- 著者: Kentaro Ito, Osamu Hataji, Hiroyasu Kobayashi, Atsushi Fujiwara, Masamichi Yoshida, Corina N. D’Alessandro-Gabazza, Hidetoshi Itani, Motoaki Tanigawa, Takuya Ikeda, Kentaro Fujiwara, Hajime Fujimoto, Tetsu Kobayashi, Esteban C. Gabazza, Osamu Taguchi, Nobuyuki Yamamoto
- Corresponding author: Esteban C. Gabazza (Department of Immunology, Mie University Graduate School of Medicine, Tsu, Japan)
- 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
- 発行年: 2016
- Epub日: 2016-08-04
- Article種別: Original Article
- PMID: 27498387
背景
ALK (anaplastic lymphoma kinase) 遺伝子再構成は非小細胞肺癌 (NSCLC) の約4%に検出されるドライバー変異である Soda et al. Nature 2007。ALK阻害薬 (ALK-TKI) であるクリゾチニブは、第III相臨床試験において標準化学療法と比較して無増悪生存期間 (PFS) を有意に延長し、ALK陽性NSCLCの一次治療としての地位を確立した Shaw et al. NEnglJMed 2013、Solomon et al. NEnglJMed 2014。しかし、クリゾチニブ治療を受けた患者の大部分は1年以内に耐性を獲得し、特に中枢神経系 (CNS) への進展を伴う再発が頻繁に認められる Costa et al. J Clin Oncol 2015、Ou et al. AnnOncol 2014。
クリゾチニブ耐性を克服するため、セリチニブやアレクチニブといった次世代ALK-TKIが開発され、クリゾチニブ既治療集団において高い有効性を示している Gadgeel et al. LancetOncol 2014、Ou et. al. JClinOncol 2016。特にアレクチニブは、日本人クリゾチニブ未治療集団においても高い臨床活性が報告された (AF-001JP試験) Seto et al. LancetOncol 2013。現在進行中のプロスペクティブ第III相臨床試験 (J-ALEX試験) の中間解析では、アレクチニブ群がクリゾチニブ群と比較してPFSにおいて優位性を示唆する結果が得られているが、全生存期間 (OS) の解析結果が成熟するには時間を要する。
実臨床において、アレクチニブ単独療法とクリゾチニブ単独療法のOSに関する直接比較データ、およびクリゾチニブ不応後のアレクチニブ逐次療法 (sequential therapy) の位置づけは依然として未解明であり、これらの治療戦略が患者のOSに与える影響についての実臨床データが不足している。
目的
本研究は、ALK陽性NSCLC患者の実臨床コホートにおいて、以下の2点を後方視的に明らかにすることを目的とした。(1) アレクチニブ単独療法とクリゾチニブ単独療法のTTF (time to treatment failure)、PFS、およびOSの比較。(2) アレクチニブ単独療法とクリゾチニブ不応後のアレクチニブ逐次療法のOSの比較。
結果
患者背景: 登録された61例の患者の中央年齢は64歳 (範囲 28-89歳) であり、女性が57.4%、喫煙歴なしが59.0%、Stage IVが63.9%、腺癌が86.9%を占めた (Table 1)。クリゾチニブ群とアレクチニブ群の間で、年齢、性別、喫煙歴、病期、PS、ALK検査法に統計的に有意な差は認められなかった。ただし、前治療ライン数においてのみ有意差が認められた (p=0.023)。
客観的奏効率 (ORR): 全体集団におけるORRは、クリゾチニブ群で66.7% (95% CI 47.7-85.7)、アレクチニブ群で80.8% (95% CI 64.5-97.0) であり、統計的に有意な差は認められなかった (p=0.244) (Table 2)。ALK-TKI未治療集団においても、クリゾチニブ群とアレクチニブ群の間でORRに有意差はなかった。
TTFおよびPFS (全患者集団): アレクチニブ群はクリゾチニブ群と比較して、TTFが有意に延長した (中央値 NR vs 7.0ヶ月、HR 0.201; 95% CI 0.091-0.443; p=0.000011) (Figure 1A)。PFSもアレクチニブ群で有意に延長した (p=0.0012) (Figure 1B)。多変量解析では、アレクチニブの使用 (HR 0.235; 95% CI 0.067-0.820; p=0.023) およびIHC陽性 (HR 0.167; 95% CI 0.032-0.870; p=0.034) がTTF延長と独立して関連することが示された (Table 3)。年齢、性別、喫煙歴、PS、病期、脳転移の有無、FISH結果はTTFに有意な影響を与えなかった。
ALK-TKI未治療集団におけるTTF: ALK-TKI未治療集団 (クリゾチニブ群31例、アレクチニブ群15例) において、アレクチニブ群のTTFはクリゾチニブ群と比較して有意に延長した (HR 0.206; 95% CI 0.072-0.590; p=0.0012) (Figure 1C)。
アレクチニブ初回治療とクリゾチニブ不応後アレクチニブ治療の比較: クリゾチニブ不応後にアレクチニブが投与された患者は13例であり、そのうち11例 (84.6%) がアレクチニブに対して部分奏効 (PR) を示した。アレクチニブを初回ALK-TKIとして投与された群と、クリゾチニブ不応後にアレクチニブを投与された群の間でTTFに統計的有意差は認められなかった (Figure 1D)。しかし、クリゾチニブ不応後のアレクチニブ逐次療法群のTTFは、アレクチニブ単独群と比較して延長する傾向が示された (中央値 NR) (Figure 1E)。
OS比較:
- アレクチニブ単独群とクリゾチニブ単独群の比較では、アレクチニブ単独群がOSにおいて有意に優位であった (p=0.0067) (Figure 1F)。
- クリゾチニブ不応後のアレクチニブ逐次療法群は、クリゾチニブ単独群と比較してOSが有意に延長した (p<0.0001) (Figure 1F)。
- クリゾチニブ不応後のアレクチニブ逐次療法群は、アレクチニブ単独群と比較してOSが延長する傾向を示した (p=0.0027) (Figure 1F)。
安全性と忍容性: 治療中止に至った有害事象の発生率は、クリゾチニブ群で42.9%であったのに対し、アレクチニブ群では12.5%と有意に低かった。これにより、実臨床におけるアレクチニブの優れた忍容性が確認された。クリゾチニブ中止に関連する因子は年齢のみであり (p=0.015)、性別、喫煙歴、PS、病期とは関連がなかった。
考察/結論
本研究は、ALK陽性NSCLCの実臨床コホートにおいて、(1) アレクチニブ単独療法がクリゾチニブ単独療法と比較して、TTF、PFS、およびOSの全てで有意に優れること、(2) クリゾチニブ不応後のアレクチニブ逐次療法がアレクチニブ単独療法と比較してOSを延長する傾向を示すこと、を明らかにした日本発の後方視的多施設研究である。
先行研究との違い: 本研究の結果は、J-ALEX試験の中間解析で示されたアレクチニブのPFSにおける優位性を実臨床データで補強するものである。また、これまでの報告ではクリゾチニブ不応後のセリチニブ逐次療法におけるOS延長が示唆されていたが (Chiari R et al, Lung Cancer 2015; Gainor JF et al, Clin Cancer Res 2015)、本研究はアレクチニブを用いた逐次療法においても同様の傾向が認められることを示し、先行研究と機序的に整合する。
新規性: 本研究で初めて、アレクチニブ初回使用と「クリゾチニブを温存し、不応後にアレクチニブを逐次使用する」という2つの戦略のうち、どちらがOSに有利かという臨床的に重要な問題に対し、逐次療法が優位である可能性を示唆する実臨床証拠を新規に提供した点で意義深い。
臨床応用: 本知見は、ALK陽性NSCLC患者の治療戦略を検討する上で重要な臨床的意義を持つ。実臨床現場において、アレクチニブの早期使用、またはクリゾチニブ不応後のアレクチニブ逐次療法が、クリゾチニブ単独療法よりも優れた戦略となり得ることを示唆する。特に、アレクチニブの優れたCNS浸透性が、OS延長に部分的に寄与している可能性も考えられる。
残された課題: しかし、本研究にはいくつかのlimitationが残されている。まず、後方視的デザインであるため、生存バイアス (sequential群の患者はクリゾチニブ治療後もアレクチニブに到達できるほど長期間生存した患者であるため、元々予後が良い集団である可能性) が結果に影響を与えている可能性がある。また、症例数が61例と小規模であること、クリゾチニブ群とアレクチニブ群間で前治療ライン数に有意差があったこと、ALK耐性変異スペクトラムが評価されていないことなども課題である。これらの観察結果を確定するためには、ALEX試験やJ-ALEX試験の最終解析といった大規模なプロスペクティブ試験による確認が必須である。
方法
本研究は、2012年5月から2015年12月にかけて日本の6施設でALK-TKIを投与されたALK陽性NSCLC患者61例を登録した多施設後方視的コホート研究 (retrospective cohort study) である。ALK陽性は、免疫組織化学 (IHC) 染色、FISH (fluorescence in situ hybridization)、またはRT-PCR (reverse-transcriptase polymerase chain reaction) のいずれかによる陽性結果で定義された。クリゾチニブは250 mg 1日2回、アレクチニブは300 mg 1日2回の日本における標準用量で投与された。
TTF、PFS、およびOSはKaplan-Meier法を用いて推定し、log-rank検定により群間差の有意性を評価した。多変量解析にはCox比例ハザードモデルを用い、ハザード比 (HR) および95%信頼区間 (CI) を算出した。患者は、ALK-TKI投与の有無にかかわらず登録され、46例がALK-TKI治療を受けた (クリゾチニブ単独31例、アレクチニブ単独28例、両方13例)。15例はPS (performance status) 不良などの理由でALK-TKI未投与であった。OS解析では、患者を以下の3群に分類した: (1) クリゾチニブ単独群、(2) アレクチニブ単独群、(3) クリゾチニブ不応後のアレクチニブ逐次療法群。腫瘍効果判定はRECIST (Response Evaluation Criteria for Solid Tumors) version 1.1に従って実施された。本研究は、参加した全施設の倫理委員会によって承認された。本研究にはNCT番号は付与されていない。