• 著者: Sakai K, Tsuboi M, Kenmotsu H, Yamanaka T, Takahashi T, Goto K, Daga H, Ohira T, Ueno T, Aoki T, Nakagawa K, Yamazaki K, Hosomi Y, Kawaguchi K, Okumura N, Takiguchi Y, Sekine A, Haruki T, Yamamoto H, Sato Y, Akamatsu H, Seto T, Saeki S, Sugio K, Nishio M, Okabe K, Yamamoto N, Nishio K
  • Corresponding author: Kazuto Nishio (Department of Genome Biology, Kindai University Faculty of Medicine, Osaka)
  • 雑誌: Cancer Science
  • 発行年: 2021
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article (Exploratory Biomarker Study)
  • PMID: 33185928

背景

完全切除した stage II-IIIA 非小細胞肺癌 (non-small cell lung cancer, NSCLC) における術後補助化学療法は標準治療として確立しており、Lung Adjuvant Cisplatin Evaluation (LACE) pooled analysis でシスプラチン併用化学療法が 5 年生存率を約 5% 改善することが示された (Pignon et al. JClinOncol 2008)。しかし全患者の絶対的予後改善幅は限定的で、ビノレルビン/シスプラチン (Vnr/Cis) がレジメンとして長く推奨されてきた一方、最適レジメンの個別化と効果予測バイオマーカーの確立は未達のままであった。日本で行われた第 III 相 JIPANG (Japan Intergroup trial of pemetrexed/cisplatin for non-squamous NSCLC adjuvant) 試験 (n=803) はペメトレキセド/シスプラチン (Pem/Cis) と Vnr/Cis を比較し、主要評価項目である再発無生存期間 (recurrence-free survival, RFS) で Pem/Cis 優越を示せなかったが、Pem/Cis が同等の有効性と良好な忍容性を示したことから、新たな治療選択肢として位置づけられた (Kenmotsu et al. JClinOncol 2020)。本研究の附帯研究 JIPANG-TR (JIPANG translational research) では JIPANG 全 803 例のうち 389 例の保存組織で遺伝子変異解析を実施した。

腫瘍変異負荷 (tumor mutation burden, TMB) は非同義変異/Mb として定量され、肺癌では喫煙関連変異シグネチャによる比較的高い TMB が知られ、免疫チェックポイント阻害薬 (immune checkpoint inhibitor, ICI) への奏効予測因子として確立されつつあった (Rizvi et al. Science 2015)。さらに CheckMate-227 では TMB 高値の進行 NSCLC で nivolumab+ipilimumab が PFS を改善 (HR 0.58, 95% CI 0.41-0.81) し、TMB の ICI 効果予測価値が前向きに検証されていた (Hellmann et al. NEnglJMed 2018)。しかしながら TMB と細胞傷害性化学療法 (cytotoxic chemotherapy) の関係はほぼ未解明 であり、特にペメトレキセド (multitargeted antifolate、DNA 合成阻害) のような DNA 関連経路に作用する薬剤において、TMB が反応性予測因子となり得るかどうかについての前向き試験データは存在せず、術後補助療法のレジメン選択を支援するエビデンスが不足していた。Devarakonda らが切除 NSCLC で TMB が予後因子となることを報告していたが、特定レジメンに対する予測性は検証されておらず、TMB と特定化学療法レジメンの相互作用に関する knowledge gap が残っていた点が本研究の出発点である。

目的

JIPANG 試験参加患者のホルマリン固定パラフィン包埋 (FFPE) 腫瘍検体に対しターゲットディープシーケンシングを行い、TMB ならびに EGFR 等の遺伝子変異状態と Pem/Cis または Vnr/Cis の治療成績 (RFS) との関連を探索的に評価し、術後補助化学療法のレジメン選択を支援する予測バイオマーカーを同定する。

結果

EGFR 変異の検出頻度と臨床背景の整合性:374 例のターゲットシーケンスにより、非同義 EGFR 変異は 139 例 (37.2%) で検出された。exon 19 deletion (13.6%) と exon 21 L858R (12.3%) が最頻変異で、共通 EGFR 変異 (exon 19 del + L858R) の検出は IVD kit (cobas EGFR mutation kit ver.2、therascreen) との concordance 97.1% (感度 95.7%、特異度 97.5%) と良好だった (Table S1)。さらに uncommon EGFR 変異 (exon 3, 4, 6, 9, 12, 13, 15, 18, 19, 20, 21, 26, 27, 28 の点変異および exon 20 insertion) も EGFR 変異陽性集団の 30.2% で検出されており、IVD kit では捕捉できない希少変異の存在が明らかになった (Table 2)。サブグループ (n=374) の患者背景・2 年 RFS (Vnr/Cis 63%、Pem/Cis 62%) は主試験 (n=784) と類似しており (Table 1)、解析集団の代表性が確認された。

TMB の baseline 分布と治療群間比較:TMB の中央値は Vnr/Cis 群 n=193 で 10.1 mut/Mb (range 2.5-83.8)、Pem/Cis 群 n=181 で 9.3 mut/Mb (range 2.5-79.8) で両群間に有意差は認められず (P=0.2782) (Table 2)、TMB は治療割付の confounding factor ではないことが示された。EGFR 共通変異検出における CCP パネルと IVD kit の concordance は n=2 platform 比較で 97.1% (感度 95.7%, 特異度 97.5%) と高い再現性を示した。日本人非扁平上皮 NSCLC における TMB の中央値は欧米コホートとほぼ類似のレンジに収まり、喫煙関連変異シグネチャの寄与が日本人 NSCLC でも一定程度存在することと整合的である。

TMB 高値 EGFR 野生型患者での Pem/Cis 優越性 (本研究最大の発見):EGFR 野生型サブグループ (n=235) でフォレストプロット解析を行うと、TMB cutoff 12 mut/Mb で最小ハザード比 HR 0.477 が得られ、Pem/Cis 群の RFS 中央値 not reached (NR) に対し Vnr/Cis 群 52.5 ヶ月、log-rank P=0.0376 で 統計的有意な改善 が認められた (Fig 3A、Fig 4B)。TMB ≥12 mut/Mb 患者は Pem/Cis 群の 35.8% (43/120) を占め、Pem/Cis-treated TMB-high 群の Kaplan-Meier 曲線は 24-36 ヶ月で plateau に達し、長期 RFS 集団の存在が示された。Vnr/Cis 群のフォレストプロット全患者解析では HR 0.899 (95% CI 0.664-1.215、TMB≥6 vs <6) で有意差なし (Fig 2A)、低 TMB 群 (TMB<6 mut/Mb) では HR 1.33 と逆に Vnr/Cis 優位の傾向が示され、TMB が両レジメンの効果方向を反転させる予測バイオマーカーとして機能することが示唆された (Fig 2B)。

EGFR 変異状態と Pem/Cis 効果の差異:EGFR 野生型患者では Pem/Cis 群の RFS が Vnr/Cis 群より延長する傾向 (median NR vs 52.6 ヶ月、log-rank P=0.1580) を示した一方 (Fig S2B)、EGFR 変異陽性患者では逆に Pem/Cis 群 (median 18.9 ヶ月) が Vnr/Cis 群 (30.4 ヶ月) より短い傾向 (log-rank P=0.3016) を示し (Fig S2A)、EGFR 変異状態が Pem/Cis 効果に対して 対照的な方向性 を示した。これは EGFR 変異陽性腫瘍が Akt/STAT 経路活性化により抗アポトーシスシグナルが強く、antifolate に対する感受性が低いという既報 (Sordella et al. Science 2004) や、EGFR 野生型細胞が 5-FU/uracil-tegafur 系 antifolate に高感受性であるという既報 (Suehisa et al. JClinOncol 2007) と整合する。

TMB 高値群におけるベースライン因子の確認:TMB-high (≥12 mut/Mb) サブグループにおける stage 分布の bias を検討したところ、Pem/Cis 群内で TMB-high と TMB-low の間に stage IIA 比率の有意差は認めず (Table S2)、TMB-Pem/Cis 効果関連が病期分布に由来する見かけ上の関連ではないことが示された。さらに高 TMB cutoff (≥16 mut/Mb など) でも Pem/Cis 群で HR 0.541 と長期 RFS 傾向が継続し、TMB 12-16 mut/Mb のレンジ全体でロバストな予測効果が示唆された (Fig 3)。

考察/結論

本研究は、TMB が ICI だけでなく 細胞傷害性化学療法 (特にペメトレキセド含有レジメン) の選択バイオマーカーとして機能し得る ことを切除可能 NSCLC で初めて示した点に新規性がある。EGFR 野生型かつ TMB ≥12 mut/Mb の非扁平上皮 NSCLC で Pem/Cis が Vnr/Cis に対し RFS を有意に改善 (HR 0.477、median NR vs 52.5 ヶ月) する所見は、TMB が化学療法感受性に関わる腫瘍生物学的特性 (DNA 修復能、ゲノム不安定性) を反映している可能性を支持する。

① 先行研究との違い: Devarakonda らの既報は切除 NSCLC で TMB が予後因子として機能することを示したが、特定レジメンに対する予測性は検証していなかった (Rizvi et al. Science 2015 が TMB-ICI 関係を確立したのと 対照的に)、本研究は前向き第 III 相試験の附帯研究という設計上 これまでの post-hoc 解析と異なり、TMB×レジメン交互作用を randomized 比較で検出した点に独自性がある。Devarakonda らは低 TMB 群 (≤4 mut/Mb) で補助化学療法の benefit がより顕著という所見を示したが、本研究では逆に高 TMB 群で Pem/Cis benefit が顕著という所見が得られ、レジメン特異的な TMB-response 関係の存在が示唆される。② 新規性: TMB が ICI だけでなく代謝拮抗薬であるペメトレキセドの予測因子となりうるという機構仮説は 本研究で初めて 前向き試験コホートで検証された 新規な バイオマーカーパラダイムである。これまで報告されていない antifolate と TMB の関連性に対して、DNA repair-deficient (DDR/HRR impaired → TMB-high) という共通基盤に基づく統一的説明モデルを提示した点に novelty が認められる。③ 臨床応用: TMB と EGFR 変異状態を組み合わせた複合バイオマーカーが術後補助化学療法のレジメン選択を支援する 臨床応用 の可能性が示された。EGFR 野生型かつ TMB ≥12 mut/Mb の患者を Pem/Cis 推奨群として識別する 臨床現場での 意思決定支援ツールへの 橋渡し (translational) 価値が期待される。④ 残された課題: 本研究は探索的解析であり検出力が限定的 (n=374) なため、今後の検討 として TMB ≥12 mut/Mb を組入れ基準とした前向き選別試験での確証が必要である。また FFPE 検体からの TMB 算出には technical variability が伴うため、TMB 測定のプラットフォーム間標準化、TMB と EGFR 以外のドライバー変異 (KRAS, TP53, STK11 等) との組み合わせ評価、ICI と化学療法併用時の TMB-benefit パターンの解明、ペメトレキセドの DNA 修復経路への作用機序の前臨床的解明など 今後の研究 で取り組むべき方向性 (future research direction) が複数残されている。limitation として、TMB-Pem/Cis 関係の機構的根拠は in vitro モデルでは十分検証されておらず、antifolate と TMB 高値の因果関係の生物学的妥当性は仮説段階に留まる。

結論として、TMB は非扁平上皮 NSCLC の術後補助化学療法において Pem/Cis vs Vnr/Cis のレジメン選択に資する予測バイオマーカー候補であり、EGFR 野生型かつ TMB ≥12 mut/Mb の集団が Pem/Cis から最大限の RFS benefit を得ることが探索的に示された。この集団は同時に ICI の良い候補でもあるため、術後 ICI と化学療法の最適な組み合わせ (例: 術後 ICI+Pem/Cis 連続療法) を検討する次世代試験が望まれる。

方法

本研究は JIPANG 試験 (n=803) の探索的バイオマーカー附帯研究 JIPANG-TR (JIPANG translational research) であり、2012 年 3 月から 2016 年 8 月にかけて 22 施設で前向きに登録された 389 例 (48.4%) の FFPE 腫瘍検体を解析対象とした (病理学的に非扁平上皮 NSCLC を確認、腫瘍細胞含有率 ≥10%)。DNA は AllPrep DNA/RNA FFPE Kit (Qiagen) で抽出し、Comprehensive Cancer Panel (CCP) すなわち Ion AmpliSeq CCP (Thermo Fisher) で 409 遺伝子・約 1.2 Mb のコード領域を Ion Torrent System 5 (S5) instrument + Ion 550 Chip で sequencing した。シーケンス毎サンプルあたり n=3 technical replicates 相当の depth (各リード depth ≥19、平均カバレッジ >500x)を確保し、IGV (Broad Institute) でマニュアルレビュー、生殖細胞系列変異は gnomAD で除外した。TMB スコアは Ion Reporter 5.10 の Oncomine Tumor Mutation Load w2.0 ワークフローで非同義変異/Mb として算出した。最終的に品質基準 (target region coverage >90%、deamination <100) を満たした n=374 例 (Pem/Cis 群 n=181 vs Vnr/Cis 群 n=193) が解析対象となった。

主要評価項目は RFS (ランダム化から再発または死亡までの期間)、副次評価項目は OS。統計解析は JMP ver. 14 (SAS Institute) および GraphPad Prism ver. 8 を用い、Cox 比例ハザードモデルによる単変量解析、Kaplan-Meier 法と log-rank 検定で生存比較、変異状態と臨床背景の関連は chi-squared (χ²) 検定で評価した。EGFR 変異状態 (野生型 vs 変異型) によるサブグループ解析と、TMB cutoff (4-20 mut/Mb の全範囲) でのフォレストプロット解析により最適閾値を探索した。本研究は親試験 JIPANG (NCT01952860 [UMIN000006737]) の附帯研究としてヘルシンキ宣言と日本のヒト対象医学研究倫理指針に従って実施された。