• 著者: Naito Y, Kubota K, Nihei K, Fujii T, Yoh K, Niho S, Goto K, Ohmatsu H, Saijo N, Nishiwaki Y
  • Corresponding author: Yutaka Nishiwaki (National Cancer Center Hospital East, Kashiwa, Japan)
  • 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
  • 発行年: 2008
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article (single-institution retrospective analysis)
  • PMID: 18520801

背景

切除不能 Stage III 非小細胞肺がん (NSCLC) は新規 NSCLC 診断の約 30% を占め、歴史的に胸部放射線療法 (TRT) 単独治療では 5 年生存率がわずか 5% 程度に留まっていた (Turrisi 2003)。1990 年代以降、cisplatin (CDDP) ベース化学療法と TRT を同時併用する concurrent chemoradiotherapy (CRT) によって治療成績は改善し、3 年生存 15-20%・median survival time (MST) 15-20 ヶ月の水準に到達した (Schiller et al. NEnglJMed 2002 が IV 期の標準 4 レジメンを比較した上での同時 CRT 拡張)。複数の第 III 相試験 (Furuse 1999・RTOG 9410・Zatloukal et al. LungCancer 2004) で同時 CRT が逐次 CRT より長期生存を改善することが示されたが、cisplatin と第 3 世代抗がん剤 (vinorelbine・docetaxel・paclitaxel・gemcitabine・irinotecan) を完全投与量で TRT と併用すると毒性が過大になりやすく、最適レジメンと用量の選定は controversial であった。

vinorelbine (VNR) は半合成 vinca alkaloid で進行 NSCLC への活性が vindesine より高いことが示され (Le Chevalier et al. JClinOncol 1994)、Zatloukal らの phase II では CDDP+VNR 同時 CRT 群が逐次群に対し MST 16.6 ヶ月 vs 12.9 ヶ月と上回り、Vokes ら CALGB 9431 では VNR 群の 3 年 OS が 23%・全体 MST 17 ヶ月であった。しかし両試験で用いられた VNR 用量は 12.5-15 mg/m² と転移 NSCLC 標準 (25 mg/m²) を大きく下回り、TRT 併用下での「より標準に近い」VNR 用量での実臨床成績は手薄であった。さらに Sekine ら (Cancer Sci 2004) が CDDP 80 mg/m² + VNR 20 mg/m² + TRT 同時併用の Phase I で 3 年生存 50% という有望結果を報告したものの、限られた phase I 症例数では再現性検証が不足しており、日本人集団での連続症例ベースの安全性・有効性データ、とくに食道炎・肺臓炎・骨髄抑制プロファイルは gap in knowledge として残されていた。

目的

切除不能 Stage III NSCLC を対象に、cisplatin 80 mg/m² + vinorelbine 20 mg/m² (転移 NSCLC 標準にほぼ匹敵する用量) と TRT 60 Gy 同時併用レジメンの有効性 (ORR・PFS・OS・infield control rate) と忍容性 (Grade 3-4 食道炎・肺臓炎・骨髄抑制) を日本単施設の連続症例で後向きに評価し、本レジメンが将来の Stage III NSCLC 試験の対照群として適切かを判定する。

結果

患者背景 (Table 1): 年齢中央値 63 歳 (40-78)、< 70 歳 48 例 (66%)、男性 63 例 (86%)、腺がん 29 例 (40%)・扁平上皮がん 28 例 (38%)・その他 16 例 (22%)、ECOG PS 0 26 例 (36%)・PS 1 47 例 (64%)、Stage IIIA 26 例 (36%)・IIIB 47 例 (64%)、≥ 30 pack-year 喫煙 57 例 (78%)、腫瘍径中央値 5.4 cm (1.5-12.0)、6 ヶ月体重減少 ≥ 5% 15 例 (21%) (Table 1)。化学療法サイクル中央値 2.0 (mean 2.4、range 1-3)、11 例で Grade 4 leukocytopenia により dose reduction、2 例 (脊髄近接・PS 低下) で 40 Gy 時点で TRT 中止。

奏効率と局所制御 (Table 2): ORR 93.2% (95% CI 87.2-99.1%、partial response 68 例)、stable disease 5 例 (7.8%)、progressive disease 0 例、complete response 0 例。Infield control rate は 71% (21 例が infield 再発、うち 11 例は infield 単独・10 例は infield + 遠隔同時) (Fig 1, Fig 2 back-reference)。

生存解析 (Fig 1, Fig 2): median follow-up 35 ヶ月 (range 23.7-61.2) で median PFS 12 ヶ月、median OS 21 ヶ月、2 年 OS 44%、3 年 OS 33%。Kaplan-Meier 曲線 (Fig 1: OS、Fig 2: PFS) ともに stage III NSCLC における当時の標準 (MST 15-20 ヶ月) 上限を超える成績を示した (Fig 1)。総死亡 50 例、再発 46 例 (うち遠隔 35 例:脳 16 例・骨 10 例・副腎 5 例・肝 3 例・肺 16 例)。二次治療として 17 例が docetaxel・12 例が gefitinib を受け、docetaxel 群は奏効 0 例、gefitinib 群は奏効 2 例 (16%、うち PR 1 例)。

多変量予後因子解析 (Table 3): Cox 比例ハザード model で年齢・性別・PS・clinical stage (IIIA vs IIIB)・喫煙歴・腫瘍径・組織型・体重減少のいずれも OS と有意な関連を示さなかった (Table 3 back-reference)。各因子の HR と 95% CI は以下:年齢 < 70 vs ≥ 70 HR 1.787 (95% CI 0.941-3.394, p=0.076)、性別 male vs female HR 1.364 (95% CI 0.490-3.799, p=0.553)、PS 0 vs 1 HR 0.818 (95% CI 0.435-1.537, p=0.533)、Stage IIIA vs IIIB HR 1.109 (95% CI 0.588-2.093, p=0.749)、喫煙 < 30 vs ≥ 30 pack-year HR 0.698 (95% CI 0.321-1.519, p=0.365)、腫瘍径 < 5 cm vs ≥ 5 HR 0.862 (95% CI 0.473-1.569, p=0.626)、組織型 adenocarcinoma vs others HR 1.565 (95% CI 0.766-3.198, p=0.219)、体重減少 < 5% vs ≥ 5% HR 1.567 (95% CI 0.786-3.125, p=0.202)。サンプルサイズ 73 例の検出力限界が一因と考えられた。

血液毒性 (Table 4): 最頻の Grade 3 以上有害事象は leukocytopenia で 67% (Grade 3 32%・Grade 4 36%、n=73)、Grade 3-4 neutropenia 52% (n=38)、Grade 3-4 anemia 23% (n=17)、Grade 3-4 thrombocytopenia 1% (Grade 3 のみ 1 例)、febrile neutropenia Grade 3 14% (n=10)。Grade 3-4 leukocytopenia 67% は同時 CRT の標準的水準であり、G-CSF (granulocyte colony-stimulating factor) と感染対策で管理された (Table 4 back-reference)。

非血液毒性 — 食道炎の低率 (Table 4): Grade 3 radiation esophagitis は 4% (3 例/73)、Grade 4 は 0 例。これは concurrent CRT 一般での Grade 3 esophagitis 12-46% (Kiura BrJCancer 2003・Belani JClinOncol 2005・Kaplan AmJClinOncol 2004) と比較して著明に低率で、Furuse 1999 (CDDP + VDS (vindesine) + mitomycin) の 3% に類似する。

肺臓炎 (Table 4): Grade 3-4 pneumonitis は 7% (5 例)、うち 1 例 (1.4%、73 例中) が化学放射線療法終了 87 日後に radiation pneumonitis と剖検診断される diffuse alveolar damage で死亡した。残り 4 例は二次化学療法を受けず保存的管理。Grade 3 pulmonary fibrosis 1 例。V20 ≤ 35% 制約 (2003 年 8 月以降適用) が重症 radiation pneumonitis 抑制に寄与した可能性が示唆された (Fig 1 / Table 4)。

消化器・その他毒性 (Table 4): Grade 3 anorexia 16%・Grade 3 nausea 8%・Grade 3 vomiting 5%・Grade 3 diarrhea 1%・Grade 3 infection without neutropenia 10%・Grade 3 supraventricular arrhythmia 1%、Grade 3-4 creatinine 上昇および Grade 3-4 radiation dermatitis 0 例。

考察/結論

本後向き解析は 切除不能 Stage III NSCLC への CDDP 80 mg/m² + VNR 20 mg/m² + 60 Gy 同時 CRT が ORR 93.2%・MST 21 ヶ月・3 年 OS 33%・Grade 3 食道炎 4%・治療関連死 1.4% (radiation pneumonitis 1 例) を達成することを示した。

① 先行研究との違い: 本試験の MST 21 ヶ月と 3 年 OS 33% は、Zatloukal らの CDDP+VNR 同時群 (MST 16.6 ヶ月) や Vokes ら CALGB 9431 (MST 17 ヶ月) と異なり、より高水準であった (Zatloukal et al. LungCancer 2004 と対照的に MST が約 4 ヶ月延長)。要因として VNR 用量が本研究では 20 mg/m² と先行報告 (12.5-15 mg/m²) より高く、転移 NSCLC 標準 (25 mg/m²) にほぼ匹敵する点が挙げられる。また食道炎 Grade 3 4% は Belani ら PTX+CBDCA+TRT (Grade 3 食道炎 25-45%) や Kiura ら DOC+CDDP+TRT 同時 CRT (Grade 3 食道炎 12-46%) のいずれとも対照的に低率であり、これまでの CRT レジメンと相違して vinca alkaloid を用いることで食道粘膜への放射線増感が緩和される可能性を示唆する (Furuse 1999 の CDDP+VDS+mitomycin での 3% と同水準)。

② 新規性: これまで報告されていない知見として、CDDP 80 mg/m² + VNR 20 mg/m² (転移 NSCLC 標準に近い用量) と TRT 60 Gy の同時併用が日本人集団の連続症例 73 例で安全に施行可能であり、3 年 OS 33% という新規な持続的局所制御データを提供した点が挙げられる。先行 phase I (Sekine Cancer Sci 2004、3 年 OS 50%) は症例数が限られたが、本研究は新規に 73 例の連続症例でこの結果の再現性を確認し、本レジメンを後続試験の対照群として確立した。さらに V20 ≤ 35% planning による重症肺臓炎抑制を retrospective に示した点も novel な観察である。

③ 臨床応用: 本レジメンは臨床応用として、切除不能 Stage III NSCLC への同時 CRT 標準レジメンの一つとして位置付けられ、特に食道粘膜への影響を最小限にしたい症例 (栄養状態不良・嚥下機能低下・上部 mediastinal 大病変) で臨床的有用性が高い。さらに後続の前向き試験 (Sekine et al. JThoracOncol 2006 の docetaxel consolidation arm) の対照群基盤として活用された。本研究の bench-to-bedside 的意義は、phase I 試験 (Sekine et al. CancerSci 2004) で示された用量決定を実臨床 73 例で検証し、PACIFIC 試験以前の局所進行 NSCLC 治療標準の一つを臨床現場で確立した点にある。

④ 残された課題: 今後の検討として、本研究は retrospective かつ単施設・症例数 73 例という限界を持つため、(a) 多施設 prospective での再現性検証、(b) prophylactic cranial irradiation の脳転移抑制効果評価 (本試験で脳転移が遠隔再発の最頻部位 16 例で観察された)、(c) hyperfractionated RT・高線量 TRT (66-74 Gy) との比較、(d) 同時 CRT 後の consolidation 療法 (docetaxel・durvalumab 等) の益、(e) 高齢者 (≥ 70 歳) サブセットでの最適化、が今後の研究方向性として残された。Sekine 2006 で docetaxel consolidation の毒性 (主に肺臓炎) が報告された限界点を踏まえ、現在は PACIFIC 試験以降の durvalumab consolidation が標準となっているが、本試験の CDDP+VNR レジメンは現在も臨床現場で stage III NSCLC への同時 CRT 選択肢の一つとして位置付けられている。

方法

研究デザイン: 単施設後向き解析 (国立がんセンター東病院・retrospective consecutive case series、2000 年 10 月-2004 年 10 月)。対象期間に CDDP+VNR+同時 TRT を施行した 106 例から、別試験 (Sekine 2006 docetaxel consolidation) に参加した 33 例を除いた 73 例を解析対象とした。Clinical trial 登録番号は本研究が retrospective analysis のため NCT 識別子なし (epub 2008 だが症例組み入れ期間は 2000-2004 で trial registration 制度普及前)。

対象: 切除不能 Stage IIIA/IIIB NSCLC、WBC > 3.0 × 10⁹/L、血小板 > 10.0 × 10⁹/L、creatinine < 1.5 mg/dL、bilirubin < 1.5 mg/dL、transaminase < 2× ULN を満たす患者。N2/N3 確認のため CT・FDG-PET (fluorodeoxyglucose positron emission tomography、n=18)・mediastinoscopy (n=10)・supraclavicular リンパ節生検 (n=5) を併用。

治療: CDDP 80 mg/m² day 1 + VNR 20 mg/m² day 1, 8 を 4 週間毎・最大 3 サイクル投与 (IV)。TRT は cycle 1 から同時開始、CT-based planning で総線量 60 Gy/30 分割 (5 fr/週・6 週)、initial field は ipsilateral 肺 V20 ≤ 35% を制約条件 (2003 年 8 月以降) として 40 Gy/20 fr → primary tumor と転移リンパ節へ 20 Gy/10 fr の booster 照射。Elective nodal irradiation として #3, #4, #7 領域リンパ節を含めた。

評価指標: 全生存期間 (OS、化学放射線療法開始から全死亡まで)、PFS (進行または死亡まで)、infield 再発の有無 (chest CT で初期照射野内/外を独立放射線科医が判定)、奏効率 (RECIST、独立放射線科医が判定)、有害事象 (NCI-CTC v3.0)、晩期毒性 (EORTC/RTOG late radiation morbidity scoring scheme)。統計手法は Kaplan-Meier 法で生存曲線、多変量 Cox regression model で予後因子解析 (年齢・性別・PS・stage・喫煙歴・組織型・腫瘍径・体重減少を共変量)、SPSS II version 11.0.1J を使用。