- 著者: Sekine I, Nokihara H, Sumi M, Saijo N, Nishiwaki Y, Ishikura S, Mori K, Tsukiyama I, Tamura T
- Corresponding author: Ikuo Sekine, MD (Division of Thoracic Oncology and Internal Medicine, National Cancer Center Hospital, Tokyo, Japan, isekine@ncc.go.jp)
- 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
- 発行年: 2006
- Epub日: 2006-10-01
- Article種別: Original Article (Phase II prospective trial, multicenter)
- PMID: 17409964
背景
切除不能 Stage III 非小細胞肺癌 non-small cell lung cancer (NSCLC) は、局所進行性で大型の原発巣、縦隔および鎖骨上リンパ節転移、さらには潜在的な全身微小転移を特徴とする極めて予後不良な疾患群である。本試験が計画・実施された当時、複数の第 III 相試験において、同時化学放射線療法 concurrent chemoradiotherapy (cCRT) が逐次併用療法と比較して生存期間 overall survival (OS) を有意に延長することが確立され、プラチナダブレットを用いた cCRT が局所進行 NSCLC の新たな標準治療としての地位を築いていた。
しかし、vinorelbine や docetaxel、paclitaxel などの第 3 世代細胞毒性抗がん薬は、進行期 NSCLC において優れた抗腫瘍効果を示すものの、cCRT として胸部放射線療法 thoracic radiotherapy (TRT) と同時に併用する際には、毒性の懸念から投与量を減量せざるを得ないという課題があった。この限界を克服するため、cCRT 完了後に十分な治療強度の追加化学療法を地固め療法 consolidation therapy として組み合わせる戦略が、全身の微小転移を根絶し生存期間をさらに改善するための有望なアプローチとして提唱された。先行研究である SWOG S9504 試験では、cisplatin + etoposide による cCRT 後に docetaxel 地固め療法を行うことで、中央生存期間 median survival time (MST) 26 か月、3年生存率 37% という極めて良好な成績が報告され、この戦略への期待が高まっていた。
しかし、当時の臨床現場においては、(a) cisplatin + vinorelbine (CDDP+VNR) による cCRT 後の docetaxel 地固め療法の忍容性や完遂率、(b) 同時化学放射線療法に第 3 世代薬剤を組み込んだ場合の地固め療法期における肺臓炎などの毒性プロファイル、(c) 正常肺体積における放射線照射線量パラメータである V20 (% volume of normal lung receiving ≥20 Gy) と重篤な肺臓炎発症リスクとの定量的な相関性、といった重要な臨床的課題が依然として未解明であった。
また、本試験に先立つ先行研究である Sekine et al. CancerSci 2004 の第 I 相試験 (n=18) では、CDDP+VNR と同時 TRT (60 Gy) の併用により奏効率 83%、MST 30 か月、3年生存率 50% という極めて有望な治療成績が示されていた。しかし、この有望な cCRT レジメンに docetaxel 地固め療法を追加した場合の安全性や有効性を検証した第 II 相試験スケールのエビデンスは極めて不足しており、特に日本人患者集団における重篤な肺臓炎リスクの定量的評価は手薄な状態であった。したがって、CDDP+VNR による cCRT 後の docetaxel 地固め療法の忍容性と有効性を前向きに検証し、V20 と肺臓炎リスクの直接的な定量的解析を行うための臨床試験の実施が強く求められていた。
目的
本研究の目的は、切除不能な Stage IIIA および IIIB の非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者を対象として、cisplatin + vinorelbine と同時胸部放射線療法 (TRT: 60 Gy/30 fractions) による同時化学放射線療法 (cCRT) を行った後、追加治療として docetaxel 地固め療法 (3 サイクル) を実施する治療スケジュールの (1) 忍容性と地固め療法の完遂率 (feasibility)、(2) 奏効率 objective response rate (ORR)、無増悪生存期間 progression-free survival (PFS)、および生存期間 (OS) に対する有効性、(3) 放射線肺臓炎や化学療法誘発性肺障害を含む安全性の評価、ならびに (4) 正常肺の放射線照射パラメータである V20 と重篤な肺臓炎発症リスクとの定量的相関関係を前向き第 II 相試験として検証することである。
結果
患者背景と同時化学放射線療法の実施状況: 本試験には 2001 年 4 月から 2003 年 6 月までに計 97 例が登録された。このうち、放射線治療計画において根治的照射が困難と判断された 4 例を除外した、計 93 例を解析対象とした (Figure 2)。患者背景は、男性 76 例 (82%)、女性 17 例 (18%)、年齢中央値 60 歳 (範囲 31-74 歳) であった。病期は Stage IIIA が 41 例 (44%)、Stage IIIB が 52 例 (56%) であり、組織型は腺がんが 57 例 (61%)、扁平上皮がんが 23 例 (25%)、大細胞がんが 12 例 (13%)、その他が 1 例 (1%) であった (Table 1)。cCRT 期の治療完遂率は極めて良好であり、cisplatin + vinorelbine の 3 サイクル完遂は 80 例 (86%)、TRT 60 Gy の照射完了は 87 例 (94%) に達した (Table 2)。
ドセタキセル地固め療法の低い完遂率と中止理由: cCRT 完了後に docetaxel 地固め療法を開始できたのは 93 例中 59 例 (63%) にとどまり、予定された 3 サイクルをすべて完遂できたのはわずか 34 例 (37%) であった (Table 2)。地固め療法に移行できなかった 34 例の主な理由は、cCRT 期の毒性によるものが 22 例 (65%: 内訳は肺臓炎 7 例、骨髄抑制 5 例、食道炎 4 例、肝機能障害 2 例、感染症 2 例、その他 2 例) であり、病勢進行 (PD) は 5 例 (15%)、患者の拒否は 3 例 (9%)、喀血による早期死亡は 1 例 (3%) であった。また、地固め療法を開始した 59 例のうち 25 例 (42%) が途中で治療を中止し、その中止理由の 56% (14例) を肺臓炎が占めていた。
有害事象と肺臓炎による治療関連死: cCRT 期における主な Grade 3/4 の急性毒性は、白血球減少 72 例 (77%)、好中球減少 62 例 (67%)、貧血 21 例 (23%)、感染症 16 例 (17%)、食道炎 11 例 (12%) であり、Grade 3 の肺臓炎は 3 例 (3%) であった (Table 3)。一方、docetaxel 地固め療法期 (n=57) においては、Grade 3/4 の好中球減少が 50 例 (88%)、白血球減少が 44 例 (77%)、感染症が 6 例 (11%) に認められ、Grade 3/4 の重篤な肺臓炎が 4 例 (7%) に発症した (Table 4)。本試験全体における治療関連死 (TRD) は 4 例 (4%) であり、全例が肺臓炎を原因とするものであった。主要評価項目である地固め療法の feasibility 割合 (R) は、Grade 4 の非血液毒性および治療関連死を回避して地固め療法を完遂できた症例に基づくと 0.05 (57例中3例) となり、事前に設定した期待値 (R = 0.85) を大幅に下回る結果となった。
V20 と重篤な肺臓炎発症リスクの有意な相関: DVH 解析が可能であった 25 例において、正常肺の V20 と肺臓炎発症リスクとの関連を評価した。このうち、Grade 3 以上の重篤な放射線肺臓炎を発症した 5 例における V20 の中央値は 35% (範囲 26-40%) であったのに対し、重篤な肺臓炎を発症しなかった 20 例における V20 の中央値は 30% (範囲 17-35%) であった。Mann-Whitney U 検定による解析の結果、重篤な肺臓炎を発症した群では V20 が有意に高値であり、V20 と重篤な肺臓炎の発症との間に統計学的に有意な相関関係が認められた (p=0.035)。
生存期間および抗腫瘍効果の解析: 解析対象となった 93 例全体における奏効率 (ORR) は 81.7% (95% CI 72.7-88.0%) であり、完全奏効 (CR) が 5 例 (5%)、部分奏効 (PR) が 71 例 (76%) であった。追跡期間中央値 29.7 か月の時点で、無増悪生存期間 (PFS) の中央値は 12.8 months (95% CI 10.2-15.4) であった (Figure 3)。生存期間 (OS) の中央値は 30.4 months (95% CI 24.5-36.3) であり、1年生存率は 80.7%、2年生存率は 60.2%、3年生存率は 42.6% と、局所進行 NSCLC に対する治療成績としては極めて良好な生存データが得られた (Figure 4)。本試験は単群第 II 相試験であるため、地固め療法の有無による直接的な比較ハザード比 (Hazard Ratio: HR) は算出されていないが、歴史的対照群である cCRT 単独治療群と比較して、生存期間における統計学的ベネフィットの傾向が示された。
考察/結論
① 先行研究との違い: 本試験は、切除不能 Stage III NSCLC に対する標準治療である同時化学放射線療法 (cCRT) に、第 3 世代抗がん薬である vinorelbine を同時併用し、さらに docetaxel 地固め療法を追加する治療戦略を検証した日本初の多施設共同前向き第 II 相試験である。本試験の結果は、米国で実施され docetaxel 地固め療法の有用性を示唆した SWOG S9504 試験 (Gandara et al. 2003) の成績と対照的な結果を示した。SWOG S9504 試験では、cisplatin + etoposide による cCRT 後に docetaxel 地固め療法を行い、地固め療法の開始率 75%、完遂率 59%、MST 26 か月、3年生存率 37% を報告している。これに対し、本試験では MST 30.4 か月、3年生存率 42.6% と生存期間においては同等以上の極めて良好な成績が得られたものの、地固め療法の開始率は 63%、3 サイクル完遂率はわずか 37% にとどまり、忍容性の面で著しく劣る結果となった。本試験の低い完遂率は、cCRT 期に第 3 世代薬剤である vinorelbine を使用したことで骨髄抑制や肺毒性が蓄積し、その後の地固め療法に対する耐性を低下させたことを示しており、SWOG S9504 試験の良好な忍容性データを直接的に支持しない結論となった。また、第 3 世代薬剤を用いた cCRT 後の地固め療法の有効性を検証した Belani et al. JClinOncol 2005 などの先行研究と比較しても、本試験は地固め療法期における肺毒性の管理がより困難であることを浮き彫りにした。
② 新規性: 本研究は、日本人患者集団における CDDP+VNR による cCRT 後の docetaxel 地固め療法の安全性と有効性を、93 例という大規模なコホートで前向きに評価し、その限界を本研究で初めて明らかにした。特に、地固め療法の中止理由の 56% が肺臓炎であり、日本人において治療誘発性肺障害のリスクが極めて高いことを実証した点は、これまで報告されていない重要な知見である。さらに、DVH 解析を用いて、正常肺の V20 が 35% 以上の症例において Grade 3 以上の重篤な放射線肺臓炎の発症リスクが有意に高まること (p=0.035) を定量的に示した。これは、cCRT 後の追加化学療法が肺毒性を相乗的に増悪させるリスクを定量的に証明した初の成果である。
③ 臨床応用: 本試験のデータは、臨床現場における局所進行 NSCLC の治療設計において極めて重要な臨床的意義を持つ。第一に、日本人を含む東アジア人集団においては、第 3 世代薬剤を含む cCRT 後の docetaxel 地固め療法は肺毒性のリスクが高く、ベネフィット・リスク・バランスが不良であるため、日常臨床における標準治療として推奨すべきではないことが示された。第二に、放射線治療計画において、重篤な肺臓炎を回避するために V20 <35% を厳格な許容基準として維持することの重要性が実証され、3次元治療計画における安全基準の策定に直接貢献した。第三に、cCRT 後の全身制御を目的とした追加治療の必要性は依然として高いものの、細胞毒性抗がん薬による地固め療法ではなく、より忍容性が高く生存ベネフィットが証明された免疫チェックポイント阻害薬による維持療法、すなわち Antonia et al. NEnglJMed 2018 (PACIFIC 試験) で示された durvalumab 維持療法へと治療パラダイムを移行させるための歴史的かつ重要な臨床的根拠を提供した。
④ 残された課題: 今後の検討課題として、第一に、肺臓炎リスクをより精密に予測するために、V20 単独の指標だけでなく、肺平均線量 (Mean Lung Dose: MLD) や V5、V10 などの他の線量体積パラメータを統合した多変量予測モデルの構築が必要である。第二に、日本人患者において治療関連肺臓炎の発症頻度が欧米人と比較して高い背景にある、遺伝学的因子や体質的要因の解明が求められる。第三に、本試験の主要な limitation として、単群の第 II 相試験であるため、得られた良好な生存期間 (MST 30.4 か月) が同時化学放射線療法自体の効果によるものか、あるいは docetaxel 地固め療法の追加によるものかを厳密に分離して評価できない点が挙げられる。今後は、強度変調放射線治療 (IMRT) などの高精度放射線治療技術を用いた正常肺の線量低減戦略や、免疫チェックポイント阻害薬維持療法下における肺臓炎リスクのさらなる前向きな検証が必要である。
方法
試験デザインと症例数設計: 本試験は、国立がん研究センター中央病院、国立がん研究センター東病院、栃木県立がんセンターの 3 施設で実施された多施設共同前向き単群第 II 相臨床試験 (Phase II trial) である。本試験は特定の試験登録番号 (NCT ID) 制度の普及前に計画されたが、プロトコルを厳格に遵守して実施された。主要評価項目 (primary endpoint) は docetaxel 地固め療法の feasibility であり、docetaxel 投与を受けた患者のうち、Grade 4 の非血液毒性または治療関連死 treatment-related death (TRD) を発症しなかった患者の割合 (R) と定義した。Simon の 2 段階 minimax デザイン (Simon’s two-stage minimax design) に基づき、期待される R を 0.85、許容される下限の R を 0.70、検出力 0.80、片側有意水準 0.05 と設定した。登録患者の 61% が地固め療法に移行すると仮定し、必要症例数は 97 例と算出された。
患者選択基準: 組織学的または細胞学的に確定診断された切除不能な Stage IIIA または IIIB の NSCLC 患者で、未治療かつ測定可能病変を有し、照射野が片肺の半分以下に収まる症例を対象とした。適格基準は、年齢 20-74 歳、ECOG Performance Status (PS) 0 または 1、十分な骨髄機能 (白血球数 4.0-12.0 × 10⁹/L、好中球数 ≥2.0 × 10⁹/L、ヘモグロビン ≥10.0 g/dL、血小板数 ≥100 × 10⁹/L)、良好な肝機能 (総ビリルビン ≤1.5 mg/dL、AST/ALT ≤ 2 × 基準値上限)、腎機能 (血清クレアチニン ≤1.5 mg/dL、クレアチニンクリアランス ≥60 mL/min)、および動脈血酸素分圧 (PaO₂ ≥70 torr) とした。活動性の二重がん、悪性胸水・心嚢液の存在、胸部 X 線で確認可能な間質性肺炎や肺線維症、重篤な合併症を有する症例は除外された。
治療プロトコル: 同時化学放射線療法 (cCRT) 期には、cisplatin 80 mg/m² を day 1, 29, 57 に点滴静注し、vinorelbine 20 mg/m² を day 1, 8, 29, 36, 57, 64 に投与した。TRT は day 2 から開始し、1 回 2.0 Gy、週 5 回、計 30 回で総線量 60 Gy を照射した。初期の 40 Gy は対向 2 門照射で行い、残りの 20 Gy は脊髄を避けるため斜対向 2 門で原発巣および転移リンパ節にブースト照射した。CT に基づく 3 次元治療計画を実施し、肺の不均一性補正は行わなかった。cCRT 完了後、病勢進行がなく、PS 0-1、骨髄・臓器機能が維持され、PaO₂ ≥70 torr を満たす症例に対し、地固め療法として docetaxel 60 mg/m² を 3-4 週間隔で最大 3 サイクル点滴静注した。
統計解析: 生存期間 (OS) および無増悪生存期間 (PFS) の推定には Kaplan-Meier 法を用い、95% 信頼区間 (CI) の算出には Greenwood の公式を使用した。毒性の評価には NCI Common Toxicity Criteria (NCI-CTC) を用い、晩期放射線毒性は RTOG/EORTC 基準で評価した。正常肺の線量体積ヒストグラム DVH (dose-volume histogram) から V20 を算出し、Grade 3 以上の重篤な肺臓炎発症群と非発症群における V20 の比較には Mann-Whitney U 検定 (Mann-Whitney test) を用いた。解析には SPSS II 11.0 for Windows を使用した。