- 著者: Awad MM, Oxnard GR, Jackman DM, Savukoski DO, Hall D, Shivdasani P, Heng JC, Dahlberg SE, Jänne PA, Verma S, Christensen J, Hammerman PS, Sholl LM
- Corresponding author: Mark M. Awad, MD, PhD (Dana-Farber Cancer Institute, Boston, MA)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 2016
- Epub日: 2016-01-04
- Article種別: Original Article
- PMID: 26729443
背景
過去10年間、非小細胞肺癌 (NSCLC) の治療は、EGFR変異、ALK融合、ROS1融合などのドライバー変異の同定と、それらに対するチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) の開発によって劇的に進展した Lynch et al. NEnglJMed 2004 Paez et al. Science 2004 Pao et al. ProcNatlAcadSciUSA 2004 Kwak et al. NEnglJMed 2010 Shaw et al. NEnglJMed 2014 Shaw et al. NEnglJMed 2014。MET遺伝子は、肝細胞増殖因子 (HGF) の受容体型チロシンキナーゼであるc-Metをコードし、細胞増殖、生存、遊走、形態形成に関わる重要なシグナル伝達経路を制御する。MET遺伝子の異常は、NSCLCにおいて潜在的な治療標的として認識されつつあった。
MET exon 14スキッピング変異は、METキナーゼのジャクスタメンブレンドメインに位置するE3ユビキチンリガーゼ (Cbl) の結合部位 (チロシン1003; Y1003) のコード領域を消失させる。これにより、c-Metタンパク質の分解が阻害され、結果として持続的なMETシグナル活性化が引き起こされると考えられている。この変異は、肺腺癌を含むNSCLCにおいて散発的な症例報告が存在したが、2016年当時、大規模な患者コホートにおける系統的な頻度解析、詳細な臨床病理学的特徴の記述、他の既知ドライバー変異との比較、および治療反応性の評価は依然として不足していた。特に、MET exon 14変異の多様なゲノム形態を検出するための診断アッセイ設計に関する知見も未解明であった。
クリゾチニブは、既にALKおよびROS1融合遺伝子陽性NSCLCに対する阻害薬として承認されていたが、METに対する阻害活性も有することが知られていた。このため、MET exon 14変異陽性NSCLCに対する治療薬としての可能性が期待されていたものの、その臨床的有効性を示す大規模なデータは不足していた。Dana-Farber Cancer Instituteでは、包括的な次世代シーケンシング (NGS) プラットフォームを用いた前向きコホート研究が実施されており、MET exon 14変異の網羅的な疫学解析と臨床的意義の評価に最適な基盤を提供した。本研究は、このプラットフォームを活用し、MET exon 14変異の臨床的・分子生物学的特徴を詳細に解析し、その治療標的としての可能性を評価することを目的とした。本研究は、MET exon 14変異の多様なゲノム形態を検出するための診断アッセイ設計に関する知見が未確立であったというギャップを埋めることを目指した。
目的
本研究の目的は、Dana-Farber Cancer Instituteで次世代シーケンシング (NGS) を実施した6,376例の悪性腫瘍コホートにおいて、MET exon 14変異の頻度、多様なゲノム形態、および臨床病理学的特徴を明らかにすることである。特に、非小細胞肺癌 (NSCLC) におけるMET exon 14変異の共変異プロファイルを解析し、他の既知ドライバー変異 (EGFR、KRAS、ALKなど) との相互排他性を評価する。さらに、病期進行に伴うMET遺伝子増幅およびc-Metタンパク質過剰発現との関連性をステージ別に詳細に検討する。最終的に、MET exon 14変異を有するNSCLC患者におけるMET阻害薬 (クリゾチニブ) への治療反応性を症例報告を通じて評価し、この変異が新たな治療標的となり得るかを検証することを目指す。本研究は、MET exon 14変異がNSCLCの治療標的として確立されるための前向き臨床試験の必要性を示すことを目的とした。
結果
MET exon 14変異の頻度と組織学的分布: 6,376例の悪性腫瘍中、MET exon 14変異は933例の非扁平上皮NSCLCにおいて28例 (3.0%) に検出された (Fig 1)。これは、EGFR変異 (39.7%)、KRAS変異 (36.1%)、ALK融合 (5.2%) に次ぐ頻度であり、ROS1、RET、NTRK1融合よりも高頻度であった。MET exon 14変異は、他の癌種や扁平上皮癌、小細胞肺癌 (SCLC) などの他の肺癌組織型では検出されなかった。組織学的内訳は、腺癌18例 (64%)、多形性 (肉腫様) 癌成分を含む4例 (14%)、低分化型NSCLC 5例 (18%)、腺扁平上皮癌1例 (4%) であった。特に、肉腫様癌の26.7% (15例中4例) にMET exon 14変異が検出され、この組織型での濃縮が示唆された。
変異パターンの多様性: 28例中、ゲノム欠失が17例 (61%) に認められ、そのサイズは2塩基対から193塩基対の範囲であった。点変異は11例 (39%) に検出された (Fig 2)。欠失の内訳は、intron 13内欠失4例、intron 13スプライスアクセプター部位重複欠失6例、exon 14内欠失2例、intron 14スプライスドナー部位欠失5例であった。点変異では、Cbl結合部位におけるY1003Cアミノ酸置換が1例、intron 14スプライスドナー変異が7例、exon 14の最終塩基変異 (c.3028G>A) が3例同定された。RNA解析が可能な24例中23例 (96%) で、転写産物レベルでのexon 14スキッピングが確認された。唯一スキッピングが検出されなかったのはY1003C変異の症例 (患者28) であった。
臨床病理学的特徴 - 高齢患者への偏在: MET exon 14変異群の中央年齢は72.5歳 (範囲59-84歳) であり、EGFR変異群 (中央年齢61歳、p<0.001) およびKRAS変異群 (中央年齢65歳、p<0.001) と比較して有意に高齢であった (Table 1)。性別は女性68% (19/28例)、喫煙歴別ではnever-smoker 36% (10/28例)、10 pack-year以下11%、10 pack-year超53%であり、非喫煙者に偏在するEGFR変異とは異なり、喫煙者にも生じることが示された。診断時ステージはI期46% (13例)、II期7% (2例)、III期14% (4例)、IV期32% (9例) であり、EGFR変異群 (IV期79%) やKRAS変異群 (IV期60%) と比較してI期が有意に多かった (p<0.001)。
ステージ依存的なMET増幅とc-Met発現: 28例中、高レベルMETコピー数増加 (MET/chr7比≥3) が6例 (21%)、低レベルコピー数増加 (比>1かつ<3) が8例 (29%) に認められた (Fig 3)。増幅を有する全14例で、MET exon 14変異アレルが野生型アレルよりも優先的に増幅されていることが示唆された。ステージIV症例 (9例) は、ステージI-III症例と比較してMET/chr7比が有意に高く (平均4.3 vs 1.4、p=0.007)、c-Met IHCのHスコアも有意に高値を示した (平均253 vs 155、p=0.002) (Fig 4A, 4B)。さらに、ステージIVのMET exon 14変異群は、ステージIVのMET exon 14野生型NSCLC 67例とも比較し、MET/chr7比 (平均4.3 vs 1.2、p<0.001) およびHスコア (平均253 vs 142、p<0.001) ともに有意に高値であった。この所見は、MET exon 14変異が腫瘍発生初期から存在し、病期進行に伴ってMET増幅および過剰発現が段階的に付加されるという仮説を支持する。
共変異プロファイル: KRAS、EGFR、ERBB2変異およびALK、ROS1、RET融合との共変異は28例中いずれにも認められず、MET exon 14変異が独立したドライバー変異であることが確認された (Fig 1, 3)。TP53不活性化変異が9例 (32%)、p53の負の制御因子であるMDM2の増幅が13例 (46%) に検出され、両者を合わせると20例 (71%) にTP53経路の異常があった。KRAS変異群のMDM2増幅頻度 (1/315例 [0.3%]) およびEGFR変異群 (6/178例 [3.4%]) と比較して、MET exon 14変異群ではMDM2増幅が有意に高頻度であった (それぞれp<0.001)。EGFR低コピー数増加が8例 (29%) に認められた。
クリゾチニブへの治療反応 - 症例報告: 64歳女性never-smoker (患者15) のIV期低分化型腺癌症例に対し、MET exon 14変異 (c.3028G>A変異、アレル頻度94%) と高レベルMET増幅 (MET/chr7比=8) が同定された (Fig 5A, 5B)。1次化学療法後の病勢進行後にクリゾチニブ250 mg 1日2回を開始したところ、8週後のCTで全身の多発病変が著明に縮小し部分奏効を達成した (Fig 5D, 5E)。8か月時点で奏効は継続中であった。ALK・ROS1融合の共存はなく、MET exon 14変異ないしMET高レベル増幅がクリゾチニブへの感受性に寄与したものと考えられた。この患者のクリゾチニブへの奏効は、主要な部分奏効 (major partial response) であり、8ヶ月間持続した。
考察/結論
本研究は、MET exon 14変異が非小細胞肺癌 (NSCLC) の3.0%を占める独立したドライバー変異であり、高齢患者 (中央年齢72.5歳) に特異的に多く認められることを、大規模コホートにおいて初めて系統的に示した先駆的報告である。この変異は、EGFR、KRAS、ALKなどの他の既知ドライバー変異と相互排他的な独自の分子サブタイプを形成することが確認された。この知見は、MET exon 14変異が、これまで報告されていなかった高齢者におけるNSCLCの重要な分子標的であることを示唆する。
先行研究との違い: これまでの研究では、MET増幅とMET exon 14変異は相互排他的であると報告されていたが Cancer et al. Nature 2014、本研究では、特に進行期 (ステージIV) のMET exon 14変異陽性NSCLCにおいて、MET遺伝子増幅およびc-Met高発現が有意に高いことが明らかになった。これは、MET exon 14変異が腫瘍発生の早期イベントである一方で、MET増幅および過剰発現が病期進行に伴って段階的に付加され、腫瘍の侵攻性を高めるという「二段階活性化モデル」を支持するものであり、これまでの知見と対照的な、より詳細な病態生理学的理解を提供する。
新規性: 本研究で初めて、MET exon 14変異がMDM2増幅と高頻度で共変異すること (46%) を示した。これは、TP53経路の非依存的な不活性化という独自の腫瘍生物学を示唆しており、この分子サブタイプの予後や治療反応性に対する潜在的な影響について、今後の検討課題となる。また、MET exon 14変異が多様なゲノム形態 (欠失、点変異) を取り、それらがRNAレベルでのexon 14スキッピングを引き起こすことを実証した点も新規性がある。
臨床応用: クリゾチニブへの著明な部分奏効例の報告は、MET exon 14変異陽性NSCLCが治療可能な標的であることの最初期の臨床的証拠となった。この臨床的有用性は、その後のMET選択的阻害薬であるcapmatinib (GEOMETRY mono-1試験) やtepotinib (VISION試験) の開発とFDA承認の礎となった。本研究は、NSCLCの包括的ゲノムプロファイリングにおいて、intron 13および14を含むシーケンシング設計が必要であることを実証し、今後の診断アッセイ設計に対する重要な臨床的含意を与えた。
残された課題: 今後の検討課題として、MET exon 14変異の多様なゲノム形態がMET阻害薬への感受性にどのように影響するか、また、共存するMET増幅が感受性をさらに高めるかどうかの前向き臨床試験による検証が残されている。さらに、MET阻害薬に対する耐性メカニズムの解明と、それを克服するための治療戦略の開発も今後の研究方向性として重要である。高齢患者におけるこの変異の特異的な発生機序や、MDM2増幅との共変異が臨床転帰に与える影響についても、さらなる研究が必要である。
方法
本研究は、Dana-Farber Cancer Instituteで2013年8月1日から2015年5月1日の間にNGSを実施した6,376例の固形・血液悪性腫瘍患者を対象とした前向きコホート研究である。このうち、非扁平上皮NSCLC 933例 (腺癌873例、多形性癌15例、低分化型NSCLC等45例) が主要な解析対象となった。患者は、施設内倫理委員会承認済みの臨床研究プロトコルに基づき、書面によるインフォームドコンセントを提出した。
NGSは、癌関連遺伝子282個のカスタムパネルを用いて実施された。このパネルは、癌関連遺伝子のエクソンおよび一部のイントロン領域をカバーするよう設計された。DNAは、腫瘍核が20%以上含まれる領域からマクロダイセクションにより抽出し、標準プロトコル (Qiagen AllPrep DNA/RNA mini kit) で精製された。シーケンシングライブラリはIllumina TruSeq LT試薬を用いて調製され、Agilent SureSelectカスタムRNAベイトセットによる溶液ベースのハイブリッドキャプチャーで標的領域が濃縮された。Illumina HiSeq2500を用いて100×100 paired-endシーケンシングが実施され、平均カバレッジ深度は187×であった。MET exon 14変異の同定には、スプライスアクセプターおよびドナー部位を含むintron 13およびintron 14領域のシークエンシングを含む設計が採用された。
MET遺伝子増幅は、NGSコピー数解析により評価された。高レベル増幅は、MET遺伝子と染色体7の平均コピー数比 (MET/chr7比) が3:1以上と定義された。低レベル増幅は、比が1より大きく3未満と定義された。これらのコピー数カットオフは、蛍光in situハイブリダイゼーション (FISH) に基づく臨床的に検証された基準を修正したアプローチが適用された。c-Metタンパク質発現は、ホルマリン固定パラフィン包埋 (FFPE) 切片を用いた免疫組織化学 (IHC) で評価された。c-Met IHC染色には、MET抗体クローンSP44 (Spring Bioscience) が用いられ、半定量的4段階スケール (0から3) でスコア化され、染色強度と陽性腫瘍細胞の割合を乗じてHスコア (0-300) が算出された。ALKおよびROS1 IHCも同様に実施された。
RNA抽出後、定性的リアルタイムPCR (qRT-PCR) により、MET exon 14スキッピングが転写産物レベルで確認された。MET exon 14欠失産物およびMET野生型産物に特異的なFAM標識プライマー・プローブセットが使用された。
臨床情報 (年齢、性別、喫煙歴、病期、組織型) は、MET exon 14変異群と、同時期に同定されたEGFR変異群 (n=99) およびKRAS変異群 (n=169) と比較された。統計解析には、カテゴリカル変数にはFisherの正確確率検定 (Fisher’s exact test)、連続変数にはWilcoxon順位和検定 (Wilcoxon rank-sum test) が用いられた。すべてのP値は両側検定であり、有意水準はp<0.05と設定された。多重比較に対する調整は行われなかった。