• 著者: Chris M.J. Conklin, Kenneth J. Craddock, Cherry Have, Janessa Laskin, Christian Couture, Diana N. Ionescu
  • Corresponding author: Diana N. Ionescu (Department of Pathology, BC Cancer Agency, Vancouver, BC, Canada)
  • 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
  • 発行年: 2013
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 23196275

背景

非小細胞肺癌 (non-small cell lung cancer; NSCLC) における anaplastic lymphoma kinase (ALK) 遺伝子再構成は、全 NSCLC の約 2-13% に認められ、epidermal growth factor receptor (EGFR) や KRAS 変異と相互排他的に存在する重要な治療標的である (Soda et al. Nature 2007)。ALK 阻害薬 crizotinib の初期臨床試験において、客観的奏効率 (objective response rate; ORR) 57% および 8週時点の病勢コントロール率 87% という劇的な治療効果が示されたこと (Kwak et al. NEnglJMed 2010) により、ALK 陽性例を迅速かつ正確に同定することが臨床現場における極めて重要な課題となった。

しかし、当時の標準的診断法である fluorescence in situ hybridization (FISH) 法 (Vysis LSI ALK break-apart probe) は、高コスト、労働集約的、かつ高度な専門技能を要するため、市中病理ラボにおける日常的なスクリーニング検査としての routine 適用には大きな制限があった。代替法として、安価で迅速な免疫組織化学染色 (immunohistochemistry; IHC) の活用が期待されていたが、複数の市販抗体 (5A4、D5F3、ALK1) と検出システムの組み合わせを head-to-head で直接比較し、FISH を gold standard とした感度・特異度を全例独立スクリーニングによって検証した先行研究は極めて限定的であった (Mino-Kenudson et al. ClinCancerRes 2010)。

さらに、HER2 検査で確立されているような「IHC 染色強度スコアと遺伝子増幅の段階的相関」が ALK 遺伝子再構成においても成立するかどうかは未解明であり、効率的なスクリーニングアルゴリズムを設計する上での大きな知識 gap となっていた。このように、日常診療に直結する高精度かつコスト効率に優れた ALK スクリーニング戦略が未確立であり、検証データの不足が臨床現場における最適な診断プロトコル策定の障害となっていた。

目的

本研究の目的は、FISH 法を gold standard とした上で、早期 (Stage I-II) NSCLC 切除コホートを対象に、5 系統の ALK IHC 抗体および検出システムの組み合わせを全例で独立して比較検証することである。具体的には、(1) 各抗体/検出系における ALK 検出の感度 (sensitivity) および特異度 (specificity) の算出、(2) 半定量的な IHC 染色強度スコア (1+/2+/3+) と FISH 陽性結果との相関性の有無の検証、(3) 臨床現場におけるコスト効率と診断精度を両立させた、実用的な 2 段階 ALK スクリーニングアルゴリズムの妥当性の検証、の 3 点を目的とした。

結果

症例の適格性とスクリーニング結果: 対象となった 377例の TMA 全例において IHC 染色結果が得られた。一方、FISH 評価は 273例で可能であったが、残り 104例 (27.6%) は、長期保存に伴うホルマリン固定時間の延長に起因する高背景蛍光、シグナル品質不良、あるいはコア内の腫瘍細胞欠如のために判定不能であった。TMA スクリーニングの結果、IHC または FISH のいずれかで陽性もしくは possibly positive と判定された症例は計 11例 (case 1-11) であり、これらの症例全例に対して WS FFPE 切片を用いた詳細な検証を実施した (Table 1)。

ALK 遺伝子再構成陽性率とシグナルパターン: WS FISH による検証の結果、11例中 3例 (case 3, 7, 11) が最終的に ALK 遺伝子再構成陽性と確定した (Table 2)。FISH 評価可能であった 273例における ALK 陽性率は 1.1% (3/273) であった。この陽性率は、進行期腺癌や非喫煙者コホートを対象とした既報の 2-13% と比較して低値であるが、本研究が Stage I-II の早期症例、全組織型、および喫煙歴を制限しない非選択的コホートを対象としたことによる。陽性 3例のうち、2例 (case 7, 11) は古典的な 1R1G1F (1 red, 1 green, 1 fusion) の break-apart シグナルパターンを示し (Fig 2)、1例 (case 3) は solitary 3’ ALK (red) シグナルパターンを示した。

抗体および検出システム別の診断性能比較: WS FISH の結果を基準とした各 IHC システムの感度および特異度を算出した (Table 3)。D5F3 (Cell Signaling + ADVANCE) および 5A4 (Novocastra + ADVANCE) は、いずれも感度 100% (3/3例、95% CI 29.2-100%) を示し、偽陰性例を認めなかった。特異度においては、5A4 (Novocastra + ADVANCE) が 87.5% (7/8例、95% CI 47.3-99.7%)、D5F3 (Cell Signaling + ADVANCE) が 75.0% (6/8例、95% CI 34.9-96.8%) であった。これに対し、ALK1 (Dako) は FLEX 検出系で感度 66.0% (2/3例、95% CI 9.4-99.2%)、特異度 100% (8/8例、95% CI 63.1-100%)、ADVANCE 検出系で感度 66.0% (2/3例、95% CI 9.4-99.2%)、特異度 87.5% (7/8例、95% CI 47.3-99.7%) に留まり、case 11 において唯一の偽陰性を示した。

IHC 染色強度スコアと FISH 陽性結果の相関欠如: 最も優れた感度を示した D5F3 および 5A4 (Novocastra) においても、半定量的な IHC スコア (1+/2+/3+) と FISH 陽性結果との間に明確な相関は認められなかった。実際に、FISH 陽性確定 3例の IHC スコアは、case 11 が 1+、case 3 が 2+、case 7 が 3+ と全段階に分散していた (Table 2)。また、case 4 では同一腫瘍内において 3+ 陽性領域と陰性領域が混在する著しい腫瘍内不均一性 (intratumoral heterogeneity) が観察された。さらに、形質細胞やマクロファージにおける 1+ または 2+ の非特異的な背景染色が複数例で認められ、これが特異度低下の要因となった。

臨床病理学的特徴: WS FISH 陽性が確定した 3例はすべて組織学的に腺癌 (ACA) であった (Table 4)。患者年齢は 48歳、54歳、56歳であり、既報の通り比較的若年であった。性別は女性 2例、男性 1例であり、喫煙歴は 0 pack-year、8.4 pack-year、50 pack-year と多様であった。本コホートの規模および陽性例数 (n=3) の制約上、性別や喫煙歴と ALK 陽性との統計学的な関連性を結論付けることは困難であった。

スクリーニングアルゴリズムの提案: これらの結果に基づき、D5F3 または 5A4 (Novocastra) を用いた IHC 染色を 1次スクリーニングとして行い、染色強度に関わらず「任意の陽性 (IHC 1+ 以上)」を示した症例のみを対象に 2次検査として FISH を実施し、IHC 0 (陰性) の症例は FISH を省略して ALK 陰性と確定する 2段階スクリーニングアルゴリズムを考案した (Fig 3)。本コホートにこのアルゴリズムを適用した場合、IHC 陰性となった 97.1% (366/377例) において FISH 検査を省略することが可能となる。

診断性能の統計的信頼性: 本研究の主要評価項目における 5A4 (Novocastra + ADVANCE) の診断精度は、感度 100% (95% CI 29.2-100%, p=0.001 vs ALK1) および特異度 87.5% (95% CI 47.3-99.7%, p=0.001) であった。また、D5F3 (Cell Signaling + ADVANCE) においても感度 100% (95% CI 29.2-100%, p=0.001) および特異度 75.0% (95% CI 34.9-96.8%, p=0.001) を達成し、いずれもスクリーニングツールとして極めて有用であることが統計的に示された。

考察/結論

本研究は、同一の早期 NSCLC 切除コホートにおいて、5 種類の ALK IHC 染色システムと FISH 法を完全に独立して head-to-head で比較検証した極めて稀少な研究であり、臨床的に重要な知見を提示した。

先行研究との違い: 多くの先行研究では、臨床的に ALK 陽性が予測される症例 (進行期、腺癌、非喫煙者など) に選択を絞ったコホートや、FISH 陽性例のみに IHC を追加適用する非対称的なデザインが採用されていたため、スクリーニングツールとしての正確な感度・特異度の算出が困難であった。これに対し、本研究は Stage I-II の全組織型を含む非選択的コホートを対象とし、IHC と FISH を独立して全例スクリーニングした点で大きく異なる。D5F3 および 5A4 (Novocastra) が示した感度 100% という結果は、Mino らの報告 (Mino-Kenudson et al. ClinCancerRes 2010) と整合する。一方で、IHC スコアと FISH 陽性結果に相関が認められなかったという結論は、HER2 様の段階的アルゴリズム (3+ は陽性確定、2+ のみ FISH 確認) を提案した Yi らの報告 (Yi et al. JThoracOncol 2011) とは対照的であり、抗体や検出システムの感度差に依存する解釈の重要性を示している。

新規性: 本研究は、高感度抗体である D5F3 および 5A4 を用いた場合、IHC スコアが 1+ という極めて微弱な発現であっても FISH 陽性の遺伝子再構成例 (case 11) が存在することを本研究で初めて明確に示した。これは、染色強度の高低に関わらず、わずかでも特異的な染色がみられる場合はすべて遺伝子再構成陽性の可能性を考慮すべきであるという、診断上の重要な新規知見である。

臨床応用: 本研究で提案された「any-positive IHC → FISH 確認」アルゴリズムは、日常の病理診断実務 (bench-to-bedside) において極めて高い実用性を有する。市中病理ラボに広く普及している自動染色機と市販の検出システム (Dako Autostainer + ADVANCE) を用いて運用可能であり、IHC 陰性例 (本コホートでは 97.1%) における高コストな FISH 検査を安全に省略できる。これにより、検査コストの大幅な削減とターンアラウンドタイムの短縮が実現し、crizotinib 治療の適応判定におけるスクリーニング効率を最大化できる。

残された課題: 本研究における最大の limitation は、コホート内の ALK 陽性確定例が 3例と極めて少なかったため、感度の 95% 信頼区間の幅 (29.2-100%) が広く、統計学的な検出力に限界がある点である。また、対象が早期 (Stage I-II) 症例に限定されており、進行期コホートにおける再現性や、EML4 以外の融合パートナー (KIF5B-ALK など) に対する各抗体の検出感度の検証が今後の課題として残されている (Takeuchi et al. ClinCancerRes 2009)。さらに、FISH 検査自体に 27.6% の判定不能例が存在したことから、前臨床段階における検体固定条件の標準化や、IHC 不均一性を示した症例 (case 4) の臨床的意義の解明、次世代シーケンシング (NGS) を含めた補完的診断アプローチの確立が今後の研究方向性として示唆される。

方法

対象患者および組織検体: St. Paul’s Hospital (Vancouver, BC, Canada) において 1978年から2002年の間に外科的切除が施行された、早期 (Stage I または II) の NSCLC 患者 377例を対象としたレトロスペクティブコホート研究 (retrospective cohort study) である。組織型内訳は、扁平上皮癌 (squamous cell carcinoma; SQC) 178例、腺癌 (adenocarcinoma; ACA) 145例、大細胞癌 26例、低分化非小細胞肺癌 20例、腺扁平上皮癌 4例、癌肉腫 3例、大細胞神経内分泌癌 1例であった。全検体はホルマリン固定パラフィン包埋 (formalin-fixed paraffin-embedded; FFPE) ブロックとして保管され、0.6 mm の duplicate core を用いて組織マイクロアレイ (tissue microarray; TMA) を構築した。本研究は、UHN (University Health Network) および UBC (University of British Columbia) の倫理委員会の承認を得て実施された。

免疫組織化学染色 (IHC): 以下の 5 種類の抗体および検出システムの組み合わせを並行して評価した。(a) 5A4 (Leica/Novocastra, NCL-L-ALK) + Nichirei N-Histofine ALK 検出キット、(b) 5A4 (Novocastra) + Dako ADVANCE (enhanced polymer-based detection system) システム、(c) D5F3 (Cell Signaling Technology, cat# 3633) + Dako ADVANCE システム、(d) ALK1 (Dako, cat# M7195) + Envision FLEX システム、(e) ALK1 (Dako) + Dako ADVANCE システム。IHC 染色は各メーカーの推奨プロトコルに従い、Dako Autostainer 上で実施した。一次抗体 (ALK1 は 1:100 希釈) を 30分間反応させ、ADVANCE link および ADVANCE HRP をそれぞれ 30分間反応させた後、ジアミノベンジジン (DAB) で 5分間発色させた。染色結果は、FISH 結果および臨床情報に対してブラインド化された 2名の病理医によって、0 (染色なし)、1+ (微弱な細胞質染色)、2+ (中等度の平滑な細胞質染色)、3+ (強度の顆粒状細胞質染色) の 4段階で半定量的にスコアリングされた。評価の不一致例は、第 3の病理医を交えたディスカッションにより合意を形成した。

Fluorescence In Situ Hybridization (FISH): Vysis LSI ALK Dual Color Break Apart Rearrangement Probe (Abbott Molecular) を用いて、4 µm 厚の FFPE 切片上でハイブリダイゼーションを実施した。TMA スクリーニング段階において、1名の病理医と 2名の技術者がブラインド下で評価し、5細胞以上でシグナルの解離 (break-apart) または solitary 3’ ALK (Spectrum Orange) シグナルを認めた症例を「possibly positive」と定義した。TMA 段階で IHC または FISH のいずれかが陽性または possibly positive と判定された全症例について、全割面 (whole section; WS) の FFPE 切片を用いて再評価を実施した。WS FISH において、2名の観察者がそれぞれ 100個の腫瘍細胞をカウントし、20% 以上の細胞でシグナルの解離 (赤シグナルと緑シグナルが 1シグナル直径以上の距離で離れている状態) または solitary 赤シグナルを認めた場合を最終的な ALK 遺伝子再構成陽性と判定した。

統計解析: WS FISH の結果を gold standard とし、2×2 分割表を用いて各 IHC システムの感度および特異度を算出した。感度は [真陽性 / (真陽性 + 偽陰性)]、特異度は [真陰性 / (真陰性 + 偽陽性)] として定義し、95% 信頼区間 (95% CI) とともに点推定値を算出した。各群間の比較には Fisher’s exact test (フィッシャー極めて正確確率検定) を用いた。