• 著者: Garassino MC, Gadgeel S, Novello S, Halmos B, Felip E, et al.
  • Corresponding author: Marina C. Garassino, MD (Knapp Center for Biomedical Discovery, University of Chicago Medicine & Biological Sciences, Chicago, IL, USA)
  • 雑誌: JTO Clinical and Research Reports
  • 発行年: 2023
  • Epub日: 2022-11-08
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 36793385

背景

転移性非小細胞肺がん (NSCLC) の一次治療において、ペムブロリズマブとプラチナ製剤ベース化学療法の併用療法 (ペムブロリズマブ併用化学療法) は、化学療法単独と比較して全生存期間 (OS)、無増悪生存期間 (PFS)、客観的奏効率 (ORR) を有意に改善することが、大規模な第3相試験であるKEYNOTE-189 (非扁平上皮NSCLC) およびKEYNOTE-407 (扁平上皮NSCLC) で示された。これらの知見により、ペムブロリズマブ併用化学療法はPD-L1発現レベルにかかわらず、転移性NSCLCの一次治療の標準治療として確立された。

一方、腫瘍変異負荷 (TMB) は、免疫チェックポイント阻害剤 (ICB) 単剤療法の予測バイオマーカーとして報告されており、例えばペムブロリズマブ単剤療法に関するKEYNOTE-158試験の結果に基づき、FDAは組織TMB (tTMB) を承認している。しかし、化学免疫療法においてもTMBが有効性の予測に機能するかどうかは未解明であった。また、STK11 (LKB1) 変異およびKEAP1変異は、NSCLCにおける抗PD-1療法への抵抗性と関連することが個別の解析で示されており、Rizvi et al. Science 2015Cancer et al. Nature 2014などの先行研究でその重要性が強調されている。これらの変異を有する患者では、化学免疫療法による恩恵が限定的である可能性が指摘されていた。さらに、KRAS変異もNSCLCの重要なドライバー遺伝子変異であり、その予測的役割についても検討が必要であった。これらのバイオマーカーがペムブロリズマブ併用化学療法の臨床アウトカム予測に与える影響については、これまで詳細な報告が不足していた。

目的

KEYNOTE-189 (非扁平上皮NSCLC) およびKEYNOTE-407 (扁平上皮NSCLC) 試験の探索的バイオマーカー解析として、組織TMB (tTMB)、STK11変異、KEAP1変異、およびKRAS変異が、ペムブロリズマブ併用化学療法のOS、PFS、およびORRに対する予測バイオマーカーとして機能するかどうかを評価すること。

結果

tTMBとOS/PFSの関連 (KEYNOTE-189): KEYNOTE-189において、tTMB高値群 (≧175変異/エクソーム) のペムブロリズマブ併用化学療法群では、プラセボ併用化学療法群と比較してmOSが23.5ヶ月 vs 13.5ヶ月 (HR 0.64、95%CI 0.38-1.07) であった。tTMB低値群 (<175変異/エクソーム) では、mOSが20.2ヶ月 vs 9.9ヶ月 (HR 0.64、95%CI 0.42-0.97) であった。両tTMBグループでOSのハザード比 (HR) がほぼ同一 (0.64) であり、tTMBはペムブロリズマブ併用化学療法のOS予測因子ではないことが示された (Fig. 2A)。PFSでは、tTMB高値群でHR 0.32 (95%CI 0.21-0.51)、tTMB低値群でHR 0.51 (95%CI 0.35-0.74) であり、わずかな差はあったものの、有意な交互作用は認められなかった (Fig. 2B)。ORRはtTMB高値群で50.0% vs 11.8%、tTMB低値群で40.2% vs 19.2%であった。

tTMBとOS/PFSの関連 (KEYNOTE-407): KEYNOTE-407においても、tTMB高値群 (≧175変異/エクソーム) のペムブロリズマブ併用化学療法群では、プラセボ併用化学療法群と比較してOSのHRが0.74 (95%CI 0.50-1.08) であった。tTMB低値群 (<175変異/エクソーム) では、OSのHRが0.86 (95%CI 0.57-1.28) であり、同様に有意な交互作用は認められなかった (Fig. 2C)。PFSでは、tTMB高値群でHR 0.57 (95%CI 0.41-0.81)、tTMB低値群でHR 0.68 (95%CI 0.48-0.96) であった (Fig. 2D)。ORRはtTMB高値群で58.9% vs 44.9%、tTMB低値群で64.3% vs 38.8%であった。

STK11変異と臨床アウトカムの関連 (KEYNOTE-189): KEYNOTE-189の解析対象患者289例中、STK11変異は54例 (18.7%) に認められた。STK11変異ありの患者群では、ペムブロリズマブ併用化学療法群のOS HRが0.75 (95%CI 0.37-1.50) であったのに対し、STK11野生型群ではOS HRが0.59 (95%CI 0.41-0.85) であった (Fig. 3A)。STK11変異群でOSの利益が弱い傾向が示されたが、95%CIが重複しており、統計的に有意な交互作用は認められなかった。PFSのHRはSTK11変異群で0.81 (95%CI 0.44-1.47)、STK11野生型群で0.38 (95%CI 0.27-0.52) であった (Fig. 3B)。ORRはSTK11変異群で30.6% vs 16.7%、STK11野生型群で48.8% vs 16.4%であった。

KEAP1変異と臨床アウトカムの関連 (KEYNOTE-189およびKEYNOTE-407): KEYNOTE-189では、KEAP1変異は68例 (23.5%) に認められた。KEAP1変異ありの患者群では、ペムブロリズマブ併用化学療法群のOS HRが0.81 (95%CI 0.44-1.49) であったのに対し、KEAP1野生型群ではOS HRが0.57 (95%CI 0.39-0.84) であった (Fig. 4A)。STK11変異と同様に、KEAP1変異群でOSの利益が弱い傾向が示されたが、有意な交互作用は認められなかった。PFSのHRはKEAP1変異群で0.65 (95%CI 0.38-1.12)、KEAP1野生型群で0.38 (95%CI 0.28-0.53) であった (Fig. 4C)。KEYNOTE-407では、KEAP1変異ありの患者群でOS HRが1.08 (95%CI 0.48-2.41) であったのに対し、KEAP1野生型群ではOS HRが0.75 (95%CI 0.55-1.02) であった (Fig. 4B)。PFSのHRはKEAP1変異群で0.40 (95%CI 0.19-0.86)、KEAP1野生型群で0.63 (95%CI 0.48-0.83) であった (Fig. 4D)。

KRAS変異と臨床アウトカムの関連 (KEYNOTE-189): KEYNOTE-189では、KRAS変異は89例 (32.2%) に認められ、そのうち37例 (12.8%) がKRAS G12C変異であった。KRAS変異ありの患者群では、ペムブロリズマブ併用化学療法群のOS HRが0.79 (95%CI 0.45-1.38) であったのに対し、KRAS野生型群ではOS HRが0.55 (95%CI 0.37-0.81) であった (Fig. 5A)。KRAS変異はOS予測に有意な差をもたらさなかった。PFSのHRはKRAS変異群で0.47 (95%CI 0.29-0.77)、KRAS野生型群で0.40 (95%CI 0.29-0.57) であった (Fig. 5B)。KRAS G12C変異サブグループ (n=26) では、OS HRが1.14 (95%CI 0.45-2.92) であったが、サンプルサイズが小さく、確定的な結論は得られなかった。

考察/結論

本探索的解析は、転移性NSCLCの一次治療において、tTMB、STK11変異、KEAP1変異、KRAS変異がペムブロリズマブ併用化学療法のOS、PFS、ORRの予測バイオマーカーとして機能しないことを示した。STK11変異およびKEAP1変異を有する患者群でOSのHRがそれぞれ0.75および0.81と、野生型群 (0.59および0.57) と比較して利益が弱い傾向が認められたものの、95%CIが重複しており、探索的解析の限界内では統計的に有意な交互作用とはならなかった。

先行研究との違い: この結果は、ペムブロリズマブ単剤療法 (KEYNOTE-158) ではSTK11変異やtTMB高値が異なる予測能を示したことと対照的である。Yarchoan et al. NEnglJMed 2017Samstein et al. NatGenet 2019などの研究ではTMBがICB単剤の予測因子として報告されているが、本研究では化学療法との組み合わせがSTK11/KEAP1変異による免疫抵抗性を部分的に克服する可能性を示唆する。また、Hellmann et al. NEnglJMed 2018で示された高TMBにおけるニボルマブ+イピリムマブの有効性とは異なり、ペムブロリズマブ併用化学療法ではtTMBの予測性が認められなかった。

新規性: 本研究で初めて、KEYNOTE-189およびKEYNOTE-407のデータを用いて、tTMB、STK11、KEAP1、KRAS変異状態がペムブロリズマブ併用化学療法の予測バイオマーカーとして機能しないことを大規模なコホートで明確に示したことは新規の知見である。特に、STK11およびKEAP1変異が免疫チェックポイント阻害剤単剤療法に対する抵抗性に関連するとされる中で、化学療法との併用がこれらの変異による影響を軽減する可能性を示唆した点はこれまで報告されていない

臨床応用: 本解析結果は、STK11変異やKEAP1変異を有する場合でも、ペムブロリズマブ併用化学療法が転移性NSCLCの一次治療として標準的に推奨されるという結論を支持するものである。これらの変異だけをもってICBを回避する根拠にはならないことを明確にし、臨床現場での治療選択に重要な含意を持つ。tTMBの化学免疫療法における非予測性は、FDAのtTMB承認 (ICB単剤適応) が化学免疫療法には直接外挿できないことを示しており、臨床的有用性の判断において注意が必要である。Gandhi et al. NEnglJMed 2018Paz-Ares et al. NEnglJMed 2018で示されたペムブロリズマブ併用化学療法の有効性は、これらのバイオマーカー状態にかかわらず維持されることが確認された。

残された課題: 本解析は探索的であり、一部のサブグループでは患者数が少ないというlimitationがある。特に、STK11変異やKEAP1変異を有する患者群におけるOSおよびPFSのHRの95%CIが広範であることは、推定の精度が低いことを反映している。今後の検討課題として、より大規模なコホートや前向き試験による検証が必要である。また、WESはTMB測定のゴールドスタンダードとされているが、時間とコストがかかるため、より簡便で費用対効果の高いTMB測定方法の開発と検証が今後の研究方向性として挙げられる。さらに、PD-L1発現とTMBの関連性についても、本研究では強い相関は認められなかったが、他のバイオマーカーとの複合的な評価が重要となる可能性がある。

方法

本研究は、KEYNOTE-189 (NCT02578680) およびKEYNOTE-407 (NCT02775435) の第3相臨床試験の後ろ向き探索的バイオマーカー解析である。KEYNOTE-189 (非扁平上皮NSCLCの一次治療) はn=616、KEYNOTE-407 (扁平上皮NSCLCの一次治療) はn=559の患者を対象とした。tTMB評価可能症例はKEYNOTE-189でn=293、KEYNOTE-407でn=312であった。単一遺伝子変異 (STK11、KEAP1、KRAS) の評価可能症例は、KEYNOTE-189でn=289、KEYNOTE-407でn=285であった。tTMBのカットオフ値は、事前設定された175変異/エクソーム (whole exome sequencing; WES) を用いた。このカットオフ値は、ペムブロリズマブ臨床プログラムにおける複数の腫瘍タイプからのデータセットを用いて、18遺伝子からなる遺伝子発現プロファイルの分布において最も統計的に有意な差をもたらす値として導出された。これは、FoundationOne CDxアッセイで用いられる10変異/メガベースに近似する。STK11、KEAP1、KRASの変異状態はWESにより評価された。統計解析では、tTMBを連続的なlog10変換変数として、各試験で治療効果との関連を評価した。ペムブロリズマブ併用化学療法群については、tTMB高値が良好なアウトカムと正に関連するという仮説に基づき、片側p値が計算された。化学療法単独群については、関連の方向性に関する事前仮説がなかったため、両側p値が計算された。主要評価項目はOSとPFSであり、副次評価項目はORRであった。単一遺伝子変異については、OS、PFS、ORRとの関連を記述的に解析した。Cox proportional hazards回帰分析およびKaplan-Meier曲線を用いて生存分析を実施した。