- 著者: Sekine I, Noda K, Oshita F, Yamada K, Tanaka M, Yamashita K, Nokihara H, Yamamoto N, Kunitoh H, Ohe Y, Tamura T, Kodama T, Sumi M, Saijo N
- Corresponding author: Ikuo Sekine (Division of Thoracic Oncology and Internal Medicine, National Cancer Center Hospital, Tokyo)
- 雑誌: Cancer Science
- 発行年: 2004
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article (Phase I)
- PMID: 15298734
背景
切除不能stage III NSCLC (non-small cell lung cancer; 非小細胞肺癌) は全肺癌の約25%を占め、局所腫瘍と全身微小転移の双方を制御するため、全身化学療法と胸部放射線療法 (thoracic radiotherapy; TRT) の組み合わせが標準治療戦略とされてきた。同時放射線化学療法 (concurrent chemoradiotherapy; CRT) が逐次療法より優れることは複数の第III相試験で示された。Furuse et al. (1999) による日本発のPhase III試験では、シスプラチン+マイトマイシン+ビンデシン同時群 (mOS 16.5ヶ月) が逐次群 (mOS 13.3ヶ月) を上回り、同時期のRTOG 9410試験 (Curren et al., 2000) でも同時群mOS 17.0ヶ月 vs 逐次群14.6ヶ月と同時療法の優位性が示された。ただし、急性食道炎 (esophagitis) は同時療法群でより高率であることも明らかとなった。
日本では当時シスプラチン+ビンデシン±マイトマイシンの同時CRTが広く普及し、mOS 17-19ヶ月・5年生存率16%が複数の試験で報告された。ビノレルビン (vinorelbine) はカタランテン環に置換を有する半合成ビンカアルカロイドで、有糸分裂スピンドルの微小管を旧来のビンカアルカロイドより選択的に脱重合させる。Le Chevalier et al. (1994) をはじめとする複数の無作為化試験でビノレルビン単剤またはシスプラチン+ビノレルビン併用がビンデシンより進行・転移NSCLCに対し優れた活性を示した。Kawahara et al. (2000) の日本での無作為化試験では、シスプラチン+マイトマイシン+ビノレルビンがビンデシン含有レジメンと比較してORR 57% vs 38% (p=0.025)、mOS 15 vs 11ヶ月 (p<0.01) と有意な改善を示した。
こうした背景から、ビノレルビンをビンデシンの代替として同時CRTに組み込む戦略が期待されたが、TRTとの同時投与における至適用量・MTD (maximum tolerated dose; 最大耐用量)・推奨用量は依然として確立されておらず、phase II試験設計に必要な安全性データに gap in knowledge が存在した。ビノレルビン同時CRTの推奨用量が不足していたことが、本第I相試験実施の直接の動機となった。
目的
切除不能stage III NSCLCに対するシスプラチン+ビノレルビン+TRT 60 Gy同時療法において、ビノレルビンのMTDおよび第II相試験推奨用量を決定すること。当初はビノレルビン+シスプラチン+マイトマイシン3剤の用量漸増 (dose level 3-5) も計画されたが、MTD到達により2剤レジメン (level 1-2) の評価に限定された。
結果
患者背景 (Table 2): 1999年10月〜2000年8月に計18例が登録された (level 1: n=13、level 2: n=5)。全例がstage IIIA-N2またはIIIBの切除不能疾患。性別: 男性16例 (89%)、女性2例 (11%)。年齢中央値59歳 (範囲48-69歳)。PS 0: 4例 (22%)、PS 1: 14例 (78%)。体重減少: <5%が12例 (67%)、5-9%が4例 (22%)、≥10%が2例 (11%)。T因子: T1 1例 (6%)、T2 6例 (33%)、T3 7例 (39%)、T4 4例 (22%)。N因子: N2 11例 (61%)、N3 7例 (39%)。臨床ステージ: IIIA 9例 (50%)、IIIB 9例 (50%)。組織型: 腺癌14例 (78%)、扁平上皮癌3例 (17%)、腺扁平上皮癌1例 (6%)。なおlevel 1の1例が第2サイクル中に好中球減少非関連の細菌性髄膜炎を発症したが、治療との直接的因果関係が認められなかったためDLT評価から除外し、同レベルに代替患者1例を追加登録した。
治療コンプライアンス (Table 3): TRT 60 Gy総線量完遂率はlevel 1で77% (10/13例)、level 2で100% (5/5例)。60 Gy完遂患者 (n=15) における放射線療法遅延: 両レベルとも60%が5日未満、40%が5日以上であった。化学療法4サイクル完遂率はlevel 1: 77% (10/13例)、level 2: 80% (4/5例)。ビノレルビンday 8投与省略0回: level 1: 69% (9/13例)、level 2: 40% (2/5例)。day 8省略1回: level 1: 31% (4例)、level 2: 40% (2例); level 2では3回省略した症例も1例 (20%) 認められ、骨髄抑制強化によるday 8省略率の増加がlevel 2でより顕著であった。初期照射野中央値はlevel 1: 171 cm² (範囲128-529 cm²)、level 2: 182 cm² (範囲128-248 cm²)と両群で差異はなく、治療コンプライアンスに影響する照射野サイズの偏りはなかった。
用量漸増・MTD・推奨用量の決定: Level 1では初期6例中2例がDLTを示したため追加6例を登録 (計12例) し、最終的にDLTは12例中4例 (DLT率33%) に認められた。Level 2では5例中3例 (DLT率60%) がDLTを示した。Level 1 vs Level 2のDLT発生率は33% vs 60%であり、この差異に基づきlevel 2 (ビノレルビン25 mg/m²) をMTD (maximum tolerated dose; 最大耐用量) と決定した。したがってlevel 1 (シスプラチン80 mg/m²+ビノレルビン20 mg/m²) を第II相試験推奨用量として確定した。7例のDLTの内訳: 好中球減少関連grade 3-4感染症 6例、grade 4トランスアミナーゼ (AST/ALT) 上昇 1例。MTD到達により当初計画のマイトマイシン追加用量レベル (level 3-5) への漸増は断念された。
急性毒性プロファイル (Table 4): 血液毒性が毒性の主体であった。Grade 3-4好中球減少: level 1: 77% (grade 3: 7例、grade 4: 3例)、level 2: 100% (grade 3: 1例、grade 4: 4例)。Grade 3-4白血球減少も同様にlevel 1: 77%、level 2: 100%。Grade 3貧血: level 1: 23% (3/13例)、level 2: 20% (1/5例) であったが、輸血を要した症例はなかった。血小板減少はいずれの症例でもgrade 1-2と軽度に留まった。非血液毒性では、grade 4 AST/ALT上昇が1例 (level 1) で第1サイクルに認められたが、自覚症状なく化学療法中止後に正常値へ回復した。Grade 3低ナトリウム血症が1例 (level 1) で一過性・無症候性に認められた。Grade 3-4感染症: level 1: 31% (4/13例)、level 2: 60% (3/5例); 感染症のほぼ全例が好中球減少との関連を有し、唯一の例外が前述の細菌性髄膜炎1例 (level 1) であった。食道炎 (esophagitis) はlevel 1・2ともに全例grade 1-2と軽度であり、grade 3-4食道炎は認められなかった。悪心・嘔吐もgrade 1-2のみ。感覚性ニューロパチーはlevel 1で2例grade 1。遅発性肺毒性 (TRT関連): grade 3: 1例 (6%)、grade 2: 4例 (22%)、grade 1: 8例 (44%)。遅発性食道毒性は認めなかった。治療関連死亡は30日以内に発生しなかった。
有効性: 奏効率・生存成績 (Fig 1): n=18の全例を腫瘍効果・生存解析の対象とした。CR (complete response) 0例、PR (partial response) 15例、NC (no change) 1例、PD 2例。ORR 83% (95% CI: 59-96%)。本試験のmedian survival time 30.4ヶ月 vs 先行標準同時CRTレジメン (Furuse et al. 1999; mOS 16.5ヶ月) および (Curren et al., 2000; mOS 17.0ヶ月) と比較して際立って良好な生存成績を示した。再発はn=18中12例 (67%) に認められた。初回再発部位の内訳: 局所領域のみ5例 (28%)、局所領域+遠隔転移3例 (17%)、遠隔転移のみ4例 (22%)。遠隔転移の最多部位は脳転移で5例 (28%) に発生した。median progression-free survival (無増悪生存期間中央値): 15.6ヶ月。median survival time (全生存期間中央値): 30.4ヶ月。1年・2年・3年生存率: 72%・61%・50% (Fig 1)。打ち切り症例の追跡期間中央値: 35.4ヶ月 (範囲32.0-43.4ヶ月)。
考察/結論
本第I相試験は切除不能stage III NSCLCに対するシスプラチン80 mg/m²+ビノレルビン+TRT 60 Gy同時療法において、ビノレルビン推奨用量を20 mg/m² (day 1・8、4週毎) と確定した。この推奨用量はCALGB試験 (Masters et al., JCO 1998: ビノレルビン15 mg/m²+シスプラチン80 mg/m²、3週毎) やCzech Lung Cancer Cooperative Group試験 (ビノレルビン12.5 mg/m²+シスプラチン80 mg/m²、4週毎) と類似しており、TRT非併用時の最適ビノレルビン単剤量 (30 mg/m²、3週毎) および転移性NSCLCに対するシスプラチン+ビノレルビン標準量 (30 mg/m²+80 mg/m²、3週毎) と比較して少なかった。これまでの研究では放射線増感効果により同時CRT時の骨髄抑制が強化されることが知られており、本試験でもビノレルビンは放射線非存在下の至適量の約3分の2の用量でしか安全に投与できなかった。
本試験の有効性成績は既報の同時CRTレジメン (シスプラチン+ビンデシン±マイトマイシン: mOS 15-17ヶ月) と異なる、より良好な水準を示した。ORR 83%およびmedian survival time 30.4ヶ月は当時の標準的同時CRT成績を上回り、1年生存率72%・3年生存率50%という結果は新規な知見として注目される。Furuse et al. JClinOncol 1999 が確立した同時CRT基盤に対し、ビノレルビンへの薬剤置換が有効性を付加した可能性を示唆するデータである。一方、Vokes et al. JClinOncol 2002 のようなinduction chemotherapy (導入化学療法) 先行レジメン (mOS 13-18ヶ月) と比較して、本試験では導入療法なしで直接同時CRTを開始したことが生存成績に有利に働いた可能性がある。導入化学療法の奏効率は高くても40%程度であり、本試験当時も進行中のCALGB Phase III試験でその意義が検証されつつあった。
毒性プロファイルについて、grade 3-4食道炎・急性肺炎が認められなかった点は臨床的意義が大きい。多くの同時CRT試験でこれら放射線性毒性がDLTとなっていたことと対照的であり、本レジメンは骨髄抑制・感染症を主体とした安全性プロファイルを示した。ただし、n=18という小規模第I相試験であり散発的に発現する放射線肺毒性・食道炎を検出するには十分な検出力を持たない点はlimitationである。今後の第II相・第III相試験でのこれら毒性の厳重な観察が必要である。
臨床応用の観点からみると、本試験で確定したシスプラチン+ビノレルビン同時CRT推奨用量は以後の第II相・第III相試験設計の基盤となった。現代では Antonia et al. NEnglJMed 2017 によってデュルバルマブ (durvalumab) 維持療法が同時CRT後の標準治療として確立されており、本試験が提供したシスプラチン+ビノレルビン同時CRTの有効性・安全性データはその礎となる化学放射線療法確立の重要な一端を担う。残された課題として、マイトマイシン追加への発展は骨髄毒性により断念されたが、ビノレルビン用量の更なる最適化・免疫チェックポイント阻害薬との組み合わせにおける位置づけ・長期遅発毒性の評価について今後の検討が求められる。
方法
二施設共同第I相試験 (国立がんセンター病院・神奈川県立がんセンター)。登録期間: 1999年10月〜2000年8月。各施設の倫理審査委員会 (Institutional Review Board) 承認済み、全患者から文書同意取得。データ管理・定期モニタリング・最終解析はStudy Coordinatorが実施。
適格基準: 組織学的・細胞学的確診の切除不能stage IIIA/IIIB NSCLC (stages IIIA and IIIB)、前治療歴なし、測定可能病変あり、ECOG PS (performance status) 0-1、年齢20-74歳、推定照射野が片側肺の半分以内。骨髄機能: WBC≥4.0×10⁹/L、好中球≥2.0×10⁹/L、Hb≥10.0 g/dL、血小板≥100×10⁹/L。肝機能: 総ビリルビン≤1.5 mg/dL、トランスアミナーゼ≤正常上限2倍。腎機能: 血清Cr≤1.5 mg/dL、クレアチニンクリアランス≥60 mL/min、PaO₂≥70 Torr。悪性胸水・心嚢水、間質性肺炎・肺線維症、活動性重複がん、重篤合併症 (コントロール不良の狭心症・糖尿病・高血圧等) を有する患者は除外。
治療: シスプラチン80 mg/m² (day 1、60分点滴+2500-3000 mLの水分補給) +ビノレルビン (level 1: 20 mg/m²; level 2: 25 mg/m²、40 mL生食に溶解してbolus静注) day 1・8、4週毎4サイクル。全例に5HT3受容体拮抗薬+ステロイドの予防的制吐療法を実施。TRT: 光子線 (6-10 MV) による2 Gy/日×15回 (3週間) →4日休止→同条件の2 Gy×15回 (3週間)、総線量60 Gy。照射野はCTV (clinical target volume; 臨床標的体積) の3領域で設定: CTV1 (primary tumor volume; 原発巣)、CTV2 (regional lymph nodes; 所属リンパ節)、CTV3 (elective nodal volume; 選択的照射域); 脊髄線量40 Gy以下に制限。照射開始は第1サイクルday 2。
DLT (dose-limiting toxicity; 用量制限毒性) 定義: 好中球<0.5×10⁹/L持続≥4日、grade≥3発熱性好中球減少症 (febrile neutropenia)、血小板<20×10⁹/L、悪心・嘔吐以外のgrade≥3非血液毒性、治療拒否。用量漸増規則: 初期6例中≤1例がDLT→次段階; 2/6例→追加6例 (計12例); 12例中≤4例→次段階; ≥5例→MTD決定; 初期3/6例→即MTD。毒性評価: NCI Common Toxicity Criteria (NCI-CTC) version 2.0 (急性)・RTOG Late Radiation Morbidity Scoring Schema (遅発性)。腫瘍効果: WHO基準 (CR: 4週以上持続する全病変消失、PR: 総腫瘍径≥50%縮小)。生存解析: Kaplan-Meier法によるOS (overall survival; 全生存期間)・PFS (progression-free survival; 無増悪生存期間) 推定。生存時間は登録日から算出。