- 著者: Toyoaki Hida, Hiroshi Nokihara, Masashi Kondo, Young Hak Kim, Koichi Azuma, Takashi Seto, Yuichi Takiguchi, Morihito Nishio, Hiroshige Yoshioka, Fumio Imamura, Katsuyuki Hotta, Shunichi Watanabe, Koichi Goto, Miyako Satouchi, Toshiyuki Kozuki, Takahisa Shukuya, Kazuhiko Nakagawa, Tetsuya Mitsudomi, Nobuyuki Yamamoto, Takanori Asakawa, Ryuji Asabe, Tomomitsu Tanaka, Tomohide Tamura
- Corresponding author: Tomohide Tamura (St. Luke’s International Hospital, Tokyo, Japan)
- 雑誌: The Lancet
- 発行年: 2017
- Epub日: 2017-05-10
- Article種別: Original Article
- PMID: 28501140
背景
ALK陽性非小細胞肺がん (NSCLC) は、NSCLC全体の約5%を占める特定のサブタイプであり、EML4-ALK融合遺伝子が主要なドライバー遺伝子として同定されている Soda et al. Nature 2007。このALK融合タンパク質は、細胞内シグナル伝達の異常な活性化を介して腫瘍細胞の増殖と生存を促進することが報告されている Rikova et al. Cell 2007。ALK融合遺伝子を有する肺がんは、ALKチロシンキナーゼ阻害薬 (ALK-TKI) に対して高い感受性を示し、効率的にアポトーシスを誘導することが報告されている McDermott et al. CancerRes 2008。
第1世代ALK阻害薬であるクリゾチニブは、未治療および化学療法既治療の進行ALK陽性NSCLC患者において、化学療法と比較して無増悪生存期間 (PFS) を有意に延長することが示され、一次治療として広く普及した Solomon et al. NEnglJMed 2014、Shaw et al. NEnglJMed 2013。しかし、クリゾチニブのPFS中央値は約10.9ヶ月と限られており、耐性発現は避けられない課題であった。主な耐性メカニズムとしては、ALK二次変異 (例: L1196M、C1156Y、F1174L、G1269Aなど)、ALK遺伝子コピー数増加、およびバイパスシグナル経路の活性化が同定されている。さらに、クリゾチニブは血液脳関門透過性が低く、脳転移が初回増悪部位となる症例が25〜50%に達することが報告されており Costa et al. JClinOncol 2011、CNS (中枢神経系) 転移に対する効果が不足している点が大きな臨床的課題として残されていた。
アレクチニブ (CH5424802) は、中外製薬が開発した高選択性かつ高効力の第2世代ALK阻害薬である。前臨床試験において、クリゾチニブ耐性変異 (L1196M、C1156Y、F1174L、G1269Aなど) に対する活性と、高いCNS移行性が実証された Gadgeel et al. LancetOncol 2014。日本で実施された単アーム第I/II相試験 (AF-001JP) では、ALK-TKI未使用患者において客観的奏効率 (ORR) が93.5% (43/46例) と極めて高く、PFS中央値が29ヶ月超という卓越した成績を示した Seto et al. LancetOncol 2013。これらの結果に基づき、アレクチニブは2014年7月に日本で承認された。米国では、2015年にクリゾチニブ耐性患者を対象とした2つのピボタル第II相試験 (NP28673 Ou et al. JClinOncol 2016 および NP28761 Shaw et al. LancetOncol 2016) の結果に基づき、加速承認を受けている。
国際ALEX試験 (アレクチニブ600 mg BID) と並行して、日本で承認されたアレクチニブ300 mg BIDとクリゾチニブを直接比較する日本国内の第III相試験としてJ-ALEXが設計・実施された。本試験は、ALK阻害薬同士を頭対頭で比較した世界初の第III相試験であり、ALK陽性NSCLCの一次治療における標準治療を確立する上で重要な意義を持つ。これまでのクリゾチニブの限界、特にCNS転移に対する効果の不足を克服する新たな治療選択肢が求められており、アレクチニブがそのギャップを埋める可能性が期待された。
目的
ALK阻害薬未使用の日本人ALK陽性NSCLC患者を対象に、アレクチニブ300 mg BIDとクリゾチニブ250 mg BIDの有効性および安全性を直接比較することを目的とした。主要評価項目は独立審査機関 (IRF) 評価による無増悪生存期間 (PFS) とし、副次評価項目として客観的奏効率 (ORR)、奏効持続期間 (DOR)、全生存期間 (OS)、脳転移病変の増悪までの期間、新規脳転移発現までの期間、安全性、および薬物動態を評価した。本試験は、アレクチニブがクリゾチニブと比較してPFSを優位に改善し、かつ良好な忍容性を示すかを検証することを意図した。特に、クリゾチニブの課題であった脳転移に対するアレクチニブの有効性を詳細に評価することも重要な目的の一つであった。
結果
主要エンドポイント (IRF評価PFS) における圧倒的な優越性: J-ALEX試験は、2015年12月3日の第2回中間解析のデータカットオフ時点で、主要評価項目であるIRF評価PFSにおいてアレクチニブの優越性を示した。アレクチニブ群のPFS中央値は未到達 (NE、95% CI 20.3ヶ月-NE) であったのに対し、クリゾチニブ群では10.2ヶ月 (95% CI 8.2-12.0) であった。ハザード比 (HR) は0.34 (99.7% CI 0.17-0.71, 層別log-rank p<0.0001) と、アレクチニブ群で病勢進行または死亡のリスクが有意に低減されたことを示した (Figure 2A)。この結果は、IDMCが即時データ公開を勧告するほどの顕著な差であった。非劣性仮説 (HR上限<1.2) も同時に達成された。PFSイベント数は、アレクチニブ群で25件、クリゾチニブ群で58件であった。治療ライン別の解析では、一次治療患者においてアレクチニブ群のPFS中央値はNE (95% CI 17.5-NE) vs クリゾチニブ群10.2ヶ月 (HR 0.31, 95% CI 0.17-0.57) であり、二次治療患者ではアレクチニブ群20.3ヶ月 vs クリゾチニブ群8.2ヶ月 (HR 0.40, 95% CI 0.19-0.87) であった。疾患ステージ別でも、Stage IIIB/IV患者においてアレクチニブ群20.3ヶ月 vs クリゾチニブ群8.3ヶ月 (HR 0.30, 95% CI 0.18-0.52) と、大部分のサブグループで一貫したアレクチニブの優位性が確認された (Figure 2C)。ベースライン時の脳転移の不均衡 (アレクチニブ群14% vs クリゾチニブ群28%) を補正した多変数Cox解析でも、HR 0.34 (95% CI 0.21-0.55, p<0.0001) と結果は変わらなかった。
ORRと奏効持続期間 (DOR) の改善: IRF評価による客観的奏効率 (ORR) は、アレクチニブ群で92% (76/83例, 95% CI 85.6-97.5) であったのに対し、クリゾチニブ群では79% (71/90例, 95% CI 70.5-87.3) と、アレクチニブ群で有意に高かった (Table 2)。内訳は、完全奏効 (CR) が両群とも2%であったが、部分奏効 (PR) はアレクチニブ群で89%に対しクリゾチニブ群で77%であった。奏効までの期間中央値は両群とも1.0ヶ月と短く、大部分の患者が1ヶ月以内に奏効を示した。奏効持続期間 (DOR) 中央値は、アレクチニブ群で未到達 (NE) であったのに対し、クリゾチニブ群では11.1ヶ月 (95% CI 7.5-13.1) であり、アレクチニブ群で有意な延長が認められた (HR 0.32, 95% CI 0.17-0.60)。治験責任医師評価によるORRも、アレクチニブ群85% vs クリゾチニブ群70%とアレクチニブ群で良好な結果であった。
脳転移サブグループにおける顕著な効果: ベースライン時に脳転移を有する患者サブグループ (IRF評価でアレクチニブ群14例、クリゾチニブ群29例) におけるPFSのHRは0.08 (95% CI 0.01-0.61) と、アレクチニブが脳転移病変の進行リスクを9割以上低減するという極めて顕著な差を示した (Figure 3)。治験責任医師評価で脳転移があり、かつ放射線治療歴がない患者 (アレクチニブ群10例、クリゾチニブ群15例) においてもHR 0.10 (95% CI 0.01-0.77) と同様の傾向が見られた。ベースライン時に脳転移がない患者においても、PFSのHRは0.39 (95% CI 0.23-0.64, IRF評価) と一貫してアレクチニブの優位性が確認された。競合リスク解析の結果、アレクチニブはCNS病変および非CNS病変の両方において、クリゾチニブと比較して病勢進行のリスクを低減することが示された。脳転移の進行までの期間 (ベースライン時に脳転移あり) のHRは0.16 (95% CI 0.02-1.28) であり、新規脳転移発現までの期間 (ベースライン時に脳転移なし) のHRは0.41 (95% CI 0.17-1.01) であった。
全生存期間 (OS) のデータ未成熟: データカットオフ時点でのOS評価イベント数は、クリゾチニブ群で2例、アレクチニブ群で7例の合計9例と極めて少なく、OSに関する成熟した解析は不可能であった。
安全性プロファイルにおけるアレクチニブの優位性: 安全性解析では、アレクチニブ群がクリゾチニブ群と比較して著しく良好な忍容性プロファイルを示した (Table 3)。Grade 3/4の有害事象の発現頻度は、アレクチニブ群で27例 (26%) であったのに対し、クリゾチニブ群では54例 (52%) と高頻度であった。有害事象による投与中断は、アレクチニブ群で30例 (29%)、クリゾチニブ群で77例 (74%) であった。有害事象による治験薬中止に至った患者の割合も、アレクチニブ群9例 (9%) に対しクリゾチニブ群21例 (20%) と、クリゾチニブ群で高かった。致死的な有害事象は両群ともに報告されなかった。クリゾチニブ群で発現頻度20%以上であった有害事象は、悪心 (74%)、下痢 (73%)、嘔吐 (58%)、視覚障害 (55%)、味覚異常 (52%)、便秘 (44%)、ALT上昇 (32%)、AST上昇 (31%)、鼻咽頭炎 (23%)、発熱 (20%)、食欲低下 (20%) など多岐にわたった。一方、アレクチニブ群で発現頻度20%以上であったのは、便秘 (35%) と鼻咽頭炎 (20%) の2項目のみであった。アレクチニブ群で特徴的に見られた有害事象として、CPK上昇が17% (Grade 3/4は5%) であった。間質性肺疾患は両群ともに8%で報告されたが、Grade 3/4の肝機能異常はクリゾチニブ群で5%に対しアレクチニブ群で0%、Grade 3/4のALT上昇はクリゾチニブ群で4%に対しアレクチニブ群で0%であった。
考察/結論
J-ALEX試験は、ALK阻害薬同士を一次治療を中心に直接比較した世界初の第III相試験であり、アレクチニブが主要評価項目であるPFS、およびORR、DOR、CNS有効性、安全性といった全ての評価項目においてクリゾチニブに優れることを明確に示した。PFSの改善におけるHR 0.34 (99.7% CI 0.17-0.71, p<0.0001) という結果は、同時期に報告された国際ALEX試験 (アレクチニブ600 mg BID使用、HR 0.47) を上回るものであり、日本で承認されたアレクチニブ300 mg BIDの用量でもその優越性が確立されたことを意味する。
新規性: 本研究で初めて、ALK陽性NSCLCの一次治療において、第2世代ALK阻害薬であるアレクチニブが第1世代ALK阻害薬クリゾチニブに対してPFSを統計学的に有意かつ臨床的に意義のあるレベルで延長し、かつ安全性プロファイルも優れていることを直接比較で実証した。特に、アレクチニブの高いCNS移行性が、脳転移を有する患者におけるPFSのHR 0.08 (95% CI 0.01-0.61) という際立った結果によって臨床的に初めて証明されたことは、これまで報告されていない新規の知見である。
先行研究との違い: クリゾチニブは血液脳関門透過性が低く、脳転移が初回増悪部位の25-50%を占めることが既報であったが、アレクチニブは高いCNS移行性を持つため、脳転移の進行リスクを大幅に低減した。この点は、これまでのALK-TKIの課題と対照的であり、アレクチニブの大きな利点である。ベースライン時の脳転移の不均衡 (アレクチニブ群14% vs クリゾチニブ群28%) はあったものの、IDMC承認後の多変数調整解析でも主要評価項目の結論に影響しないことが確認された。
臨床応用: 本試験の結果は、ALK陽性NSCLCの一次治療における標準治療をクリゾチニブからアレクチニブへと転換させる可能性を強く示唆するものであり、臨床現場に大きな影響を与えた。日本では2014年に承認されたアレクチニブが、本試験成績を受けて一次治療の標準として急速に普及した。アレクチニブは、その優れた有効性と良好な忍容性プロファイルにより、患者のQOL向上にも寄与すると考えられる。
残された課題: 本試験にはいくつかのlimitationも存在する。第一に、試験がクリゾチニブを対照としているため、現在では過去のベンチマークとなった薬剤との比較であること。第二に、日本人のみを対象としており、日本での承認用量 (300 mg BID) が国際ALEX試験の用量 (600 mg BID) より低用量であるため、西洋人集団への結果の一般化には注意を要する。第三に、開放ラベル設計による観察者バイアスの可能性が挙げられるが、主要評価項目にIRF (独立審査機関) による盲検評価を採用することでこの影響は最小限に抑えられた。最後に、OSデータが未成熟であるため、長期的な生存に関する結論は今後の検討課題として残されている。今後、アレクチニブ後の耐性克服を目指したロルラチニブ (第3世代ALK-TKI) やブリガチニブ (第2世代ALK-TKI) などの開発が進んでおり、J-ALEX試験はこれらの後継開発の重要な出発点となった。
方法
J-ALEX試験 (JapicCTI-132316) は、日本国内の41施設で実施された無作為化非盲検第III相試験である。患者登録期間は2013年11月18日から2015年8月4日までであった。
対象患者: ALK阻害薬の治療歴がない日本人ALK陽性進行NSCLC患者が対象とされた。ALK陽性は、免疫組織化学 (IHC) およびFISH法、またはRT-PCRにより中央検査で確認された。対象患者は、Stage IIIB/IVまたは術後再発の進行NSCLC、化学療法未治療または1レジメンの前治療歴、ECOG Performance Status (PS) 0-2、RECIST v1.1に基づく測定可能病変を有することが条件とされた。主要な除外基準には、症候性脳転移または治療を要する脳転移、胸水・腹水・心嚢水ドレナージの必要性、または間質性肺疾患の既往が含まれた。
無作為化と層別化: 患者はアレクチニブ群 (n=103) とクリゾチニブ群 (n=104) に1:1の比率で無作為に割り付けられた。無作為化は、インタラクティブウェブ応答システム (IxRS) を使用した順列ブロック法により行われた。層別因子は、ECOG PS (0-1 vs 2)、治療ライン (一次治療 vs 二次治療)、および疾患ステージ (IIIB/IV vs 術後再発) であった。本試験は非盲検で実施されたが、主要評価項目であるPFSの評価は、潜在的な評価バイアスを避けるため、独立審査機関 (IRF) によって盲検下で行われた。
治療プロトコル: アレクチニブ群の患者にはアレクチニブ300 mgを1日2回 (BID) 経口投与された。クリゾチニブ群の患者にはクリゾチニブ250 mgを1日2回 (BID) 経口投与された。治療は病勢進行、許容できない毒性、死亡、または患者の同意撤回まで継続された。アレクチニブの投与量は、AF-001JP試験の結果に基づき、日本で承認された用量である300 mg BIDが選択された。
評価項目: 主要評価項目は、IRF評価によるPFS (RECIST v1.1に基づく画像診断で確認された病勢進行またはあらゆる原因による死亡までの期間) であった。副次評価項目には、治験責任医師評価PFS、全生存期間 (OS)、IRF評価および治験責任医師評価によるORR、奏効持続期間 (DOR)、奏効までの期間、ベースライン時に脳転移を有する患者における脳転移病変の増悪までの期間、ベースライン時に脳転移を有さない患者における新規脳転移発現までの期間、健康関連QOL (HRQOL)、安全性、および薬物動態が含まれた。HRQOLデータは別途報告される予定であった。
統計解析: PFSについては、非劣性仮説 (ハザード比 [HR] の非劣性マージンを1.2と定義) と優越性仮説の2つの臨床仮説が設定され、階層的仮説検定手順が適用された。非劣性仮説が最初に検証され、これが棄却された場合にのみ優越性仮説が検証された。目標症例数は200例と設定され、PFSイベントが164件発生するまでに80%の検出力を確保する計画であった。PFSおよびその他のイベント発生までの期間の推定には、Kaplan-Meier法が用いられた。ハザード比 (HR) および95%信頼区間 (CI) の推定には、層別Cox回帰モデルが使用された。有効性解析はintention-to-treat (ITT) 集団で実施され、安全性解析は治験薬を少なくとも1回投与された全患者で実施された。
中間解析: 当初、PFSイベントが50% (82イベント) および75% (123イベント) 発生した時点で2回の中間解析が計画されていた。しかし、AF-001JP試験の有望な結果を受けて、プロトコルが改訂され、イベントの33% (55イベント) 発生後に追加の中間解析が組み込まれた。中間解析は独立データ調整センターによって実施され、結果は独立データモニタリング委員会 (IDMC) によって評価された。