- 著者: Kentaro Ito, Takeharu Yamanaka, Hidetoshi Hayashi, Yoshihiro Hattori, Kazumi Nishino, Haruki Kobayashi, Yuko Oya, Toshihide Yokoyama, Takashi Seto, Koichi Azuma, Tomoya Fukui, Toshiyuki Kozuki, Atsushi Nakamura, Kentaro Tanaka, Katsuya Hirano, Takashi Yokoi, Haruko Daga, Shinya Sakata, Daichi Fujimoto, Masahide Mori, Ken Maeno, Takuya Aoki, Atsuhisa Tamura, Satoru Miura, Satoshi Watanabe, Hiroaki Akamatsu, Osamu Hataji, Kensuke Suzuki, Shigeto Hontsu, Koji Azuma, Akihiro Bessho, Akihito Kubo, Motoyasu Okuno, Kazuhiko Nakagawa, Nobuyuki Yamamoto
- Corresponding author: Nobuyuki Yamamoto (Internal Medicine III, Wakayama Medical University Hospital, Wakayama, Japan)
- 雑誌: European Journal of Cancer
- 発行年: 2021
- Epub日: 2021-01-22
- Article種別: Original Article
- PMID: 33486442
背景
ALK (anaplastic lymphoma kinase) 再構成非小細胞肺がん (NSCLC) において、ALKチロシンキナーゼ阻害薬 (ALK-TKI) は第一選択治療として確立されている。第一世代ALK-TKIであるクリゾチニブ (CRZ) は、プラチナ製剤とペメトレキセド併用療法と比較して、無増悪生存期間 (PFS) を10.9ヶ月に延長することが示された Solomon et al. NEnglJMed 2014。一方、第二世代ALK-TKIであるアレクチニブ (ALEC) は、CRZ耐性患者においてPFS 8.1ヶ月および8.9ヶ月の臨床的有用性を示し Shaw et al. LancetOncol 2016、さらに第一選択治療としてCRZを上回るPFS延長効果を示した (J-ALEX試験で34.1ヶ月 Hida et al. Lancet 2017、ALEX試験で34.8ヶ月 Peters et al. NEnglJMed 2017)。これらの臨床試験データに基づくと、CRZに続いてALECを投与した場合の合計PFSは約19ヶ月と推定され、第一選択ALEC単独療法のPFS 34〜35ヶ月には及ばない。しかし、実臨床におけるCRZからALECへの逐次療法 (sequential therapy) の優劣、特にALEC後のCRZの有効性や全生存期間 (OS) への影響については、大規模な実臨床データを用いた検証がこれまで不足しており、その臨床的意義は未解明な点が残されている。
目的
本研究は、WJOG (West Japan Oncology Group) に参加する61施設から収集されたALK再構成NSCLC患者の実臨床データを用いて、CRZに続いてALECを投与する逐次療法 (Sequence群) の複合治療不成功期間 (combined TTF) と、第一選択としてALECを投与するALEC群のTTFを比較し、逐次治療の臨床的意義を検証することを目的とした。
結果
患者背景: CRZ群とALEC群の間で、年齢、臨床病期、および最初のALK-TKI治療ラインに有意な差が認められた (Table 1)。ALEC群の方が、平均年齢がわずかに高く (ALEC群中央値61歳 vs CRZ群中央値60歳、p=0.0060)、Stage III患者の割合が高く (ALEC群84例 vs CRZ群107例、p=0.0163)、第一選択ALK-TKIとしての使用割合が高かった (ALEC群178例 vs CRZ群201例、p<0.0001)。脳転移の有無には有意差はなかった (ALEC群61例 vs CRZ群96例、p=0.4630)。
主要評価項目 (combined TTF vs 1L ALEC TTF): Sequence群におけるCRZとALECのcombined TTF中央値は34.4ヶ月 (95% CI 27.27-41.53) であり、ALEC群におけるALEC単独のTTF中央値27.3ヶ月 (95% CI 22.84-31.76) と比較して有意に長かった (ハザード比 [HR] 0.709, 95% CI 0.559-0.899, p=0.0045) (Figure 1A)。しかし、OS中央値はSequence群で88.4ヶ月 (95% CI 76.53-NR) であったのに対し、ALEC群では未到達 (NR) であり、両群間に有意差は認められなかった (HR 0.954, 95% CI 0.689-1.319, p=0.7758) (Figure 1B)。
全集団におけるPFS/TTF/OS: 全患者集団において、ALEC群はCRZ群と比較して有意に優れた臨床的有用性を示した。PFS中央値はALEC群で40.11ヶ月 (95% CI 34.80-NR) であったのに対し、CRZ群では9.13ヶ月 (95% CI 8.08-10.28) であった (p<0.0001) (Figure 2A)。同様に、TTF中央値もALEC群で27.27ヶ月 (95% CI 22.84-31.76) と、CRZ群の8.80ヶ月 (95% CI 8.02-9.59) より有意に長かった (p<0.0001) (Figure 2B)。OSもALEC群で有意に延長され (ALEC群NR vs CRZ群53.62ヶ月、HR 0.549, p<0.0001) (Figure 2C)、傾向スコア解析後もALEC群の優位性が示された (HR 0.609)。ORRはALEC群で85.38% (95% CI 80.88-89.2) と、CRZ群の64.65% (95% CI 60.41-68.7) より有意に高かった。
ALEC承認後サブグループ解析: 日本におけるALEC承認後に最初のALK-TKI治療を開始した患者のサブグループ解析では、PFSおよびTTFは依然としてALEC群で有意に長かったが、OS中央値は両群ともに未到達であり、有意差は認められなかった (HR 1.006, 95% CI 0.620-1.634, p=0.9792) (Figure 3C)。傾向スコア調整後も同様に有意差はなかった (HR 1.045, 95% CI 0.639-1.709, p=0.8620) (Figure 4B)。CRZ開始患者の79.6%がCRZ中止後にALEC治療を受けた一方、ALEC開始患者でALEC中止後にCRZ治療を受けたのは37.0%に留まった。
逐次治療の有効性: CRZ後のALECのPFS中央値は13.73ヶ月 (95% CI 11.14-16.30) であった。CRZに対する奏効が良好であった患者ほど、その後のALECによるPFSが長くなる傾向が示された (Figure 5A)。特にCRZで完全奏効 (CR) または部分奏効 (PR) を得た患者では、ALECのPFSが有意に延長した。一方、ALEC後のCRZのPFS中央値は0.89ヶ月 (95% CI 0.66-1.45) と短かった。
その他のALK-TKIおよび治療: セリチニブ (ceritinib) のPFSは、CRZ後で5.95ヶ月、ALEC後で1.84ヶ月 (p=0.0184) であり、ALEC後の有効性は限定的であった。ロルラチニブ (lorlatinib) のPFSは9.66ヶ月 (95% CI 2.69-NR) であり (n=11、ALEC後を含む)、ALEC後でも使用価値があることが示唆された。プラチナ製剤ベースの化学療法はPFS 9.30ヶ月、免疫療法 (抗PD-1抗体) は後方ラインでの使用でPFS 1.49ヶ月と低い効果であった。
考察/結論
本WJOG9516L研究は、ALK再構成NSCLC患者840例という大規模な実臨床データを用いて、CRZに続くALECの逐次療法がcombined TTFを有意に延長する一方で、OSにおいては第一選択ALEC単独療法に対する優越性を示さなかったことを明らかにした。
先行研究との違い: これまでの小規模な後方視的研究では、CRZ失敗後のALEC治療がOSを延長する傾向が示唆されていた Ito et al. JThoracOncol 2017。しかし、本研究の大規模な実臨床データを用いた解析では、逐次療法によるcombined TTFの延長は認められたものの、OSにおける第一選択ALEC単独療法に対する有意な優位性は示されなかった点で、先行研究と対照的な結果である。
新規性: 本研究で初めて、ALEC承認後に治療を開始した患者群に限定した傾向スコア調整後のOS解析において、CRZ群とALEC群の間でOSに有意差がないことを示した。これは、第一選択としてALECを選択した場合でも、その後の適切なALK-TKIや治療を組み合わせることで、最終的なOSは逐次戦略と遜色ない可能性を示唆する新規の知見である。また、CRZに対する奏効がその後のALECのPFSを予測する因子となることも本研究で初めて詳細に示された。
臨床応用: 本研究結果は、ALK再構成NSCLC患者の第一選択治療としてALECを支持する強力な根拠となる。ALECはCRZと比較して優れたPFSとTTFを示し、毒性プロファイルも良好であることから、臨床現場での第一選択としてのALECの有用性が再確認された。また、CRZ後のALECの有効性はCRZに対する奏効に依存することが示され、CRZ非奏効例ではALECのPFSが短いことから、原発性ALK-TKI耐性 (例: EML4-ALK融合遺伝子バリアント2/3やTP53変異など) の存在が示唆される。これは、逐次治療の選択において、患者の特性やバイオマーカーの状態を考慮することの臨床的意義を示唆する。さらに、ALEC後のセリチニブの有効性が乏しいことから、ALEC後のセリチニブは非推奨であり、ロルラチニブはALEC後でも活性を保持するため、考慮すべき治療選択肢となる。
残された課題: 本研究にはいくつかのlimitationが残されている。第一に、後方視的デザインであるため、患者選択バイアスが完全に排除できない点である。第二に、ALEC群の追跡期間が不十分であったため、情報的打ち切り (informative censoring) によるALEC群のOSが過大評価されている可能性がある。第三に、初回化学療法後にALK-TKIを開始した患者において、immortal time biasが存在する可能性がある。最後に、ctDNAなどのバイオマーカーデータが不足しており、耐性メカニズムの詳細な解析ができなかった点も今後の検討課題である。これらの課題を克服するためには、前向き研究やより詳細な分子生物学的解析が必要である。
方法
本研究は、WJOG9516LとしてUMIN (UMIN: 000028605) に登録された多施設後方視的コホート研究 (multicenter retrospective cohort study) である。2012年5月から2016年12月の期間に、CRZまたはALECを最初のALK-TKIとして開始したALK再構成NSCLC患者840例を対象とした。患者は、最初に投与されたALK-TKIの種類に基づいてCRZ群 (535例) またはALEC群 (305例) に分類された。CRZ群のうち、CRZ治療後にALEC治療を受けた患者301例をSequence群とした。
主要評価項目は、Sequence群におけるCRZとALECのcombined TTFと、ALEC群におけるALEC単独のTTFの比較とした。TTF (time-to-treatment failure) は、RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) 基準による病勢進行ではなく、あらゆる原因によるALK-TKIの中止日として定義された。副次評価項目は、客観的奏効率 (ORR)、PFS、OS、および逐次治療の有効性解析であった。共変量 (年齢、性別、喫煙歴、組織型、臨床病期、ECOG PS、ALK-TKI治療ライン、脳転移の有無) を調整するため、傾向スコア解析が実施された。生存曲線はKaplan-Meier法を用いて計算され、Cox比例ハザードモデルによるlog-rank testが用いられた。定性変数の比較はFisherの正確検定によって行われた。統計解析にはSAS version 9.3が使用された。