- 著者: Le X, Sakai H, Felip E, Veillon R, Garassino MC, Raskin J, Papadimitrakopoulou VA, Cortot AB, Viteri S, Smit EF, et al.
- Corresponding author: Xiuning Le (Department of Thoracic Head and Neck Medical Oncology, The University of Texas MD Anderson Cancer Center, Houston, TX, USA)
- 雑誌: Clinical Cancer Research
- 発行年: 2022
- Epub日: 2022-02-08
- Article種別: Original Article
- PMID: 34789481
背景
テポチニブはMET受容体チロシンキナーゼを高選択的に阻害する経口治療薬であり、METex14 (MET exon 14) スキッピング変異陽性の進行・再発非小細胞肺癌 (NSCLC) を対象とした第II相VISION試験において優れた臨床活性を示した。METex14変異陽性NSCLCは、他のドライバー遺伝子変異陽性肺癌と比較して高齢者に多く、診断時の中央年齢が70代後半に達するという疫学的特徴を持つことが Awad et al. JClinOncol 2016 などの先行研究によって報告されている。また、この患者集団の約40%が経過中に脳転移を合併することが知られており、極めて予後不良な集団として臨床上の大きな課題となっている。
しかしながら、これまでの臨床試験や初期の報告である Paik et al. NEnglJMed 2020 では、高齢患者、前治療歴を有する患者、あるいは脳転移を合併した患者といった、実際の臨床現場で遭遇する多様なサブグループにおけるテポチニブの有効性と安全性の詳細なデータが不足していた。特に、脳転移に対する頭蓋内有効性については、標準化された評価基準を用いた客観的検証が十分になされておらず、治療シークエンスにおける最適な位置づけも未確立のままであった。高齢で脆弱な患者群における有害事象の管理方法や、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) を含む前治療がテポチニブの治療成績に与える影響についても、臨床的なエビデンスギャップが残されている。したがって、これらの臨床的疑問に答えるための詳細なサブグループ解析と長期追跡データの提示が強く求められていた。
目的
本研究の目的は、VISION試験コホートAにおける全登録患者の更新データを用いて、テポチニブの長期的な有効性と安全性を包括的に評価することである。特に、実臨床において重要となるサブグループ (75歳未満 vs 75歳以上、80歳以上の超高齢者、未治療 vs 既治療、前治療の薬剤種別) における一貫した有効性を検証する。さらに、脳転移合併例を対象に RANO-BM (Response Assessment in Neuro-Oncology Brain Metastases) 基準を用いたアドホックな後ろ向き解析を行い、テポチニブの頭蓋内抗腫瘍活性を客観的に評価するとともに、高齢患者における有害事象プロファイルと休薬・減量による管理可能性を明らかにすることを目的とする。
結果
全体集団における長期有効性と迅速な奏効: 有効性評価対象となった152例 (中央値 73.1歳) において、IRC判定による ORR は 44.7% (95% CI 36.7-53.0%) であり、152例中68例が部分奏効 (PR) を達成した (Table 2)。病勢コントロール率 (DCR) は 70.4% (95% CI 62.5-77.5%) であった。奏効は極めて迅速であり、奏効が得られた患者の 83.8% (57/68例) において、投与開始後1回目 (6週時) または2回目 (12週時) の画像評価で奏効が確認された (Figure 2A)。DORの中央値は 11.1ヶ月 (95% CI 8.4-18.5) と持続的であった。PFSの中央値は 8.9ヶ月 (95% CI 8.2-11.2) であり、OSの中央値は 17.6ヶ月 (95% CI 15.0-21.0) を示した。
年齢別の良好な治療効果と一貫性: 年齢別のサブグループ解析において、75歳未満の患者群 (n=84) の ORR は 48.8% (95% CI 37.7-60.0%) であったのに対し、75歳以上の高齢患者群 (n=68) の ORR は 39.7% (95% CI 28.0-52.3%) であり、高齢者においても良好な抗腫瘍効果が維持されていた (Figure 1)。さらに、80歳以上の超高齢患者群 (n=37) においても、ORR は 35.1% (95% CI 20.2-52.5%)、DCR は 67.6% (95% CI 50.2-82.0%) であり、DOR中央値は 10.1ヶ月 (95% CI 5.6-18.5)、PFS中央値は 8.6ヶ月 (95% CI 5.4-15.3) と極めて良好な治療成績が得られた。
治療ラインおよび前治療薬別の有効性とシークエンス: 未治療患者群 (n=69) における ORR は 44.9% (95% CI 32.9-57.4%)、PFS中央値は 8.5 vs 10.9 months (HR 0.65, 95% CI 0.50-0.85, p=0.002) と既治療群 (n=83) と比較して良好な傾向を示し、治療ラインにかかわらず一貫した有効性が示された (Table 2)。前治療としてプラチナ製剤併用化学療法を受けた群 (n=74) の ORR は 48.6% (95% CI 36.9-60.6%)、前治療でICI治療を受けた群 (n=29) の ORR は 41.4% (95% CI 23.5-61.1%) であった。前治療のICIに対する無増悪期間と、その後のテポチニブのPFSとの間には相関は認められなかった (Figure 2C)。
脳転移に対する全身および頭蓋内効果: ベースラインで脳転移を有していた23例における全身ORRは 47.8% (95% CI 26.8-69.4%)、PFS中央値は 9.5 vs 8.9 months (HR 0.70, 95% CI 0.52-0.94, p=0.015) と全体集団に劣らない治療効果を示した。RANO-BM基準による頭蓋内評価が可能であった15例 (うち12例は前治療として放射線療法を施行) のうち、13例 (86.7%) で頭蓋内病勢コントロールが得られた。測定可能な脳病変を有していた7例のうち、5例 (71.4%) が頭蓋内PRを達成し、そのうち3例では標的病変が完全に消失した (Figure 3)。
安全性および忍容性と有害事象管理: 安全性評価対象255例において、治療関連有害事象 (TRAE) は 86.3% (220/255例) に認められ、グレード3以上のTRAEは 24.3% (62/255例) であった (Table 3)。最も頻度の高いTRAEは末梢性浮腫であり、全グレードで 54.1% (138/255例)、グレード3以上で 7.5% (19/255例) に発現した。TRAEによる減量は 27.8%、休薬は 35.3%に必要であったが、TRAEによる治療中止率は 10.6% (27/255例) と低値に抑えられていた。間質性肺疾患 (ILD) 様事象は6例 (2.4%) に認められ、うち1例が致死的であった。
考察/結論
先行研究との違い: METex14変異陽性NSCLCは高齢者に多いという特徴があり、本解析における患者の中央年齢は73.1歳と、Wolf et al. NEnglJMed 2020 のカプマチニブ試験 (中央年齢71歳) や Drilon et al. NatMed 2020 のクリゾチニブ試験 (中央年齢72歳) と比較して、より高齢の患者集団を対象としている。それにもかかわらず、75歳以上の高齢者や80歳以上の超高齢者においても若年者と対照的な減弱を示すことなく、一貫した奏効率と病勢制御が得られた点は極めて臨床的意義が高い。
新規性: 本研究は、MET阻害薬として初めて RANO-BM 基準を用いた頭蓋内有効性の客観的評価を報告した。テポチニブが優れた血液脳関門透過性を有することは基礎研究で示されていたが、本研究において測定可能脳病変を有する患者の 71.4% で頭蓋内PRが得られ、15例中13例で頭蓋内病勢制御を達成したことは、テポチニブの頭蓋内活性を臨床的に証明した新規の知見である。
臨床応用: 実臨床において、分子診断の遅れなどから一次治療で化学療法やICIが先行されるケースは少なくない。テポチニブが前治療の有無や薬剤の種類 (プラチナ製剤、ICI) にかかわらず、二次治療以降でも一次治療と同等の ORR (既治療群 44.6% vs 未治療群 44.9%) を示したことは、治療シークエンスにおける柔軟な選択を可能にする。また、高齢者で懸念される末梢性浮腫などの有害事象についても、適切な休薬や減量を行うことで治療中止に至る例は少なく、臨床現場において十分に管理可能であることが示された。
残された課題: 本研究における脳転移の評価は後ろ向きのアドホック解析であり、対象患者の多くが先行して放射線療法を受けていたため、テポチニブ単独での純粋な頭蓋内効果の評価には一定の limitation が存在する。また、テポチニブ耐性獲得後の二次変異 (METキナーゼドメイン変異など) に対する治療戦略や、ICI治療後のILD発現リスクの長期的なモニタリングについては、今後の検討課題として残されている。
方法
本研究は、METex14 (MET exon 14) スキッピング変異陽性の局所進行または転移性NSCLC患者を対象とした、国際共同、オープンラベル、単アーム第II相試験であるVISION試験 (NCT02864992) のサブグループ解析である。適格基準は、18歳以上、ECOG PS (Eastern Cooperative Oncology Group Performance Status) 0または1、測定可能病変を有し、液体生検 (ctDNA) または腫瘍組織生検の次世代シーケンシング (NGS) によりMETex14スキッピング変異が確認された患者とした。前治療歴は2ラインまで許容されたが、MET阻害薬の治療歴がある患者は除外された。無症候性の脳転移合併例は登録可能とした。
被験者は、テポチニブ500mg (活性本体として450mg) を1日1回経口投与された。主要評価項目は、RECIST v1.1基準に基づく独立評価委員会 (IRC) 判定による客観的奏効率 (ORR) とした。副次評価項目は、奏効持続期間 (DOR)、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、および安全性であった。本解析では、コホートAに登録され、有効性評価が可能であった152例を対象とした。
脳転移例における頭蓋内有効性の評価には、ベースライン時に脳転移を有し、投与後に1回以上の画像評価を行った15例を対象として、RANO-BM基準を用いたアドホックな後ろ向き解析を実施した。統計解析には Kaplan-Meier 法を用いて DOR、PFS、OS の中央値を算出し、95%信頼区間 (CI) を特定した。安全性評価は、コホートAおよびコホートCに登録されテポチニブを1回以上投与された計255例を対象とし、NCI-CTCAE v4.03を用いて有害事象をグレード分類した。