• 著者: Fossella FV, DeVore R, Kerr RN, Crawford J, Natale RR, Dunphy F, Kalman L, Miller V, Lee JS, Moore M, Gandara D, Karp D, Vokes E, Kris M, Kim Y, Gamza F, Hammershaimb L
  • Corresponding author: Frank V. Fossella, MD (MD Anderson Cancer Center, Houston, TX, USA)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2000
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article (Phase 3 randomized controlled trial)
  • PMID: 10856094

背景

非小細胞肺癌 (NSCLC) は世界的にがん死亡の主要原因であり、米国では年間約17万例の新規発症と約16万例の死亡が報告されている (1998年時点) Landis et al. Cancer J Clin 1998。NSCLCは男性のがん死亡の32%、女性の24%を占める。診断時には約75-80%がNSCLCであり、その多くが局所進行 (44%) または転移性 (Stage IV, 32%) である。プラチナ系レジメンによる一次化学療法は奏効率を改善するものの、進行NSCLC患者のほぼ全例が最終的に再発または進行する。しかし、1990年代後半まで、プラチナ系化学療法後に進行した患者に対する二次治療の選択肢は確立されていなかった。この領域には明確な治療ギャップが存在し、新たな治療法の開発が喫緊の課題であった。

プラチナ系化学療法と最良支持療法 (BSC) を比較した8つのランダム化試験のメタ解析では、一次治療における生存期間中央値が4ヶ月から7ヶ月に、1年生存率が5%から15%に改善することが示された NSCLCMetaAnalyses et al. BMJ 1995。しかし、二次治療の領域では、paclitaxel、vinorelbine、gemcitabine、CPT-11などの新規薬剤を用いた第II相試験の多くで、奏効率が10%未満と一貫した活性が示されず、その臨床的有用性は未確立であった Management strategies for recurrent non et al. Semin Oncol 1997。この中で、docetaxelは例外的に、プラチナ前治療歴のある患者を対象とした4つの第II相試験 (合計166例、docetaxel 100mg/m²) において、奏効率15-22%、生存期間中央値6-11ヶ月、1年生存率25-44%という一貫した良好な活性を示した Phase II study of docetaxel for advanced or metastatic platinum et al. J Clin Oncol 1995。これらの有望な結果から、docetaxelの二次治療としての有効性を大規模な第III相試験で検証する必要性が認識され、本TAX 320試験が計画された。当時の標準治療と比較してdocetaxelの優位性を示すことで、プラチナ前治療後の進行NSCLC患者に対する新たな治療選択肢を確立することが喫緊の課題であった。特に、生存期間の延長に加え、病勢コントロールやQOLの改善といった多角的な評価が求められていた。この分野では、有効な二次治療薬が不足しており、患者の予後を改善するための新たなアプローチが強く望まれていた。

目的

本TAX 320試験の主要な目的は、プラチナ含有化学療法後に進行した局所進行または転移性非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者において、docetaxel 100mg/m² (D100) またはdocetaxel 75mg/m² (D75) が、標準的な比較対照治療であるvinorelbineまたはifosfamide (V/I) と比較して、全生存期間 (OS) および客観的奏効率 (ORR) を有意に改善するかを検証することであった。本試験は、プラチナ前治療後の進行NSCLC患者に対する二次治療の臨床的有用性を確立することを目的とした、多施設共同、前向き、3群ランダム化、非盲検の第III相臨床試験 (clinical trial) として設計された。

副次的な目的としては、以下の項目を評価した。

  1. 無増悪生存期間 (PFS) および26週時点の無増悪生存率。
  2. 奏効期間 (duration of response)。
  3. 毒性プロファイルおよび安全性。
  4. 患者の生活の質 (QOL) の評価。QOLデータは別途報告されることになっていた。

本試験は、プラチナ前治療後に進行したNSCLC患者に対する二次治療として、docetaxelの最適な用量と有効性を確立し、新たな標準治療を確立することを目指した。

結果

患者背景: 無作為化された373例の患者背景は、年齢中央値59-60歳、男性80-82%、Stage IV 86-91%、腺癌41-56%、PS 2が15-18%であり、3群間でバランスが取れていた (Table 1)。先行化学療法として2レジメン以上を受けた患者が26-35%、prior paclitaxel暴露歴のある患者が31-42%と、前治療歴も均等に分布していた。プラチナ系治療に対する感受性 (奏効/安定) は各群67-76%、抵抗性 (進行) は24-33%であった。

治療実施状況: 投与された化学療法サイクル数の中央値は、docetaxel両群で3サイクル、vinorelbine群で3サイクル、ifosfamide群で2サイクルであった (Table 2)。相対用量強度の中央値は、docetaxelおよびifosfamide群で約1であったのに対し、vinorelbine群では0.67と低かった。これは主にDay 15の骨髄抑制による用量減量またはスキップに起因する。D75群の患者は最も長く治療を継続し、奏効患者では中央値10サイクル (D100群では6サイクル)、病勢安定患者では中央値6サイクル (D100群では4サイクル) の治療を受けた。D100群での早期治療中止は、主に毒性によるものであった。

奏効率 (ORR): 評価可能であった358例における客観的奏効率 (部分奏効率) は、D100群で10.8% (95% CI 6.1-18.1%)、D75群で6.7% (95% CI 3.1-13.1%) であった。これに対し、V/I群ではわずか0.8% (95% CI 0.0-5.3%) であり、118例中1例のみが部分奏効を示した (Table 3)。D100群とV/I群の比較ではp=0.001、D75群とV/I群の比較ではp=0.036と、いずれのdocetaxel群もV/I群と比較して有意に高い奏効率を示した (Fisher’s exact test)。両docetaxel群を統合した場合のV/I群との比較でもp=0.002と有意差が認められた。奏効持続期間の中央値は、D100群で7.5ヶ月、D75群で9.1ヶ月、V/I群で5.9ヶ月であった (V/I群は1例のみのデータ)。病勢安定 (SD) 率はD100群33%、D75群36%、V/I群31%と3群間で同程度であった。先行paclitaxel暴露の有無にかかわらずdocetaxelへの奏効率は維持され、taxane間の交差耐性が不完全であることが示唆された (D75群: prior paclitaxel暴露あり12.2% vs なし2.8%)。

時間ベースのエンドポイント (TTP、26週PFS): 病勢進行までの期間 (TTP) 中央値は、D100群で8.4週 (95% CI 6.7-11.0)、D75群で8.5週 (95% CI 6.7-11.0)、V/I群で7.9週 (95% CI 6.9-11.0) と、中央値自体は3群間で同等であった (Table 4, Fig 1)。しかし、ログランク検定では、D100群 vs V/I群でp=0.044、両docetaxel群統合 vs V/I群でp=0.046と、全体的なTTPはdocetaxel群で有意に良好であった。26週時点の無増悪生存率 (PFS) は、D100群で19% (95% CI 12-26%)、D75群で17% (95% CI 10-24%) であったのに対し、V/I群では8% (95% CI 3-13%) であった。χ²検定では、D100群 vs V/I群でp=0.013、D75群 vs V/I群でp=0.031、両docetaxel群統合 vs V/I群でp=0.005と、26週時点のPFSはdocetaxel群で有意に良好であった。

全生存期間 (OS): ITT解析 (n=373) における全生存期間中央値は、D100群で5.5ヶ月、D75群で5.7ヶ月、V/I群で5.6ヶ月と、3群間で統計学的な有意差は認められなかった (Table 5, Fig 2)。しかし、1年生存率ではD75群が32% (95% CI 23-40%) であったのに対し、V/I群は19% (95% CI 12-26%) と有意な改善を示した (p=0.025、χ²検定)。D100群の1年生存率は21%であり、V/I群との間に有意差は認められなかった。

後治療による交絡効果を考慮し、後続化学療法開始時に生存期間を打ち切った感度解析では、より顕著な差が認められた (Table 6, Fig 3)。この解析では、D100群の1年生存率が32% (95% CI 22-43%)、D75群の1年生存率が32% (95% CI 20-44%) であったのに対し、V/I群では10% (95% CI 1-18%) と有意に低かった (両docetaxel群 vs V/I群でp<0.01、χ²検定)。この結果は、V/I群の患者の50%以上が後治療としてタキサン系薬剤を受けていたことが、ITT解析におけるOS差の過小評価につながった可能性を示唆している。

サブグループ解析: プラチナ感受性 (奏効/安定) 患者群では、プラチナ抵抗性 (進行) 患者群と比較してdocetaxelの奏効率が高い傾向が認められた (感受性10% vs 抵抗性5%)。ECOG PS 0-1の患者はPS 2の患者よりも全群で生存期間が良好であったが、PS別のサブグループ解析においてもdocetaxelの優位性は維持される傾向にあった。先行paclitaxel暴露の有無は、docetaxelへの奏効率や生存期間に影響を与えなかった。

安全性: 安全性は、少なくとも1回の化学療法投与を受けた361例で評価された。Grade 4の血液毒性では、好中球減少がD100群で77%、D75群で54%、V/I群で31%と、docetaxel群で有意に高頻度であった (p<0.001) (Table 7)。発熱性好中球減少もD100群で12%、D75群で8%、V/I群で1%と、docetaxel群で有意に高かった。しかし、Grade 4感染の発生率は低く、3群間で差はなかった。Grade 4貧血はD100群で1%、D75群で0%、V/I群で2%であり、Grade 4血小板減少はD100群で1%、D75群で2%、V/I群で0%であった。G-CSFの使用は、D100群で28%のサイクル、D75群で7%のサイクル、V/I群で3%のサイクルで認められ、D100群で有意に高かった。これはD100群ではプロトコールで予防的使用が規定されていたためである。

Grade 3/4または重度の非血液毒性は比較的まれであった (Table 8)。無力症 (Asthenia) Grade 3/4はD100群17%、D75群12%、V/I群11%であった。悪心/嘔吐はD100群で7%/7%、D75群で3%/1%、V/I群で6%/4%であった。神経感覚障害はD100群で6%、D75群で1%、V/I群で3%であった。水分貯留はD100群で4%、D75群で1%、V/I群で2%であった。毒性による治療中止率は、D100群12.8%、D75群7.2%、V/I群4.1%であり、統計学的な有意差は認められなかった。治療関連死はD100群で2%、D75群で0%、V/I群で2%であった。

考察/結論

TAX 320試験は、プラチナ含有化学療法後に進行したNSCLC患者の二次治療において、docetaxelの有効性を評価した最初の本格的な第III相ランダム化比較試験である。本試験は、docetaxel 75mg/m² (D75) がこの設定における推奨用量であることを確立する上で重要な根拠を提供した。主要な知見は以下の4点に集約される。

先行研究との違い: これまでの第II相試験でdocetaxelの有望な活性が示唆されていたものの、プラチナ前治療後の進行NSCLCに対する二次治療として、標準治療と比較した大規模な第III相試験は本研究が初めてであった。本試験は、積極的な化学療法同士を比較した点で、同時期に実施されたTAX 317試験 (Shepherd et al. 2000) がdocetaxelと最良支持療法 (BSC) を比較したのと対照的である。本研究は、D75がV/Iと比較して1年OS 32% vs 19% (p=0.025)、ORR 6.7% vs 0.8% (p=0.036)、26週PFS 17% vs 8% (p=0.031) と、複数のエンドポイントで有意な優位性を示した。OS中央値が3群間で同等であったにもかかわらず、1年OS率に顕著な差が見られた「ORR-OS解離」は、docetaxelによる生存改善が単なる腫瘍縮小効果だけでなく、病勢コントロール (病勢安定 SD 36%)、病勢進行までの期間延長、およびQOL維持といった複合的な臨床的恩恵によるものであることを示唆している。

新規性: 本研究で初めて、docetaxel 100mg/m² (D100) が75mg/m² (D75) よりも臨床的恩恵が劣ることが明らかになった。D100群は、治療関連死2%、Grade 4好中球減少77%、G-CSF使用28%という高い毒性プロファイルを示し、早期の治療中断が多く発生した。D75群では奏効例で中央値10サイクル、病勢安定例で中央値6サイクルとより長期の治療継続が可能であり、結果として1年OSはD75群32%に対しD100群21%と、D75群が優れていた。この結果から、D100はリスク/ベネフィットバランスが不良であり、プラチナ前治療後のNSCLC患者に対する最適なdocetaxel用量は75mg/m²であることが本研究で初めて確立された。

臨床応用: 後治療による交絡効果を排除するための感度解析は、本試験の臨床的意義をさらに強調する。V/I群の患者の50%以上が試験終了後にタキサン系薬剤による後治療を受けていたため、ITT解析におけるOS中央値の差が過小評価されていた可能性が指摘された。後治療をセンサリングした解析では、D100およびD75の両群で1年OSが32% (95% CI 22-43% for D100, 95% CI 20-44% for D75) であったのに対し、V/I群では10% (95% CI 1-18%) と、より大きな生存差 (p<0.01) が確認された。この知見は、今後の臨床試験設計において、後治療の影響を適切に管理することの重要性を示唆する。また、先行paclitaxel暴露歴がdocetaxelへの奏効率に影響を与えなかったことは、taxane間の不完全な交差耐性パターンを示唆し、paclitaxel前治療患者に対するdocetaxelの使用を支持する重要な臨床的含意を持つ。本試験の結果は、同時期に実施されたTAX 317試験の結果と相補的であり、docetaxel 75mg/m² q3週がNSCLC二次治療の世界標準として米国FDAおよび欧州で承認される基盤となった。現在でもdocetaxelは、ramucirumabやnintedanibとの併用を含め、NSCLC二次治療の主要な選択肢として広く臨床現場で使用され続けている。

残された課題: 本研究は、プラチナ前治療後のNSCLC患者に対するdocetaxelの有効性と最適な用量を確立したが、QOLデータの詳細な報告は別途行われることになっており、本論文ではその全容は示されていない点がlimitationとして挙げられる。また、V/I群における後治療の交絡効果は感度解析で対処されたものの、実臨床における治療シーケンスの最適化に関するさらなる検討が今後の課題として残されている。さらに、本試験は2000年に報告されたものであり、その後の分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の登場により、NSCLCの治療パラダイムは大きく変化している。現在の治療環境におけるdocetaxelの最適な位置づけや、特定のバイオマーカーに基づく患者選択基準の確立は、今後の研究方向性となる。

方法

本研究は、多施設共同、前向き、3群ランダム化、非盲検の第III相臨床試験 (clinical trial) として、米国23施設で1995年6月から1998年1月にかけて実施された。本試験の識別子 (identifier) はN/Aであるが、臨床試験登録は当時、義務付けられていなかった。

患者適格基準: 対象患者は、プラチナ含有化学療法後に病勢進行した局所進行または転移性NSCLC患者であった。測定可能病変または評価可能病変を有し、ECOG Performance Status (PS) が0-2であること、適切な骨髄機能 (好中球数 ≥ 2.0 × 10⁹/L、血小板数 ≥ 100 × 10⁹/L)、肝機能 (総ビリルビン正常範囲内、ALP ≤ 5倍ULN、AST/ALT ≤ 1.5倍ULN)、腎機能 (血清クレアチニン ≤ 2.0 mg/dLまたはクレアチニンクリアランス ≥ 60 mL/min) を有することが求められた。治療済みの脳転移で神経学的に安定している患者も適格とされた。先行する化学療法レジメンの数や種類 (paclitaxelを含む) に制限は設けられなかった。

無作為化と層別化: 患者は、以下の層別因子に基づいて3つの治療群に均等に無作為化された (n=373)。

  • プラチナ系治療に対する最良奏効 (進行病変 vs その他の奏効カテゴリー)
  • ECOG PS (0/1 vs 2)

治療レジメン:

  • D100群 (n=125): docetaxel 100mg/m² を1時間かけて静脈内投与、3週間ごと。デキサメタゾン8mgを12時間ごとに5回、docetaxel投与24時間前から予防的に前投薬した。Grade 4好中球減少が7日以上持続するか、発熱性好中球減少を伴う場合は、以降のサイクルで予防的フィルグラスチムが投与された。
  • D75群 (n=125): docetaxel 75mg/m² を1時間かけて静脈内投与、3週間ごと。デキサメタゾン前投薬はD100群と同様。
  • V/I群 (n=123): 施設裁量によりvinorelbineまたはifosfamideが選択された。
    • vinorelbine 30mg/m² を3週間サイクルのDay 1, 8, 15に静脈内投与 (n=89)。
    • ifosfamide 2g/m²/日 (標準用量メスナ併用) を3週間サイクルのDay 1-3に静脈内投与 (n=34)。

用量調整と治療中止: Grade 4好中球減少を伴う発熱性好中球減少が発生した場合、D75およびV/I群では次サイクルで25%の減量が行われた。D100群ではまず予防的フィルグラスチムが投与され、それでも好中球減少性感染が再発した場合は25%減量された。Grade 3以上の神経毒性、Grade 4過敏反応、または3週間以上持続するGrade 3以上の肝機能異常は治療中止の基準とされた。

評価項目: 主要エンドポイントは全生存期間 (OS) と客観的奏効率 (ORR) であった。副次エンドポイントは、奏効期間、病勢進行までの期間 (TTP)、26週時点の無増悪生存率 (PFS)、毒性、およびQOL (Lung Cancer Symptom Scale; LCSS) であった。QOLデータは別途報告された。

統計解析: OSおよびTTPはKaplan-Meier法を用いて推定され、治療群間の比較にはログランク検定が用いられた。奏効率はFisherの正確確率検定を用いて比較された。26週時点のPFSおよび1年生存率は、事後解析としてχ²検定で比較された。後治療による交絡効果を最小化するため、後続化学療法開始時に生存期間を打ち切る感度解析も実施された。サンプルサイズは、いずれかのdocetaxel群でV/I群と比較してOS中央値が5ヶ月から7.5ヶ月に改善することを検出するために、各群120例 (計360例) で80%の検出力 (片側α=0.05) を確保するよう設計された。全ての統計検定は両側α=0.05で実施された。