- 著者: Gettinger SN, Horn L, Gandhi L, Spigel DR, Antonia SJ, Rizvi NA, Powderly JD, Heist RS, Carvajal RD, Jackman DM, Sequist LV, Smith DC, Leming P, Carbone DP, Pinder-Schenck MC, Topalian SL, Hodi FS, Sosman JA, McDermott DF, Micheel CM, Sanda S, Fling KC, Chang I, Zhao X, Autopchowicz M, Bhatt DL, Brahmer JR
- Corresponding author: Scott N. Gettinger, MD (Yale Cancer Center, New Haven, CT, USA)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 2015
- Epub日: 2015-04-20
- Article種別: Original Article
- PMID: 25897158
背景
進行非小細胞肺癌 (NSCLC) の治療は、過去10年間で緩やかな進展にとどまっていた。特に、上皮成長因子受容体 (EGFR) 変異陽性例や未分化リンパ腫キナーゼ (ALK) 転座陽性例に対しては、分子標的薬が劇的な治療効果をもたらしたが (Kwak et al. NEnglJMed 2010)、これらのドライバー変異を持たない大多数の患者では、診断後1年以内に死亡することが一般的であった。当時の二次・三次治療における化学療法の客観的奏効率 (ORR) は7〜9%程度、全生存期間中央値 (mOS) は約8ヶ月、1年生存率 (OS率) は30%以下に留まっていた (Shepherd et al. NEnglJMed 2005)。さらに、化学療法は治療ラインが進むにつれて奏効率が低下し、当時の標準的ガイドラインでは2ライン以上の化学療法は推奨されていなかった。この状況は、進行NSCLC患者の予後改善における大きな課題であった。
プログラム細胞死1 (PD-1) は、活性化T細胞上に発現する免疫チェックポイント受容体であり、腫瘍微小環境におけるPD-L1との結合を介してT細胞の抗腫瘍活性を抑制する (Freeman et al. JExpMed 2000; Dong et al. NatMed 2002; Iwai et al. ProcNatlAcadSciUSA 2002)。この経路の遮断が腫瘍特異的T細胞を再活性化し、持続的な抗腫瘍免疫を誘導しうるという仮説に基づき、複数のPD-1/PD-L1抗体が開発された。Nivolumab (BMS-936558、ONO-4538) は、ヒトIgG4モノクローナルPD-1阻害抗体であり、2012年に黒色腫、腎細胞癌、NSCLCを含む固形腫瘍を対象とした第I相試験 (CA209-003) において、初期の有効性と安全性が報告されていた (Topalian et al. NEnglJMed 2012)。しかし、NSCLCにおける3年以上の長期追跡に基づく「tail plateau」現象、すなわち生存曲線のプラトー形成が達成されるかについては、当時の時点では未解明であり、長期生存の可能性を示すデータが不足していた。
免疫チェックポイント阻害薬は、従来の化学療法や分子標的薬とは異なる作用機序を持ち、治療中止後も効果が持続する可能性や、一部の患者で長期生存が期待される「tail plateau」現象が示唆されていた。特に、進行NSCLCにおいてこのような長期的なベネフィットが実証されるかどうかは、免疫療法の臨床的意義を確立する上で極めて重要な疑問であった。本報告は、この疑問に答える最初の長期追跡データとして、NSCLCにおけるニボルマブの持続的な奏効と長期生存の可能性を評価することを目的とした。
目的
本研究の目的は、前治療歴のある進行NSCLC患者を対象としたニボルマブの第I相用量設定・拡大試験 (CA209-003、NCT00730639) の長期追跡解析結果を報告することである。具体的には、データカットオフ2014年9月時点 (追跡中央値39ヶ月) での全生存期間 (OS) の評価、奏効持続期間 (DOR) の特性、および長期安全性プロファイルの詳細な解析と報告を行うことを目的とした。これにより、ニボルマブ単剤療法が進行NSCLC患者に与える長期的な臨床的ベネフィットと安全性に関するエビデンスを確立することを目指した。特に、従来の化学療法では見られなかった長期生存の「tail plateau」現象がNSCLC患者で観察されるかどうかの検証も重要な目的の一つであった。
結果
全生存期間 (OS) の長期成績: 全用量群 (n=129) におけるmOSは9.9ヶ月 (95% CI 7.8-12.4) であった。1年OS率は42% (95% CI 33-50%)、2年OS率は24% (95% CI 17-33%)、3年OS率は18% (95% CI 11-25%) であった。これは当時の二次・三次化学療法の1年OS率約30%、3年OS率5%未満と比較して歴史的に優れた長期生存率を示している。生存曲線は約3年で「tail plateau」を形成し、一部の患者での長期無再発生存の可能性を示唆した (Figure 1A)。
3mg/kg投与群のOSにおける優位性: 第III相試験で採用された3mg/kg投与群 (n=37) では、mOSは14.9ヶ月 (95% CI 7.3-30.3) と、全用量合算値よりも大幅に良好な成績を示した。この群の1年OS率は56% (95% CI 38-71%)、2年OS率は42% (95% CI 24-58%)、3年OS率は27% (95% CI 12-43%) であった (Figure 1B)。これは1mg/kg群のmOS 9.2ヶ月、10mg/kg群のmOS 9.2ヶ月と比較しても、3mg/kg群の優位性が顕著であった。特に非扁平上皮癌の3mg/kg群ではmOS 18.2ヶ月、2年OS率48%とさらに良好な成績が観察された。全用量群の無増悪生存期間 (PFS) 中央値は2.3ヶ月 (95% CI 1.8-3.7) であった。
客観的奏効率 (ORR) と組織型による差異: 全用量群におけるORRは17% (22/129例、95% CI 11.0-24.7%) であり、内訳は部分奏効16%、完全奏効1%であった。用量別のORRは、1mg/kg群で3% (1/33例)、3mg/kg群で24% (9/37例)、10mg/kg群で20% (12/59例) であった。扁平上皮癌と非扁平上皮癌の間でORRに大きな差はなく、それぞれ16.7%と17.6%であった (Table 3)。これは、組織型によらずニボルマブの効果が認められることを示唆する。さらに、6例 (5%) の患者が非典型的な免疫パターン応答 (immune-related response criteria) を示し、これらの患者のOSは7.3ヶ月から54.3ヶ月以上と長期にわたった。3ライン以上の前治療歴を持つ重治療例においてもORRは21%であり、従来の化学療法とは異なる耐性パターンを示した。
奏効持続期間 (DOR) と治療中止後の効果継続: 客観的奏効を達成した22例におけるmDORは17.0ヶ月 (範囲1.4+〜36.8+ヶ月) であった。これは従来の化学療法のmDOR 3〜5ヶ月を大幅に上回る持続的な奏効を示している。奏効例22例中11例 (50%) は最初の8週評価時点でRECIST奏効が確認された (Figure 1C, D)。データ解析時点で、奏効は9例 (41%) で継続中であった。奏効例のサブセットにおけるmPFSは20.6ヶ月であった。疾患進行以外の理由 (最大サイクル完了 n=7、有害事象 n=8、同意撤回 n=2、その他 n=1) でニボルマブ治療を中止した奏効者18例のうち、9例 (50%) で最終投与後9ヶ月以上の奏効継続が確認された (範囲9.2〜16.4+ヶ月)。これは、免疫記憶による「奏効の自律性」を実証する重要な知見である (Figure 2)。
安全性プロファイルと治療関連死: 治療関連有害事象 (全Grade) は71%の患者で発生した。最も頻度の高かったのは疲労 (24%)、食欲低下 (12%)、下痢 (10%) であった。Grade 3〜4の治療関連有害事象は14% (18/129例) に発生し、最も多かったのはGrade 3の疲労 (3%) であった。毒性は用量によって累積する傾向は認められなかった。免疫関連の選択的有害事象 (全Grade) は41% (53/129例) に認められ、皮膚系 (16%)、消化管系 (12%)、肺系 (7%) が主なものであった。Grade 3〜4の免疫関連有害事象は全体で4.7%であった (Table 4)。治療関連死は3例 (2%) に発生し、いずれも肺臓炎に関連していた (Grade 4肺臓炎2例、Grade 5肺臓炎1例)。これらのうち2例は、肺臓炎がニボルマブの毒性として認識される前の試験早期に発生した。現在では、肺臓炎の早期発見と管理に関するガイドラインが整備されている。Grade 3〜4の肺臓炎は3例 (2.3%) に発生した。
探索的解析による喫煙歴とPD-L1発現の関連: 喫煙歴 (>5 pack-years) のある患者でORRが高い傾向が認められた (30% vs 0%、少数例の探索的解析)。PD-L1発現と奏効または生存の明確な関連は、68例のアーカイブ検体を用いた探索的解析では認められなかった。EGFR変異陽性例 (n=12) におけるORRは16.7%であり、野生型 (n=56) の19.6%と比較して大きな差はなかった。
考察/結論
CA209-003試験の長期追跡報告 (n=129、追跡中央値39ヶ月) は、進行NSCLCにおいてニボルマブが当時の標準治療を大幅に超える長期生存 (3年OS 18%、3mg/kg群で27%) を達成しうることを示した先駆的データであり、免疫療法時代の幕開けを告げた試験である。
先行研究との違い: 本研究は、従来の二次治療 (ドセタキセル、エルロチニブ、ペメトレキセド) のORR 7〜9%、1年OS 30%、mOS 8ヶ月と比較して、ニボルマブのORR 17% (3mg/kg群で24%)、1年OS 42% (3mg/kg群で56%)、mOS 9.9ヶ月 (3mg/kg群で14.9ヶ月)、3年OS 18% (3mg/kg群で27%) という複数の次元で歴史的な改善を示した。特に重治療例での奏効 (3ライン以上の前治療歴でのORR 21%) は、化学療法の奏効率低下と対照的な特性を示した。これは、免疫チェックポイント阻害薬が従来の治療とは異なる耐性メカニズムを持つことを示唆する。
新規性: 本研究の臨床的革新性として以下の点が際立つ。第一に、mDOR 17.0ヶ月という長期奏効性は、従来の化学療法のmDOR 3〜5ヶ月と比較して前例のない持続性を示した。第二に、治療中止後の奏効継続 (18例中9例で9ヶ月以上) という知見は、免疫チェックポイント阻害が単なる腫瘍縮小効果にとどまらず、免疫記憶の誘導による長期自律的制御をもたらす可能性を示す。これは、従来の治療法ではこれまで報告されていない新規な作用機序である。第三に、生存曲線の約3年でのプラトー形成 (tail plateau) は、一部のNSCLC患者が長期無再発生存 (cure-like) を達成できる可能性を本研究で初めて具体的に示した。
臨床応用: 本知見は、ニボルマブが進行NSCLC患者の予後を劇的に改善しうる可能性を提示し、その後の臨床応用を強力に推進した。3mg/kgという承認用量の決定は、本試験の優れた長期成績が根拠となっており、その後の固定用量 (240mg q2週、480mg q4週) への変更後も有効性が維持されることが確認されている。NSCLCにおける免疫療法の確立という歴史的観点から、本試験は現代の標準治療体系の礎となった試験として位置づけられる。
残された課題: PD-L1発現と奏効の相関が68例のアーカイブ検体では明確でなかったことは、残された課題である。これは、後にPD-L1スコアが動的に変化することや、検体収集時点の問題に起因することが示唆された (Herbst et al. Nature 2014)。喫煙歴との相関は腫瘍変異量 (TMB) の高さを反映すると考えられ、今後の研究の出発点となった (Snyder et al. NEnglJMed 2014)。EGFR変異例での低奏効率 (変異陽性12例でORR 16.7%) は、今後のEGFR変異NSCLCへの免疫療法の位置付けを議論する重要な端緒となった。本試験の成果を受けて、Phase 3試験 (CheckMate 017: 扁平上皮NSCLC、CheckMate 057: 非扁平上皮NSCLC) が推進され、2015年のニボルマブFDA承認 (NSCLC二次治療) に至った。
方法
本研究は、多施設共同第I相用量設定・拡大試験 (CA209-003、NCT00730639) の長期追跡解析である。2008年11月から2012年1月にかけて、米国12施設で患者登録が行われた。
対象患者: 病理学的に確認された進行NSCLC患者129例が登録された。主要な適格基準は、年齢18歳以上、ECOGパフォーマンスステータス0〜1 (2010年10月のプロトコル改訂前は0〜2が許容された)、十分な臓器機能、および進行NSCLCに対する1〜5ラインの前治療歴であった。患者は少なくとも1つの白金製剤またはタキサン系薬剤を含むレジメンによる前治療歴を有し、RECIST (version 1.0) に基づく測定可能病変を有することが求められた。治療済みの脳転移で8週間以上安定している患者は適格とされた。除外基準には、自己免疫疾患、T細胞調節抗体 (例: 抗CTLA-4、抗PD-1、抗PD-L1) による前治療、免疫抑制剤の使用、HIV感染、活動性B型またはC型肝炎ウイルス感染が含まれた。
患者背景: 登録された129例の患者の年齢中央値は65歳、男性が61%を占めた。組織型は扁平上皮癌が42%、非扁平上皮癌が57%であった。ECOGパフォーマンスステータス0または1の患者が98%を占めた。患者は高度に前治療されており、54%が3ライン以上の全身治療歴を有していた。白金製剤による前治療歴がある患者は99%であった。チロシンキナーゼ阻害剤 (TKI) による前治療歴がある患者は28%であった。EGFR変異は12例 (9.3%) で陽性、56例 (43.4%) で野生型、61例で不明であった。KRAS変異は21例 (16.3%) で陽性、36例で野生型、72例で不明であった。
治療プロトコル: ニボルマブは、1mg/kg、3mg/kg、または10mg/kgの用量で2週間ごとに静脈内投与され、8週間を1サイクルとし、最大96週間 (12サイクル) 継続された。用量設定フェーズの後、拡大コホートでは扁平上皮癌と非扁平上皮癌で層別化され、1mg/kg、3mg/kg、10mg/kgのいずれかの用量に無作為に割り付けられた。治療は、許容できない毒性、確定された完全奏効、確定された疾患進行、または同意撤回まで継続された。臨床的悪化がない場合、初期の疾患進行後も免疫関連奏効基準 (immune-related response criteria) に合致する応答パターンを考慮し、治療を継続することが可能であった (Wolchok et al. ClinCancerRes 2009)。
評価項目: 主要アウトカムは全患者のOS、奏効持続期間 (DOR)、および長期安全性であった。腫瘍評価はRECIST (version 1.0) に基づき、各8週間の治療サイクル後に放射線学的に実施された。ORRは、全治療患者における確定された完全奏効または部分奏効の割合として定義された。安全性評価は、血液検査、身体診察、有害事象評価により、治療中は2週間ごと、最終投与後70日まで実施された。有害事象はMedDRA (version 15.1) を用いてコード化され、NCI-CTCAE (version 3.0) に基づいて重症度が評価された。免疫関連有害事象は、特定のMedDRA用語リストに基づいて特定された。
統計解析: 有効性解析、特にOS結果は2014年9月時点のデータカットオフに基づいて報告された。ベースライン特性および安全性解析は2013年3月時点のデータに基づいている。OS、DOR、およびOS率はカプラン・マイヤー法を用いて推定された。メジアンの信頼区間 (CI) はBrookmeyer and Crowley法、生存率のCIはGreenwoodの公式を用いて算出された。ベースライン特性と臨床活動性の関連は、サブグループ別のORR推定により探索的に解析された。