- 著者: Gainor JF, Shaw AT, Sequist LV, et al.
- Corresponding author: Justin F. Gainor; Mari Mino-Kenudson (Massachusetts General Hospital, Boston, MA)
- 雑誌: Clinical Cancer Research
- 発行年: 2016
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 27225694
背景
非小細胞肺がん (NSCLC) の治療において、EGFR変異やALK再構成といったドライバー遺伝子変異に基づく分子標的治療 (TKI) と、PD-1/PD-L1経路を標的とする免疫療法という二つの主要な治療パラダイムが確立されている。TKIはEGFR変異陽性およびALK陽性NSCLCに対して顕著な奏効を示すものの、薬剤耐性が不可避的に発生することが知られている Mok et al. NEnglJMed 2009。一方、PD-1阻害薬であるニボルマブやペムブロリズマブは、NSCLCの二次治療として標準的に用いられ、客観的奏効率 (ORR) は約20%と報告されていたが Topalian et al. NEnglJMed 2012、どのような患者が臨床的ベネフィットを得られるかについては未解明な点が多かった。特に、EGFR変異陽性およびALK陽性NSCLCは非喫煙者や軽喫煙者に多く、腫瘍変異量 (TMB) が低い傾向があることから、PD-1阻害薬の効果が異なる可能性が示唆されていた Rizvi et al. Science 2015。このため、ドライバー遺伝子変異の有無がPD-1/PD-L1阻害薬の奏効に与える影響を詳細に評価する必要があった。これまでの研究では、PD-L1発現がPD-1/PD-L1阻害薬の奏効と関連することが示唆されていたが、EGFR変異やALK再構成を有する腫瘍におけるPD-L1発現と腫瘍免疫微小環境の特性については、その詳細な関連性が不足していた。
目的
本研究の目的は、EGFR変異陽性、ALK再構成陽性、およびEGFR野生型/ALK陰性のNSCLC患者におけるPD-1/PD-L1阻害薬の奏効パターンを後方視的に評価することである。さらに、これらの分子サブグループにおける腫瘍免疫微小環境(PD-L1発現およびCD8陽性腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) のレベル)を解析し、PD-1/PD-L1阻害薬の奏効との関連性を検討することを目的とした。また、TKI治療がPD-L1発現および免疫微小環境に与える影響についても評価した。
結果
EGFR変異またはALK再構成陽性患者におけるPD-1/PD-L1阻害薬の奏効率: EGFR変異またはALK再構成を有する患者28例中、客観的奏効は1例のみであり、ORRは3.6%であった (Fig 1A)。この1例はEGFR変異患者の未確認の部分奏効であった。一方、EGFR野生型/ALK陰性/不明患者30例では7例が奏効し、ORRは23.3%であった。両群間で統計学的に境界域の差異が認められた (p=0.053)。無増悪生存期間 (PFS) は、EGFR変異/ALK陽性群で中央値2.07ヶ月 (95% CI 1.84-2.07ヶ月) であり、EGFR野生型/ALK陰性群の2.58ヶ月 (95% CI 1.91-6.37ヶ月) と比較して有意に短かった (HR 0.515, 95% CI 0.28-0.94, p=0.018) (Fig 1C)。喫煙歴との関連では、非喫煙者または軽喫煙者 (≤10 pack-years) のORRは4.2%であったのに対し、重喫煙者 (>10 pack-years) では20.6%であり、傾向が示唆された (p=0.123) (Fig 1B)。
EGFR変異腫瘍のPD-L1発現と免疫微小環境: TKI治療前のEGFR変異陽性患者62例の腫瘍検体におけるPD-L1発現率は、PD-L1≥1%で24%、PD-L1≥5%で16%、PD-L1≥50%で11%と比較的低率であった (Table 2)。KRAS変異陽性患者65例と比較すると、PD-L1発現率はKRAS変異群の方が高い傾向にあったが、統計的有意差は認められなかった (Table 3)。CD8陽性TILのIHC評価では、EGFR変異腫瘍48例中31例 (65%) でCD8陽性TILが認められたが、高レベル (グレード≥2) は2例 (4.2%) のみであった。PD-L1発現 (≥5%) と高レベルCD8陽性TILの同時陽性は、TKI治療前EGFR変異腫瘍48例中わずか1例 (2.1%) であった。デジタル画像解析によるCD8陽性TILの定量評価でも同様の結果が示され、EGFR変異腫瘍46例中2例 (4.3%) のみでPD-L1発現と高密度CD8陽性TILが同時陽性であった (Table 2)。KRAS変異腫瘍と比較して、EGFR変異腫瘍ではCD8陽性TILの密度が有意に低く (中央値185.1 cells/mm² vs 330.1 cells/mm², p=0.011)、PD-L1発現 (≥5%) と高密度CD8陽性TILの同時陽性率も有意に低かった (IHCで2.1% vs 20%, p=0.005; 定量解析で4.3% vs 27%, p=0.003) (Table 3)。
TKI耐性後のPD-L1発現の変化: EGFR変異患者57例のTKI治療前後のペア検体では、16例 (28%) でPD-L1発現レベルが変化しており、そのうち12例でTKI耐性後の検体でPD-L1発現が増加していた (Fig 2)。TKI耐性後のEGFR変異腫瘍63例では、PD-L1発現 (≥5%) は29%に増加した。PD-L1発現 (≥5%) と高レベルCD8陽性TILの同時陽性率は、TKI耐性後EGFR変異腫瘍43例中5例 (11.6%) で認められ、TKI治療前と比較して増加傾向にあったが、依然として低率であった (Table 2)。
ALK陽性腫瘍のPD-L1発現と免疫微小環境: TKI治療前のALK再構成陽性患者19例では、PD-L1発現率がEGFR変異例よりも高く、PD-L1≥1%で63%、PD-L1≥5%で47%、PD-L1≥50%で26%であった (Table 2)。しかし、PD-L1発現 (≥5%) と高レベルCD8陽性TILの同時陽性は、TKI治療前およびTKI耐性後のいずれのALK陽性腫瘍検体でも認められなかった (Table 2)。これは、PD-L1が高発現であっても、機能的な免疫応答を伴う「炎症性」腫瘍微小環境が形成されていない可能性を示唆する。また、ALK陽性腫瘍におけるPD-L1発現とCD8陽性TILの同時陽性率は、KRAS変異腫瘍と比較して数値的に低い傾向を示したが、統計的有意差は認められなかった (p=0.195およびp=0.274)。
PD-L1発現の不均一性: EGFR変異患者3例およびALK陽性患者1例の剖検検体を用いた解析では、EGFR変異患者では複数の転移部位間でPD-L1発現の均一性が認められた。2例のEGFR変異患者では、検査した全ての部位 (n=5および8) でびまん性PD-L1発現 (≥50%) が観察され、対応する病変部位には1〜2+のCD8陽性TILが認められた (Fig 3)。一方、ALK陽性患者1例では、PD-L1発現は全ての検査部位で認められたものの、その程度は不均一であり、低レベル (5%〜49%) の発現とびまん性 (≥50%) の発現が混在していた (Supplementary Fig. S5)。しかし、これらの部位のいずれにおいてもCD8陽性TILの増加は認められなかった。
考察/結論
本研究は、EGFR変異またはALK再構成を有するNSCLC患者がPD-1/PD-L1阻害薬に対して低い奏効率 (3.6%) を示すことを初めて系統的に示した重要な後方視的解析である。この知見は、その後のCheckMate 057試験におけるニボルマブのEGFR変異例でのORRが3%であったことなど、複数の試験で確認され、ドライバー遺伝子変異陽性NSCLCに対する免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) 単剤療法の限界を示す基礎的エビデンスとなった Borghaei et al. NEnglJMed 2015。
先行研究との違い: これまでのいくつかの報告では、EGFR変異やALK再構成を有する腫瘍でPD-L1が高発現していると示唆されていたが、本研究ではTKI治療前のEGFR変異腫瘍におけるPD-L1発現 (≥5%) は16%と比較的低率であった。また、ALK陽性腫瘍ではPD-L1発現率が高いにもかかわらず、PD-L1発現と高レベルCD8陽性TILの同時陽性例が認められなかった点は、PD-L1発現単独では免疫療法の有効性を予測できないことを示唆しており、これまでの報告とは対照的な知見である。
新規性: 本研究で初めて、EGFR変異腫瘍およびALK陽性腫瘍において、PD-L1発現と高レベルCD8陽性TILの同時陽性率が極めて低いことを示した。特に、TKI治療前のEGFR変異腫瘍ではわずか2.1%、ALK陽性腫瘍では0%であった。この炎症性腫瘍微小環境 (immune “hot” microenvironment) の欠如が、PD-1/PD-L1阻害薬に対する低奏効率の機序的基盤である可能性を新規に提示した。また、TKI耐性後にPD-L1発現とCD8陽性TILの同時陽性率がEGFR変異腫瘍で増加する可能性 (2.1%から11.6%) を示したことも新規の発見である。
臨床応用: 本知見は、EGFR変異またはALK再構成を有するNSCLC患者に対するPD-1/PD-L1阻害薬単剤療法の優先順位付けにおいて重要な臨床的意義を持つ。これらの患者群では、TKIが第一選択治療として優先されるべきであり、ICI単剤療法は推奨されないことを示唆する。また、TKI耐性後の免疫微小環境の変化は、TKI耐性後の治療戦略を検討する上で、腫瘍免疫微小環境の再評価の重要性を示唆する。
残された課題: 本研究は後方視的解析であり、比較的小規模なコホートに基づいている点がlimitationである。また、使用されたPD-L1抗体やスコアリングカットオフが異なる研究間での比較は困難である。今後の検討課題として、これらの観察結果をより大規模な前向き研究で検証する必要がある。さらに、TKIがPD-L1発現や免疫微小環境に与える動的な影響を、治療早期の時点を含めて詳細に評価する研究が残されている。
方法
本研究は、マサチューセッツ総合病院 (MGH) において2011年から2016年2月までに治療を受けた患者を対象とした後方視的コホート解析である。本研究は施設内倫理委員会 (IRB) の承認を得て実施された。
主解析コホート (58例): PD-1/PD-L1阻害薬で治療された患者のうち、EGFR変異またはALK再構成を有する患者28例 (EGFR変異22例、ALK再構成6例) と、EGFR野生型かつALK陰性/不明の患者30例 (対照群) を特定した。主要評価項目はRECIST v1.1 Eisenhauer et al. EurJCancer 2009 に基づく客観的奏効率 (ORR) とした。無増悪生存期間 (PFS) も評価した。このコホートは、NCT02347479 (Pembrolizumab) や NCT02008227 (Nivolumab) などの複数の臨床試験からの患者を含んでいる。
独立コホート (PD-L1・TIL評価): EGFR変異陽性NSCLC患者68例およびALK再構成陽性NSCLC患者27例の腫瘍組織検体を用いて、PD-L1発現とCD8陽性TILを評価した。EGFR変異陽性患者のうち57例では、TKI治療前とTKI耐性後のペア検体が入手可能であった。PD-L1発現は、モノクローナル抗体E1L3Nを用いた免疫組織化学 (IHC) 法により、腫瘍細胞の膜および細胞質染色が1%以上、5%以上、50%以上を陽性として評価した。CD8陽性TILは、IHCにより半定量的にグレード0〜3で評価し、グレード2〜3を高レベルと定義した。また、デジタル画像解析プラットフォームを用いてCD8陽性TILの密度 (cells/mm²) を定量的に評価した。KRAS変異陽性NSCLC患者65例を対照群としてPD-L1発現とCD8陽性TILを比較した。
分子解析: EGFRおよびKRAS変異はSNaPshot法を用いて検査された。ALK再構成はデュアルカラーFISH法により同定された。
統計解析: カテゴリカル変数の比較にはFisherの正確確率検定を、連続変数または順序変数の比較にはWilcoxon順位和検定を用いた。PFSはKaplan-Meier法で推定し、ログランク検定で群間差を評価した。ペア検体におけるPD-L1発現およびCD8陽性TILの変化は、McNemar検定、周辺均一性検定、Wilcoxon符号順位検定を用いて評価した。全てのP値は両側検定に基づき、StatXact 6.2.0を用いて正確な計算が実施された。