- 著者: Camidge DR, Bang YJ, Kwak EL, Iafrate AJ, Varella-Garcia M, Fox SB, Riely GJ, Solomon B, Ou SH, Kim DW, Salgia R, Fidias P, Engelman JA, Gandhi L, Jänne PA, Costa DB, Shapiro GI, Lorusso P, Ruffner K, Stephenson P, Tang Y, Wilner K, Clark JW, Shaw AT
- Corresponding author: Camidge DR (University of Colorado Denver, Aurora, CO, USA); Shaw AT (Massachusetts General Hospital, Boston, MA, USA)
- 雑誌: Lancet Oncology
- 発行年: 2012
- Epub日: 2012-09-24
- Article種別: Original Article
- PMID: 22954507
背景
EML4-ALK融合遺伝子は2007年にSoda et al. Nature 2007により肺癌の発癌ドライバーとして発見され、その後の研究で非小細胞肺癌 (NSCLC) の3〜5%に存在することが確認された。EML4-ALKは若年・非喫煙・腺癌という特定の臨床病理学的プロファイルと関連することがShaw et al. JClinOncol 2009により報告されている。2007年にはRikova et al. Cell 2007がリン酸化プロテオミクス解析によりALKを肺癌の重要なキナーゼとして同定し、NSCLC診断・治療の新たな分子マーカーとして注目されていた。しかし、ALK陽性NSCLCに対する効果的な治療戦略は当時まだ十分に確立されていなかった。
クリゾチニブ (PF-02341066; Pfizer) はALKとc-Metの両方を強力に阻害するATP競合型小分子阻害剤として開発された。IC50値は5〜25 nmol/Lであり、120を超えるキナーゼでの試験でALKおよびc-Metに対して20倍以上の選択性を持つことが示された。2006年に開始されたPROFILE 1001試験のALK陽性NSCLCコホートでは、最初の19例で客観的奏効率 (ORR) 53%が報告され (Kwak et al., ASCO 2009 abstract)、続く82例ではORR 57%がKwak et al. NEnglJMed 2010により報告され、ALK陽性NSCLCへの顕著な有効性が世界的に注目を集めた。この迅速な臨床的有効性を受けて、米国食品医薬品局 (FDA) は2011年8月にアレルギー申請を経ずにアクセラレーテッド承認を付与した。
しかし、これらの初期報告は比較的少数の患者を対象としたものであり、より大規模なコホートでの長期的な有効性、特に無増悪生存期間 (PFS) 中央値や全生存期間 (OS) の推定、および詳細な安全性プロファイルのデータが不足していた。また、治療ラインや患者背景による効果の差異、病勢進行後の治療継続の可能性、およびクリゾチニブに特有の有害事象の詳細な特徴付けについても未解明な点が残されていた。本報告は2011年6月時点でのデータカットオフによる更新解析であり、初期報告 (82例) から大幅に拡大した149例のコホートで、より成熟したアウトカムデータを提供することを目的とした。これにより、クリゾチニブの臨床的有用性をより深く理解し、今後の治療戦略の確立に貢献することが期待された。
目的
本研究の目的は、PROFILE 1001試験のALK陽性NSCLCコホートにおけるクリゾチニブの更新された有効性および安全性プロファイルを詳細に報告することである。具体的には、149例の拡大された患者集団における客観的奏効率 (ORR)、奏効期間中央値 (mDOR)、無増悪生存期間 (PFS) 中央値、および6ヶ月・12ヶ月全生存率の推定値を提示する。さらに、治療ライン、年齢、性別、ECOGパフォーマンスステータス (PS) などの患者特性別のサブグループ解析を通じて、クリゾチニブの有効性がこれらの因子に依存しない普遍的なものであるかを検証する。
また、クリゾチニブの安全性プロファイルを詳細に評価し、治療関連有害事象の発生頻度、重症度、発現時期、および管理方法について記述する。特に、クリゾチニブに特徴的な視覚障害の詳細な特徴付けを行う。加えて、RECIST基準による病勢進行後もクリゾチニブ治療が継続された患者群における臨床的ベネフィットの可能性と、その際の進行部位のパターンを探索的に解析し、治療戦略への示唆を得ることも目的とする。これらの目的を達成することで、ALK陽性NSCLC患者に対するクリゾチニブの臨床的価値をより明確に位置づけることを目指す。
結果
患者背景と治療状況: 2008年8月27日から2011年6月1日までに、合計149例のALK陽性NSCLC患者が本試験に登録された。患者の年齢中央値は52歳 (範囲 21〜86歳) であり、男性49%、女性51%であった。人種の内訳は白人64%、アジア人28%であった。非喫煙者が71%を占め、組織型は97%が腺癌であった。ECOG PS 0が38%、PS 1が50%、PS ≥2が12%であった。前治療ライン数の中央値は2 (範囲 0〜7) であり、1次治療としてクリゾチニブを投与された患者は24例 (16%) であった (Table 1)。データカットオフ時点で、治療期間中央値は43.1週 (範囲 0.1〜138.6) であり、82例 (55%) が治療継続中であった。このうち52例はRECIST基準での病勢進行を経験していなかった。
客観的奏効率 (ORR) と迅速な奏効: 奏効評価可能集団143例 (149例中6例は適切なベースラインスキャンなし) において、ORRは60.8% (87/143例; 95% CI 52.3-68.9%) であった。内訳は完全奏効 (CR) が3例 (2.1%)、部分奏効 (PR) が84例 (59.2%) であった。病勢コントロール率 (CR+PR+安定病変 [SD]) は、8週時点で82.5% (118/143例; 95% CI 75.3-88.4%)、16週時点で70.6% (101/143例; 95% CI 62.4-77.9%) であった。測定可能病変を有する133例のウォーターフォールプロットでは、125例 (94%) が何らかの腫瘍縮小を示した (Figure 1)。初回客観的奏効までの期間中央値は7.9週 (範囲 2.1〜39.6) であり、これは最初のプロトコル規定評価時点であった。一部の患者では、非プロトコル規定スキャンにより服薬から数日での迅速な奏効が確認された。
奏効持続期間 (DOR): 奏効を達成した87例における奏効期間中央値は49.1週 (95% CI 39.3-75.4) と推定された (Kaplan-Meier法)。データカットオフ時点で、奏効した患者のうち46例 (53%) が病勢進行または死亡を経験しており、41例 (47%) が奏効を継続中であった。
サブグループ別ORR: ORRは、年齢 (<65歳: 60.2% vs ≥65歳: 65.0%)、性別 (男性: 64.8% vs 女性: 56.9%)、ECOG PS (PS 0: 54.7%、PS 1: 63.9%、PS 2: 66.7%)、および前治療ライン数 (0ライン: 63.6%、1ライン: 59.1%、2ライン: 64.5%、≥3ライン: 58.7%) によらず、概ね一貫して高かった (Table 2)。特筆すべきは、アジア人患者におけるORRが76.9% (30/39例) であり、非アジア人患者の54.8% (57/104例) と比較して高い傾向が認められた。
無増悪生存期間 (PFS): 全149例 (少なくとも1回服薬) におけるPFS中央値は9.7ヶ月 (95% CI 7.7-12.8) であった (Figure 2)。PFSの追跡期間中央値は16.3ヶ月 (95% CI 13.8-18.4) であった。PFSイベント (病勢進行または死亡) は85件発生し、64例が打ち切りとされた。サブグループ解析では、1次治療としてクリゾチニブを投与された患者 (n=24) のPFS中央値は18.3ヶ月 (95% CI 8.3〜評価不能) であり、2次治療以降の患者 (n=125) のPFS中央値9.2ヶ月 (95% CI 7.3-12.7) と比較して長い傾向が示された。
全生存期間 (OS) の推定: データカットオフ時点で、全生存期間中央値は未到達であった。149例中101例 (68%) が生存しており、46例 (31%) が死亡、2例 (1%) が打ち切りとされた。OSの追跡期間中央値は16.6ヶ月 (95% CI 15.0-18.6) であった。推定される6ヶ月OSは87.9% (95% CI 81.3-92.3)、12ヶ月OSは74.8% (95% CI 66.4-81.5) であった。
RECIST進行後の治療継続と進行部位: 研究者が「継続的臨床的利益あり」と判断した69例の病勢進行患者のうち、39例 (56%) がRECIST進行後も2週間以上クリゾチニブ治療を継続した (Table 3, Figure 3)。このうち12例は、初回研究者定義の病勢進行から少なくとも6ヶ月以上治療を継続した。これらの39例における初期進行部位 (標的病変を除く) として最も多かったのは脳 (n=10, 26%) であり、次いで肺 (n=5, 13%)、肝臓 (n=3, 8%) であった。
安全性プロファイル: 全149例中144例 (97%) が治療関連有害事象 (TRAE) を経験したが、108例はGrade 1または2のみであった (Table 4)。最も頻繁に報告されたTRAE (任意グレード) は、視覚障害 (96例, 64%)、悪心 (84例, 56%)、下痢 (74例, 50%)、嘔吐 (58例, 39%)、末梢浮腫 (44例, 30%)、便秘 (41例, 28%) であった。
視覚障害の詳細: 視覚障害はすべてGrade 1または2であり、用量中断、減量、中止を要するものはなかった。発現までの期間中央値は14.5日であった。患者はこれを光の軌跡、閃光、短い残像、高コントラスト画像の明暗反転として記述した。通常、視野の辺縁で発生し、暗い場所から明るい場所へ移動する際に最も顕著であった。
Grade 3/4 TRAE: Grade 3または4のTRAEは36例 (24%) に発現した。主なものは好中球減少 (9例、Grade 4含む)、アラニンアミノトランスフェラーゼ (ALT) 上昇 (6例、Grade 4含む)、低リン血症 (6例)、リンパ球減少 (6例)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ (AST) 上昇 (5例)、肺臓炎 (3例、Grade 4含む) であった。10例 (7%) がTRAEにより用量減量を要し、主にALT/AST上昇と好中球減少が原因であった。永続的な投与中止は3例 (肺臓炎2例、ALT上昇1例) であった。治療関連死は報告されなかった。
考察/結論
本試験の意義と先行研究との違い: PROFILE 1001更新解析は、初期報告 (82例、ORR 57%) から149例にコホートを拡大し、ORR 60.8% (95% CI 52.3-68.9%) およびPFS中央値9.7ヶ月 (95% CI 7.7-12.8) という重要な数値を確立した。これらのデータは、その後のランダム化試験 (PROFILE 1007: クリゾチニブ vs 化学療法2次治療、PROFILE 1014: 1次治療) の対照群設計、検出力計算、および仮説設定の根拠として直接使用された。特にPFS中央値9.7ヶ月は、PROFILE 1014試験でのクリゾチニブ対照群mPFS 10.9ヶ月とほぼ一致しており、本解析の予測精度が高かったことを示している。これは、従来の化学療法と比較して、ALK陽性NSCLC患者に対するクリゾチニブの優位性を明確にする上で極めて重要な知見である。従来のNSCLC治療における1年生存率は50%を下回ることが多く、本研究で示された12ヶ月OS 74.8% (95% CI 66.4-81.5) は、これまでの治療成績と対照的であり、クリゾチニブの顕著な臨床的有用性を示唆する。
新規性: 本研究で初めて、クリゾチニブの有効性が治療ライン、年齢、性別、ECOG PSに依存しない普遍的なものであることが大規模コホートで実証された。1次治療から4ライン以上まで治療ライン別のORRが58〜64%と一貫しており、ALK陽性という分子的選択が治療効果の最大の規定因子であることを裏付けた。これはEGFR-TKIでも同様に観察されたパターンであり、分子標的薬の有効性が先行治療ラインに依存しないという新規のコンセプトを支持する。また、アジア人患者でORRが76.9%と非アジア人患者 (54.8%) より高い傾向が示されたことは、クリゾチニブの薬物動態における人種差の可能性を示唆する新規の観察結果である。
臨床応用: 本知見は、ALK陽性NSCLC患者に対するクリゾチニブの臨床応用を強力に支持する。特に、RECIST進行後もクリゾチニブ治療を継続した患者の約半数で臨床的ベネフィットが認められたことは、治療戦略における重要な含意を持つ。進行部位として脳が最も多かったという観察は、クリゾチニブの血液脳関門 (BBB) 透過性の限界を示唆し、脳転移に対する局所治療とクリゾチニブ継続の併用療法の可能性を提示する。この「CNS sanctuary site」という概念は、その後のアレクチニブ、ブリガチニブ、ロルラチニブといったCNS活性を持つ次世代ALK阻害剤の開発を加速させた主要な動機の一つとなった。Shaw et al. LancetOncol 2011による後方視的解析では、クリゾチニブの使用が有意なOS延長と関連することが示されており、本研究のデータはこれらの臨床的有用性を補強するものである。
残された課題: 今後の検討課題として、RECIST進行後の治療継続における「継続的臨床的利益」のより客観的な定義と、その判断基準の標準化が残されている。また、脳がクリゾチニブの薬剤逃避部位となることの正確な発生率を評価するためには、ベースラインおよび治療中のCNS画像診断を標準化する必要がある。クリゾチニブ耐性メカニズムの解明も重要な課題であり、ALKキナーゼドメイン変異 (例: L1196M、G1202R) が耐性に関与することがChoi et al. NEnglJMed 2010、Katayama et al. SciTranslMed 2012、Doebele et al. ClinCancerRes 2012により報告されている。これらの耐性メカニズムを克服する次世代ALK阻害剤の開発が今後の研究の方向性となる。本研究は単アーム試験であるため、選択バイアスや比較対照群の欠如というlimitationがある。特にOSデータは未成熟であり、歴史的対照群との比較は慎重に行う必要がある。
方法
試験デザイン: 本研究は、第I相単アーム非盲検試験であるPROFILE 1001 (ClinicalTrials.gov識別子: NCT00585195) の更新解析である。米国、オーストラリア、韓国の複数の施設で実施された。データカットオフは2011年6月1日であった。
対象患者: 18歳以上のALK陽性Stage IIIまたはIVのNSCLC患者が対象とされた。ALK陽性は蛍光in situハイブリダイゼーション (FISH) 法 (break-apart probe) により同定された。ECOG PS 0または1の患者が適格とされたが、ECOG PS 2の患者も治験医師と実施医の同意があれば参加可能であった。測定可能病変の存在が必須条件であった。主な除外基準には、先行ALK阻害剤投与歴、骨髄救済を要する高用量化学療法既往、適切に治療され2週間以上神経学的に安定していないコントロール不良脳転移、過去12ヶ月以内の心筋梗塞・不安定狭心症・血栓症などの重篤な心血管疾患、NCI CTCAE v3.0 Grade 2以上の心不整脈、QTc間隔470 ms超、コントロール不良高血圧、強力なCYP3A4誘導剤の使用などが含まれた。
治療: 患者にはクリゾチニブ250 mgを1日2回 (BID)、28日を1サイクルとして経口投与された。当初は薬物動態評価のため空腹時投与が義務付けられたが、食事影響試験完了後は食事と一緒の服用が許容された。多くの患者が食事と一緒の服用で悪心・嘔吐が軽減したと報告している。
腫瘍評価: 腫瘍評価は8週ごと (2サイクルごと) にRECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) v1.0基準に基づいて研究者により実施された。完全奏効 (CR) または部分奏効 (PR) は、初回奏効確認から少なくとも4週間後に再確認されたものと定義された。奏効評価可能集団は、クリゾチニブを少なくとも1回投与され、適切なベースライン疾患評価 (初回投与前35日以内にスキャン実施、RECIST評価可能病変あり) があり、かつ初回投与後少なくとも6週間後に1回以上のベースライン後疾患評価を受けた患者、またはそれ以前に試験中止・進行・死亡した患者と定義された。後者の患者は非奏効と分類された。
安全性評価: 安全性は、最初の8週間は少なくとも2週ごと、その後サイクル10までは少なくとも4週ごと、それ以降は8週ごとに評価された。身体診察、有害事象の記録、および血液学、生化学、凝固、尿検査を含む定期的な臨床検査が実施された。有害事象はNCI CTCAE v3.0に従ってグレード分類された。視覚障害の初期報告後、複視、光視症、霧視、視力障害、硝子体浮遊物を含む「視覚効果」という用語が導入され、これらの事象が効果的に記録された。
統計解析: 主要な腫瘍奏効解析は、RECIST v1.0に基づく研究者評価の腫瘍データに基づいて行われた。イベント発生までの期間データ (奏効期間、PFS、OS) は、Kaplan-Meier法を用いて中央値と両側95%信頼区間 (Brookmeyer-Crowley法) を推定した。6ヶ月および12ヶ月の全生存率も推定された。PFSおよびOSの追跡期間中央値は、逆Kaplan-Meier法を用いて推定された。すべての解析はSAS統計ソフトウェアバージョン9.2を用いて実施された。本研究は、資金提供元であるPfizerが研究デザイン、データ収集、解析、解釈に参加した。