- 著者: Jonna S, Feldman RA, Swensen J, Gatalica Z, Korn WM, Borghaei H, Ma PC, Nieva JJ, Spira AI, Vanderwalde AM, Wozniak AJ, Kim ES, Liu SV
- Corresponding author: Liu SV (Georgetown University, Washington DC)
- 雑誌: Clinical Cancer Research
- 発行年: 2019
- Epub日: 2019-04-15
- Article種別: Original Article
- PMID: 30988082
背景
Neuregulin-1 (NRG1) 遺伝子融合は、特定の固形腫瘍において強力な発癌ドライバーとして機能し、精密医療における新たな治療標的として期待されている。NRG1融合タンパク質は、そのEGF (epidermal growth factor) 様ドメインを介してERBB3 (HER3) およびERBB4 (HER4) 受容体のリガンドとして作用する。この作用により、ERBB3とERBB2のヘテロ二量体化が促進され、下流のERK、PI3K、AKT、NFκBなどのシグナル伝達経路が持続的に活性化される。これにより、接合分泌および自己分泌シグナリングを介して腫瘍の増殖や生存が促進されることが細胞モデルで示されている。
NRG1融合遺伝子は、2014年に非喫煙女性の浸潤性粘液性肺腺癌においてCD74-NRG1融合として初めて報告されて以来、乳癌、膵癌、卵巣癌などの複数の腫瘍型でも散発的に報告されてきた。しかし、大規模な患者コホートにおけるNRG1融合遺伝子の体系的な発生頻度や、その融合パートナーの多様性に関する包括的なデータは不足していた。特に、EGFR、KRAS、ALK、ROS1、RETなどの既知の主要なドライバー遺伝子変異との共存パターンや相互排他性を大規模コホートで検証した研究は不足しており、NRG1融合が独立した発癌ドライバーとして機能するかどうかは未解明のままであった。
既報の症例報告では、pan-ERBB阻害薬であるアファチニブやERBB3モノクローナル抗体がNRG1融合陽性腫瘍に対して有効である可能性が示唆されており、Drilon et al. NEnglJMed 2018によるNTRK融合陽性固形腫瘍に対するラロトレクチニブの劇的な効果と同様に、腫瘍横断的な精密医療の有望な標的として注目されている。また、ALK陽性肺癌における治療耐性機序としてのNRG1融合の出現も報告されており、McCoach et al. ClinCancerRes 2018などの先行研究でも耐性克服のための治療戦略が議論されている。広範な次世代シーケンス検査が普及しつつあるものの、固形腫瘍全体におけるNRG1融合の実態を大規模に把握し、その臨床的意義を確立するための包括的な研究は不足しており、大きな知識のギャップが残されていた。本研究は、大規模な臨床検体データベースを用いてこれらの課題を解決することを目的とした。
目的
本研究の目的は、CLIA (Clinical Laboratory Improvement Amendments) 認定ゲノム検査施設に提出された2万例を超える大規模な固形腫瘍コホートを対象に、ターゲットRNAシーケンスを用いてNRG1融合遺伝子の全体および腫瘍型別の発生頻度を体系的に評価することである。さらに、同定されたNRG1融合のパートナー遺伝子の多様性を詳細に解析し、新規の融合パートナーを同定することを目指した。また、EGFR、KRAS、ALK、ROS1、RETといった既知の主要な発癌ドライバー変異との共存パターンを解析し、NRG1融合が独立した発癌ドライバーとして機能するかどうか、すなわち相互排他性が成立するかを明らかにすることも重要な目的である。これらの知見を通じて、NRG1融合が新たな治療標的としての臨床的有用性を持つことを示唆し、日常臨床における検出の重要性を確立することを目指した。
結果
NRG1融合の全体発生頻度と腫瘍型別分布: 21,858例の固形腫瘍検体中、41例 (0.2%) にNRG1融合が検出された (Figure 1)。腫瘍型別の発生頻度には差異が認められた。最も高頻度であったのは胆嚢癌 (3/580例, 0.5%)、膵癌 (3/623例, 0.5%)、腎細胞癌 (1/211例, 0.5%) であった。次いで卵巣癌 (3/686例, 0.4%)、非小細胞肺癌 (NSCLC) (25/9,592例, 0.3%)、乳癌 (2/1,106例, 0.2%)、肉腫 (1/627例, 0.2%)、膀胱癌 (1/945例, 0.1%)、大腸癌 (1/1,690例, 0.1%) で検出された。残りの1例は鼻咽頭神経内分泌腫瘍であった。本研究により、大腸癌、肉腫、神経内分泌腫瘍におけるNRG1融合の初報告がなされた。対照的に、グリオーマ (n=1,997)、胃腺癌 (n=239)、頭頸部扁平上皮癌 (n=236)、甲状腺癌 (n=219)、小細胞肺癌 (n=107)、肝細胞癌 (n=83) ではNRG1融合は検出されなかった。MSK-IMPACTデータセット (DNAシーケンス、17,485例中10例検出、0.057%) との比較では、本研究のRNAシーケンス法 (0.2%) が約3.5倍高い検出率を示し、RNAシーケンスによる包括的スクリーニングの優位性が示唆された。
患者・腫瘍プロファイルの特徴: NRG1融合陽性41例の全体中央年齢は68歳 (範囲36–90歳) であった (Table 1)。腫瘍型別では、NSCLCで71歳 (52–90歳)、卵巣癌で53歳 (47–69歳)、乳癌で44歳 (38–49歳) であった。性別は女性が66% (27/41例)、男性が34% (14/41例) であり、NSCLCでは女性が68% (17/25例) と女性優位が確認された。ステージ情報が利用可能な36例のうち、Stage IVが72% (26/36例) を占め、進行癌での検出が多い傾向が認められた。NSCLCではStage Iが5% (1/22例)、Stage IIが14% (3/22例)、Stage IIIが27% (6/22例)、Stage IVが54% (12/22例) であった。組織型は腺癌が70% (29/41例) で最も多く、NSCLCでは粘液性腺癌が24% (6/25例)、混合粘液成分が12% (3/25例) を含み、合計32% (8/25例) が粘液性または混合粘液性組織像であった。検体採取部位は原発巣が68% (28/41例)、遠隔転移が32% (13/41例) であった。
融合パートナーの多様性と分子構造: NRG1融合のパートナー遺伝子は、腫瘍型内および腫瘍型間で多様であった (Figure 4, Figure 5)。NSCLCではCD74が最も一般的な融合パートナーであり (n=12, 48%)、CD74のexon 6またはexon 8との融合点が確認された。その他のNSCLCにおけるパートナーとして、SDC4 (n=3)、SLC3A2 (SLC3A2: solute carrier family 3 member 2) (n=1)、TNC (n=1)、MDK (n=1)、ATP1B1 (n=1)、DIP2B (n=1)、RBPMS (n=1)、MRPL13 (n=1)、ROCK1 (n=1)、DPYSL2 (n=1)、PARP8 (n=1) など、計12種類のパートナーが同定された。TNC、MRPL13、MDK、DIP2BなどはNSCLCにおける新規報告の融合パートナーであった。他の腫瘍型でも、卵巣癌でSETD4、TSHZ2、ZMYM2、乳癌でADAM9、COX10-AS1、膵癌でATP1B1、CDH1、VTCN1、胆嚢癌でNOTCH2、ATP1B1 (n=2)、大腸癌でPOMK、膀胱癌でGDF15、肉腫でWHSC1L1、鼻咽頭神経内分泌腫瘍でHMBOX1などが同定された。41例中34例 (83%) がin-frame融合、3例 (7%) がout-of-frame (VUS)、4例 (10%) が翻訳変異体であった。全ての融合変異体でNRG1のEGF様ドメインが保持されており、ERBB3/ERBB4リガンドとしての機能的発癌ドライバー要件を満たしていた。
EGFR・KRAS・ALK等主要ドライバーとの相互排他性: NRG1融合は、EGFR変異、KRAS変異、ALK融合、ROS1融合、RET融合といった既知の主要な発癌ドライバー変異と相互排他的であることが示された (Figure 2)。NSCLCの全25例はALK/ROS1/RET融合陰性かつKRAS野生型であった。膵癌の3例も全例KRAS野生型であり、NRG1融合がKRAS野生型の難治性膵癌における新規ドライバーとして機能する可能性が示唆された。例外的な共存として、1例がBRAF G466A変異と共存 (NSCLC)、1例がKRAS G12D変異と共存 (大腸癌)、3例がNF1またはNF2変異と共存した (NF1 Q616fs NSCLC、NF1 c.204+1G>T 卵巣癌、NF2 H242fs NSCLC)。腫瘍抑制遺伝子変異は41例中30例 (73%) に存在し、TP53変異が最も多く共存した。CHEK2、BRCA2、WRNなどのDNA損傷応答遺伝子変異も共存例が認められた。この相互排他性パターンは、NRG1融合が独立した発癌駆動メカニズムとして機能することを強く示唆する。
生存データと臨床アウトカム: 融合検出時点でのコホート全体の生存期間中央値 (median survival) は 638 days であった。詳細な生存情報が得られた7例での分析では腫瘍型による差異がみられたが、サンプルサイズの制約から確定的な統計比較は困難であった。本コホートでは直接的な治療介入の全生存期間 (OS: overall survival) や無悪化生存期間 (PFS: progression-free survival) のハザード比 (HR: hazard ratio) は算出されていないが、先行研究の類似したドライバー陽性肺癌のデータとして、例えば第一世代TKIに対するアレクチニブの優位性を示した Hida et al. Lancet 2017 では、PFSの有意な延長が HR 0.34 (95% CI 0.17-0.70, p<0.001) と報告されている。また、EGFR T790M陽性肺癌に対するオシメルチニブの有効性を示した Mok et al. NEnglJMed 2017 では、PFS中央値が 10.1 vs 4.4 months とオシメルチニブ群で有意に延長し、HR 0.30 (95% CI 0.23-0.41, p<0.001) を達成している。さらに、BRAF V600E変異陽性肺癌に対するダブラフェニブ+トラメチニブ併用療法を検証した Planchard et al. LancetOncol 2017 など、他の希少ドライバーにおける標的治療の劇的な効果が確立されている。これらの知見は、NRG1融合陽性患者に対するERBB2/ERBB3経路標的治療の前向き臨床試験 (例: CRESTONE試験) を推進する強力な根拠となっている。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、21,858例という大規模な固形腫瘍コホートを対象とした後向き断面研究であり、NRG1融合遺伝子の全体発生頻度が0.2%であることを体系的に明らかにした。既報のMSK-IMPACTデータセット (DNAシーケンス、17,485例で10例検出、検出率0.057%) と比較して、本研究のRNAシーケンス法 (21,858例で41例検出、検出率0.2%) は約3.5倍高い検出率を示した。これは、DNAシーケンスでは検出が困難な複雑な融合イベントや、巨大なイントロン領域にブレークポイントを持つ融合をRNAシーケンスがより効率的に検出できることを示唆しており、これまでのDNAベースの報告とは対照的に、包括的ゲノムプロファイリングにおけるRNAシーケンスの優位性を裏付けるものである。
新規性: 本研究は、大腸癌、肉腫、鼻咽頭神経内分泌腫瘍におけるNRG1融合の存在を本研究で初めて報告した。また、NSCLCにおいてTNC、MRPL13、MDK、DIP2Bなど複数の新規融合パートナーを同定したことは、NRG1融合の多様性をさらに広げる知見である。全ての融合変異体でNRG1のEGF様ドメインが保持されており、ERBB2/ERBB3指向性治療への感受性は共通すると考えられる。
臨床応用: NRG1融合は、EGFR、KRAS、ALK、ROS1、RETといった既知の主要ドライバー変異と相互排他的であることが示された。この相互排他性パターンは、NRG1融合が独立した発癌駆動メカニズムとして機能することを強く示唆し、特にEGFR/ALK/ROS1陰性・KRAS野生型のNSCLC症例や、KRAS野生型胆嚢癌・膵癌などの難治性癌における重要な追加ドライバー探索対象として位置づけられる。アファチニブやERBB3モノクローナル抗体による症例報告レベルでの奏効は、NRG1融合陽性患者に対する腫瘍横断的な標的治療の可能性を示しており、臨床現場でのNRG1融合スクリーニングの重要性を高める。
残された課題: 今後の検討課題として、(1) 各融合パートナーが治療感受性に与える影響のさらなる解析、(2) CRESTONE試験などの前向き臨床試験によるNRG1標的治療の奏効率と有効性の確立、(3) KRAS野生型胆嚢癌・膵癌などの難治性癌におけるNRG1標的治療の探索、(4) 翻訳変異体 (NRG1 exon 2が非コードエクソンにスプライスされ、内部開始コドンを持つ型) の機能的証明と臨床的意義の解明が挙げられる。本研究のLimitationとしては、CLIAラボへの検体送付バイアスにより、検出頻度が一般集団を完全に代表しない可能性がある点が挙げられる。
方法
本研究は、2015年9月から2018年12月にかけてCaris Life Sciences (CLIA認定・CAP認定施設) に提出された固形腫瘍検体を対象とした後向き断面研究 (retrospective cohort study) である。融合遺伝子検査が実施された21,858例のユニークな患者検体が解析対象とされた。
検体処理とRNAシーケンス: ホルマリン固定パラフィン包埋 (FFPE) 組織からmRNAを抽出し、cDNAを合成した。融合検出には、ArcherDx FusionPlex Solid Tumor Panelを用いたアンカードマルチプレックスPCR (anchored multiplex PCR) によるターゲットRNAシーケンスが採用された。このパネルは52遺伝子を対象としていた。次世代シーケンス (NGS) はIllumina MiSeqプラットフォームで実施された。ユニークリード数が4,000未満の検体は不確定として解析から除外された。アッセイの検出感度は、検体中の細胞の少なくとも10%に存在する融合を検出可能であった。
NRG1転写変異体の分類: 全てのNRG1転写変異体について、スプライスジャンクションがUCSC Genome Browserを用いて解析された。これにより、in-frame融合、out-of-frame (VUS: variant of unknown significance、意義不明のバリアント) 融合、および翻訳変異体 (NRG1 exon 2が上流の非コードエクソンにスプライスされ、内部開始コドンを持つ型) の3種類に分類された。機能的融合の必要条件として、NRG1のEGF様ドメインの保持が確認された。
病理組織学的評価とDNAシーケンス: 全ての病理組織所見は、認定病理医によって確認された。腫瘍細胞の割合が20%未満の検体は、手動マイクロダイセクションにより腫瘍細胞を濃縮した。DNAシーケンスはIllumina NextSeqプラットフォームとカスタム設計のSureSelect XTアッセイ (Agilent Technologies) を用いて実施された。592の全遺伝子ターゲットが対象とされ、平均カバレッジは500倍以上、分析感度は5%であった。バリアントの分類は、American College of Medical Genetics and Genomics (ACMG) の基準に従い、認定分子遺伝学者によって病原性、推定病原性、意義不明のバリアント、推定良性、良性に分類された。NRG1融合陽性例との共変異パターン評価には、病原性または推定病原性の変異のみが考慮された。
免疫組織化学 (IHC): IHCはVentana社のBenchmark XTおよびDako社のAutostainerLink 48を用いて実施された。Her2/neu (4B5, Ventana)、pan-TRK (C17F1, Cell Signaling Technology)、ALK (D5F3, Ventana) の一次抗体が使用された。陽性判定基準は、pan-TRKが1+かつ1%以上の細胞、Her2が3+かつ10%以上、ALKが3+かつ10%以上であった。
統計解析: データ解析には記述統計が用いられ、各腫瘍型におけるNRG1融合の発生頻度が算出された。生存解析にはカプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 法が適用され、群間比較にはログランク検定 (log-rank test) が用いられた。共変異解析ではフィッシャーの正確確率検定 (Fisher’s exact test) が実施された。主要な評価項目 (primary endpoint) は、NRG1融合の検出頻度およびその臨床病理学的・ゲノム的特徴の解明とされた。