- 著者: Nishio M, Hida T, Atagi S, Sakai H, Nakagawa K, Takahashi T, Nogami N, Saka H, Takenoyama M, Maemondo M, Ohe Y, Nokihara H, Hirashima T, Tanaka H, Fujita S, Takeda K, Goto K, Satouchi M, Isobe H, Minato K, Sumiyoshi N, Tamura T
- Corresponding author: Makoto Nishio, MD (Department of Thoracic Medical Oncology, The Cancer Institute Hospital, Japanese Foundation for Cancer Research, Tokyo, Japan)
- 雑誌: ESMO Open
- 発行年: 2016
- Epub日: 2016-10-25
- Article種別: Original Article
- PMID: 28861280
背景
肺がんは世界および日本における癌関連死亡の主要な原因である。日本では毎年約113,237例の肺悪性腫瘍が報告され、そのうち73,396例が死亡している。非小細胞肺癌 (NSCLC) は肺がん全体の85-90%を占め、組織型によって扁平上皮癌と非扁平上皮癌に大別される。ステージIIIB/IV期または術後再発のNSCLCであって、プラチナ製剤併用化学療法後に増悪した患者に対する治療は依然として課題であり、現在利用可能な治療レジメンの治療効果は限定的である。
プログラム細胞死受容体1 (PD-1) は活性化T細胞の表面に発現する受容体であり、そのリガンドであるプログラム細胞死リガンド1 (PD-L1) およびPD-L2に結合することで、活性化T細胞の機能を低下させる。Pardoll et al. NatRevCancer 2012は、NSCLC腫瘍細胞におけるPD-L1の発現が免疫抑制的な腫瘍微小環境を生成し、腫瘍の免疫逃避を促進することで、疾患の予後不良をもたらすことを報告している。ニボルマブは完全ヒト型IgG4抗PD-1モノクローナル抗体であり、NSCLCの治療に承認されている。グローバルで実施された第III相試験であるCheckMate 057試験 (日本、韓国、台湾を除く) では、プラチナ製剤併用化学療法中または治療後に疾患進行が認められた進行非扁平上皮NSCLC患者においてニボルマブをドセタキセルと比較し、ニボルマブの優れた有効性と忍容性を報告した (Borghaei et al. NEnglJMed 2015)。
しかしながら、これらの大規模臨床試験には日本を含む東アジアの患者が含まれていなかった。免疫応答や遺伝的背景、特にEGFR遺伝子変異の頻度には民族差が存在することが知られている。日本人NSCLC患者におけるEGFR変異陽性率は35-40%に達し、欧米の10-15%と比較して顕著に高い。このような背景から、日本人患者におけるニボルマブの有効性と安全性、ならびに臨床的アウトカムに影響を与える予測バイオマーカーの意義は十分に検証されておらず、臨床データが圧倒的に不足していた。特に、EGFR変異ステータス、喫煙歴、およびPD-L1発現レベルが日本人非扁平上皮NSCLC患者におけるニボルマブの治療成績にどのように関与するかは未解明であり、実臨床への適用のためのエビデンス構築が強く求められていた。初期の臨床試験においてニボルマブの長期生存ベネフィットと持続的な奏効が報告されている (Gettinger et al. JClinOncol 2015) ものの、日本人集団における詳細な有効性・安全性データおよびバイオマーカー解析結果は不足していた。
目的
本研究の目的は、プラチナ製剤を含む化学療法後に疾患進行が認められた日本人の進行または再発の非扁平上皮非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者を対象に、ニボルマブ単剤療法 (3 mg/kg、2週毎投与) の有効性および安全性を多施設共同第II相試験において評価することである。
主要目的として、独立中央判定委員会 (IRC: independent radiology review committee) の評価による客観的奏効率 (ORR: overall response rate) を検証する。副次目的として、研究者評価によるORR、無増悪生存期間 (PFS: progression-free survival)、全生存期間 (OS: overall survival)、奏効持続期間 (DOR: duration of response)、奏効までの時間 (TTR: time to response)、最良総合効果 (BOR: best overall response)、および安全性を評価する。さらに、日本人患者に特有の臨床的背景を考慮し、喫煙歴、EGFR遺伝子変異ステータス、および腫瘍組織におけるPD-L1発現レベルと、ニボルマブの治療効果との関連をサブグループ解析により探索的に明らかにし、治療効果予測因子としての有用性を検証することを目的とする。本試験を通じて、日本人患者における個別化医療の推進と臨床現場での治療選択の最適化に資するエビデンスの構築を目指した。
結果
患者背景および治療状況: 本試験には、日本国内の19施設から合計76例の進行・再発非扁平上皮NSCLC患者が登録され、全例がニボルマブの投与を1回以上受けた (Table 1)。登録患者の主な背景因子は、年齢中央値64.0歳 (範囲39-78歳)、男性49例 (64.5%)、女性27例 (35.5%)、ECOG PS 0が28例 (36.8%)、PS 1が48例 (63.2%) であった。組織型は腺癌が74例 (97.4%) と大部分を占め、大細胞癌が2例 (2.6%) であった。病期はIV期が62例 (81.6%)、術後再発が14例 (18.4%) であり、脳転移を有する症例は21例 (27.6%) にのぼった。前治療ライン数は1ラインが57例 (75.0%)、2ラインが19例 (25.0%) であった。喫煙歴については、非喫煙者が21例 (27.6%)、元喫煙者が51例 (67.1%)、現喫煙者が4例 (5.3%) であった。EGFR遺伝子変異ステータスは、陽性が20例 (26.3%)、野生型または不明が56例 (73.7%) であった。全例がプラチナ製剤併用化学療法を受けており、EGFR変異陽性の20例は全員がEGFR-TKIによる治療歴を有していた。治療中止後、53.9% (n=41) の患者が後続の全身がん化学療法を受け、そのうち21.1% (n=16) がドセタキセルの投与を受けた。
全体集団における有効性と生存アウトカム: 主要エンドポイントであるIRC評価による確認されたORRは 22.4% (95% CI 14.5-32.9%, p<0.001) であり、76例中17例で奏効が認められた (Table 2)。この結果は、事前に設定した閾値奏効率9%を有意に上回り、主要エンドポイントを達成した。最良総合効果の内訳は、完全奏効 (CR) が2例 (2.6%)、部分奏効 (PR) が15例 (19.7%)、安定 (SD: stable disease) が19例 (25.0%)、進行 (PD: progressive disease) が38例 (50.0%) であり、疾患制御率 (DCR: disease control rate) は 47.4% であった。研究者評価によるORRは 25.0% (95% CI 16.6-35.8%) であった。生存解析において、PFS中央値は 2.8ヶ月 (95% CI 1.4-3.4) であり、1年PFS率は 24.2% (95% CI 14.9-34.7%) であった (Figure 1A)。OS中央値は 17.1ヶ月 (95% CI 13.3-23.0) であり、1年OS率は 68.0% (95% CI 56.2-77.3%) であった (Figure 1B)。奏効例におけるDOR中央値は未達 (NR: not reached、範囲1.6-29.1ヶ月) であり、持続的な効果が示された (Figure 1C)。TTR中央値は 1.4ヶ月 (範囲1.3-14.8ヶ月) であった。腫瘍サイズの縮小は50%以上の患者で観察された (Figure 1D)。
喫煙歴およびEGFR変異ステータス別の有効性: サブグループ解析において、喫煙歴およびEGFR変異ステータスがニボルマブの有効性と強く関連していることが示された (Table 4)。喫煙歴あり (現喫煙者および元喫煙者) の集団 (n=55) におけるORRは 29.1% (95% CI 18.8-42.1%) であり、非喫煙者 (n=21) での 4.8% (95% CI 0.8-22.7%) と比較して有意に高かった (OR 8.21, 95% CI 1.01-66.40, p=0.049)。また、非喫煙者群は喫煙歴あり群と比較して、PFSが有意に短縮する傾向を示した (HR 0.45, 95% CI 0.26-0.80, p=0.006)。EGFR変異ステータス別では、EGFR野生型または不明の集団 (n=56) におけるORRは 28.6% (95% CI 18.4-41.5%) であり、EGFR変異陽性集団 (n=20) での 5.0% (95% CI 0.9-23.6%) と比較して顕著に高かった (OR 0.13, 95% CI 0.02-1.07, p=0.058)。さらに、EGFR変異陽性群は野生型/不明群と比較して、OSが有意に短縮した (HR 2.10, 95% CI 1.14-3.88, p=0.017)。喫煙歴とEGFR変異ステータスの層別化解析では、EGFR野生型または不明かつ喫煙歴ありの患者が最高の奏効率 (ORR 31.9%, n=15/47) を示した一方、EGFR変異陽性かつ非喫煙者の患者はニボルマブに対して奏効を示さなかった (n=0)。
PD-L1発現レベルと治療効果の関連: バイオマーカー解析が実施された40例において、腫瘍細胞のPD-L1発現レベルが高いほど、ニボルマブの治療効果が向上する傾向が認められた (Table 4)。PD-L1発現率 1%以上の集団 (n=27) におけるORRは 33.3% (95% CI 18.6-52.2%) であり、1%未満の集団 (n=13) での 23.1% (95% CI 8.2-50.3%) と比較して高い傾向を示した (OR 1.67, 95% CI 0.37-7.60, p=0.505)。さらに閾値を上げると、PD-L1発現率 5%以上の集団 (n=19) におけるORRは 47.4% (95% CI 27.3-68.3%) であり、5%未満の集団 (n=21) での 14.3% (95% CI 5.0-34.6%) と比較して有意に高かった (OR 5.40, 95% CI 1.18-24.64, p=0.030)。同様に、PD-L1発現率 10%以上の集団 (n=18) におけるORRは 50.0% (95% CI 29.0-71.0%) であり、10%未満の集団 (n=22) での 13.6% (95% CI 4.7-33.3%) と比較して顕著に高かった (OR 6.33, 95% CI 1.37-29.20, p=0.018)。PD-L1高発現は、より長いPFSおよびOSとも関連する傾向が示された。24ヶ月時点の生存率は、CR/PR群で88.2% (n=17)、SD群で36.8% (n=19)、PD群で13.5% (n=38) であり、奏効群で顕著に高い長期生存が認められた。
安全性および有害事象のプロファイル: 安全性評価対象となった76例において、何らかの治療関連有害事象 (TRAE: treatment-related adverse event) は64例 (84.2%) に認められた (Table 3)。主なTRAE (発現率10%以上) は、倦怠感 (14.5%)、発熱 (14.5%)、発疹 (14.5%)、食欲減退 (14.5%)、疲労 (11.8%)、悪心 (11.8%)、およびそう痒症 (10.5%) であった。グレード3または4のTRAEは17例 (22.4%) に認められ、主な内訳はリンパ球数減少 (3.9%)、低ナトリウム血症 (2.6%)、および間質性肺疾患 (ILD: interstitial lung disease) (2.6%) であった。重篤なTRAEは15例 (19.7%) に報告された。TRAEにより治療中止に至った症例は12例 (15.8%) であった。治療関連死は認められなかったが、治療終了後28日以内に原疾患の増悪および脳梗塞により2例 (2.6%) が死亡した。免疫関連の特定有害事象として、皮膚毒性 (28.9%)、内分泌障害 (14.5%)、胃腸毒性 (9.2%)、肺毒性 (7.9%)、肝毒性 (6.6%)、および腎毒性 (5.3%) が報告されたが、これらはステロイド投与や休薬などの適切な処置により管理可能であった。
考察/結論
本試験は、プラチナ製剤併用化学療法後に増悪した日本人の進行・再発非扁平上皮NSCLC患者におけるニボルマブの有効性と安全性を検証した初の多施設共同第II相試験である。
先行研究との違い: 本研究の成績は、欧米を中心に行われた第III相試験であるCheckMate 057試験の結果 (ORR 19%、OS中央値 12.2ヶ月) (Borghaei et al. NEnglJMed 2015) と概ね一貫していたが、これまでのグローバルデータと異なり、日本人集団におけるOS中央値が 17.1ヶ月と極めて良好な生存アウトカムを示した。この生存期間の延長は、登録患者のECOG PSが0または1に限定されていたことや、治療中止後に53.9%の患者が後続の化学療法 (ドセタキセルなど) を受けたことによる影響が考えられる。また、本試験におけるPD-L1発現陽性率 (1%以上) が 67.5% であり、CheckMate 057試験の 53.2% と比較して高かったことも、生存期間の延長に寄与した可能性がある。
新規性: 本研究は、日本人非扁平上皮NSCLC患者におけるニボルマブの治療効果予測因子として、喫煙歴、EGFR遺伝子変異ステータス、およびPD-L1発現レベルの重要性を本研究で初めて実証した。特に、EGFR変異陽性患者におけるORRが 5.0% と極めて低く、OSのハザード比が 2.10 (95% CI 1.14-3.88, p=0.017) と有意な生存期間の短縮を示した事実は、EGFR変異陽性肺がんにおける免疫チェックポイント阻害剤の抵抗性を強く裏付ける新規の知見である。これは、EGFR変異陽性腫瘍が非喫煙者に多く、腫瘍の遺伝子変異負荷 (TMB: tumor mutational burden) が低いためにネオアンチゲン (新生抗原) の生成が少なく、免疫原性が低いためと考えられ、既報のゲノム解析結果とも合致する (Rizvi et al. Science 2015, Govindan et al. Cell 2012)。喫煙者のNSCLCは喫煙に伴う特異的な遺伝子変異シグネチャーを有し、ネオアンチゲン生成の増加をもたらすため、喫煙歴のある患者がPD-1阻害剤に対してより高い奏効率を示すことは、免疫チェックポイント阻害剤の作用機序と一貫している。
臨床応用: 本研究の臨床的意義は、日本人患者においても喫煙歴あり、EGFR野生型、およびPD-L1発現陽性 (特に 5%以上または10%以上) の患者が、ニボルマブ治療から最大のベネフィットを得られる可能性を示した点にある。これにより、臨床現場における治療選択の最適化や、患者ごとの個別化医療の推進に直結する。PD-L1発現陽性患者 (≥5%) でのORR 47.4% は、陰性患者の 14.3% と比較して有意に高く、PD-L1が重要な予測バイオマーカーであることを強く示唆している。一方で、EGFR変異陽性患者や非喫煙者であっても一部に長期生存 (24ヶ月時点での生存) を示す症例が存在したことから、単一の因子のみで治療から完全に除外するのではなく、複数のバイオマーカーを組み合わせた総合的な判断が求められる。実際、本試験では CR/PR 群の 24 ヶ月生存率が 88.2% に達し、SD 群でも 36.8% の患者が 24 ヶ月生存しており、ニボルマブの長期的ベネフィットが示唆される。本知見は、日本人患者における免疫チェックポイント阻害剤の臨床応用を推進するための重要なエビデンスとなる。
残された課題: 今後の検討課題として、本試験が単群の第II相試験であり、症例数が76例と限定的であること、また対照群 (ドセタキセルなど) との直接比較が行われていない点が挙げられる。また、PD-L1発現レベルの評価が全症例の52.6% (40例) でしか行えなかったため、バイオマーカーとしての精度をさらに高めるためには、より大規模な患者コホートでの検証が必要である。さらに、日本人における免疫関連有害事象、特に間質性肺疾患 (発現率 5.3%、グレード3-4が 2.6%) の注意深いモニタリングと管理方法の確立が、安全な臨床応用のために不可欠な課題として残されている。今後、より大規模な患者集団を対象とした比較対照試験、および複数のバイオマーカーを統合した予測モデルの開発が望まれる。
方法
本試験は、日本国内の19施設で実施された多施設共同、オープンラベル、単群、第II相臨床試験である (試験登録番号: JapicCTI-132073)。
患者選択基準: 対象患者の主な適格基準は以下の通りである:(1) 組織学的または細胞学的に確認されたステージIIIB/IV期または術後再発の非扁平上皮NSCLC、(2) ECOG PS (Eastern Cooperative Oncology Group performance status) が0または1、(3) RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) バージョン1.1に基づく測定可能病変を1つ以上有すること、(4) 経皮的酸素飽和度 (SpO2) が94%以上であること。前治療歴に関して、EGFR野生型または不明、かつALK融合遺伝子陰性または不明の患者は、プラチナ製剤を含む化学療法による1ラインの前治療歴を必須とした。EGFR変異陽性またはALK陽性の患者については、プラチナ製剤を含む化学療法および各チロシンキナーゼ阻害剤 (TKI: tyrosine kinase inhibitor) による治療を含む2ラインの前治療歴を必須とした。
治療プロトコル: ニボルマブ 3 mg/kg を2週間間隔で、1サイクルを6週間として点静注投与した。投与は、画像評価によりRECISTに基づく明白な疾患進行が認められるか、あるいは忍容できない毒性が出現するまで継続された。ただし、画像上疾患進行と判定された場合であっても、研究者が臨床的ベネフィットがあると判断し、かつ忍容可能である場合には、初期進行後の投与継続を許容した。
エンドポイント: 主要エンドポイントは、IRC評価による確認されたORRとした。副次エンドポイントには、研究者評価によるORR、PFS、OS、DOR、TTR、BOR、および安全性が含まれた。
安全性評価: 有害事象共通用語基準 (CTCAE) バージョン4.0を用いてグレード分類を行い、免疫関連の潜在的要因を持つ特定の有害事象についても詳細に集計した。
バイオマーカー解析: 治療前の腫瘍組織標本を用いて、抗PD-L1抗体 (クローン28-8) を用いた自動免疫組織化学染色 (IHC: immunohistochemistry) 法により、腫瘍細胞におけるPD-L1発現レベルを評価可能細胞100個以上を対象に測定し、発現閾値を1%以上、5%以上、10%以上として有効性との関連を解析した。
統計解析: ニボルマブの期待奏効率を20%とし、ドセタキセルの既報データに基づく閾値奏効率を9%と設定した。片側有意水準0.025、検出力80%以上を確保するため、二項検定に基づき必要な評価可能患者数を67例と算出し、評価不能例を考慮して目標集積数を75例とした。生存時間解析 (PFSおよびOS) にはKaplan-Meier法を用い、生存期間中央値およびその95%信頼区間 (CI: confidence interval) を算出した。サブグループ間の比較には、オッズ比 (OR: odds ratio) やハザード比 (HR: hazard ratio) を算出し、log-rank testを用いた統計的評価を行った。データカットオフ日は2015年12月17日とした。