- 著者: Crawford J, O’Rourke M, Schiller JH, Spiridonidis CH, Yanovich S, Ozer H, Langleben A, Hutchins L, Koletsky A, Clamon G, Burman S, White R, Hohneker J
- Corresponding author: Jeffrey Crawford, MD (Duke University Medical Center, Durham, NC, USA)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 1996
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article (Multicenter Randomized Phase 3 Trial)
- PMID: 8874339
背景
進行非小細胞肺癌 non-small cell lung cancer (NSCLC) の治療は 1990 年代初頭まで限定的で、メタ解析 (Souquet 1993、Grilli 1993) で示された化学療法の生存ベネフィットは中央生存 (median overall survival, mOS) で約 8 週間の上乗せに留まっていた。当時の標準治療は cisplatin ベース多剤併用 (cisplatin/vindesine、cisplatin/etoposide、mitomycin/cyclophosphamide 等) で、報告されている化学療法群 mOS は 20-35 週、best supportive care (BSC) 群 mOS は 9-21 週であった (本試験 Table 6 参照)。これら多剤併用はそれ相応の毒性 (顕著な悪心・嘔吐、腎毒性、貧血) を伴い quality of life (QOL) への悪影響が controversial に議論されていた。
毒性が低く QOL を損なわない新規単剤の開発が未解明で重要な課題であった。Vinorelbine (Navelbine、VNR) は半合成 vinca alkaloid で、欧米の単一施設・多施設 phase 2 試験で NSCLC への活性が確認されていた (Depierre 1991、Yokoyama 1992)。Le Chevalier ら (1994 JClinOncol) の欧州 612 例試験では vinorelbine 単剤 mOS が vindesine + cisplatin と同等で、vinorelbine + cisplatin が両者を上回ることが示された。これらメタ解析時代の化学療法ベネフィットを統合的に検証したのが NSCLC et al. JClinOncol 2008 で、化学療法上乗せの 1-yr OS 改善 +9% が確認されたが、本論文発表当時 (1996) では single-agent 活性データは限定的。さらに後年の Sekine et al. CancerSci 2004 が cisplatin + vinorelbine + cCRT の phase I 結果を示すまで、vinorelbine の多用途活性は十分に explored されていなかった。しかし米国における single-agent VNR の標準化学療法対比の活性データは手薄であり、また QOL を主要評価項目に組み込んだ米国 multicenter RCT は皆無であった。VNR の単剤活性確認と毒性プロファイル評価のための米国 multicenter 試験のニーズが不足しており、これまで論じられてきた多剤併用 vs BSC とは異なる軸 (single-agent activity と QOL impact) に対する base evidence の gap が何が足りなかったかを明示する。本試験はこの空白を直接埋めるべく、当時 NSCLC に対し未承認かつ毒性が比較的低い 5-fluorouracil + leucovorin (5-FU/LV) を比較対照に据え、VNR 単剤の優越性検証を目的とした。
目的
未治療 Stage IV NSCLC 患者を対象に、vinorelbine (VNR) 単剤と 5-fluorouracil + leucovorin (5-FU/LV) 併用を直接比較し、主要評価項目として (1) overall survival (OS)、(2) quality of life (QOL)、(3) 癌症状緩和を検証する。副次的に objective response rate (ORR)、time to treatment failure (TTF)、毒性プロファイルを評価する。
結果
Patient cohort と治療曝露 (Table 2): 216 例ランダム化、5 例 (VNR 1、5-FU/LV 4) が治療開始前に治療せず除外、解析対象 211 例 (VNR n=143 vs 5-FU/LV n=68)。両群でベースライン (性別・年齢・PS・体重減少・組織型) はおおむね均衡したが、5-FU/LV 群で prior surgery 41% vs 27% (P<.05) と多転移病変 (≥2 部位) 66% vs 49% (P<.05) が高頻度。年齢中央値 61 歳両群同一、男性 71% 両群同一、KPS 90-100 が VNR 50% vs 5-FU/LV 38%。中央治療期間: VNR 9 週 (range 1-56) vs 5-FU/LV 8 週 (range 1-50)。Dose-intensity: VNR 22.5 mg/m²/週 (intended の 74%)、5-FU/LV では 5-FU 400 mg/m²/週 (intended の 94%)。
主要評価項目 OS の有意な改善: Kaplan-Meier 中央 OS は VNR 30 週 (n=143) vs 5-FU/LV 22 週 (n=68) で絶対値差 8 週、1 年 OS 25% vs 16% (絶対値差 +9 ポイント)、log-rank P=.03 で統計的に有意。Cox 多変量解析で有意な予後因子は骨転移 (P=.002)、KPS (P=.003)、体重減少 (P=.012)、LDH >350 U/L (P=.021) で、treatment arm は P=.062 で borderline significance。組織型・転移部位数・prior surgery・計測可能性は有意でなく、survival benefit は患者背景の不均衡 (prior surgery、多転移病変) によって説明される可能性があった (Fig 1)。
ORR と TTF (Table、副次): Intent-to-treat ORR は VNR 12% (17/143) vs 5-FU/LV 3% (2/68) で絶対値差 +9 ポイント (no CR、PR のみ、Fisher’s exact 有意差なし)。Response 確認は 4 週以上の再評価で実施。VNR responder の response 持続期間中央値は 23 週 (range 8 to >52)、5-FU/LV 2 例は 13 週・25 週。TTF 中央値は VNR 10 週 vs 5-FU/LV 8 週 (絶対値差 2 週、log-rank P=.017、Cox P=.20) (Fig 2)。
QOL と症状緩和 (主要副次評価項目、有意差なし): 27 項目 SWOG QOL 問診票評価。VNR 群は試験継続期間が長いため問診票完了数が多かった。両群とも global QOL スコアの軽微な改善あり (有意差なし)。VNR で symptom distress 改善傾向、5-FU/LV で physical functioning がやや良好。最初 8 週の cancer-related 症状改善率は VNR 36% (42/118) vs 5-FU/LV 45% (26/58) で 5-FU/LV 群がやや高いが treatment difference なし (主要 6 症状: arthralgia、asthenia、咳、呼吸困難、喀血、疼痛の分析)。
血液毒性 (Table 4) と非血液毒性 (Table 5) の比較: Grade 3/4 granulocytopenia は VNR 54% vs 5-FU/LV 24% で絶対値差 +30 ポイントと VNR で高頻度、しかし granulocytopenic infection は両群 7% vs 6% でほぼ同等、septic death は各群 1 例ずつ。VNR で Grade 3/4 血小板減少 0%、Grade 3 貧血は 2 例のみ。一方で 5-FU/LV は消化器毒性が VNR より顕著: stomatitis (口内炎) 63% vs 15% (差 +48 ポイント)、下痢 47% vs 13% (差 +34 ポイント)、悪心 51% vs 33%、嘔吐 25% vs 14% で 95% CI が 0 を含まない有意差。VNR 固有毒性: 注射部位反応 38% vs 1% (差 +37 ポイント)、末梢神経障害 21% vs 4%、便秘 28% vs 6%。VNR 群の 20% (29/143) が injection-site reaction 回避のため中心静脈カテーテル留置 (5-FU/LV 群 6%)。
考察/結論
① 先行研究との違い: 本試験は米国で実施された最初の vinorelbine 単剤 vs 他単剤の randomized phase 3 試験であり、これまで多剤併用 (cisplatin/vindesine、cisplatin/etoposide 等) vs BSC のメタ解析 (Souquet、Grilli) を中心としていた進行 NSCLC エビデンスとは異なり、single-agent vinorelbine の生存上のベネフィットを直接定量化した。Le Chevalier ら欧州試験 (1994) で vinorelbine 単剤と vindesine + cisplatin が同等の mOS を示したことと対照的に、本試験は VNR と 5-FU/LV の比較で VNR の優位性を米国 population で確認した。これまで NSCLC で 5-FU/LV の評価は手薄だったが、5-FU/LV mOS 22 週は文献の BSC 群 mOS (9-21 週) より長く、5-FU/LV にも一定の活性があることが相違点として明らかになった一方、VNR 30 週は文献の cisplatin ベース多剤併用 mOS 中央値 (28 週、Table 6) と同等の水準で、これまでの多剤併用に依存した治療体系を再考させた。
② 新規性: 本研究で初めて、単剤化学療法 (VNR) が NSCLC で multiagent regimen に匹敵する mOS (30 週) を達成可能であることを米国 multicenter RCT で実証した。これまで報告されていない novel な所見として、(a) ORR 12% という低い response rate にもかかわらず mOS 30 週・1 年 OS 25% を達成する「response-survival 解離」を明示したこと、(b) Grade 3/4 顆粒球減少 54% という血液毒性があるにもかかわらず感染合併症が増えず QOL が低下しないこと、(c) 5-FU/LV では消化器毒性が突出する一方 VNR では注射部位反応が課題、という両剤の対照的毒性プロファイルが novel に first to demonstrate された。Vinorelbine は本試験を主要根拠に米国 FDA で NSCLC への承認を取得し、これまでにない単剤治療オプションが確立された。
③ 臨床応用: 本データは臨床応用において、(a) Stage IV NSCLC の高齢者や PS 不良例で多剤併用が忍容困難な患者群に対する vinorelbine 単剤治療の正当化、(b) シスプラチン併用に進む足掛かりとしての位置付け (後の Kelly et al. JClinOncol 2001 SWOG 9509 で paclitaxel/carboplatin vs vinorelbine/cisplatin の標準比較、Douillard et al. LancetOncol 2006 ANITA で adjuvant vinorelbine/cisplatin の標準化への発展)、(c) Fossella et al. JClinOncol 2000 などの 2nd-line 試験で vinorelbine をアクティブコントロールアームに据える歴史的根拠を提供した。臨床的意義としては臨床応用における single-agent therapy 概念の確立、bench-to-bedside の translational 移行を再確認した点が大きい。
④ 残された課題: 今後の課題として、(a) ORR と OS が乖離する現象の生物学的説明 (response 評価方法の精度限界、prolonged stable disease の臨床的意義)、(b) injection-site reaction を最小化するための投与方法 (infusion time 20 分 → 6-10 分への短縮、hyaluronidase 局所注射、central venous device 使用) の最適化、(c) 5-fluorouracil + leucovorin を新規 5-FU 誘導体 (pemetrexed、tegafur/uracil、S-1 等) に置換した際の活性比較、(d) Vinorelbine と他新規薬剤 (taxanes、CPT-11、gemcitabine) との直接比較。今後の検討と future research direction として、vinorelbine + cisplatin の confirmatory 試験、vinorelbine 含有 maintenance therapy、elderly/PS 2 cohort での single-agent vinorelbine の標準化が待たれる (限界 limitation として 1996 年時点では PS 0-1 のみ enroll で全身状態不良群の data 不足)。
方法
試験デザイン: 多施設前向きランダム化 phase 3 試験、18 施設、米国・カナダ実施。登録期間 1990 年 8 月から 1992 年 3 月。組み入れ基準: 18 歳以上、組織学的または細胞学的に確定診断された Stage IV NSCLC、Karnofsky performance status (KPS) ≥70%、予測生存 >12 週、骨髄・腎・肝機能 adequate、化学療法および biologic 治療歴なし、CNS 転移なし、他癌歴なし (基底細胞癌・子宮頸部上皮内癌を除く)、臨床的に有意な末梢神経障害なし。
ランダム化: 計測可能病変有無と施設で層別化し VNR : 5-FU/LV を 2:1 比でランダム化 (early stopping rule に備えるため VNR 群に充分例数を確保)。Treatment crossover 不可。介入: VNR 群 vinorelbine 30 mg/m² 静注 (生食 75-125 mL に希釈し 20 分かけて投与) 週 1 回、blood count・肝機能・神経毒性に応じ dose 調整 (Table 1 のアルゴリズム)。5-FU/LV 群 leucovorin 20 mg/m² IV bolus → 5-fluorouracil 425 mg/m² IV bolus を Day 1-5 連日、4 週間毎反復。両群ともに病勢進行または毒性まで継続、増悪患者は試験中止 (no crossover)。Hematopoietic growth factors は予防的使用禁止。
主要評価項目: OS、QOL (患者および医師視点)、cancer-related 症状緩和。副次: ORR (WHO 基準、4 週間以上の確認必須)、TTF、毒性 (modified NCI common toxicity criteria)、肺機能。QOL 評価: 27 項目 SWOG (Southwest Oncology Group) 系問診票 (physical functioning、role functioning、emotional/social functioning、symptom assessment、global QOL)、SWOG Carol Moinpour 監修。
統計: 150 例で VNR vs 5-FU/LV の 12 週 mOS 差 (30 週 vs 18 週) を 80% 検出力 2-sided α=.05 で検出する設計。Early stopping rule: 5-FU/LV 群最初 25 例で 2 例未満の response なら試験中止 (実際には 2 例 response で継続)。OS: Kaplan-Meier curve、Cox proportional hazards モデル。Response rate: Fisher’s exact test。TTF: log-rank および Cox。QOL: repeated-measures ANOVA。Symptom: logistic regression。両側 P<.05 で有意。Intent-to-treat 解析、計測可能病変例のみが response 評価対象。