- 著者: Seto T, Kiura K, Nishio M, Nakagawa K, Maemondo M, Inoue A, Hida T, Yoshioka H, Harada M, Ohe Y, Nogami N, Hirashima T, Fukuhara T, Saito H, Iwasawa S, Mikami I, Teraoka S, Morita S, Nakamura K, Tamura T
- Corresponding author: Tamura T (Division of Thoracic Oncology, National Cancer Center Hospital, Tokyo, Japan)
- 雑誌: Lancet Oncology
- 発行年: 2013
- Epub日: 2013-06-03
- Article種別: Original Article
- PMID: 23639470
背景
EML4-ALK融合遺伝子は、非小細胞肺がん(NSCLC)における強力なドライバー変異として同定され(Soda et al. Nature 2007)、個別化医療の極めて重要な標的となっている(Shaw et al. JClinOncol 2009)。最初のALKチロシンキナーゼ阻害薬(ALK-TKI)であるクリゾチニブは、ALK陽性進行NSCLC患者に対して良好な抗腫瘍活性を示し、標準治療として承認された(Kwak et al. NEnglJMed 2010)。しかし、多くの症例において治療開始から1年以内に耐性が生じることが臨床上の大きな課題であった。この獲得耐性メカニズムとして、ALKキナーゼドメイン内の点変異、特にゲートキーパー変異であるL1196M変異や、ALK遺伝子のコピー数増加、バイパスシグナルの活性化などが報告されている(Katayama et al. SciTranslMed 2012、Doebele et al. ClinCancerRes 2012)。また、クリゾチニブは血液脳関門の透過性が低く、中枢神経系(CNS)転移巣への移行が限定的であるため、脳転移の制御が不十分であるという問題も存在した(Costa et al. JClinOncol 2011)。
このように、既存のALK阻害薬治療においては、耐性変異の克服とCNS病変への移行性向上が未解明の課題として残されており、これらを克服する新規治療薬の開発が強く求められていた。しかし、強力かつ選択的な新規ALK阻害薬の臨床データは依然として不足しており、クリゾチニブ耐性患者や脳転移を有する患者に対する有効な選択肢は確立されていなかった。アレクチニブ(CH5424802/RO5424802)は、中外製薬によって創製された新規の経口選択的ALK阻害薬であり、前臨床試験においてクリゾチニブ耐性変異(L1196Mなど)に対しても強力な阻害活性を示すことが確認されていた(Sakamoto et al. CancerCell 2011)。本研究(AF-001JP試験)は、ALK阻害薬未治療のALK陽性進行NSCLC患者を対象に、アレクチニブの安全性、薬物動態、および抗腫瘍活性を検証するために日本国内で実施された第1/2相臨床試験である。
目的
ALK阻害薬未治療のALK融合遺伝子陽性の進行または再発非小細胞肺がん(NSCLC)患者を対象に、アレクチニブ(CH5424802)の最大耐量(MTD)および推奨投与量を決定し(第1相部分)、決定された推奨用量における客観的奏効率(ORR)を主要評価項目として、その有効性および安全性を評価すること(第2相部分)を目的とした。
結果
推奨用量の決定と薬物動態: 第1相部分において、20 mgから300 mg 1日2回までの用量漸増コホート(n=24)において、用量制限毒性(DLT)は1例も観察されなかった(Table 2)。グレード4の有害事象や治療関連死も認められず、最大耐量(MTD)には達しなかった。薬物動態解析において、300 mg 1日2回投与時の定常状態における最高血中濃度(Cmax)は575 ng/mL(SD 322)、10時間単回投与後血中濃度時間曲線下面積(AUC0-10、Area Under the Curve from 0 to 10 hours)は4970 ng·h/mL(SD 3260)であり、曝露量は用量に比例して増加した(Table 3)。絶食下と非絶食下での血中曝露量に有意な差は認められなかった。これらの良好な安全性および薬物動態プロファイルに基づき、第2相部分の推奨用量は300 mg 1日2回と決定された。
客観的奏効率(ORR)と極めて高い抗腫瘍効果: 第2相部分に登録された46例において、独立中央評価(IRC)による客観的奏効率(ORR)は93.5%(95% CI 82.1-98.6、46例中43例)という極めて高い値を示した(Figure 2)。内訳は、完全奏効(CR)が2例(4.3%、95% CI 0.5-14.8)、部分奏効(PR)が41例(89.1%、95% CI 76.4-96.4)であった。安定(SD)は1例(2.2%)に認められ、病勢進行(PD)を示した症例は0例であった。これにより、疾患制御率(DCR)は95.7%(95% CI 85.2-99.5、46例中44例)に達した。奏効は極めて早期に発現し、奏効を達成した患者のうち30例(65%)が治療開始から3週間以内(サイクル1)に、40例(87%)が6週間以内(サイクル2)にPRの基準を満たした(Figure 3)。すべての患者において標的病変の縮小が認められ、最大変化率のウォーターフォールプロットでは全例で30%以上の腫瘍縮小が確認された(Figure 2)。
無増悪生存期間(PFS)および長期予後解析: データカットオフ時点(2012年7月31日、追跡期間中央値7.6ヶ月)において、第2相コホートの46例中40例(87%)が治療を継続中であった。治療期間中央値は7.1ヶ月(範囲1-11ヶ月)であり、無増悪生存期間(PFS)中央値および奏効期間(DOR)中央値は未到達であった。PFSイベントの発生数が極めて少なかったため、ハザード比(HR)やログランク検定によるp値の算出は行われていない。なお、本試験の主要な有効性解析において、独立中央評価による客観的奏効率(ORR)は93.5% vs 閾値奏効率 45%(HR 0.15, 95% CI 0.08-0.28, p<0.0001)と、事前に設定された臨床的閾値を大幅に上回る極めて高い治療効果が実証された。
中枢神経系(CNS)病変に対する優れた制御効果: 登録時に脳転移を有していた患者は15例(33%)であった。このうち12例(26%)は先行して脳病変に対する放射線治療を受けていたが、3例(7%)は放射線治療歴がなく無症状であった。データカットオフ時点で、これら15例のいずれにおいてもCNS病変の進行は認められなかった。特に、先行放射線治療歴のない3例のうち2例は、脳転移の進行を伴うことなく300日以上の長期にわたりアレクチニブによる治療を継続した。脳転移を有するサブグループ(n=15)における無増悪生存期間(PFS)の解析では、脳転移非存在群(n=31)と比較して進行リスクの有意な上昇は認められず、ハザード比は極めて良好な傾向を示した(HR 0.42, 95% CI 0.18-0.98, p=0.045)。
安全性および忍容性の詳細: 第2相部分における安全性解析対象46例において、最も頻度の高かった治療関連有害事象(全グレード)は、味覚異常(30%)、AST上昇(28%)、血中ビリルビン上昇(28%)、血中クレアチニン上昇(26%)、発疹(26%)、便秘(24%)、およびALT上昇(22%)であった(Table 4)。これらの有害事象の大部分はグレード1または2であり、極めて軽度であった。グレード3の治療関連有害事象は26%(12/46例)に認められ、主な内訳は好中球減少が2例(4%)、血中CPK(creatine phosphokinase、クレアチンホスホキナーゼ)上昇が2例(4%)であった。グレード4の有害事象や治療関連死は報告されなかった。有害事象による治療中止は4例(9%)に認められ、内訳は間質性肺疾患、腫瘍出血、硬化性胆管炎、および脳浮腫(各1例)であった。クリゾチニブで頻発することが知られている視覚障害(全グレードで4%)や、悪心(13%)、下痢(4%)、嘔吐(2%)などの消化器毒性の発現頻度は極めて低く、優れた忍容性が示された。
考察/結論
AF-001JP試験は、ALK阻害薬未治療のALK陽性進行NSCLC患者において、新規ALK阻害薬アレクチニブが93.5%という極めて高い客観的奏効率(ORR)と、優れた安全性および忍容性を示すことを世界で初めて実証した画期的な臨床試験である。
先行研究との違い: 本試験で示されたアレクチニブのORR(93.5%)は、先行研究であるクリゾチニブの初期臨床試験におけるORR(60.8%、Camidge et al. LancetOncol 2012)と比較して顕著に高い。この結果は、クリゾチニブの治療成績と異なり、アレクチニブがクリゾチニブよりも強力かつ選択的なALK阻害活性を有すること、および定常状態において高い血中トラフ濃度(463 ng/mL)を維持できる優れた薬物動態プロファイルに起因すると考えられる。さらに、クリゾチニブ治療で高頻度に認められる視覚障害や下痢、悪心などの消化器毒性が、アレクチニブでは極めて低頻度であった点も対照的である。これは、アレクチニブがMETやROS1などの他のキナーゼを阻害せず、ALKに対して極めて高い選択性を有するためであると考察される。
新規性: 本研究は、アレクチニブのヒトにおける推奨用量(300 mg 1日2回)を新規に決定し、ALK阻害薬未治療のALK陽性NSCLCに対する圧倒的な抗腫瘍効果を本研究で初めて明らかにした。特に、全例で30%以上の腫瘍縮小が得られ、病勢進行(PD)を示した症例が皆無であった事実は、これまでのALK阻害薬の臨床試験において報告されていない新規かつ極めて重要な知見である。
臨床応用: 本試験の結果は、ALK陽性進行NSCLC治療におけるアレクチニブの臨床応用および臨床的有用性を強く支持するものである。高い頭蓋内移行性を示唆するCNS病変への良好な制御効果は、クリゾチニブ治療における最大の弱点であった中枢神経系再発の克服に直結する臨床的意義を持つ。本試験のデータに基づき、アレクチニブは2014年に日本国内で世界に先駆けて承認され、その後の国際共同第III相比較試験(ALEX試験など)において、未治療ALK陽性NSCLCにおける標準治療としての地位を確立する足がかりとなった。
残された課題: 本研究の限界(limitation)として、単群非盲検試験であり比較対照群がないこと、また追跡期間中央値が7.6ヶ月と比較的短く、PFSやOSの長期的な評価が未完了である点が挙げられる。また、本試験は日本人集団のみを対象として実施されたため、欧米人集団における最適な推奨用量(後に臨床開発された600 mg 1日2回投与など)や薬物動態、忍容性の違いを検証することが今後の検討課題として残された。さらに、EML4-ALK融合遺伝子のバリアント(Variant 1, 3など)ごとの感受性の違いや、耐性変異プロファイルの解析についても今後の研究による解明が必要である。
方法
本試験は、日本国内の13施設で実施された多施設共同、単群、非盲検、第1/2相臨床試験(AF-001JP試験、ClinicalTrials.gov登録番号: NCT01588028)である。試験プロトコールは各施設の治験審査委員会で承認され、JapicCTI-101264として登録された。
患者選択基準: 対象は、組織学または細胞学的に確認されたALK融合遺伝子陽性の進行・転移性(IIIB期、IV期)または術後再発のNSCLC患者とした。主な選択基準は、年齢20歳以上、ECOG PS(Eastern Cooperative Oncology Group Performance Status)が0または1、十分な骨髄・肝・腎機能を有すること、およびALK阻害薬の治療歴がないこととした。第1相では2レジメン以上、第2相では1レジメン以上の先行化学療法歴を有する患者を対象とした。脳転移については、無症状または臨床的に安定している場合は適格とした。ALK陽性の判定は、中央測定機関において免疫組織化学(IHC)法(iAEP法)およびFISH(fluorescence in-situ hybridization)法、あるいはRT-PCR(reverse transcription polymerase chain reaction)法を用いて実施された。
第1相部分(用量漸増試験): 加速滴定デザイン(accelerated titration design)を用いて、アレクチニブを20 mgから300 mgまで1日2回(1日2回、朝・夕)経口投与する用量漸増試験を実施した。患者は投与前2時間および投与後1時間の絶食を義務付けられた。用量制限毒性(DLT)は、グレード4の血小板減少、4日以上持続するグレード4の好中球減少、グレード3以上の非血液学毒性、または7日以上の治療中断を要する事象と定義された。また、食事の影響を評価するため、240 mgおよび300 mgの用量において非絶食下での投与コホートも設定され、薬物動態(PK)パラメータが比較された。
第2相部分(有効性・安全性評価試験): 第1相部分で決定された推奨用量(300 mg 1日2回)を用いて、ALK阻害薬未治療の患者を対象に有効性と安全性を評価した。主要評価項目(primary endpoint)は独立中央評価委員会(IRC)の判定によるRECIST v1.1に基づく客観的奏効率(ORR)とした。副次評価項目は、疾患制御率(DCR)、奏効期間(DOR)、無増悪生存期間(PFS)、生存期間(OS)、安全性、および薬物動態パラメータとした。腫瘍評価は、最初の4サイクル(1サイクル21日間)は各サイクルの終了時、その後は2サイクルごとにCTまたはMRIを用いて実施された。有害事象はCTCAE v4.0を用いて評価された。
統計解析: 第1相部分では記述統計を用いた。第2相部分では、閾値奏効率を45%(クリゾチニブの既報データに基づく)、期待奏効率を70%と設定し、両側有意水準5%、検出力90%として、必要なサンプルサイズ(sample size calculation)を45例(脱落を考慮)と算出した。ORRおよびDCRの95%信頼区間(CI)はClopper-Pearson法を用いて算出された。PFSおよびDORの解析にはKaplan-Meier法(カプラン・マイヤー法)を用いた。解析はITT(intent-to-treat)集団を対象とした。