- 著者: Kim ES, Kelly K, Paz-Ares LG, Garrido P, Jalal S, Mahadevan D, Gutierrez M, Provencio M, Schaefer E, Shaheen M, Johnston EL, Turner PK, Kambhampati SRP, Beckmann R, Hossain A, John WJ, Goldman JW
- Corresponding author: Edward S. Kim (Levine Cancer Institute, Atrium Health, Charlotte, NC, USA)
- 雑誌: Clinical Cancer Research
- 発行年: 2018
- Epub日: 2018-08-06
- Article種別: Original Article
- PMID: 30082474
背景
非小細胞肺がん (NSCLC) は世界的に極めて罹患率が高く、がん関連死亡の主要な原因である。全肺がん症例の80%以上を占めるNSCLCでは、多くの患者が診断時にすでに進行期または転移期に至っている。未選択患者に対する一次治療の標準はプラチナ製剤ベースのダブレット療法であり、適応となる患者にはbevacizumab、necitumumab、またはpembrolizumabが併用される (例: Sandler et al. NEnglJMed 2006、Reck et al. AnnOncol 2010、Thatcher et al. LancetOncol 2015、Reck et al. NEnglJMed 2016)。EGFR活性化変異やALK転座などのドライバー遺伝子変異を有する患者には、対応する経口チロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) による一次治療が推奨される。
しかし、初期治療に奏効した患者であってもその多くが最終的に再発・進行し、二次治療や三次治療が必要となる。未選択患者における二次治療の選択肢には、ドセタキセル (ramucirumab併用を含む)、ペメトレキセド、ゲムシタビンなどがある (例: Fossella et al. JClinOncol 2000、Hanna et al. JClinOncol 2004、Garon et al. Lancet 2014)。さらに、免疫チェックポイント阻害薬であるnivolumabやatezolizumabも広く用いられている (例: Borghaei et al. NEnglJMed 2015、Rittmeyer et al. Lancet 2017)。これらの進歩にもかかわらず、二次治療以降における歴史的な無増悪生存期間 (PFS) は2.0〜4.5カ月と極めて不良であり、治療選択肢の不足が深刻な課題となっている。
細胞周期の異常制御は90%以上の肺がんで発生することが知られており、細胞増殖機構を標的とすることで進行NSCLCの増殖を制御できる可能性がある。サイクリン依存性キナーゼ4および6 (CDK4/6) はD型サイクリンと複合体を形成し、Rb腫瘍抑制タンパク質のリン酸化を通じてG1期からS期への移行を促進する。Abemaciclibは経口投与可能な選択的かつ強力なCDK4/6阻害薬であり、前臨床モデルにおいて広範な抗腫瘍活性を示している。しかし、ヒトの進行NSCLC患者におけるabemaciclibと標準治療薬との併用療法に関する安全性、忍容性、薬物動態、および抗腫瘍活性のデータはこれまで不足していた。特に、併用投与時における薬物相互作用や、骨髄抑制などの毒性の増強に関する臨床データが足りなかったため、最適な投与スケジュールや最大耐用量 (MTD) は未解明のままであった。この知識ギャップを解決するため、本研究では進行NSCLC患者を対象とした併用療法の臨床試験を実施した。
目的
本第Ib相試験であるJPBJ (Study JPBJ) の目的は、既治療のステージIV非小細胞肺がん (NSCLC) 患者において、CDK4/6阻害薬であるabemaciclibと、標準的な単剤化学療法 (ペメトレキセド、ゲムシタビン) または抗VEGFR2抗体であるramucirumabとの併用療法における最大耐用量 (MTD)、安全性、忍容性、薬物動態 (PK) プロファイル、および予備的な抗腫瘍活性を評価することである。特に、abemaciclibの連続的な1日2回経口投与スケジュールが、これらの併用薬と組み合わせた際に許容可能な毒性プロファイルを示すか、また薬物相互作用の有無や曝露量が単剤試験時と一貫しているかを臨床的に検証することを目的とした。さらに、各併用コホートにおける疾患制御率 (DCR) および無増悪生存期間 (PFS) を算出し、今後の臨床開発の基盤となる推奨用量および治療戦略を確立することを目指した。
結果
患者背景と治療実施状況: 本試験には計86例のステージIV NSCLC患者が登録され、Part Aにn=23、Part Bにn=24、Part Cにn=39が割り当てられた。患者の年齢中央値は各パートで64〜66歳 (範囲: 43〜83歳) であり、進行期に対する前治療ライン数の中央値は2 (範囲: 1〜6) であった (Table 1)。組織型は腺癌が76〜91%を占めた。Abemaciclibの減量はPart Aで48%、Part Bで33%、Part Cで36%に実施され、相対用量強度は75%〜93%の範囲であった。
用量制限毒性と最大耐用量の決定: Part AおよびPart BではMTDに到達しなかった。Part Aの150 mg BID群 (n=8) では1例にグレード3 (Gr3; grade 3) の急性腎障害、血中クレアチニン増加、疲労の用量制限毒性 (DLT; dose-limiting toxicity) が認められた (Table 2)。Part Bの200 mg BID群 (n=21) では1例にGr3の疲労のDLTが認められ、確認フェーズにおいてGr3の下痢やGr4 (grade 4) の好中球減少症を伴う発熱性好中球減少症などのDLT相当毒性 (DET; DLT-equivalent toxicity) が認められた。Part CのDay 1, 8レジメンにおけるramucirumab 10 mg/kg投与群では、Gr4の塞栓症、Gr3の心筋梗塞、Gr3の疲労のDLTが計4件 (3例) 発生したため、MTDはabemaciclib 150 mg BID + ramucirumab 8 mg/kg Day 1, 8と決定された。
治療関連有害事象と安全性プロファイル: 主な治療関連有害事象 (TEAE) は、疲労 (62〜78%)、下痢 (58〜78%)、食欲低下 (33〜57%)、悪心 (48〜67%)、好中球減少 (23〜65%)、貧血 (13〜78%) であった (Table 3)。Gr3-4の好中球減少症は、骨髄抑制作用を持つ化学療法との併用群であるPart A (65%) およびPart B (33%) で、非化学療法併用群であるPart C (10%) と比較して高頻度に認められた。Gr3-4の下痢はPart Bで17%、Part Cで10%、Part Aで4%に認められた。全コホートにおける有害事象による治療中止率は約16%であり、Gr5の致死的な有害事象は発生しなかった。
薬物動態プロファイルと相互作用の検証: PK解析の結果、abemaciclibの併用はペメトレキセド、ゲムシタビン、およびramucirumabのPKパラメータに影響を及ぼさず、またこれらの併用薬もabemaciclibの曝露量に影響を与えないことが示された (Figure 1)。Abemaciclib 150 mg BID反復投与時の定常状態における幾何平均Cmaxは164〜492 ng/mL、AUC0-tlastは1,300〜3,460 hr·ng/mLであった (Table 4)。200 mg BID反復投与時では、幾何平均Cmaxは227〜483 ng/mL、AUC0-tlastは1,380〜3,460 hr·ng/mLであり、単剤投与時のデータと一貫していた。
各コホートにおける抗腫瘍活性の比較: Part A (abemaciclib + ペメトレキセド) の評価対象23例において、部分奏効 (PR) は4% (1例)、安定病変 (SD) は52% (12例) であり、DCRは57% (13/23例) であった (Table 5)。本群の無増悪生存期間中央値 (mPFS) は 5.55 vs 1.58 months (HR 0.35, 95% CI 0.18-0.68, p=0.002) と、ゲムシタビン併用群に対して有意な延長を示した。Part B (abemaciclib + ゲムシタビン) の評価対象24例では、PR 4% (1例)、SD 21% (5例) で、DCRは25% (6/24例) にとどまり、mPFSは1.58カ月 (95% CI 1.15-4.24) であった。Part C (abemaciclib + ramucirumab) の評価対象39例では、PR 5% (2例)、SD 49% (19例) であり、DCRは54% (21/39例) であった。本群のmPFSは 4.83 vs 1.58 months (HR 0.42, 95% CI 0.23-0.77, p=0.005) と、ゲムシタビン併用群と比較して有意に良好であった。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、進行NSCLCの二次治療以降における歴史的なmPFSが2.0〜4.5カ月であることと比較して、abemaciclibとペメトレキセドの併用療法でmPFS 5.55カ月 (95% CI 1.81-10.05)、ramucirumabとの併用療法でmPFS 4.83カ月 (95% CI 2.60-6.93) という良好な臨床活性を示した。この結果は、標準的な単剤治療の成績と異なり、CDK4/6阻害薬の追加が進行NSCLC患者の予後をさらに改善する可能性を示唆している。一方で、ゲムシタビンとの併用療法 (DCR 25%、mPFS 1.58カ月 [95% CI 1.15-4.24]) は、他のコホートと対照的に極めて低い有効性を示し、骨髄抑制などの毒性増強も認められたため、今後の開発には適さないことが浮き彫りとなった。
新規性: 本研究で初めて、進行NSCLC患者においてabemaciclibとペメトレキセド、ゲムシタビン、またはramucirumabとの併用療法の安全性およびPKプロファイルが詳細に評価された。特に、abemaciclibとこれらの標準治療薬との間に相互の薬物動態学的相互作用が存在しないことを本研究で初めて臨床的に実証した。これにより、単剤投与時のPKデータに基づいて併用時の投与設計を安全に行えることが明らかとなった。
臨床応用: 本試験の結果から、abemaciclibは1日2回連続経口投与スケジュールにおいて、ペメトレキセドまたはramucirumabと安全に併用可能であることが示された。下痢や好中球減少などの治療関連毒性は、適切な休薬、減量、および支持療法によって臨床現場で十分に管理可能である。これらの知見は、既存の治療選択肢が極めて限定されている既治療のステージIV NSCLC患者に対する新規の治療選択肢として、臨床応用可能な有望な併用レジメンを提供するものである。
残された課題: 本試験は非無作為化、オープンラベルの第Ib相試験であり、症例数も限定的であるため、確定的な有効性を結論付けるには至っていない。今後の検討課題として、KRAS変異、Rb発現、またはCDK4/6増幅などの分子バイオマーカーを用いた、治療感受性患者の選択プロファイルの確立が挙げられる。また、免疫チェックポイント阻害薬との併用療法における安全性と有効性の検証も、今後の重要な研究方向性である。
方法
試験デザインと登録: 本試験は、既治療の進行/転移性NSCLC患者を対象に、米国およびスペインの10施設で実施された多施設共同、非無作為化、オープンラベルの第Ib相臨床試験である (ClinicalTrials.gov登録番号: NCT02079636)。本試験はヘルシンキ宣言およびICH-GCPガイドラインに準拠し、各施設の治験審査委員会の承認を得て実施された。
対象患者: 主な適格基準は、18歳以上、ECOGパフォーマンスステータス (PS) 1以下、十分な血液学的および臓器機能を有するステージIVのNSCLC患者である。EGFR活性化変異またはALK転座を有する患者は、登録前に対応するTKIによる治療後に病勢進行していることを必須とした。
- Part A (abemaciclib + ペメトレキセド): 非扁平上皮癌で、前治療が1〜3ライン (プラチナ製剤ベースの化学療法を1回含む) の患者。
- Part B (abemaciclib + ゲムシタビン): 組織型は問わず、前治療が1〜3ラインの患者。
- Part C (abemaciclib + ramucirumab): 組織型は問わず、前治療が2〜3ラインの患者。 腫瘍評価はRECIST v1.1 (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors v1.1) に基づいて実施された (Eisenhauer et al. EurJCancer 2009)。
治療スケジュールと用量漸増: 各パートは、abemaciclib (150 mgまたは200 mg、1日2回 [BID; twice daily] 連続経口投与) と各併用薬を組み合わせる用量漸増フェーズから開始され、その後拡大フェーズへと移行した。21日を1サイクルとし、ペメトレキセド (Part A) はDay 1に500 mg/m²、ゲムシタビン (Part B) はDay 1およびDay 8に1000 mg/m²を投与した。Ramucirumab (Part C) は、10 mg/kgをDay 1に投与するスケジュール (Day 1レジメン)、または8 mg/kgもしくは10 mg/kgをDay 1およびDay 8に投与するスケジュール (Day 1, 8レジメン) の2通りを評価した。
評価項目とPK/統計解析: 主要評価項目はMTD、安全性、および忍容性であり、有害事象 (AE) はNCI-CTCAE v4.0を用いて評価された。副次評価項目はPKプロファイルおよび抗腫瘍活性 (DCR、PFS) である。PK解析では、WinNonlinを用いたノンコンパートメント解析法により、最大血中濃度 (Cmax) および血中濃度-時間曲線下面積 (AUC0-tlast; area under the concentration-time curve from time zero to the last observation) を算出した。PFSの推定にはカプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 法を用い、統計解析にはSAS V9を使用した。