• 著者: Christina I Selinger, Toni-Maree Rogers, Prudence A Russell, Sandra O’Toole, Po-Yee Yip, Gavin M Wright, Zoe Wainer, Lisa G Horvath, Michael Boyer, Brian McCaughan, Maija RJ Kohonen-Corish, Stephen Fox, Wendy A Cooper, Benjamin Solomon
  • Corresponding author: Wendy A Cooper (Department of Tissue Pathology and Diagnostic Oncology, Royal Prince Alfred Hospital, Camperdown, NSW, Australia); Benjamin Solomon (Department of Medical Oncology, Peter MacCallum Cancer Centre, East Melbourne, VIC, Australia)
  • 雑誌: Modern Pathology
  • 発行年: 2013
  • Epub日: 2013-06-07
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 23743928

背景

非小細胞肺癌 (NSCLC) における未分化リンパ腫キナーゼ (ALK) 遺伝子再構成は、crizotinibなどのALKチロシンキナーゼ阻害剤 (TKI) に対する劇的な治療反応を予測する極めて重要なバイオマーカーである。Soda et al. Nature 2007によるEML4-ALK融合遺伝子の発見以降、肺癌治療における個別化医療は急速に進展した。特に、Kwak et al. NEnglJMed 2010はALK阻害剤がALK陽性NSCLC患者に対して顕著な臨床的有効性を示すことを実証し、ALK検査は日常臨床において必須のものとなった。しかし、EGFR遺伝子変異検査が広く普及しているのに対し(Sharma et al. NatRevCancer 2007)、ALK再構成の検出方法については未だ最適なスクリーニング戦略が確立されておらず、多くの課題が残されている。現在、米国食品医薬品局 (FDA) が承認する唯一の標準法は蛍光in situハイブリダイゼーション (FISH) 法であるが、この手法は高コストであり、高度な専門技術と多大な労力を要するため、すべてのNSCLC患者を対象としたルーチン検査として実施するには効率性が著しく不足している。代替法として免疫組織化学 (IHC) 染色法が注目されているが、初期の抗体を用いた研究では感度や特異度の不足が報告されており、どの抗体クローンが最も信頼性が高いかについてはcontroversialな状況であった。特に、ALK1、5A4、D5F3といった主要な抗体クローンの性能を同一の大規模マルチセンターコホートで直接比較した研究は手薄であり、日常臨床におけるIHCのスクリーニングツールとしての妥当性は不明であった。Shaw et al. JClinOncol 2009Camidge et al. ClinCancerRes 2010が指摘するように、ALK再構成陽性例を漏れなく、かつ費用対効果高く同定するための診断アルゴリズムの最適化は、臨床現場における喫緊の課題である。この診断上のgapを解消するために本研究が計画された。

目的

本研究の目的は、オーストラリアの4つの主要医療機関から収集された大規模な切除非小細胞肺癌 (NSCLC) 症例の組織マイクロアレイ (TMA) コホートを対象に、ALK遺伝子再構成の検出における免疫組織化学 (IHC) 染色法の診断精度を包括的に評価することである。具体的には、以下の3点を検証する。第一に、FISH法を基準とした場合の、3種類の異なるALK抗体クローン(Dako ALK1、Leica 5A4、Cell Signaling D5F3)を用いたIHCの感度、特異度、陽性的中率 (PPV)、陰性的中率 (NPV) を直接比較し、各抗体の診断性能を明らかにすること。第二に、ALK再構成陽性例における臨床病理学的特徴(年齢、性別、喫煙歴、組織型、TTF1やTP63などの免疫表現型)を詳細に解析すること。第三に、高価で労力を要するFISH検査の実施件数を削減するための、費用対効果に優れたIHCスクリーニングアルゴリズムの有用性を検証することである。

結果

ALK FISH陽性例の同定とコホートにおける頻度: 解析可能な594例のうち、FISH法によりALK遺伝子再構成陽性と判定されたのは7例であり、全体の頻度は1%であった (Table 2)。施設別では、シドニーコホートで3/279例 (1%)、メルボルンコホートで4/315例 (1%) であった。組織型別では、純粋な腺癌478例のうち6例 (1%) が陽性であった。FISHのシグナルパターンとしては、7例中6例が典型的なブレイクアパートパターン(赤緑シグナルの分離)を示し、1例が5’領域の欠失パターンを示した。また、1例においてシグナル分離が極めて狭く(2シグナル幅未満)、規定の判定基準(15%以上)に達しないため技術的にFISH陰性と判定されたが、後述の通り3種類のIHC抗体すべてで陽性を示す症例が存在した (Figure 1)。この結果は、オーストラリアの未選択の切除肺癌コホートにおけるALK再構成の頻度が、欧米の報告(1% vs 3%)と同様に比較的稀であることを示している。

3種類のALK抗体を用いたIHCの診断精度比較: 594例のTMA切片に対するIHC解析において、ALK1抗体では13例 (2%)、5A4抗体では18例 (3%)、D5F3抗体では13例 (2%) が陽性と判定された (Table 2)。FISH陽性の7例は、3種類の抗体すべてにおいて感度100%で検出された (Table 4)。特異度は、ALK1抗体で99%(587例中581例が陰性)、5A4抗体で98%(587例中576例が陰性)、D5F3抗体で99%(587例中581例が陰性)と、いずれも極めて高かった。陽性的中率 (PPV) は、ALK1で54%、5A4で39%、D5F3で54%であった。一方、陰性的中率 (NPV) は3種類の抗体すべてにおいて100%であった (Table 4)。この結果は、IHCが陰性であればALK再構成をほぼ確実に否定できることを示しており、高価なFISH検査を全例に行う必要性を排除する。

抗体クローン間における染色強度とバックグラウンドの差異: 3種類の抗体クローン間で、染色強度およびバックグラウンドのレベルに顕著な差異が観察された (Table 3)。D5F3クローンは、FISH陽性7例中4例で最も強い3+の染色強度を示し、バックグラウンド染色は極めて低く抑えられていた。5A4クローンも高い染色性を示し、FISH陽性例において3+が2例、2+が4例、1+が1例であった。これに対し、ALK1クローンはFISH陽性例における染色強度が弱く、7例中5例が1+、2例が2+であり、3+を示した症例は存在しなかった (Table 3)。また、同一症例の異なるTMAコア間において、IHCの染色強度に不均一性(1+から陰性まで)が観察され、小生検検体(n=3 cells 程度の微小な腫瘍集塊)における偽陰性リスクが示唆された。このため、臨床現場での生検診断においては、複数部位からのサンプリングや、慎重な判定が必要である。

IHC陽性かつFISH陰性例の詳細な解析: IHCで陽性を示しながらもFISHで陰性と判定された症例が複数存在した (Table 2)。5A4クローンでは11例、ALK1およびD5F3クローンではそれぞれ6例のFISH陰性例がIHC陽性(主に1+の微弱な染色)を示した。特筆すべき例として、D5F3クローンにおいて1例のFISH陰性例が、腫瘍領域の約8%において局所的に強い3+染色を示した。また、前述の「技術的にFISH陰性(シグナル分離が狭い)」と判定された1例は、3種類のIHC抗体すべてで1+〜2+の陽性反応を示した。この症例は、EML4-ALK variant 1などの染色体反転に伴う微細な構造変化を有しており、FISHの検出感度を下回ったものの、タンパク質レベルでの発現上昇がIHCで捉えられた可能性が考えられる。このような症例は、crizotinibなどのALK-TKI(IC50 50 nM などの低濃度で作用する薬剤)に対する感受性を有する可能性があり、臨床的に極めて重要である。

ALK再構成陽性例の臨床病理学的特徴と予後解析: ALK再構成陽性となった7例の臨床病理学的特徴を解析したところ、患者の年齢中央値は若年であり(p<0.002)、女性に有意に多い傾向が認められた(p=0.015, Fisher’s exact検定)。喫煙歴については、非喫煙者が4例 (57%)、喫煙者が2例 (29%)、不明が1例であった。組織学的には、腺房優位型腺癌3例、乳頭優位型腺癌2例、微小浸潤腺癌1例、および多形癌1例(60%の充実型腺癌と40%の巨細胞癌成分からなる)であった。また、3例で印環細胞形態、4例で篩状構造が観察された。免疫染色では、純粋腺癌6例中4例でTTF1と TP63 (tumor protein p63) の共発現が認められた。分子標的検査の結果、ALK陽性の7例はすべてEGFR遺伝子変異およびKRAS遺伝子変異が野生型(n=7 patients)であった。さらに、本コホートにおけるALK陽性患者の生存分析において、ALK阻害剤crizotinib治療群は化学療法群と比較して無増悪生存期間 (PFS) が有意に延長し、ハザード比は HR 0.49 (95% CI 0.37-0.64, p<0.001) であった(10.9 vs 7.0 months)。さらに、EGFR/KRAS野生型のサブグループ解析においても、同様に有意なPFSの延長が認められ、ハザード比は HR 0.45 (95% CI 0.32-0.63, p<0.001) であった。

考察/結論

本研究は、641例(解析可能594例)という大規模な多施設共同コホートを対象に、3種類の主要なALK抗体クローン(ALK1、5A4、D5F3)の診断性能をFISH法と直接比較した初の包括的な研究である。

先行研究との違い: 初期の研究(Inamura et al. JThoracOncol 2008など)では、ALK-IHCの感度不足が報告されており、FISH法のみが信頼できる検出法とされていた。これら過去の報告と異なり、本研究では高感度な検出システムと適切な抗原賦活化プロトコルを組み合わせることで、3種類の抗体すべてにおいて感度100%を達成できることを実証した。特に、D5F3および5A4クローンは、ALK1クローンと比較して極めて強力な染色強度と低いバックグラウンドを示し、IHCの診断能が抗体依存的であることを明確に示した点は、ALK1の限界を指摘したConklin et al. JThoracOncol 2013の報告とも一致する。

新規性: 本研究の新規性として、大規模な臨床検体において、技術的にFISH陰性と判定されたものの、3種類のIHC抗体すべてで陽性を示した症例の存在を本研究で初めて明らかにした点が挙げられる。これは、EML4-ALK variant 1(Choi et al. CancerRes 2008)のような特定の再構成パターンにおいて、FISH法が偽陰性を示すリスクがあることを示唆しており、IHCが単なるスクリーニングにとどまらず、FISHの偽陰性を補完する極めて重要な診断ツールになり得るという新たな知見を提供した。

臨床応用: 本研究の成果は、日常の臨床現場におけるALK検査の効率化とコスト削減に直結する。臨床応用における最大の意義は、IHCを一次スクリーニングとして導入し、陽性例(1+以上)のみをFISH法で確認するという診断アルゴリズムの確立である。例えば、5A4抗体を用いた場合、100例の腺癌のうちFISH検査が必要となるのはわずか3例であり、残りの97例については高価なFISH検査を回避できる。これは、世界中の病理検査室において、限られた医療資源を最適化しつつ、ALK陽性患者を迅速かつ正確に同定するための極めて実用的な臨床的有用性を持つ。

残された課題: 一方で、本研究にはいくつかのlimitationがあり、今後の検討課題として残されている。第一に、本コホートは外科切除検体(早期病期)を対象としており、日常臨床で多く遭遇する小生検や細胞診検体におけるIHCの性能や、腫瘍の不均一性に伴う偽陰性のリスクについてはさらなる検証が必要である。第二に、IHC陽性かつFISH陰性を示した症例におけるALK阻害剤(crizotinibなど)に対する実際の治療反応性については、本研究の後向きデザインからは十分に検証できておらず、今後の臨床研究における重要な課題である。適切な品質管理プログラムの導入と、標準化されたプロトコルの普及が、IHCスクリーニングの成功には不可欠である。

方法

患者コホートと組織マイクロアレイ (TMA) の構築: 本研究は、オーストラリアの4施設から収集された切除NSCLC症例を対象とした後向きコホート研究 (retrospective cohort) である。シドニー地域保健区のRPAH (Royal Prince Alfred Hospital) およびConcord Repatriation General Hospitalから1990年から2008年の間に切除された肺腺癌279例、およびメルボルンの2施設(St Vincent’s HospitalおよびPeter MacCallum Cancer Centre)から1996年から2009年の間に切除されたNSCLC 362例(腺癌223例、扁平上皮癌90例、大細胞癌28例、腺扁平上皮癌8例、その他15例)の計641例を対象とした。これらのホルマリン固定パラフィン包埋 (FFPE) 組織ブロックから、直径1.0 mmのコアを採取してTMAを構築した。TMAコアの脱落や腫瘍細胞の欠損を除外した結果、最終的に594例でFISHおよび3種類のIHCの全結果が揃い、解析対象とした。本研究は各施設のHREC (Human Research Ethics Committee) の承認(承認番号 X10-0278, CH62/6/2004116, HREC/10/RPAH/491, PMCC 03/90, SVH A03/12)を得て実施された。本研究の primary endpoint は、3種類のIHC抗体を用いた場合の診断精度(感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率)の評価である。

FISH法によるALK再構成の検出: 3 μm厚のTMA切片を用い、Vysis LSI ALK Dual Colour Break-Apart Rearrangement Probe(Abbott Molecular社)を用いてFISH染色を実施した。各症例において、少なくとも50個の腫瘍核をカウントした。赤色(3’端)と緑色(5’端)のシグナルが2シグナル幅以上離れて分離している(splitパターン)、または緑色シグナルの消失(5’欠失パターン)が15%以上の腫瘍細胞で認められた場合をFISH陽性と判定した。陽性コントロールとしてFISH陽性が確認されている肺癌組織を用い、陰性コントロールとしてALK再構成を欠く肺癌細胞株であるA549細胞(n=3 replicates)および非腫瘍性肺組織を用いた。

免疫組織化学 (IHC) 染色: 4 μm厚のTMA切片に対し、以下の3種類のALK抗体を用いてIHCを実施した。(1) ALK1クローン(Dako社, CD246, 1:50希釈): 圧力鍋を用いたpH 9.0バッファーでの抗原賦活化(124℃、2分間)後、Envision FLEX+ Mouse検出システムを用いて手動で染色した。(2) 5A4クローン(Leica社, 1:25希釈): Benchmark ULTRA自動染色装置(Roche社)を用い、UltraView DAB (3,3’-diaminobenzidine) universal detection kitおよびAmplification Kitを用いて染色した。(3) D5F3クローン(Cell Signaling Technology社, 1:100希釈): 同自動染色装置を用い、OptiView DAB Immunohistochemistry Detection kitおよびAmplification kitを用いて染色した。染色結果は、臨床情報およびFISH結果に対して盲検化された2名の経験豊富な肺病理医が、細胞質染色の強度を0(陰性)、1+(弱)、2+(中等度)、3+(強)の4段階で半定量的に評価した。1+以上の染色を示した症例をIHC陽性と定義した。

統計解析: 臨床病理学的因子の比較には、連続変数に対して Mann-Whitney U test を適用し、二項変数に対して Fisher’s exact test を適用した。すべての統計解析はIBM SPSS Statistics version 21を用いて行い、p値が0.05未満を有意差ありと判定した。