• 著者: James Chih-Hsin Yang
  • Corresponding author: James Chih-Hsin Yang (Department of Oncology, National Taiwan University Hospital, National Taiwan University, Taipei, Taiwan)
  • 雑誌: Lancet Oncology
  • 発行年: 2013
  • Epub日: 2013-04-30
  • Article種別: Commentary
  • PMID: 23639469

背景

未分化リンパ腫キナーゼ (ALK) は、元々1994年にCD30陽性未分化大細胞リンパ腫において、ヌクレオフォスミン (NPM) との融合タンパク質 (NPM-ALK) として同定された受容体型チロシンキナーゼである。その後、2007年にSoda et al. Nature 2007が非小細胞肺がん (NSCLC) 患者75例中5例 (6.7%) にEML4-ALK融合遺伝子を発見し、その前臨床モデルにおける発がん性が示された。この発見は、ALK融合遺伝子がNSCLCの新たな治療標的となる可能性を示唆した。

ALK融合遺伝子陽性NSCLCに対する治療薬として、MET、ALK、ROS1を阻害する小分子チロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) であるクリゾチニブ (crizotinib, PF02341066) が開発された。クリゾチニブの第1相試験では、ALK再構成NSCLC患者において60.8% (143例中87例) の客観的奏効率 (ORR) と、9.7か月の無増悪生存期間 (PFS) 中央値が報告された。さらに、第3相無作為化比較試験であるPROFILE 1007では、クリゾチニブがドセタキセルまたはペメトレキセドによる化学療法と比較して、PFSにおいて有意な優越性を示した (PFS中央値 7.7か月 vs 3.0か月、ハザード比 [HR] 0.49)。これらの結果は、ALK阻害薬がALK再構成NSCLC患者の治療に革命をもたらすことを明確に示した。

しかしながら、クリゾチニブ治療においては、原発性または後天性の耐性獲得が大きな課題として残されている。既知の耐性メカニズムとしては、ゲートキーパー変異であるLeu1196Met、Gly1269Ala、Gly1202Arg、Ser1206TyrなどのALKキナーゼドメイン変異、EML4-ALK融合遺伝子の増幅、およびEGFR活性化/変異、KRAS変異、KIT遺伝子増幅などのバイパス経路の出現が同定されている。これらの耐性メカニズムは、クリゾチニブの治療効果を限定し、新たな治療戦略の必要性を示唆している。特に、既存のドライバー変異や増幅された経路遺伝子が耐性にどのように寄与するかについては、依然として未解明な点が多く、さらなる研究が不足している状況である。

目的

本解説は、Seto et al. LancetOncol 2013によって同誌に掲載された、選択的ALK阻害薬CH5424802 (後のアレクチニブ) の日本人クリゾチニブ未治療ALK再構成NSCLC患者を対象とした第1/2相試験 (AF-001JP) の成績について評価・考察することを目的とする。具体的には、CH5424802の選択的ALK阻害薬としての位置付け、クリゾチニブとの比較における利点と課題、および今後の開発戦略について論じる。本解説は、新たなALK阻害薬がクリゾチニブ耐性克服に貢献しうる可能性を検討し、ALK再構成NSCLC治療の進展におけるCH5424802の意義を明確にすることを意図している。

結果

CH5424802の日本人ALK再構成NSCLC患者における高い奏効率: Seto et al. LancetOncol 2013によるAF-001JP試験の第2相パートでは、クリゾチニブ未治療のALK再構成NSCLC患者46例を対象にCH5424802が投与された。その結果、客観的奏効率 (ORR) は93.5% (46例中43例) と非常に高い値を示した。これは、先行するクリゾチニブの第1相試験で報告されたORR 60.8% (143例中87例) を大きく上回るものであり、CH5424802がALK再構成NSCLCに対して極めて強力な抗腫瘍活性を持つことを示唆している。この高い奏効率は、ALK阻害薬ナイーブな患者における腫瘍細胞の均一性とALK駆動経路への依存性が高いことを示唆すると考察される。

良好な安全性プロファイルとオフターゲット効果の低減: CH5424802の安全性プロファイルは良好であり、グレード3以上の治療関連有害事象は患者の約25%にのみ認められた。これは、クリゾチニブで報告されている視覚障害、浮腫、嘔吐といったオフターゲット効果に関連する有害事象がCH5424802では見られなかったことと対照的である。CH5424802は、合理的な薬剤設計によって開発された選択的ALK阻害薬であり、METや他のキナーゼに対するオフターゲット阻害作用が少ないことが、この良好な安全性プロファイルに寄与していると考えられる。この結果は、患者の忍容性を高め、長期的な治療継続に貢献する可能性がある。

クリゾチニブ耐性変異に対する有効性: In vitro試験において、CH5424802はクリゾチニブ耐性に関連する様々なALK変異、例えばゲートキーパー変異であるLeu1196Met、Cys1156Tyr、Phe1174Leuなどを低濃度で阻害することが示されている。このことは、CH5424802がクリゾチニブ耐性変異を持つマイノリティクローンに対しても有効である可能性を示唆している。また、EML4-ALK遺伝子増幅を有するNSCLC細胞においても、CH54244802が強力な阻害作用を示すことが報告されている。これらのin vitroデータは、CH5424802がクリゾチニブ耐性克服の新たな選択肢となる可能性を裏付けるものである。

脳転移に対する効果の可能性: AF-001JP試験の予備的報告では、CH5424802が脳転移の制御にも有効である可能性が示唆された。これは、ALK再構成NSCLC患者において脳転移が頻繁に発生し、既存のALK阻害薬では十分な効果が得られない場合があるため、重要な知見である。ただし、この観察は予備的な段階であり、脳転移に対するCH5424802の有効性については、今後のさらなる検証が必要であるとされている。高用量のCH5424802が中枢神経系 (CNS) への移行性を高め、脳転移の制御に寄与する可能性も考察されている。

用量設定に関する課題: AF-001JP試験の第1相パートでは、日本の規制により用量漸増が1日2回300 mgで上限とされた。この用量がALK再構成NSCLC患者にとって生物学的に最適な用量であるかどうかは不明である。しかし、この用量レベルで93.5%という高い奏効率と十分な血漿中濃度が達成されたことは、今後の開発においてこの用量レベルが支持される可能性を示唆している。現在、北米での第1相試験 (NCT01588028) において、より高用量のCH5424802の安全性と有効性が検討されており、高用量戦略がCNS転移の制御や耐性変異の出現遅延に有利に働く可能性が期待される。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究で評価されたCH5424802は、クリゾチニブと比較して、より高い選択性と、in vitroにおけるクリゾチニブ耐性ALK変異に対する強力な阻害能を示す点で異なる。クリゾチニブがMETやROS1も阻害するのに対し、CH5424802は選択的にALKを阻害するため、オフターゲット効果が少なく、より良好な安全性プロファイルを持つ可能性が示唆される。この選択性は、ALK阻害薬ナイーブな患者において、バイパス経路の寄与が限定的であるという本研究の考察を支持する。

新規性: CH5424802は、合理的な薬剤設計によって開発された新規の選択的ALK阻害薬であり、AF-001JP試験においてクリゾチニブ未治療のALK再構成NSCLC患者で93.5%という極めて高いORRを示したことは、これまでのALK阻害薬の臨床成績と比較しても新規かつ画期的な結果である。特に、Leu1196Metなどのクリゾチニブ耐性変異を低濃度で阻害できる能力は、本薬剤の大きな新規性であり、クリゾチニブ耐性克服の可能性を初めて臨床的に示唆するものである。

臨床応用: CH5424802の非常に高い奏効率と良好な安全性プロファイルは、ALK再構成NSCLC患者の治療に大きな臨床的意義を持つ。特に、クリゾチニブ耐性変異に対する有効性がin vitroで示されていることから、将来的にはクリゾチニブ耐性患者に対する治療選択肢となる可能性が高い。また、脳転移に対する効果の可能性も示唆されており、これはALK再構成NSCLC患者の予後改善に直結する重要な知見である。本薬剤は、ALK再構成NSCLCの治療ランドスケープを大きく変革し、患者のQOL向上と生存期間延長に貢献する臨床応用が期待される。

残された課題: 今後の検討課題として、CH5424802の奏効期間がクリゾチニブと比較してどの程度であるか、長期的なデータが必要である。また、クリゾチニブとの直接比較試験 (head-to-head RCT) を実施し、両薬剤の優劣を明確にすることが必須である。脳転移に対する効果についても、さらなる検証が求められる。用量設定に関しては、日本の規制により300 mg BIDが上限とされたが、これが生物学的に最適な用量であるかは不明であり、北米での高用量検討試験の結果が待たれる。高用量戦略がCNS転移の制御や耐性変異の出現遅延に有利に働く可能性はあるが、バイパス経路の出現をどの程度抑制できるかは未解明である。ALK再構成NSCLCという比較的小規模な患者集団において複数の薬剤を開発することは挑戦的であり、個別化された逐次治療や併用療法の戦略を緊急に確立することが、残された課題である。

方法

本稿は、Seto et al. LancetOncol 2013が報告したCH5424802 (アレクチニブ) の第1/2相試験 (AF-001JP) の結果を基に、その臨床的意義を評価する解説論文である。AF-001JP試験は、クリゾチニブ未治療のALK再構成進行NSCLC患者を対象とした単群非盲検試験であり、主要評価項目は安全性と忍容性、副次評価項目はORR、PFS、奏効期間 (DoR) であった。本解説では、AF-001JP試験のデータに加え、先行研究としてクリゾチニブの臨床試験結果やALK阻害薬耐性メカニズムに関する報告、およびCH5424802のin vitro薬理学的特性に関するデータが参照された。

具体的には、Camidge et al. LancetOncol 2012によるクリゾチニブ第1相試験の更新結果や、PROFILE 1007試験のデータがクリゾチニブの有効性および安全性プロファイルの比較対象として用いられた。また、Doebele et al. ClinCancerRes 2012らが報告したクリゾチニブ耐性メカニズムに関する知見が、CH5424802の耐性変異に対する有効性の考察の基礎となっている。CH5424802の選択性および耐性変異阻害能については、Sakamoto et al. CancerCell 2011らによるin vitro研究の結果が引用されている。

本解説は、特定の統計解析手法を用いたものではなく、既存の臨床試験および基礎研究データを統合的に評価し、CH5424802の臨床的有用性、クリゾチニブとの比較における優位性、および今後の開発における課題について専門家の視点から考察を加えることを主眼としている。特に、日本人患者におけるCH5424802の用量設定に関する課題や、北米での第1相試験 (ClinicalTrials.gov, number NCT01588028) の進捗についても言及されている。