• 著者: Casarrubios M, Provencio M, Nadal E, Insa A, García-Campelo R, Llorente D, Bernabé R, Bosch-Barrera J, Cobo M, López-Vivanco G, Palka M, Mosquera J, Vázquez S, Isla D, de Castro J, Marrón RM, Viñolas N, Barneto I, Serna-Blasco R, Cruz-Bermúdez A
  • Corresponding author: Alberto Cruz-Bermúdez, PhD (Department of Medical Oncology, Hospital Universitario Puerta de Hierro, Madrid, Spain)
  • 雑誌: Journal for ImmunoTherapy of Cancer
  • 発行年: 2022
  • Epub日: 2022-09-01
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 36171009

背景

切除可能Stage IIIA NSCLCに対する術前化学免疫療法 (neoadjuvant chemoimmunotherapy) は、化学療法単独と比較して病理学的奏効および生存率の改善をもたらすことが報告された (例: Forde et al. NEnglJMed 2022Provencio et al. JClinOncol 2022)。しかし、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) に対する完全病理学的奏効 (CPR: complete pathological response) 達成や病勢進行を予測するバイオマーカーは依然として未解明である。術前化学免疫療法の恩恵を受ける患者を前向きに同定するための分子指標の確立が求められており、腫瘍微小環境 (TME: tumor microenvironment) の免疫細胞やシグナル経路が奏効決定因子として重要視されている。このため、術前生検サンプルでのTME遺伝子発現解析が有望なアプローチと考えられていた。従来のバイオマーカーであるPD-L1やTMB (tumor mutational burden) は、転移性NSCLCにおける免疫単剤療法では有用なデータがあるものの、局所進行期ではデータが限られており、矛盾する結果も報告されている (例: McGrail et al. AnnOncol 2021)。数百の遺伝子を考慮した遺伝子発現プロファイルは、確立されたバイオマーカーのいくつかの限界を克服し、抗腫瘍免疫応答のより包括的な視点を提供できる可能性があるが、この領域における詳細な解析は依然として不足している。

目的

NADIM試験の切除可能Stage IIIA NSCLC患者サンプルを用いて、TME関連遺伝子発現プロファイルが術前化学免疫療法に対するCPRおよび病勢進行を予測できるか、ならびに生存アウトカム (PFS: progression-free survival・OS: overall survival) との関連を探索すること。

結果

術前サンプルにおけるCPR予測バイオマーカーの同定: 術前サンプルにおいて、CPR群 (n=9) と非CPR群 (n=5) の間で25個のDEGが同定された (Fig 1A)。CPR腫瘍で発現が上昇していた遺伝子には、タイプIIインターフェロンシグナル伝達 (IFNG、CXCL13、CXCL10、CXCL9)、NK細胞関連 (NCR1、KIR2DL3、GNLY)、リンパ球濃縮と活性化 (NKG7、GZMB、IL2RB、CD38、IDO1、TNFRSF9)、および腫瘍抗原 (MAGEA10、MAGEA1、GAGE1) に関連するものが含まれた。これらの遺伝子は、CPR腫瘍の術前サンプルにおける炎症性表現型を示唆する。特に、IFNGはAUC 1.000 (95% CI 1.000-1.000、p=0.002) でCPRを完全に弁別する能力を示した。GZMB (AUC 0.933、95% CI 0.793-1.000、p=0.009) およびNKG7 (AUC 0.977、95% CI 0.910-1.000、p=0.004) も高い弁別能を示した (Fig 1B, 1C)。非CPR腫瘍で上方制御された遺伝子には、骨髄系マーカーARG1、TNF受容体TNFSF18、ハウスキーピング遺伝子TFRC、腫瘍抗原MAGEA12、増殖マーカーMAPK1およびCDK1、タイプIIインターフェロンシグナル伝達および自然免疫応答に関与するIL1BおよびMIFが含まれた。CIBERSORTx解析では、CPR腫瘍でM1マクロファージの割合が有意に高く (p=0.002)、そのAUCは0.9778 (95% CI 0.910-1.045、p=0.004) であった (Fig 1E, 1F)。GSEA解析では、CPR腫瘍でTCR共発現、リンパ球浸潤、タイプIIインターフェロンシグナル伝達、抗原提示関連経路が上方制御されていることが示された (Fig 1D)。

術後非CPR腫瘍における病勢進行・予後に関連する遺伝子: 非CPRの術後サンプル (n=14) において、病勢進行群 (n=5) と非病勢進行群 (n=9) の間で10個のDEGが同定された (Fig 3A)。病勢進行群で発現が上昇していた遺伝子には、インターフェロンシグナル伝達関連 (IFI6、OAS3)、腫瘍マーカー (AKT1、KRT7)、タイプIインターフェロンシグナル伝達関連 (BST2、ISG15、IFI27)、およびCD8B、HMBS、OAS1が含まれた。これらの遺伝子のうち、AKT1、BST2、OAS3、CD8B、IFI27、KRT7は、手術検体中の残存生存腫瘍細胞の割合とは関連しなかった。特に、AKT1の高発現はPFSの有意な短縮 (25% vs 80%、p=0.033) およびOSの有意な短縮 (25% vs 100%、p=0.003) と関連した (Fig 3B)。また、術後非CPR腫瘍において活性化樹状細胞または好中球の割合が高いことは、PFSおよびOSの短縮と関連した (Fig 3C, 3D)。好中球の割合が高い患者では、PFSおよびOSが36ヶ月時点で25%であったのに対し、低い患者ではPFS 80%、OS 100%であった (p=0.033 for PFS, p=0.003 for OS)。

術前化学免疫療法によるTMEの変化: CPR腫瘍患者のペアサンプル (術前と術後、n=7) では、74個の遺伝子で差次発現が認められた (Fig 4A)。術後サンプルでは、増殖マーカー (MAD2L1、CDK1、MKI67など) および腫瘍マーカー (BRCA2、PGF、BRCA1など) 関連遺伝子の発現が低下し、IFNγシグナル伝達経路関連遺伝子 (IFI6、MX1、OAS3、IFIT3など) も下方制御された。一方、リンパ球浸潤 (CCL21、CXCR4、GZMKなど) およびB細胞マーカー (JCHAIN、FCRLA、CD22など) 関連遺伝子は上方制御された (Fig 4A)。GSEA解析では、CPR腫瘍の術後サンプルでタイプIおよびIIインターフェロンシグナル伝達、腫瘍抗原、増殖経路が下方制御され、リンパ球浸潤、抗原提示、TCR共発現経路が上方制御された (Fig 4B)。CIBERSORTx解析では、CPR腫瘍の術後サンプルでCD8+ T細胞 (p=0.018)、メモリー休止CD4+ T細胞 (p=0.018)、休止樹状細胞 (p=0.028) の割合が増加し、濾胞ヘルパーT細胞 (p=0.028) およびM1マクロファージ (p=0.018) の割合が減少した (Fig 4C)。非CPR腫瘍では、術前と術後のペアサンプル間で差次発現遺伝子は8個のみであり、免疫細胞サブタイプの割合に有意な変化は認められなかった (Fig 4D, 4F)。

PD-L1およびTMBのTMEへの影響: 術前PD-L1高発現 (≥25%, n=9) と低発現 (<25%, n=6) 腫瘍間では、腫瘍抗原GAGE1とPD-L1をコードするCD274の2つのDEGのみがPD-L1高発現腫瘍で上方制御された (Fig 5A)。GSEA解析では、PD-L1高発現腫瘍でTCR共発現および薬剤標的経路が上方制御された (Fig 5B)。TMB高発現 (≥5.89 Mut/Mb, n=7) と低発現 (<5.89 Mut/Mb, n=7) 腫瘍間では、TMB高発現腫瘍で腫瘍抗原MAGEA1とMAGEA10が上方制御され (Fig 5C)、リンパ球浸潤経路が上方制御された (Fig 5B)。術前PD-L1高発現は、術後サンプルにおける増殖マーカー (CDK1、FOXM1、MKI67など) およびタイプIインターフェロンシグナル伝達分子 (ISG15、IFI27) の有意な下方制御と関連した (Fig 5E, 5G)。同様に、術前TMB高発現は、術後サンプルにおける増殖マーカー (FOXM1、TOP2Aなど) およびタイプIインターフェロンシグナル伝達経路 (OAS3、ISG15、IFI27) の下方制御と関連した (Fig 5F, 5H)。

考察/結論

本研究は、NADIM試験における切除可能Stage IIIA NSCLC患者の術前化学免疫療法に対するCPR予測および予後予測において、術前生検のTME遺伝子発現解析が高精度で有用であることを示した。特に、IFNG (AUC 1.000)、GZMB (AUC 0.933)、NKG7 (AUC 0.977) の高発現は、治療応答を予測する強力なバイオマーカーとなる可能性が示唆される。これらの遺伝子群は、治療前から活性化されたIFNγシグナル伝達経路を反映しており、「ホットな(炎症性の)」TMEがICIへの感受性を示すことを裏付ける。

先行研究との違い: これまでの研究ではPD-L1やTMBがバイオマーカーとして検討されてきたが、本研究はこれらのマーカーがCPR予測において限定的な役割しか果たさないことを示し、TME遺伝子発現プロファイルがより包括的な情報を提供することを示した点で、これまでと異なる知見を提供する。特に、PD-L1やTMBのベースラインレベルは、治療後の免疫環境に影響を与えるものの、CPRと非CPRの間のベースライン免疫環境を明確に区別するものではなかった。

新規性: 本研究で初めて、術後非CPR腫瘍においてAKT1の高発現がPFS (p=0.033) およびOS (p=0.003) の有意な短縮と関連することを新規に同定した。AKT1は残存腫瘍細胞の割合とは関連せず、化学免疫療法への抵抗性に関与する腫瘍マーカー以外の役割を持つ可能性を示唆する。また、術後サンプルにおける好中球の割合が高いことも、予後不良と関連することが示された。これは、好中球細胞外トラップ (NETs: neutrophil extracellular traps) が腫瘍転移に関与するという報告 (Papayannopoulos et al. NatRevImmunol 2018) と一致する。

臨床応用: これらの知見は、術前生検でのTME遺伝子プロファイルによる患者層別化の可能性を示す。CPR予測バイオマーカーは、治療の恩恵を最大限に受ける患者を特定し、不必要な治療を避けることに貢献しうる。また、AKT1高発現例のような予後不良群を特定することで、術後補助療法やフォローアップの個別化、あるいはAKT阻害薬とICIの併用といった新たな治療戦略の検討に繋がる臨床的意義を持つ。

残された課題: 本研究は探索的であり、症例数 (n=41) の限界がある。特定の変異の解析や、術前IFNγシグネチャーの予後予測価値を評価するためのイベント数が不足している。また、免疫療法単独または化学療法単独のコホートがないため、同定されたバイオマーカーの予後予測的または治療予測的価値を明確に区別することはできない。今後の検討課題として、より大規模なコホートでの検証、特定の変異との関連解析、およびAKT阻害薬とICI併用療法の臨床試験での評価が残されている。

方法

NADIM試験 (NCT03081689) の組織サンプルを用いたトランスレーショナル解析を実施した。対象は、切除可能Stage IIIA NSCLC患者41例で、術前ニボルマブ 360mg + カルボプラチン AUC 6 + パクリタキセル 200mg/m² を3週間ごとに3サイクル投与後、手術を受けた。評価は、術前生検および術後切除サンプルにおけるNanoString nCounter Immunology Panel (395遺伝子) によるTME遺伝子発現解析で行われた。腫瘍は、手術時に検査された腫瘍床およびリンパ節に生存腫瘍細胞が完全に存在しない場合にCPR、それ以外を非CPRと分類した。群間の差次発現遺伝子 (DEG: differentially expressed gene) および経路濃縮解析は、DESeq2 (Love et al. GenomeBiol 2014) およびGSEA (gene set enrichment analysis) (Subramanian et al. ProcNatlAcadSciUSA 2005) を用いて評価した。CIBERSORTxを用いて免疫細胞サブタイプの割合を推定した。主要解析はCPR予測に対するAUC (ROC解析) および生存解析 (PFS・OS) であった。統計解析にはKaplan-Meier法およびLog-rank検定を用いた。データカットオフ時点での全コホートの追跡期間中央値は38.0ヶ月 (95% CI 36.7-40.7) であり、36ヶ月時点での成熟度は94%であった。2名の患者 (32番と35番) はCOVID-19による死亡のため、疾患進行に基づく生存解析からは除外されたが、病理学的奏効や治療効果、PD-L1およびTMBの関連を評価する他の解析には含まれた。