- 著者: Paik PK, Felip E, Veillon R, Sakai H, Cortot AB, Garassino MC, et al.
- Corresponding author: John V. Heymach (The University of Texas MD Anderson Cancer Center, Houston, USA)
- 雑誌: New England Journal of Medicine
- 発行年: 2020
- Epub日: 2020-09-17
- Article種別: Original Article
- PMID: 32469185
背景
MET proto-oncogeneは、受容体型チロシンキナーゼをコードし、そのリガンドである肝細胞増殖因子 (HGF) と結合することで、RAS-RAFおよびPI3K経路を介した下流シグナルを活性化する。このMET遺伝子におけるエクソン14スキッピング (METex14) は、エクソン14に隣接するスプライスアクセプター部位またはドナー部位での点変異、挿入欠失、あるいは大規模な全エクソン欠失によって引き起こされるスプライシング異常である Cortot et al. JNatlCancerInst 2017。この異常により、MET juxtamembrane domainに存在するCBL E3ユビキチンリガーゼ結合部位 (Y1003近傍) が欠失する。その結果、METのユビキチン化とタンパク質分解が阻害され、持続的なMETシグナル活性化が生じ、腫瘍細胞の増殖、生存、浸潤、転移が促進されることが知られている Frampton et al. CancerDiscov 2015。
METex14スキッピング変異は、非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者の約3〜4%に認められる主要な発癌ドライバー変異である Awad et al. JClinOncol 2016。組織学的には腺癌で最も多く見られるが、肉腫様癌での頻度が高いという特徴がある。また、他の主要なドライバー変異 (EGFR変異、ALK再構成、ROS1再構成) とは共存しないことが一般的である。疫学的な特徴として、METex14スキッピング変異陽性NSCLC患者の年齢中央値は約73歳と、他のドライバー変異陽性NSCLC患者と比較して高齢である点が挙げられる。これらの患者群における既存治療の有効性は限定的であり、新たな治療選択肢の開発が喫緊の課題であった。
これまでに、MET阻害薬として非選択的type 1a阻害薬 (例: クリゾチニブ) や、より選択的なtype 1b阻害薬 (例: テポチニブ、サボリチニブ、カプマチニブ) が開発されてきた。テポチニブは、経口で1日1回投与される高選択的MET阻害薬であり (METキナーゼに対するIC50は1 nM未満)、血液脳関門を透過する能力も有することが報告されている。先行する第I相試験では、様々な固形腫瘍においてテポチニブの抗腫瘍活性が示されていた。しかし、METex14スキッピング変異陽性NSCLCにおけるテポチニブの有効性と安全性、特に液生検による変異検出の臨床的有用性については、大規模な臨床試験での検証が未解明な部分として残されていた。従来の組織生検は侵襲的であり、特に高齢患者や全身状態の不良な患者では採取が困難な場合が多く、より簡便で非侵襲的な診断方法の確立が不足していた。
本VISION試験の革新的な点は、METex14スキッピング変異の検出を、液生検 (血漿中の循環腫瘍DNA [cfDNA]、Guardant360 73遺伝子パネルを使用) と組織生検 (RNAベースの次世代シーケンシング [NGS]、Oncomine Focus Assay 52遺伝子を使用) の両方で実施し、それぞれの検出方法による有効性を並行して評価する設計を採用したことである。これにより、組織採取が困難な高齢患者や全身状態の不良な患者に対する液生検の実臨床における有用性を示す根拠を提供することが期待された。
目的
本VISION試験は、METex14スキッピング変異陽性進行・転移性NSCLC患者を対象とした単群オープンラベル第II相試験として、テポチニブの有効性 (客観的奏効率 [ORR]、奏効期間 [DOR]) および安全性を評価することを目的とした。さらに、液生検コホートと組織生検コホートにおける有効性を比較検討し、液生検の臨床的有用性を実証することも重要な目的であった。具体的には、独立評価委員会 (IRR) によるORRを主要評価項目とし、副次評価項目として治験責任医師評価ORR、DOR、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、安全性、液生検と組織生検の有効性比較、およびcfDNA分子奏効率を評価した。本試験は、METex14スキッピング変異陽性NSCLCに対するテポチニブの臨床的意義を確立し、特に液生検の診断的価値を検証することを目指した。
結果
患者背景と被験者特性: 安全性評価集団は152例、有効性評価集団 (組み合わせ生検コホート) は99例であった。液生検コホートは66例、組織生検コホートは60例であり、27例は両方の方法で陽性であった。全コホートにおける患者の年齢中央値は74歳 (範囲41〜94歳) と著しく高齢であった (Table 1)。ECOG PS 0の患者は22%、PS 1の患者は78%を占めた。組織学的分類では、腺癌が89〜93%、扁平上皮癌が5〜9%、肉腫様癌が1〜2%であった。喫煙歴のある患者は42〜50%であった。前治療ラインの内訳は、前治療なしが43〜45%、1コースが32〜33%、2コース以上が23%であった。ベースラインで脳転移を有する患者は11%含まれていた。これらの患者背景は、各生検コホート間で類似していた。テポチニブの治療期間中央値は6.9ヵ月 (範囲 <0.1〜36.7ヵ月) であった。
主要評価項目 (奏効率): 組み合わせ生検コホート (n=99) における独立評価委員会 (IRR) 評価の客観的奏効率 (ORR) は46% (95% CI 36-57%) であり、45/99例で奏効が確認された。全ての奏効は部分奏効 (PR) であり、完全奏効 (CR) は認められなかった。腫瘍縮小は89%の患者で観察され、奏効発現は通常、投与開始後6週以内に生じた (Figure 1)。治験責任医師評価によるORRは56% (95% CI 45-66%) とIRR評価よりも高率であり、CRが2例、PRが53例であった。液生検コホート (n=66) のORRは48% (95% CI 36-61%)、組織生検コホート (n=60) のORRは50% (95% CI 37-63%) であり、両コホート間で同等の奏効率が示された。前治療ライン数やその他の患者背景因子にかかわらず、奏効率は類似していた。
奏効持続性、無増悪生存期間、全生存期間: 組み合わせ生検コホートにおけるIRR評価の奏効期間中央値 (DOR) は11.1ヵ月 (95% CI 7.2-推定不能) であった。液生検コホートでは9.9ヵ月 (95% CI 7.2-推定不能)、組織生検コホートでは15.7ヵ月 (95% CI 9.7-推定不能) であった。奏効を達成した45例中12例 (27%) は、データカットオフ時点でも奏効が継続中であった。IRR評価による無増悪生存期間中央値 (PFS) は、組み合わせ生検コホートで8.5ヵ月 (95% CI 6.7-11.0) であった (Figure 2)。液生検コホートでは8.5ヵ月 (95% CI 5.1-11.0)、組織生検コホートでは11.0ヵ月 (95% CI 5.7-17.1) であった。全生存期間中央値 (OS) は、データが未成熟であったものの17.1ヵ月 (95% CI 12.0-26.8) であった。有効性評価集団における追跡期間中央値は17.4ヵ月であった。
脳転移患者における頭蓋内活性: ベースラインで脳転移を有する11例 (IRR評価では全例が非標的病変) において、頭蓋内ORRは55% (95% CI 23-83%、6/11例) であった。これらの患者におけるDOR中央値は9.5ヵ月 (95% CI 6.6-推定不能)、PFS中央値は10.9ヵ月 (95% CI 8.0-推定不能) であった。これは、テポチニブが血液脳関門を透過し、頭蓋内病変に対しても活性を示す可能性を示唆する。
液生検コホートにおけるcfDNA分子奏効: ベースラインおよび治療中のサンプルが利用可能な51例の液生検コホートにおいて、34例 (67%) がcfDNA分子奏効 (METex14アレル頻度の100%消失または75%超減少) を示した (Figure 4)。分子奏効を示した34例中24例 (71%) は放射線学的奏効も達成しており、病勢コントロール率 (DCR) は88% (30/34例) であった。METex14スキッピング変異の多様性として、スプライスアクセプター部位変異が68%、ドナー部位変異が31%に認められ、1例で全エクソン欠失が確認された。indel (50%) と点変異 (50%) が同程度に認められた (Figure 3)。
共存変異の解析: 液生検コホートのcfDNA解析では、腫瘍抑制遺伝子であるTP53変異が48%の患者で検出された。その他の共存変異として、NF1変異とEGFR増幅がそれぞれ10%の患者に認められた。MET増幅は5例 (8%) で検出され、そのうち4例で60%を超える腫瘍縮小が観察された。PI3KCA (ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ触媒サブユニットα) (3%)、KRAS (2%)、NRAS (2%) の活性化点変異、またはPTEN (ホスファターゼおよびテンシンホモログ) (3%) の不活化変異を有する患者では、IRR評価による奏効は認められなかった。
安全性プロファイル: 安全性評価集団152例において、治療関連有害事象 (AE) は89%の患者で報告された。Grade 3以上の治療関連AEは28% (Grade 3: 25%、Grade 4: 2%) であり、最も頻繁に報告されたGrade 3以上の治療関連AEは末梢性浮腫 (7%) であった (Table 2)。その他の一般的な治療関連AEは、悪心26% (Grade 3: 1%)、下痢22% (Grade 3: 1%)、血清クレアチニン上昇18% (尿細管分泌阻害による偽性上昇)、低アルブミン血症16%、アミラーゼ上昇11% (無症候性)、リパーゼ上昇9%であった。治療関連AEによる用量減量は33%、用量中断は18%の患者で発生した。テポチニブの永続的な投与中止に至ったのは11%の患者であり、末梢性浮腫による永続的中止は5%のみであった。治療関連死亡は1例 (79歳、間質性肺疾患による呼吸不全) で報告された。全体的に治療継続率が高く、中断率が低かったことは、高齢患者におけるテポチニブの良好な忍容性を示す。患者のQOLはテポチニブ投与中に維持され、咳症状は改善したが、呼吸困難および胸痛症状は安定していた。
考察/結論
先行研究との違い: 本VISION試験で示されたテポチニブの有効性は、同時期に報告された他のMET阻害薬の試験結果と比較して良好な傾向を示した。例えば、非選択的MET阻害薬であるクリゾチニブのPROFILE 1001試験では、METex14スキッピング変異陽性NSCLC患者65例における治験責任医師評価ORRは32% (95% CI 21-45%)、PFS中央値は7.3ヵ月 (95% CI 5.4-9.1) であった Heist et al. JThoracOncol 2019。これに対し、テポチニブはIRR評価ORR 46% (95% CI 36-57%)、DOR中央値11.1ヵ月 (95% CI 7.2-推定不能) を示し、より高い奏効率と持続的な奏効が認められた点で、クリゾチニブとは対照的な結果であった。また、同時期に発表されたカプマチニブのGEOMETRY mono-1試験では、未治療METex14スキッピング変異陽性NSCLC患者28例でORR 68% (95% CI 48-84%) と本試験の未治療例ORR (IRR評価43%) を上回る結果であったが、既治療例69例でのORRは41% (95% CI 29-53%)、PFS中央値5.4ヵ月 (95% CI 4.2-7.0) と本試験と同程度であった。これらの結果は、テポチニブがMETex14スキッピング変異陽性NSCLCにおいて、クリゾチニブよりも優れた抗腫瘍活性を有し、カプマチニブと同等またはそれ以上の持続性を示す可能性を示唆する。
新規性: 本研究の最も新規性の高い知見の一つは、液生検と組織生検の両方でMETex14スキッピング変異を同定し、両コホートで同等のORR (液生検コホート48% vs 組織生検コホート50%) を示したことである。これは、組織採取が困難な高齢患者や全身状態の不良な患者において、液生検がMETex14スキッピング変異の検出に有効な代替手段であることを本研究で初めて実証した。また、治療中のcfDNAモニタリングにより67%の患者で分子奏効が検出され、これが放射線学的奏効と高い一致率を示した点も、液生検の臨床的有用性を支持する重要な新規観察である。この知見は、Merker et al. JClinOncol 2018が提唱したcfDNA解析の臨床的意義を裏付けるものである。
臨床応用: 本試験の結果は、METex14スキッピング変異陽性NSCLC患者に対するテポチニブの臨床応用を強力に支持するものである。特に、患者の年齢中央値が74歳と高齢であり、前治療歴のある患者も多く含まれる中で、テポチニブが良好な忍容性を示し、持続的な抗腫瘍活性を発揮したことは、実臨床における重要な意義を持つ。末梢性浮腫が最も一般的なGrade 3以上の有害事象であったが、用量減量や中断で管理可能であり、永続的な中止に至るケースは少なかった。また、ベースラインで脳転移を有する患者においても頭蓋内活性が示されたことは、脳転移を合併するNSCLC患者に対する治療選択肢としてテポチニブが有用であることを示唆する。さらに、METex14スキッピング変異陽性NSCLCでは、PD-L1発現レベルにかかわらず免疫チェックポイント阻害薬の有効性が減弱することが後ろ向きデータで報告されており Sabari et al. AnnOncol 2018、テポチニブのようなMET阻害薬が免疫療法よりも優先されるべき治療選択肢となる可能性が高い。本試験の結果に基づき、テポチニブは2020年3月に日本で、2021年2月に米国FDAで加速承認された。液生検検出に用いられたGuardant360は、テポチニブのコンパニオン診断薬ArcherMET CDxとともに承認され、液生検パラダイムの臨床現場への導入を加速させた。
残された課題: 本研究にはいくつかの残された課題がある。METex14スキッピング変異陽性NSCLCにおけるテポチニブへの耐性機序は未解明な部分が多い。本試験では1例でMET Y1230H変異による二次耐性が確認されたが、系統的な耐性機序の解析はデータ成熟待ちであった。その後の研究では、KRAS増幅、KRAS変異、その他のRAS-MAPK経路変異が主な獲得耐性機序として同定されている。また、脳転移例での頭蓋内活性は示されたものの、予防的中枢神経系療法としてのテポチニブの役割、軟膜転移 (LMD) への有効性、および未治療例における化学療法や免疫療法との直接比較は今後の検討課題である。本試験は単群試験であり、対照群がないため、テポチニブの絶対的な有効性を評価するには限界がある。今後の大規模な比較試験が望まれる。
方法
試験デザイン: 本研究は、多施設共同単群オープンラベル第II相試験 (NCT02864992、VISION試験) として実施された。世界11カ国130施設以上が参加した。
対象患者: 18歳以上の局所進行または転移性NSCLC患者で、液生検または組織生検の少なくとも一方によりMETex14スキッピング変異が確認された患者が登録された。ECOG Performance Status (PS) は0または1であり、EGFR変異およびALK再構成は陰性であることが条件であった。進行・転移病態に対する前治療は2コース以内とされた。安定した脳転移 (ステロイド漸減中) または無症候性かつ最大径1 cm以下の未治療脳転移を有する患者も登録可能であった。
治療プロトコル: テポチニブ500 mgを1日1回経口投与し、空腹時に服用させた。治療は疾患進行、同意撤回、または耐容不能な有害事象が発生するまで継続された。
主要評価項目: 主要評価項目は、液生検または組織生検の少なくとも一方でMETex14スキッピング変異が陽性であり、かつ少なくとも9ヵ月の追跡期間を有する患者集団 (組み合わせ生検コホートA、n=99) における、独立外部審査委員会 (IRR) による確認客観的奏効率 (ORR、RECIST v1.1基準) であった。
副次評価項目: 副次評価項目には、治験責任医師評価ORR、奏効期間 (DOR)、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、安全性プロファイルが含まれた。さらに、液生検コホートと組織生検コホート間での有効性の比較、および循環腫瘍DNA (ctDNA) を用いた分子奏効率の評価も行われた。患者報告アウトカム (PRO) の評価には、EORTC QLQ-LC13、EORTC QLQ-C30、およびEQ-5D-5Lが用いられた。
METex14スキッピング変異の検出: 変異検出は、血漿cfDNAを用いた次世代シーケンシングパネル (Guardant360、73遺伝子) による液生検、または新鮮組織もしくはアーカイブされたホルマリン固定パラフィン包埋 (FFPE) 腫瘍組織から抽出したRNAを用いたOncomine Focus Assay (52遺伝子) による組織生検のいずれかで行われた。両生検方法での同時陽性は必須ではなかった。
統計解析: 統計解析は記述統計的手法のみで行われ、統計的比較は実施されなかった。各生検コホートにおいて、ORRが40〜50%であり、対応する95%信頼区間 (CI) の下限が20%以上となることを目標とした。DOR、PFS、OSの解析にはカプラン・マイヤー法が用いられた。安全性評価集団は、テポチニブを少なくとも1回投与された全患者で構成された。有害事象はNational Cancer Institute Common Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE) v4.03を用いて評価された。データカットオフは2020年1月1日であった。