• 著者: Kenmotsu H, Yamamoto N, Yamanaka T, Yoshiya K, Takahashi T, Ueno T, Goto K, Daga H, Ikeda N, Sugio K, Seto T, Toyooka S, Date H, Mitsudomi T, Okamoto I, Yokoi K, Saka H, Okamoto H, Takiguchi Y, Tsuboi M
  • Corresponding author: Hirotsugu Kenmotsu (Division of Thoracic Oncology, Shizuoka Cancer Center)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-05-14
  • Article種別: Original Article (Phase 3 RCT — JIPANG)
  • PMID: 32407216

背景

完全切除された非小細胞肺癌 (NSCLC) における術後補助化学療法は、特に病理学的病期 (pathologic stage) IIからIIIAの患者において、生存期間を改善する標準治療として確立されている。大規模なメタアナリシスであるLACE (Lung Adjuvant Cisplatin Evaluation) 試験の統合解析 (pooled analysis) では、シスプラチンベースの術後補助化学療法が死亡リスクを低減し、5年生存率において5.4%の絶対的な生存ベネフィットをもたらすことが示された Pignon et al. JClinOncol 2008。このLACE試験のサブグループ解析において、シスプラチンと併用される第3世代抗がん剤の中で、ビノレルビンのみが統計学的に有意な生存期間延長に寄与することが示された Douillard et al. JThoracOncol 2010。これに基づき、ビノレルビン+シスプラチン (VC) 併用療法が、長年にわたり完全切除後NSCLCに対する術後補助化学療法の世界的な標準治療として位置づけられてきた Douillard et al. LancetOncol 2006

一方、進行・再発または転移性の非扁平上皮NSCLCの一次治療においては、ペメトレキセド+シスプラチン (PC) 併用療法が標準治療の一つとして広く用いられている。未治療の進行NSCLCを対象とした第III相ランダム化比較試験では、PC療法がゲムシタビン+シスプラチン併用療法と比較して、全生存期間 (OS) において非劣性を示し、さらに好中球減少症などの血液毒性の発生率が著しく低いという優れた安全性プロファイルを持つことが報告された Scagliotti et al. JClinOncol 2008。特に組織型が腺癌のサブグループにおいては、PC群でOS中央値が有意に延長する傾向が確認された Scagliotti et al. Oncologist 2009

しかしながら、これらの転移性設定における優れた忍容性と非扁平上皮癌に対する有効性の知見が、術後補助化学療法の設定においても同様に再現されるかは未解明であった。術後補助設定では、患者の全身状態や骨髄機能、腫瘍量 (tumor burden) が進行期とは大きく異なるため、最適なプラチナ製剤併用レジメンを直接比較した大規模な第III相臨床試験データは不足していた。特に、より毒性が低く完遂率の高いレジメンの確立は、切除後患者のQOL維持と再発抑制の両立において極めて重要な課題であったが、最適な術後補助化学療法レジメンの選択基準は未確立のままであり、臨床現場における知識のギャップ (knowledge gap) が残されていた。本研究 (JIPANG試験) は、この課題を解決するために、完全切除後の病期II-IIIA非扁平上皮NSCLC患者を対象として、PC療法と標準治療であるVC療法の有効性および安全性を直接比較検証する目的で実施された。

目的

本研究 (JIPANG試験) の主要な目的は、完全切除された病理学的Stage IIからIIIAの非扁平上皮NSCLC患者を対象に、術後補助化学療法としてのpemetrexed+cisplatin (PC) 併用療法が、標準治療であるvinorelbine+cisplatin (VC) 併用療法と比較して、主要評価項目である無再発生存期間 (RFS) において優越性を示すかどうかを検証することである。

副次的な目的として、以下の項目を評価した。

  1. 両治療群における全生存期間 (OS) の直接比較。
  2. 各治療レジメンにおける4サイクルの治療完遂率 (completion rate) の比較。
  3. NCI-CTCAE (National Cancer Institute Common Terminology Criteria for Adverse Events) version 4.0に基づく、各治療群の安全性および有害事象プロファイルの比較。
  4. EGFR (epidermal growth factor receptor) 遺伝子変異状態 (変異陽性 vs 野生型) を含む、患者のベースライン特性に基づくサブグループ解析を探索的に実施し、治療効果の異質性を検討する。

これらの評価を通じて、切除後非扁平上皮NSCLC患者に対するより安全で有効な術後補助化学療法の確立を目指した。

結果

患者背景と治療完遂率: 2012年3月から2016年8月までに、合計804例の患者が登録され、うち適格基準を満たした784例 (PC群 n=389、VC群 n=395) がm-ITT解析対象となった (Fig 1)。患者背景は両群間でバランスが取れており、病理病期IIIAの患者が全体の52% (410/784例) を占め、EGFR感受性変異陽性患者は24% (192/784例) であった。組織型は96% (752/784例) が腺癌であり、98% (772/784例) が肺葉切除を受けていた。追跡期間中央値は45.2ヶ月であった。4サイクルの治療完遂率は、VC群の72.7% (287/395例) に対し、PC群では87.9% (342/389例) と有意に高かった (p<0.001)。

無再発生存期間における優越性の不達成: 主要評価項目であるRFSにおいて、PC群はVC群に対する優越性を示さなかった (Fig 2A)。RFS中央値は、VC群で37.3 vs PC群で38.9 monthsであり、ハザード比は HR 0.98 (95% CI 0.81-1.20, 片側 p=0.474) と統計学的に有意な差は認められなかった。3年RFS率は、VC群で50.2% (95% CI 45.0-55.2)、PC群で51.1% (95% CI 45.8-56.0) と、両群間でほぼ同等であった。

副次評価項目としての全生存期間: 追跡期間中央値45.2ヶ月の時点において、OSデータは未成熟であった (Fig 2B)。死亡イベントはVC群で75例、PC群で71例であり、両群ともにOS中央値は未到達であった。3年OS率はVC群で83.5% (95% CI 79.2-87.0) vs PC群で87.2% (95% CI 83.8-90.2) であり、ハザード比は HR 0.98 (95% CI 0.71-1.35, 片側 p=0.434) と有意差を認めなかった。

EGFR変異状態による治療効果の異質性: 探索的なサブグループ解析において、治療レジメンとEGFR変異状態の間に統計学的に有意な交互作用 (interaction) が観察された (p=0.046) (Fig 3)。EGFR野生型患者 (n=592) において、RFS中央値はVC群で39.9 vs PC群で65.2 monthsであり、統計的有意差はないもののPC群で良好な傾向を示した (HR 0.87, 95% CI 0.69-1.09) (Fig 4A)。一方、EGFR変異陽性患者 (n=192) において、RFS中央値はVC群で30.4 vs PC群で24.1 monthsであり、数値上はVC群で良好な傾向が示され、PC群で相対的に不利である可能性が示唆された (HR 1.38, 95% CI 0.95-1.99) (Fig 4B)。

安全性プロファイルと有害事象の比較: 安全性解析対象集団 (788例) におけるGrade 3-4の有害事象発生率は、VC群で89.4% (354/396例) vs PC群で47.4% (186/392例) と、PC群で極めて有意に低かった (p<0.01) (Table 2)。特に骨髄抑制および発熱性好中球減少症 (FN) において顕著な差が認められた。Grade 3-4の好中球減少症はVC群で81.1% (321/396例) vs PC群で22.7% (89/392例, p<0.01) であり、白血球減少症はVC群で51.0% (202/396例) vs PC群で5.9% (23/392例, p<0.01)、発熱性好中球減少症はVC群で11.6% (46/396例) vs PC群で0.3% (1/392例, p<0.01) であった。治療関連死は両群で各1例報告された。

考察/結論

JIPANG試験は、完全切除された非扁平上皮NSCLC患者に対する術後補助化学療法として、プラチナ製剤ベースの異なる2つのレジメンを直接比較した世界初のランダム化第III相臨床試験である。

先行研究との違い: 進行・再発非扁平上皮NSCLCを対象とした先行研究では、ペメトレキセド+シスプラチン (PC) 療法がゲムシタビン+シスプラチン療法と比較して、特に腺癌において全生存期間の有意な延長を示していた Scagliotti et al. JClinOncol 2008。しかし、本試験の術後補助設定においては、PC療法は標準治療であるビノレルビン+シスプラチン (VC) 療法に対してRFSの優越性を示せなかった。この結果は、同様に術後補助設定でプラチナ製剤併用レジメン間の有効性に有意差を認めなかったECOG 1505試験の結果とも整合しており Wakelee et al. LancetOncol 2017、進行期における有効性の知見が必ずしも術後補助設定にそのまま適用できないことを示している点において、従来の進行期における治療開発のアプローチと異なる。

新規性: 本研究は、術後補助化学療法においてPC療法がVC療法と比較して、極めて優れた忍容性と高い治療完遂率を誇ることを、第III相ランダム化比較試験において本研究で初めて実証した。Grade 3-4の好中球減少症 (22.7% vs 81.1%) や発熱性好中球減少症 (0.3% vs 11.6%) の頻度はPC群で劇的に低く、4サイクルの治療完遂率は87.9%とVC群の72.7%を有意に上回った (p<0.001)。これにより、有効性が同等であるならば、より安全で継続しやすいレジメンが存在するという新たな治療選択の基準を提示した。

臨床応用: 本知見は、完全切除後の病期II-IIIA非扁平上皮NSCLC患者における臨床現場の治療選択に直接的な影響を与える。特に、高齢者や合併症を有する患者など、VC療法の強い骨髄毒性や発熱性好中球減少症のリスクを回避したい臨床状況において、PC療法は極めて忍容性の高い、標準治療に代わる妥当な選択肢として推奨される。

残された課題: 探索的解析において、EGFR変異陽性患者ではVC群が良好な傾向を示したのに対し、EGFR野生型患者ではPC群が良好な傾向を示すという交互作用 (p=0.046) が認められた。EGFR変異状態が代謝拮抗剤であるペメトレキセドやテガフール・ウラシルの感受性に影響を与える可能性は先行研究でも議論されているが Suehisa et al. JClinOncol 2007、本解析は限定的なサンプルサイズに基づく仮説生成的なものであり、今後の検討課題として残された課題である。また、現代の臨床においてはADAURA試験などの結果からEGFR変異陽性例に対するオシメルチニブ術後補助療法が確立されているため、本試験の知見は主にEGFR野生型非扁平上皮NSCLCにおける術後補助化学療法のレジメン選択において重要な意義を持つ。

方法

試験設計と患者選択: JIPANG (Japanese Investigation of Pemetrexed Adjuvant Chemotherapy for Nonsquamous Non-Small Cell Lung Cancer) 試験は、日本国内の50施設および7つの臨床試験グループ (West Japan Oncology Groupなど) が参加した多施設共同、無作為化、オープンラベルの第III相臨床試験である。 対象患者は、病理学的Stage IIまたはIIIA (UICC TNM分類第7版) の完全切除 (R0) された非扁平上皮NSCLC患者であった。非扁平上皮NSCLCは、WHO 2003分類に基づき腺癌、大細胞癌 (大細胞神経内分泌癌を除く)、および腺扁平上皮癌と定義された。主要な適格基準は、ECOG Performance Status (PS) 0-1、年齢20-75歳、術後3-8週間以内の登録、および十分な骨髄・臓器機能を有することであった。術前補助化学療法を受けた患者や、術後にEGFRチロシンキナーゼ阻害剤 (TKI) の投与が予定されている患者は除外された。全患者から文書によるインフォームドコンセントを取得し、各施設の倫理委員会の承認を得て実施された。登録された患者は、性別、年齢 (<70歳 vs ≥70歳)、病理病期 (II vs IIIA)、EGFR変異状態 (変異陽性 vs 野生型)、および施設を層別因子として、PC群またはVC群に1:1の割合で無作為に割り付けられた。

治療レジメン:

  • PC群: Pemetrexed 500 mg/m² (Day 1) + Cisplatin 75 mg/m² (Day 1) を3週間間隔で最大4サイクル静脈内投与。Pemetrexed投与に伴う毒性軽減のため、ビタミンB12 (1,000 µgを少なくとも9週間ごとに筋肉内投与) および葉酸 (400 µgを毎日経口投与) の先行投与および併用が必須とされた。
  • VC群: Vinorelbine 25 mg/m² (Day 1およびDay 8) + Cisplatin 80 mg/m² (Day 1) を3週間間隔で最大4サイクル静脈内投与。

評価項目と統計解析: 当初の主要評価項目は全生存期間 (OS) であったが、試験期間中の後続治療 (分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤) の著しい進歩により死亡イベント数が想定を下回ったため、プロトコル改訂により主要評価項目を無再発生存期間 (RFS) に変更した。RFSは、無作為化から疾患再発またはあらゆる原因による死亡までの期間と定義された。 有効性解析は、適格基準を満たさない患者を除外した修正intention-to-treat (m-ITT) 集団で実施された。安全性解析は、プロトコル治療を少なくとも1サイクル以上受けた患者を対象とした。RFSおよびOSの生存曲線はKaplan-Meier法を用いて推定され、層別Cox比例ハザードモデル (Cox proportional hazards model) によりハザード比 (HR) および95%信頼区間 (CI) が算出された。RFSおよびOSのlog-rank検定のP値は片側で報告され、その他の解析は探索的であり両側P値が用いられた。本試験は、VC群の3年RFS率を50%と仮定し、PC群で8%の改善 (HR 0.755) を検出するために、片側α=0.05、検出力90%で約420のRFSイベントと800例の患者が必要と算出された。臨床試験登録番号は UMIN000006737 および jRCTs041180023 である。