- 著者: Olivier Bylicki, Nicolas Paleiron, Jean-Baptiste Assié, Christos Chouaïd
- Corresponding author: Olivier Bylicki (Respiratory Disease Unit, HIA Sainte Anne, Toulon, France)
- 雑誌: OncoTargets and Therapy
- 発行年: 2020
- Epub日: 2020-10-20
- Article種別: Review
- PMID: 32606781
背景
NSCLC (non-small-cell lung cancer; 非小細胞肺癌) における分子標的療法は、EGFR変異やALK (anaplastic lymphoma kinase; 未分化大細胞リンパ腫キナーゼ) 転座を有する患者で化学療法を大幅に上回るPFS (progression-free survival; 無増悪生存) とOS (overall survival; 全生存) を達成し、予後を一変させた。さらにBRAF V600E変異 (Planchard et al. 2017)、ROS1・RET転座、NTRK融合 (Farago et al. 2015) でも有効性が確立し、tumor-agnostic療法の概念まで拡張された。同様の展開が期待されたMET (c-MET proto-oncogene; c-MET原癌遺伝子) 経路は、1980年代に同定され1990年代から肺癌における発癌的役割が認識されてきたが (Ichimura et al. 1996; Siegfried et al. 1998)、長年にわたり有望な治療標的と目されながら初期試験の失敗が続いていた。METは染色体7q21-q31に位置し、唯一のリガンドHGF (hepatocyte growth factor; 肝細胞増殖因子) との結合により二量体化・リン酸化し、ERK/MAPK (extracellular signal-regulated kinase/mitogen-activated protein kinase)、PI3K/AKT (phosphatidylinositol 3-kinase/protein kinase B)、JAK/STAT (Janus kinase/signal transducer and activator of transcription) シグナルを活性化し、細胞増殖・移動・血管新生・EMT (epithelial-to-mesenchymal transition; 上皮間葉転換) を促進する重要な受容体型チロシンキナーゼである。
MET経路を標的とした初期試験は、IHC (immunohistochemistry; 免疫組織化学) によるMET過剰発現をバイオマーカーとして採用したが、ことごとく失敗に終わった。抗MET抗体onartuzumabとerlotinibの第III相試験 (METLung, Spigel et al. 2017) ではMET過剰発現 (IHC 2+/3+) 患者でPFSおよびOSの改善は認められなかった。同様に、非ATP競合型MET阻害薬tivantinibとerlotinibの組み合わせを評価した第III相MARQUEE試験およびATTENTION試験も陰性結果に終わり、ATTENTION試験は間質性肺疾患の高発生率により早期中止を余儀なくされた。これらの失敗はMET過剰発現が真のドライバー変異と対応しないことを示唆したが、より適切な患者選択基準の確立と、各MET異常に対する最適な治療戦略については知識のギャップ (gap in knowledge) が残されていた。
近年、NGS (next-generation sequencing; 次世代シーケンシング) 技術の普及により、METex14 (MET exon 14; METエクソン14) 変異が真のドライバー変異として認識されるようになった。さらに、EGFR変異NSCLCへのEGFR-TKI (tyrosine kinase inhibitor; チロシンキナーゼ阻害薬) 治療後の獲得耐性メカニズムとしてMET増幅が重要であることも明らかになった (Engelman et al. 2007)。しかし、2020年時点でのMETex14変異・高レベルMET増幅を標的とした新規選択的MET阻害薬の臨床試験結果の全体像は手薄で、各MET異常をバイオマーカーごとに整理した包括的な統合が不足していた。
目的
本レビューの目的は、NSCLCにおけるMET経路異常 (MET過剰発現、増幅、再構成、METex14変異) の分子生物学と疫学を詳細に解説するとともに、各MET異常に対する抗MET薬 (TKI (tyrosine kinase inhibitor) および抗体薬) の臨床試験結果を、非選択患者およびバイオマーカー選択患者の両面から体系的にレビューすることである。特に、METex14変異陽性NSCLCに対する選択的MET阻害薬の有効性と、EGFR-TKI耐性獲得機序としてのMET増幅に対する抗MET+EGFR-TKI併用療法の有望性に焦点を当て、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI; immune checkpoint inhibitor) とMET経路異常との関係についても考察する。これにより、どの患者選択基準が抗MET療法の成否を決定するかを明らかにし、臨床現場での適切な分子診断と治療選択の指針を提示することを狙いとする。
結果
MET経路の分子生物学と各種異常形態 (Table 1): MET遺伝子は染色体7q21-q31に位置し、約125 kbのゲノム領域に21エクソンを持つヘテロ二量体受容体型チロシンキナーゼをコードする。MET受容体はHGF結合により二量体化・リン酸化し、ERK/MAPK、PI3K/AKT、JAK/STATシグナルを活性化する。NSCLCにおけるMET経路の異常は以下の形態をとる。(1) MET過剰発現: リガンド非依存性のMET活性化が生じ、IHCで検出可能。増幅や変異を伴わない過剰発現も存在する。(2) MET増幅: GCN (gene copy number; 遺伝子コピー数) 増加によるMETタンパク質過剰発現と恒常的キナーゼ活性化。FISH (fluorescence in situ hybridization; 蛍光in situハイブリダイゼーション) によるMET/CEP7 (centromeric portion of chromosome 7) 比やGCNで評価するが、Camidge分類 (低 1.8-2.2、中 >2.2かつ<5、高≥5) やCappuzzoスコア、PathVysion (MET/CEP7≥2) など複数の閾値が併存し国際コンセンサスは未確立。(3) METex14変異: MET受容体のjuxtamembrane domain (傍膜ドメイン) に位置するY1003サイト (E3 ubiquitin ligase c-Cblの結合部位) を欠くトランケート型受容体が生成され、ユビキチン化による分解が阻害され持続的なMET活性亢進をもたらす真のドライバー変異。933例の非扁平上皮NSCLCの解析では、METex14変異は他のドライバー変異と相互排他的であった。(4) MET再構成 (融合): TPR、KIF5B (kinesin family member 5B)、CAPZA2、CD47など複数の融合パートナーが報告されているが、非常に稀である。Table 1は評価中の抗MET薬を、マルチキナーゼ阻害薬・選択的MET阻害薬・抗MET抗体・抗HGF抗体に分類して網羅している。
MET経路異常の疫学と予後への影響: 各MET経路異常の有病率と予後への影響は大きく異なる。MET過剰発現はNSCLCの22-75%に認められるが、シリーズ間で大きく変動する。18試験5516例のメタ解析ではMET過剰発現は死亡リスクの有意な増加と関連した (HR 1.52, 95% CI 1.08-2.15)。22試験4454例を対象とした別のメタ解析でも、IHC MET陽性はOS短縮と有意に関連した (HR 1.55, 95% CI 1.10-2.18)。De novoのMET増幅はNSCLCの1-5%に認められ、21試験7647例のメタ解析ではOS短縮と関連した (HR 1.45, 95% CI 1.16-1.80)。アジア人患者 (HR 1.58, 95% CI 1.32-1.88) や腺癌患者 (HR 1.41, 95% CI 1.11-1.79) でその関連が強い。EGFR-TKI耐性としてのMET増幅は5-20%に認められ、osimertinib 2次治療後では19% (AURA3試験, n=83)、osimertinib 1次治療後ではctDNA解析で15%に検出された。METex14変異は進行肺腺癌のNGS解析で1.7-4.3%の頻度で認められ、比較的高齢者に多く、他のドライバー変異との相互排他性が確認されている (Table 2)。組織型別頻度は腺扁平上皮癌8.2%、肉腫様癌7.7%、腺癌2.9%、扁平上皮癌2.1%の順。MET再構成は非常に稀で2410例中1例 (0.04%, MET-ATXN7L1融合)、KIF5B-MET融合でのcrizotinib奏効例が症例報告されている。
非選択患者・MET過剰発現選択患者での抗MET療法の失敗 (Table 2): 初期の抗MET療法試験は非選択患者またはIHCによるMET過剰発現患者を対象として実施されたが、一貫して否定的な結果となった。抗MET抗体onartuzumabはプラチナ系化学療法との組み合わせで、扁平上皮癌 (GO27820試験, NCT01519804) でPFS中央値4.9ヶ月 (両群同等)、非扁平上皮癌 (GO27821試験) でonartuzumab群PFS 4.8ヶ月 (95% CI 3.7-6.2) vs プラセボ群6.9ヶ月 (95% CI 4.9-10.9; HR 1.71) と改善を示さず、IHC MET陽性患者でも同様であった。erlotinibとの併用 (OMA4558g試験、METLung試験) でも陰性結果に終わった。非ATP競合型MET阻害薬tivantinibは、erlotinibとの3試験 (NCT00777309、MARQUEE、ATTENTION) で全て陰性結果となった。ATTENTION試験は間質性肺疾患の高発生率 (tivantinib群14例・うち3例死亡 vs プラセボ群6例・死亡0例) のため307例の無作為化後に早期中止された。マルチキナーゼ阻害薬cabozantinib (MET/VEGFR2 (vascular endothelial growth factor receptor 2) 阻害薬) はerlotinibとの比較試験 (ECOG-ACRIN 1512, n=125, 第II相) でPFS中央値を延長したが (cabozantinib 4.3ヶ月 vs erlotinib 1.8ヶ月, HR 0.39, 80% CI 0.27-0.55, p=0.0003)、MET IHC陽性患者 (n=74/125) でも5.0ヶ月 vs 1.8ヶ月と改善傾向があった一方、現在開発は継続されていない。これらの結果は、MET過剰発現がEGFR変異やALK転座と異なり真のドライバー変異に対応しないことを示した。
METex14変異陽性NSCLCへの選択的MET阻害薬 (Table 2): METex14変異は受容体分解阻害による持続的MET活性化をもたらす真のドライバー変異であり、選択的MET阻害薬に対する顕著な感受性が報告されている。Crizotinib (Pfizer; MET/ALK/ROS1マルチキナーゼ阻害薬): PROFILE-1001試験の拡大コホート (n=69, 未治療・既治療を問わず) では3例の完全奏効と18例の部分奏効が得られ、ORR (objective response rate; 客観的奏効率) 32% (95% CI 21-45)、PFS中央値7.3ヶ月 (95% CI 5.4-9.1) であった (Landi et al. ClinCancerRes 2019のMETROS試験ではn=9のMETex14例でORR 20%、PFS中央値2.6ヶ月 (95% CI 2.2-3.0)、OS中央値3.8ヶ月)。AcSé試験では25例のMETex14患者で2サイクル時ORR 10.7% (95% CI 2.3-28.2)、PFS中央値2.4ヶ月、OS中央値8.1ヶ月であった (Moro et al. AnnOncol 2019)。この結果を受け、2018年にFDAはcrizotinibにMETex14変異陽性NSCLCに対するBreakthrough Therapy指定を付与した。Capmatinib (INC280; Novartis; 選択的MET阻害薬type Ib): 第II相GEOMETRY mono-1試験 (n=94 METex14例) では既治療患者 (n=69) でORR 39.1% (95% CI 27.6-51.6)、PFS中央値5.4ヶ月、未治療患者 (n=25) でORR 72.0% (95% CI 50.6-87.9)、PFS中央値9.7ヶ月という顕著な有効性を示し、2019年9月にFDA Breakthrough Therapy指定 (1次治療) を取得した。Tepotinib (EMD1214063; Merck; 高選択的MET阻害薬): 第II相VISION試験の中間結果 (n=35/90評価可能) では、ORR 51.4% (95% CI 34.0-68.6)、治療期間中央値9.8ヶ月 (95% CI 1.1-18.0) であった。tepotinibもFDA Breakthrough Therapy指定を取得した。他にsavolitinib (AZD6094; AstraZeneca) やglesatinib (MGCD265; Mirati) の第II相試験が進行中であったが、本論文発表時点では詳細は未報告であった。METex14変異患者に対しcrizotinibとcapmatinib/tepotinibの奏効率に差異があるのは、コホート構成 (未治療vs既治療の比率)、患者背景、評価時点の違いによると考えられる。なお、抗MET薬の使用はOSにも反映され、METex14変異患者 (n=148中61例で生存データ利用可) でMET阻害薬未使用群のOS中央値8.1ヶ月 (95% CI 5.3-未達) に対し、MET阻害薬 (crizotinib/glesatinib/capmatinib) 使用群では24.6ヶ月 (95% CI 12.1-未達) と大幅な延長が認められた。
EGFR-TKI耐性MET増幅に対する抗MET併用療法 (Table 3): EGFR変異NSCLC患者のEGFR-TKI耐性後、5-20%でMET増幅が認められる。この状況での抗MET薬+EGFR-TKI併用が複数の試験で評価された。Tepotinib+gefitinib (INSIGHT試験, NCT01982955, 第I/II相): EGFR変異陽性/T790M陰性/MET陽性 (GCN≥5またはMET/CEP7≥2) 患者において、tepotinib+gefitinib群はプラチナ-ペメトレキセド化学療法群と比較し、PFS中央値21.2ヶ月 vs 4.2ヶ月 (HR 0.13, 90% CI 0.04-0.43)、OS中央値37.3ヶ月 vs 13.1ヶ月 (HR 0.08, 90% CI 0.01-0.51) と劇的な改善を示した。ORRも66.7% vs 42.9%と高く、両群でGrade 3以上の膵酵素 (アミラーゼ・リパーゼ) 上昇が≥15%に認められた。Savolitinib+osimertinib (TATTON試験, NCT02143466, 第Ib相): EGFR変異/T790M陰性/MET陽性 (GCN≥5またはIHC 3+) の第1・2世代EGFR-TKI前治療患者コホートではORR 52%を示し、第3世代EGFR-TKI前治療 (osimertinib後) のコホートではORR 25%が得られた。Osimertinib 1次治療の重要性がRamalingam et al. NEnglJMed 2020で示された背景において、savolitinib+osimertinibはosimertinib後耐性克服の有望な選択肢として位置づけられ、SAVANNAH試験 (NCT03778229, 第II相) でさらなる検討が進行中であった。Gefitinib+capmatinib (第Ib/II相, NCT01610336): EGFR-TKI前治療後/T790M陰性/MET増幅 (GCN≥6) の患者においてORR 47%が得られた (n=37評価可能、有意な薬物相互作用なし)。Emibetuzumab+erlotinib (第II相): MET高発現 (IHC 3+) 患者の探索的解析でemibetuzumab+erlotinib群がPFS 20.7ヶ月 vs erlotinib単独5.6ヶ月 (HR 0.39, 90% CI 0.17-0.91) と延長傾向を示したが、全体集団では主要評価項目PFSに有意差なし (9.3 vs 9.5ヶ月)。JNJ-61186372 (bispecific anti-EGFR/MET抗体, 第I相, NCT02609776): 評価可能患者でORR 28%、第3世代EGFR-TKI前治療患者47例中10例 (6例確認) が最良部分奏効を示し、EGFR C797S変異を含む耐性例でも奏効が確認された。
免疫療法とMET経路異常: MET経路異常はPD-L1発現との関連が示されている。外科切除NSCLC 622例の解析では、MET増幅陽性患者でPD-L1発現が有意に高く、腫瘍周囲リンパ球浸潤も豊富であった。METex14変異陽性NSCLC (n=148) ではPD-L1発現率は63% (1-49%が22%、≥50%が41%) と高いが、TMB (tumor mutational burden; 腫瘍変異量) 中央値は3.8 mutations/Mb (megabase; メガ塩基) と低く、変異陰性コホートの5.7 mutations/Mb より有意に低かった (p<0.001)。後向き解析では、ICIの奏効は限定的であった。Immunotarget Registry (n=34 METex14例) ではICIのORR 16%、PFS中央値4.7ヶ月、別コホート (GFPC 01-2018, n=30 MET変異例) ではORR 35.7%、PFS中央値4.9ヶ月であった。これらの結果から、ICIの奏効率はALKやRET転座よりやや高い傾向があるものの、単独での高い有効性は期待しにくい。ICIと抗MET TKIの併用 (glesatinib/sitravatinib + nivolumabなど) を評価する試験が進行中であったが、本論文発表時点では報告なし。
考察/結論
本レビューが示す最も重要な教訓は、MET経路異常を標的とする治療において、精密なバイオマーカーによる患者選択が成否を決定的に左右するという点である。これまでの研究が「MET過剰発現は予後不良因子に過ぎず治療選択の指標にならない」と示唆していたが、本レビューは複数の試験結果の統合によりその教訓をより明確に示した。IHCによるMET過剰発現選択は、遺伝子レベルの機能的変異を反映しないため失敗を繰り返した。既報のEGFRやALKを標的とする成功例と対照的に、MET過剰発現は真のドライバー変異に対応せず、この点が初期試験の連続的な陰性結果という相違を生んだ。一方、METex14変異という機能喪失型の真のドライバー変異や、EGFR-TKI耐性後の高レベルMET増幅という明確な遺伝子異常に絞り込むことで、劇的な治療効果が初めて得られた。
新規の知見: 本レビューが提示する新規な所見として、METex14変異陽性NSCLCに対するcapmatinibの未治療患者でのORR 72.0% (95% CI 50.6-87.9) とtepotinibのORR 51.4% (95% CI 34.0-68.6) が化学療法の標準的ORR (約30-35%) を大幅に上回ることが挙げられる。これらは、METex14変異がEGFR変異やALK転座に並ぶ強力な治療標的となることを臨床的に確立したnovelな知見であり、新たな治療パラダイムとして位置づけられる。また、tepotinib+gefitinib (INSIGHT試験) がEGFR-TKI耐性MET増幅患者でPFS 21.2ヶ月 (HR 0.13) と化学療法 (4.2ヶ月) を大幅に上回ったことも、これまで報告されていない顕著な改善である。savolitinib+osimertinibのORR 52% (T790M陰性/MET陽性) やcapmatinib+gefitinibのORR 47%も、EGFR-TKI耐性への新規の治療戦略として本レビューで整理された。
臨床的含意: 本レビューの知見はNSCLCの日常診療において重要な臨床応用を支持する。METex14変異の検出にはNGSが必須であり、NSCLC診断時の標準的分子プロファイリングにMETex14検出を含めることが強く推奨される。本レビュー後の2020年にcapmatinib (FDA承認, 5月) とtepotinib (日本など) がMETex14変異陽性NSCLC治療薬として承認を取得し、臨床現場での標準治療として確立されつつある。EGFR-TKI耐性患者においては、ctDNAや腫瘍組織のNGSによるMET増幅評価が次の治療選択に直結するため、耐性時の再生検の重要性が強調される。bench-to-bedsideの観点では、「機能的遺伝子変異に絞った患者選択」が分子標的療法の臨床的有用性を最大化する普遍的な橋渡し戦略として示された。
残された課題: 今後の検討に委ねられた重要な問題が複数ある。第一に、MET増幅の定義に用いるMET/CEP7比やGCNの閾値に関する国際コンセンサスが未確立であり、試験間比較が困難なままである。第二に、低コピー数増幅 (GCN 4-6) の臨床的意義が不明確で、この群が抗MET療法から恩恵を受けられるかどうかの基準が欠如している。第三に、METex14変異患者に対するcrizotinibと高選択的MET阻害薬 (capmatinib、tepotinib) の直接比較データがなく、最適な第1選択薬の根拠が薄い。第四に、ICIと抗MET TKIの組み合わせの安全性と有効性の確認に向けた更なる検討が必要であり、現時点ではこの併用のlimitationが大きい。第五に、EGFR-TKI耐性でのMET増幅に対するosimertinib+selective MET-TKIの最適な選択と、長期的な副作用プロファイルに関する前向きデータが限定的である。これらの課題を克服するfuture researchが待たれる。
方法
本論文は、NSCLCにおけるMET経路標的療法に関する既存文献を横断的にレビューしたものである。PubMedを中心とした文献データベースを用いて、MET経路の分子生物学・疫学・臨床試験結果に関する前向き・後向き研究、メタ解析、症例報告を収集・統合した (引用文献106件)。
MET経路異常の検出方法として、MET過剰発現の評価にはIHC (抗体による染色強度 2+/3+)、MET遺伝子増幅の評価にはFISHによるMET/CEP7比またはGCN (Camidge分類: 低=1.8-2.2、中=2.2-5.0、高≥5.0)、METex14変異の検出にはNGSおよびRT-PCR (reverse transcription polymerase chain reaction) が用いられた。ハイブリダイゼーションキャプチャーベースNGSはFISHとは異なり、複数の遺伝子を並行して解析し併存する遺伝子異常を同定できる点が利点である。
臨床試験の評価では、主要有効性エンドポイントとしてORR、PFS、OSを用いた。生存曲線の解析にはKaplan-Meier法、群間比較にはlog-rank検定、ハザード比 (HR) の算出にはCox比例ハザードモデルを採用した試験が多い。複数試験のメタ解析では95% CI (confidence interval; 信頼区間) を用いた効果量の推定が行われた。評価した臨床試験は (1) 非選択患者またはMET過剰発現選択患者を対象とした試験 (onartuzumab、tivantinib、cabozantinibなど)、(2) METex14変異陽性NSCLC患者を対象とした試験 (crizotinib、capmatinib、tepotinib)、(3) EGFR-TKI耐性MET増幅陽性患者を対象とした併用療法試験 (tepotinib+gefitinib、savolitinib+osimertinibなど) に大別される。また、PD-L1発現率とTMBに基づきICIとMET異常の関連性も検討した。