陽性NSCLC患者12例およびALK陽性NSCLC患者43例を対象としたレトロスペクティブコホート研究である。ROS1またはALK TKI治療後に放射線学的進行が認められた患者から、再生検組織を採取した。全ての患者は、施設内審査委員会 (IRB) 承認プロトコルに基づき、臨床データ収集、組織採取、研究検査、および細胞株樹立に関するインフォームドコンセントを得た。ホルマリン固定パラフィン包埋 (FFPE) 組織、凍結組織、および/または新鮮組織サンプルが、介入放射線科医、呼吸器科医、または外科医の安全基準に従って取得された。

耐性機序の同定には、次世代シーケンス (NGS)、マルチプレックス変異アッセイ、直接DNAシーケンス、RT-PCR、およびFISHを組み合わせた手法を用いた。NGS解析には、48遺伝子のカスタムキャプチャーベースパネル (NimbleGen SeqCap EZ Choice Library, Roche) を使用し、Illumina NextSeqシーケンサーで実施した。ROS1のexon 36-42およびALKのexon 21-25のキナーゼドメイン変異 (KDM) を検出するためにシーケンスを実施した。バイオインフォマティクス解析には、Genomic Short Read Nucleotide Alignment Program (GSNAP) およびClipping REveals STructure (CREST) アルゴリズムを用いて構造再配列を同定した。コピー数変異 (CNV) は、各遺伝子座のユニークリード数を48遺伝子平均で正規化し、中央値から2.5標準偏差を超える値を有意な増加と定義した。

FISH解析は、ALKおよびROS1のブレイクアパートプローブ (Vysis LSI ALK 2p23 Dual Color, Break Apart Rearrangement ProbeおよびVysis LSI ROS1 (Cen) SpectrumGreen and Vysis LSI ROS1 (Tel) SpectrumOrange, Abbott Molecular) を用いて実施した。再配列陽性は、細胞の15%以上で3’および5’シグナルが分離している場合と定義した。遺伝子コピー数増加 (CNG) は、治療後検体において再配列遺伝子の平均コピー数が治療前検体と比較して2倍以上増加した場合と定義した。

一部の患者由来の細胞株 (CUTO16, CUTO23, CUTO27, CUTO28) を樹立し、TKIに対する感受性試験およびウェスタンブロット解析を実施した。H3122細胞株にCRISPR/Cas9システムを用いてRALGAPA1-NRG1融合遺伝子を導入し、ALK阻害剤耐性誘導における機能的役割を評価した。統計解析にはFisher exact testおよびchi-square testが用いられた。