• 著者: Reck M, von Pawel J, Zatloukal P, Ramlau R, Gorbounova V, Hirsh V, et al.
  • Corresponding author: Martin Reck (Krankenhaus Grosshansdorf, Grosshansdorf, Germany)
  • 雑誌: Annals of Oncology
  • 発行年: 2010
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 20150572

背景

進行非小細胞肺癌 (NSCLC) は依然として癌関連死の主要な原因である。シスプラチンとゲムシタビン (CG) 併用療法は、その良好な有効性と忍容性プロファイルに基づき、欧州で広く一次治療として用いられてきた標準レジメンの一つである Smit et al. J Clin Oncol 2003。血管内皮増殖因子 (VEGF) は腫瘍血管新生の主要なメディエーターであり、その阻害は癌治療の有効な戦略として確立されている。ベバシズマブは、VEGF-Aに対するヒト化モノクローナル抗体であり、結腸直腸癌、転移性乳癌、腎細胞癌など、様々な腫瘍種においてプラチナ製剤ベースの化学療法との併用で臨床的利益をもたらすことが示されてきた Hurwitz et al. N Engl J Med 2004

非扁平上皮NSCLCの一次治療におけるベバシズマブの有効性は、これまでに2つの無作為化第III相試験で実証されている。特に、Eastern Cooperative Oncology Group (ECOG) の実施したE4599試験では、ベバシズマブとパクリタキセル/カルボプラチン併用療法が、パクリタキセル/カルボプラチン単独療法と比較して、主要評価項目である全生存期間 (OS) を有意に延長した。具体的には、OS中央値が12.3ヶ月 vs 10.3ヶ月 (HR 0.79, p=0.003) となり、NSCLCにおいてOS中央値を1年以上に延長した初の薬剤として歴史的な意義を持つ Sandler et al. NEnglJMed 2006。この結果は、ベバシズマブがNSCLC治療において重要な役割を果たす可能性を示唆したものの、その後の臨床試験ではOS延長効果が常に再現されるわけではないという課題が残されている。

AVAiL (BO17704) 試験は、ベバシズマブをシスプラチン/ゲムシタビンに上乗せした場合の有効性と安全性を評価するためにデザインされた多施設共同無作為化プラセボ対照第III相試験である。当初、本試験の主要評価項目はOSであったが、E4599試験のOS陽性結果を受けて、試験の迅速な完了と有効性データの早期報告、そして二次治療の増加によるOSエンドポイントへの交絡リスクを最小化する目的で、主要評価項目がPFS (無増悪生存期間) に変更された経緯がある。PFSに関する初回解析結果は既に報告されており、ベバシズマブの有意なPFS延長効果が示されている Reck et al. JClinOncol 2009。しかし、PFSの延長が必ずしもOSの延長に繋がるとは限らないという点で、ベバシズマブの長期的なOSへの影響については未解明な点が多かった。本報告は、最長32ヶ月 (中央値12.5ヶ月以上) の追跡期間に基づくAVAiL試験の最終OS解析結果を提供するものである。この最終解析は、ベバシズマブの長期的な有効性と、二次治療の影響を考慮した上でのOSへの影響を評価する上で極めて重要であり、特に有効な後治療が普及する中でOSを主要評価項目とすることの課題が残されている。

目的

本研究の目的は、AVAiL試験の最終OS解析結果を報告し、進行または再発の非扁平上皮非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者に対する一次治療として、ベバシズマブ (2用量:7.5 mg/kgおよび15 mg/kg) とシスプラチン/ゲムシタビン (CG) 併用療法が、プラセボ+CG療法と比較して全生存期間 (OS) を有意に延長するかどうかを検証することである。本試験はPFSを主要評価項目としてデザインされたため、OSの優越性を検出する統計的検出力は限定的であったが、後治療の影響を考慮した探索的解析を通じて、ベバシズマブのOSへの潜在的な影響を評価することも目的とする。また、安全性プロファイルの長期的な評価も目的とする。

結果

PFSの長期的な優位性の維持: AVAiL試験の主要評価項目であるPFSは、最終OS解析時点の更新解析においても、両ベバシズマブ群でプラセボ群と比較して有意な延長が確認された。ベバシズマブ7.5 mg/kg群のPFS中央値は6.7ヶ月 (HR 0.75, 95% CI 0.64-0.87, p=0.0003) であり、ベバシズマブ15 mg/kg群のPFS中央値は6.5ヶ月 (HR 0.85, 95% CI 0.73-1.00, p=0.0456) であったのに対し、プラセボ群のPFS中央値は6.1ヶ月であった。この結果は、初回PFS解析 (データカットオフ2006年10月) で報告されたHR 0.75 (p=0.0003) およびHR 0.82 (p=0.03) と一致しており、ベバシズマブのPFS延長効果が最長32ヶ月の長期追跡期間においても安定して維持されていることが示された。全患者の94%が第7サイクル以降の単剤ベバシズマブ維持療法またはプラセボ維持療法を受けており、維持療法期間の中央値はベバシズマブ7.5 mg/kg群で4.6ヶ月、15 mg/kg群で4.2ヶ月であった。PP集団においてもPFSの優位性は維持された (HR 0.72およびHR 0.84)。1年PFS率はベバシズマブ7.5 mg/kg群で13.7%、15 mg/kg群で13.5%であったのに対し、プラセボ群では6.7%であり、単剤維持療法の臨床的意義が示唆された。

奏効率の有意な改善: 客観的奏効率 (ORR) は、ベバシズマブ7.5 mg/kg群で37.8% (95% CI 32.5%-43.4%, p<0.0001)、15 mg/kg群で34.6% (95% CI 29.4%-40.0%, p=0.0002) であったのに対し、プラセボ群では21.6% (95% CI 17.3%-26.4%) であった。ベバシズマブの追加により、奏効率がプラセボ群の約1.6〜1.8倍に有意に改善し、腫瘍縮小効果が明確に確認された。疾患コントロール率 (CR+PR+SD) は、ベバシズマブ7.5 mg/kg群で73.7%、15 mg/kg群で73.2%であったのに対し、プラセボ群では65.8%であり、安定病変を含む疾患制御においても一定の上乗せ効果が示された。奏効持続期間 (DOR) の中央値は、ベバシズマブ7.5 mg/kg群で6.1ヶ月、15 mg/kg群で5.7ヶ月であったのに対し、プラセボ群では4.5ヶ月であり、腫瘍縮小の質的側面でもベバシズマブ群の優位性が確認された。

全生存期間 (OS) の有意な延長は認められず: 追跡期間中央値12.5ヶ月以上 (最大32ヶ月) の時点で、全治療群で合計715例の死亡が報告された。最終OS解析において、全3群のOS中央値は当時のNSCLC試験としては最長の13ヶ月超という良好な成績であった。プラセボ群のOS中央値は13.1ヶ月 (95% CI 11.4-14.3) であったのに対し、ベバシズマブ7.5 mg/kg群では13.6ヶ月 (95% CI 12.2-15.2, HR 0.93, 95% CI 0.78-1.11, p=0.420)、ベバシズマブ15 mg/kg群では13.4ヶ月 (95% CI 12.0-14.6, HR 1.03, 95% CI 0.86-1.23, p=0.761) であった (Figure 1A)。ベバシズマブ群とプラセボ群の間でOSの有意な延長は認められなかった。PP集団においても同様にOSの優位性は示されなかった (HR 0.89およびHR 1.02)。1年OS率はプラセボ群で55%、ベバシズマブ7.5 mg/kg群で58%、15 mg/kg群で55%と3群間で均衡していた。2年OS率はプラセボ群で22%、ベバシズマブ7.5 mg/kg群で25%、15 mg/kg群で21%であった。サブグループ解析では、東アジア患者の小集団においてベバシズマブ7.5 mg/kg群で有意なOS利益が観察されたが (OS中央値17.8ヶ月 vs 12.4ヶ月, HR 0.64, 95% CI 0.44-0.94)、他の因子 (年齢、組織型、性別、病期、喫煙歴、体重減少) ではITT集団と一致した傾向が見られた (Figure 2)。

後治療の影響: 本試験では、全治療群で62%以上の患者が試験後に少なくとも1ラインの後治療を受けており (プラセボ群65%、ベバシズマブ7.5 mg/kg群61%、15 mg/kg群61%)、これは当時のNSCLC試験として最も高い後治療使用率であった (Scagliotti et al. JClinOncol 2008のJMDB試験54%、FLEX試験57%と比較)。後治療薬種はエルロチニブ (各群19-24%)、タキサン系薬剤 (22-27%)、ペメトレキセド (13-15%)、ゲムシタビン (5-6%)、放射線療法 (17-22%) など、66種類以上の多岐にわたるレジメンが使用され、その異質性が高かった (Table 1)。プラセボ群の後治療施行率がベバシズマブ群よりわずかに高かった点も、プラセボ群のOSを底上げし、群間差を不明瞭にした可能性が示唆された。後治療を受けなかった患者を対象とした探索的OS解析では、プールされたベバシズマブ群のOS中央値が8.7ヶ月 (95% CI 7.8-9.9) であったのに対し、プラセボ群では7.3ヶ月 (95% CI 5.9-8.9) であり (HR 0.84, p=0.20)、カプラン・マイヤー曲線上では分離が観察された (Figure 1B)。しかし、このサブグループの症例数が小さかったため、統計的有意差には達しなかった。

安全性プロファイル: 安全性プロファイルは、初回PFS解析時に報告された既報の結果と一致しており、最長32ヶ月の追跡期間を含む更新解析においても新たな安全性シグナルは検出されなかった。ベバシズマブ特異的な有害事象としては、高血圧 (7.5 mg/kg群9%、15 mg/kg群13% vs プラセボ群5%)、グレード3-4の出血 (各群1-2%)、蛋白尿 (グレード3-4が各群1%) などが認められた。これらの有害事象の発現頻度と重症度は、Sandler et al. NEnglJMed 2006のECOG E4599試験の結果と整合しており、管理可能な範囲内であった。血栓塞栓症 (動静脈合計) はベバシズマブ15 mg/kg群でわずかに高頻度であったが (6% vs プラセボ群3%)、重篤な転帰に至った症例は少数であった。治療関連死亡 (プロトコル治療中) は、プラセボ群5.2%、ベバシズマブ7.5 mg/kg群4.4%、15 mg/kg群6.3%と3群間で大きな差はなく、ベバシズマブの追加による致死的毒性の有意な増加は認められなかった。

考察/結論

AVAiL試験は、進行非扁平上皮NSCLCの一次治療におけるベバシズマブの有効性と限界に関して、複数の重要な示唆を提供する。

先行研究との違い: 本試験では、PFSおよびORRにおいてベバシズマブの有意な利益が示されたにもかかわらず、OSの有意な延長が認められなかった。これは、Sandler et al. NEnglJMed 2006のE4599試験でベバシズマブがOSを延長した結果とは対照的である。この乖離は、試験デザイン上の制約 (OS検出力不足) と、高率な後治療による交絡の複合効果によるものと考えられる。AVAiL試験の患者背景はE4599試験と比較して、より良好な予後因子 (若年、腺癌が多い、非喫煙者が多い、乾燥IIIb期を含む) を有しており、これが全群のOS中央値が13ヶ月超という当時のNSCLC試験で最長の成績につながった。この良好な予後が、OSにおける群間差の検出感度を低下させた可能性が指摘される。

新規性: 本研究で初めて、PFS利益がOSに直結しない可能性を明確に示した。特に、後治療を受けなかった患者の探索的OS解析では、プールされたベバシズマブ群でプラセボ群と比較してOS曲線の分離が観察され、ベバシズマブが生物学的にOSに影響を与えた可能性を示唆する新規の知見が得られた。これは、有効な二次治療が広く利用可能となった現代の腫瘍試験において、OSを主要評価項目とすることの課題を明確に提起した点で新規性がある。

臨床応用: 本知見は、非扁平上皮NSCLCの一次治療における抗血管新生療法の位置づけに重要な臨床的含意を持つ。PFSの延長は患者が疾患進行なく長く生活できることを意味し、臨床的に意義のあるアウトカムである。AVAiL試験の結果は、米国食品医薬品局 (FDA) や欧州医薬品庁 (EMA) がPFSを一次治療NSCLCの有効な主要評価項目として認める根拠の一つとなり、AVAiLやBETA Lung試験の結果がこの流れを加速した。これは、複数の有効な治療選択肢が存在する場合に、PFSが臨床的利益の妥当な指標となり得ることを示している。

残された課題: 今後の検討課題として、後治療の影響をより詳細に評価するための研究デザインが必要である。本試験では、後治療の多様性と高頻度な使用がOS解析の交絡因子となった。特定のバイオマーカーを用いて、ベバシズマブのOS利益を享受できる患者集団を同定することも残された課題である。サブグループ解析で東アジア患者においてベバシズマブ7.5 mg/kg群でOS利益が示唆されたが (HR 0.64)、サンプル数が小さく探索的知見にとどまるため、この結果を検証するさらなる研究が必要である。また、Ferrara et al. NatRevDrugDiscov 2004が報告したように、ベバシズマブと異なる細胞傷害性化学療法剤との相互作用の可能性も示唆されており、これらの相互作用が臨床転帰に与える影響についても今後の研究が待たれる。

方法

本試験は、2005年2月から2006年8月にかけて、20カ国150施設で実施された多施設共同無作為化プラセボ対照第III相試験 (NCT00806923) である。組織学的または細胞学的に確認された進行期 (IIIb期で鎖骨上リンパ節転移、悪性胸水または心嚢液貯留、あるいはIV期) または再発の非扁平上皮NSCLC患者1,043例が登録された。混合型非小細胞肺癌で小細胞癌成分を含む患者、または扁平上皮成分が優位な腺扁平上皮癌患者は除外された。

適格患者は、以下の3群のいずれかに1:1:1で無作為に割り付けられた。

  1. ベバシズマブ7.5 mg/kg + CG群 (n=345)
  2. ベバシズマブ15 mg/kg + CG群 (n=351)
  3. プラセボ + CG群 (n=347)

CG療法は、シスプラチン80 mg/m²をDay 1に、ゲムシタビン1250 mg/m²をDay 1およびDay 8に、3週ごとに最大6サイクル投与された。ベバシズマブまたはプラセボは、3週ごとにDay 1に静脈内投与され、疾患進行または許容できない毒性が発現するまで継続された (単剤維持療法)。プラセボ群からベバシズマブ群へのクロスオーバーは許可されなかった。

主要解析集団はITT (intent-to-treat) 集団であり、無作為化された全患者が含まれた。副次的に、PP (per protocol) 集団 (主要なプロトコル逸脱がなく、少なくとも4サイクルの治験薬投与を受け、かつ少なくとも1回の腫瘍評価を受けた患者、または疾患進行や死亡により4サイクル未満で治療を中止した患者) でも解析が実施された。

本試験は当初、OSを主要評価項目とする2段階適応デザインで開始されたが、E4599試験のOS陽性結果を受けてプロトコルが改訂され、PFSが主要評価項目に変更された。このため、本試験はPFSの検出力に基づいてデザインされており、2つのベバシズマブ用量を維持したままOSの優越性を検出する統計的検出力は有していなかった。両ベバシズマブ群をプールしてプラセボ群と比較する解析は、プールに必要な基準が満たされなかったため実施されなかった。後治療を受けなかった患者におけるOSの探索的解析は、両ベバシズマブ群をプールしたデータとプラセボ群で実施された。OSの事前計画された探索的サブグループ解析は、ECOGパフォーマンスステータス、病期、性別、年齢などのベースライン因子に基づいて実施された。イベント発生までの期間分布は、カプラン・マイヤー法を用いて推定された。統計解析にはログランク検定が用いられた。本報告における全ての解析は、2007年11月30日のデータカットオフに基づいて実施された。