- 著者: Ramalingam SS, Dahlberg SE, Belani CP, Salgia R, Pennell NA, Nambudiri GS, Schrump DS, Hines MR, Brzezniak C, Liu MC, Cohen V, Ganti AK, Saxena A, Juergens RA, Edelman MJ, Taber D, Cioffi D, Sugarbaker DJ, Schiller JH, Johnson DH
- Corresponding author: Suresh S. Ramalingam, MD (Winship Cancer Institute, Emory University School of Medicine, Atlanta, GA, USA)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 2019
- Epub日: 2019-07-30
- Article種別: Original Article
- PMID: 31361535
背景
進行非扁平上皮非小細胞肺癌 (NSCLC) の治療において、プラチナ製剤ベースの化学療法は生存期間とQOLの改善をもたらすことが確立されている。近年、免疫チェックポイント阻害剤や分子標的薬の登場により、患者の治療成績は著しく向上しているものの、依然として約50%の進行NSCLC患者にとってプラチナ製剤ベースの化学療法が一次治療の重要な部分を占めている。また、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤による治療後に病勢進行を認めた患者に対しても、プラチナ製剤ベースの化学療法が使用される場合がある。
4サイクルのプラチナ製剤ベース化学療法が進行NSCLCに対する最適なレジメンとされており、その後の維持療法は全生存期間 (OS) の改善をもたらすことから、日常臨床で広く採用されている。多標的葉酸代謝拮抗薬であるペメトレキセドは、非扁平上皮NSCLCの維持療法において、プラセボと比較して優れた生存期間を示すことが複数の第III相ランダム化比較試験(例えば、Ciuleanu et al. Lancet 2009、PARAMOUNT試験)で確立され、米国FDAの承認を得ている。同様に、血管内皮増殖因子 (VEGF) に対するモノクローナル抗体であるベバシズマブも、ECOG 4599試験(Sandler et al. NEnglJMed 2006)により維持療法としての役割が確立された。この試験では、カルボプラチン、パクリタキセル、ベバシズマブの併用療法を受けた非扁平上皮NSCLC患者が、臨床的利益を得た場合にベバシズマブ維持療法を継続した。
これらの単剤維持療法は標準治療として確立されている一方で、ペメトレキセドとベバシズマブの併用維持療法が単剤維持療法と比較してOSの優位性をもたらすかについては、大規模な直接比較試験による検証が不足していた。過去の第II相試験では、ペメトレキセドとベバシズマブの併用維持療法が有望な生存期間を示すことが報告されていたが、第III相試験での優越性は確立されていなかった。また、AVAPERL試験では、維持療法としてベバシズマブ単剤とペメトレキセド+ベバシズマブ併用を比較し、併用群で無増悪生存期間 (PFS) の有意な延長 (HR 0.57; P < .001) を認めたものの、OSの延長は認められず、PFSとOSの乖離が示唆されていた。この結果は、併用療法の有効性についてさらなる検証が必要であることを示唆していた。
これらの背景から、非扁平上皮NSCLCの維持療法における最適な治療戦略を明確にするための大規模な第III相試験が未解明な課題として残されていた。特に、毒性プロファイルや費用対効果の観点から、3つの異なる維持療法アプローチ(ペメトレキセド単剤、ベバシズマブ単剤、ペメトレキセド+ベバシズマブ併用)を直接比較し、OSにおける優越性を検証することは、臨床的意義が極めて大きいと考えられた。本研究は、この知識ギャップを埋めることを目的として、ECOG-ACRIN 5508試験として実施された。本試験は、維持療法としてのベバシズマブ単剤の役割を直接評価する点でも新規性があり、その有効性が確立されたペメトレキセド単剤と同等であるかどうかの検証も重要な課題であった。
目的
ECOG-ACRIN 5508試験の主要目的は、進行非扁平上皮NSCLC患者を対象に、カルボプラチン、パクリタキセル、ベバシズマブによる導入化学療法(最大4サイクル)後の維持療法として、以下の3群間における全生存期間(OS)の優越性を検証することである。
- ベバシズマブ単剤維持療法
- ペメトレキセド単剤維持療法
- ペメトレキセドとベバシズマブの併用維持療法
具体的には、ベバシズマブ単剤群を対照群として、ペメトレキセド単剤群およびペメトレキセド+ベバシズマブ併用群のOSに対する優越性を評価することを主要エンドポイントとした。本試験は、ハザード率の25%減少を検出する統計的検出力を持つように設計された。副次エンドポイントとしては、ランダム化からの無増悪生存期間(PFS)、治験責任医師による最良の客観的奏効率(ORR)、および各レジメンの安全性プロファイルの比較を評価した。本試験は、非扁平上皮NSCLCにおける最適な維持療法を確立し、臨床現場での治療選択に明確な指針を提供することを目指した。
結果
患者特性と登録: 2010年8月から2015年4月までに合計1,516名の患者が登録され、そのうち874名 (57%) が導入療法後に維持療法群にランダムに割り付けられた (Figure 1)。ランダム化された患者のベースライン特性は3群間でバランスが取れていた (Table 1)。全体の患者集団では、男性が52%、白人が86%を占め、中央年齢は64歳であった。92%の患者がIV期であり、腺癌が最も一般的な組織型であった。約9%の患者が非喫煙者であり、17%の患者が脳転移を有していた。ランダム化された患者群では、男性が49%、白人が87%であり、非喫煙者は11%であった。
全生存期間 (OS) - 主要エンドポイント: 中央値50.6ヶ月の追跡期間において、ランダム化からのOS中央値は以下の通りであった。ペメトレキセド単剤群は15.9ヶ月 (95% CI 13.5-17.9ヶ月)、ベバシズマブ単剤群は14.4ヶ月 (95% CI 12.8-16.7ヶ月)、ペメトレキセド+ベバシズマブ併用群は16.4ヶ月 (95% CI 14.3-18.9ヶ月) であった。ベバシズマブ単剤群に対する比較では、ペメトレキセド単剤群のHRは0.86 (97.5% CI 0.70-1.07, P = .12) であり、統計学的に有意なOSの改善は認められなかった。また、ペメトレキセド+ベバシズマブ併用群のHRは0.90 (97.5% CI 0.73-1.12, P = .28) であり、こちらも有意なOSの改善は認められなかった (Figure 2)。したがって、主要エンドポイントであるOSの優越性は達成されなかった。
無増悪生存期間 (PFS) - 副次エンドポイント: PFS中央値は以下の通りであった。ペメトレキセド単剤群は5.1ヶ月 (97.5% CI 4.2-6.0ヶ月)、ベバシズマブ単剤群は4.2ヶ月 (97.5% CI 3.7-4.9ヶ月)、ペメトレキセド+ベバシズマブ併用群は7.5ヶ月 (97.5% CI 6.3-8.7ヶ月) であった。ベバシズマブ単剤群に対する比較では、ペメトレキセド単剤群のHRは0.85 (97.5% CI 0.69-1.03, P = .06) であり、統計学的な有意差は認められなかった。しかし、ペメトレキセド+ベバシズマブ併用群のHRは0.67 (97.5% CI 0.55-0.82, P < .001) であり、ベバシズマブ単剤群と比較してPFSの有意な延長が認められた (Figure 3)。この結果は、併用維持療法がPFSを改善するものの、OSには影響を与えないというPFS-OSの乖離を示唆している。
客観的奏効率 (ORR): 維持療法中のORRは以下の通りであった。ベバシズマブ単剤群では12.5% (97.5% CI 8.5%-17.6%)、ペメトレキセド単剤群では18.7% (97.5% CI 13.9%-24.4%)、ペメトレキセド+ベバシズマブ併用群では21.2% (97.5% CI 16%-27%) であった。併用群で最も高いORRが示されたものの、これはOSの改善には繋がらなかった。
安全性プロファイル: 維持療法中のGrade 3以上の有害事象 (AE) の発生率は、併用群で最も高かった (Table 3)。ベバシズマブ単剤群では29% (Grade 3: 27%, Grade 4: 2%)、ペメトレキセド単剤群では37% (Grade 3: 32%, Grade 4: 5%)、ペメトレキセド+ベバシズマブ併用群では51% (Grade 3: 43%, Grade 4: 7%) であった。ベバシズマブ単剤群と比較して、ペメトレキセド単剤群ではGrade 3/4の貧血 (P = .12)、疲労 (P = .02)、リンパ球減少 (P = .003)、好中球減少 (P < .001)、血小板減少 (P < .001)、白血球減少 (P < .001) の発生率が高かった。一方、ベバシズマブ単剤群では、ペメトレキセド単剤群と比較してGrade 3/4の蛋白尿 (P = .001) および高血圧 (P < .001) の発生率が高かった。ペメトレキセド+ベバシズマブ併用群は、ベバシズマブ単剤群と比較して、貧血 (P = .01)、疲労 (P = .005)、リンパ球減少 (P < .001)、好中球減少 (P < .001)、血小板減少 (P < .001)、白血球減少 (P < .001) の発生率が有意に高かった。全体として、Grade 3以上の毒性の発生率は、併用群でベバシズマブ単剤療法と比較して有意に高かった (P < .001)。治療中止の最も一般的な理由は、維持療法中の病勢進行であった。
多変量解析: 多変量Cox比例ハザードモデルを用いたOS解析でも、維持療法群間のOSに有意な差は認められなかった (Table 2)。共変量として、ECOG PS (HR 0.77, 97.5% CI 0.61-0.97, P = .01)、腺癌以外の組織型 (HR 0.72, 97.5% CI 0.49-1.05, P = .05)、脳転移の有無 (HR 1.77, 97.5% CI 1.29-2.43, P < .001) などがOSに影響を与える因子として同定された。
考察/結論
ECOG-ACRIN 5508第III相試験は、進行非扁平上皮NSCLC患者に対するカルボプラチン、パクリタキセル、ベバシズマブによる導入化学療法後の維持療法として、ペメトレキセド単剤、ベバシズマブ単剤、または両剤併用の3つの治療戦略を直接比較した初の研究である。本研究の主要な結果は、ペメトレキセドとベバシズマブの併用維持療法が、ベバシズマブ単剤またはペメトレキセド単剤と比較して、全生存期間 (OS) を改善しないことを明確に示した点である。
先行研究との違い: 過去の第II相試験では、ペメトレキセドとベバシズマブの併用維持療法が有望な生存期間を示す可能性が示唆されていたが、本試験の結果はそれらの期待とは対照的であった。AVAPERL試験では併用維持療法によるPFSの有意な延長が報告されたが、OSの延長は認められなかった。本研究のPFS結果 (併用群で7.5ヶ月 vs ベバシズマブ単剤群で4.2ヶ月、HR 0.67, 97.5% CI 0.55-0.82, P < .001) はAVAPERL試験のそれと類似しているものの、OSに有意差がなかったことは、PFSが必ずしもOSの代替指標とならない可能性を改めて浮き彫りにした。これは、後続治療の影響や、維持療法における治療効果の評価の複雑さを示唆している。
新規性: 本研究で初めて、維持療法におけるベバシズマブ単剤の役割を明確に評価した点に新規性がある。これまでの主要な試験 (ECOG 4599やAVAiL) では、ベバシズマブは化学療法との併用で開始され、維持療法として継続されたため、維持療法におけるベバシズマブ単剤の寄与を明確に特定することは困難であった。本試験の結果は、ベバシズマブ単剤維持療法が、確立された維持療法であるペメトレキセド単剤と同等の臨床的アウトカムをもたらすことを示唆しており、これはベバシズマブの維持療法としての独立した有効性を示す重要な知見である。
臨床応用: 本試験の最も重要な臨床的含意は、ペメトレキセドとベバシズマブの併用維持療法が、OSの利益をもたらさず、かつGrade 3以上の毒性発現率が単剤療法と比較して有意に高い (51% vs ベバシズマブ単剤29%、ペメトレキセド単剤37%) ため、標準治療としての採用は推奨されないという結論である。この結果は、ベバシズマブ単剤維持療法 (ECOG E4599) またはペメトレキセド単剤維持療法 (PARAMOUNT試験) が、併用維持療法よりも忍容性およびQOLの面で優れているという根拠を強化するものである。臨床現場では、患者の個別化されたリスクとベネフィットを考慮し、単剤維持療法を選択することが適切である。
残された課題: 本試験の設計時 (2010年代初頭) には、現在の標準治療である免疫チェックポイント阻害剤や特定の分子標的薬が一次治療として利用可能ではなかったというlimitationがある。例えば、PD-L1陽性NSCLCに対するペムブロリズマブ単剤療法(Reck et al. NEnglJMed 2016)や、EGFR変異陽性NSCLCに対するオシメルチニブ(Soria et al. NEnglJMed 2018)などが現在の一次治療の選択肢となっている。これらの新しい治療法が導入された現在の治療パラダイムにおいて、本試験の直接的な臨床適用は限定的となっている可能性がある。しかし、抗血管新生療法と腫瘍免疫微小環境との良好な相互作用を示唆する最近の報告(Shrimali et al. CancerRes 2010)もあり、ベバシズマブと免疫チェックポイント阻害剤の併用療法に関する臨床評価が進められている。今後の研究課題として、これらの新しい治療法との組み合わせにおける維持療法の最適な戦略を確立することが挙げられる。また、本試験は病勢進行後の治療データを収集しておらず、これがOS評価に与える影響も考慮すべき点である。
方法
本研究は、国際多施設共同の第III相ランダム化比較試験 (ECOG-ACRIN E5508, ClinicalTrials.gov識別子: NCT01107626) として実施された。
患者選択: 対象患者は、18歳以上の組織学的または細胞学的に確認された非扁平上皮NSCLC患者で、病期はIIIB期からIV期、ECOGパフォーマンスステータス (PS) は0または1、かつ許容可能な骨髄、腎機能、肝機能を有していた。先行する進行期肺癌に対する全身化学療法歴のある患者は除外された。脳転移を有する患者は、局所療法を受け、局所療法完了後少なくとも2週間病勢進行がないことが条件とされた。また、コントロールされていない高血圧、登録前4週間以内に大喀血の既往がある患者、過去12ヶ月以内に動脈血栓イベントまたは大出血の既往がある患者、登録前6週間以内に主要な手術を受けた患者、重篤な心血管疾患を有する患者、空洞性肺病変を有する患者は除外された。妊娠中または授乳中の女性も除外された。全ての参加患者は書面によるインフォームドコンセントを提供した。
試験デザインと治療: 適格患者は、導入療法としてカルボプラチン (AUC 6 mg/mL/min)、パクリタキセル (200 mg/m²)、およびベバシズマブ (15 mg/kg) を3週間ごとに最大4サイクル投与された。2011年のパクリタキセル供給不足のため、短期間、ドセタキセル (75 mg/m²) の代替使用が許可された。導入療法で完全奏効、部分奏効、または安定病変 (RECIST v1.1基準) を達成し、病勢進行を認めなかった患者は、維持療法として以下の3群に1:1:1の割合でランダムに割り付けられた。 (A) ベバシズマブ 15 mg/kg を3週間ごとに投与 (B) ペメトレキセド 500 mg/m² を3週間ごとに投与 (C) ペメトレキセド 500 mg/m² とベバシズマブ 15 mg/kg を3週間ごとに併用投与 維持療法は、病勢進行、許容できない毒性、またはインフォームドコンセントの撤回まで継続された。ペメトレキセド群に割り付けられた患者には、ビタミンB12 (B12) 注射、デキサメタゾン、葉酸サプリメントなどの標準的な前投薬が実施された。
評価項目: 主要評価項目は、ランダム化からあらゆる原因による死亡までの期間と定義される全生存期間 (OS) であった。副次評価項目は、ランダム化から病勢進行またはあらゆる原因による死亡までの期間と定義される無増悪生存期間 (PFS)、治験責任医師による最良の客観的奏効率 (ORR)、および各レジメンの安全性プロファイルの比較であった。毒性はNCI-CTCAE (version 4.0) に基づいて評価され、腫瘍反応はRECIST (version 1.1) に従って評価された。画像評価は導入療法中は6週間ごと、維持療法中は3サイクルごとに行われた。
統計解析: 生存期間の比較はintention-to-treat集団で実施され、安全性は少なくとも1サイクルの治療を受けた全患者で評価された。本試験は、ベバシズマブ対併用療法の比較において、ハザード率の25%減少を81%の検出力で検出できるよう設計され、Bonferroni補正後の片側有意水準は0.0125に設定された。ベバシズマブ対ペメトレキセドの比較では、Bonferroni補正後の両側有意水準0.025が使用された。2つの実験群(ペメトレキセド単剤とペメトレキセド+ベバシズマブ併用)間の統計的比較は計画されなかった。OSおよびPFSはカプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 法を用いて推定された。ハザード比 (HR) を推定し、イベント発生時期の有意性を検定するため、Cox比例ハザードモデルが使用された。患者は性別、病期、喫煙歴、ランダム化時の最良反応に基づいて層別化された。多変量解析では、共変量としてECOG PS、病期、喫煙歴、脳転移の有無などが考慮された。