- 著者: Zhong-Yi Dong, Jia-Tao Zhang, Si-Yang Liu, Jian Su, Chao Zhang, Zhi Xie, Qing Zhou, Hai-Yan Tu, Chong-Rui Xu, Li-Xu Yan, Yu-Fa Li, Wen-Zhao Zhong, Yi-Long Wu
- Corresponding author: Yi-Long Wu; Wen-Zhao Zhong (Guangdong Lung Cancer Institute, Guangdong General Hospital, Guangzhou, China)
- 雑誌: Oncoimmunology
- 発行年: 2017
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 29147605
背景
非小細胞肺がん (NSCLC) の治療において、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) とPD-1/PD-L1免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) は主要な治療パラダイムとして確立されている。EGFR変異陽性NSCLC患者はEGFR-TKIから大きな恩恵を受けるものの、最終的には薬剤耐性を獲得する (Kobayashi et al. NEnglJMed 2005、Mok et al. NEnglJMed 2009)。しかし、EGFR変異陽性患者がICI治療から同様の恩恵を受けるかについては、これまで矛盾するデータが存在し、その関係性は未解明であった。前臨床研究では、EGFRやKRAS、ALKなどのドライバー遺伝子変異がPD-L1発現を増加させ、ICIの効果を高める可能性が示唆されていた (Akbay et al. 2013)。例えば、EGFR変異マウスモデルにおけるPD-1阻害薬治療は生存率を改善すると報告されていた。しかし、これらの前臨床データとは対照的に、複数の臨床試験の後ろ向き解析では、EGFR変異陽性NSCLC患者がPD-1/PD-L1阻害薬に対して低い奏効率を示す傾向が示されていた (Borghaei et al. NEnglJMed 2015、Herbst et al. Lancet 2016、Rittmeyer et al. Lancet 2017、Fehrenbacher et al. Lancet 2016など)。
特に、Gainorら (2016) の後ろ向き解析では、EGFR変異とALK再構成がPD-1経路阻害薬に対する低い奏効率と関連することが示されており、EGFR変異陽性腫瘍が「uninflamed (非炎症性)」な腫瘍微小環境 (TME) を示すことが指摘されていた。このuninflamed TMEは、CD8陽性腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) の欠如に起因すると考えられる。さらに、EGFR変異は非喫煙者患者に多く発生することから、腫瘍変異負荷 (TMB) が低い可能性も示唆されていた。これらの矛盾する結果は、EGFR変異と免疫微小環境および免疫療法応答との間の複雑な関係性を浮き彫りにし、その根本的なメカニズムは未解明であった。特に、PD-L1発現、CD8陽性TIL浸潤、TMBという3つの主要な免疫チェックポイント予測バイオマーカーを同一患者群で統合的に解析し、EGFR変異と免疫抵抗性を結びつける包括的な研究は不足していた。本研究は、EGFR変異陽性NSCLC患者におけるICIへの反応不良の根底にある免疫学的メカニズムを深く理解するための知識ギャップを埋めることを目的とした。
目的
本研究の目的は、EGFR変異陽性NSCLCがPD-L1発現、CD8陽性腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) 浸潤、および腫瘍変異負荷 (TMB) といった免疫チェックポイント阻害薬に対する予測バイオマーカーに及ぼす影響を、複数のコホートデータを用いて統合的に解析することである。具体的には、The Cancer Genome Atlas (TCGA) などのリポジトリデータベースおよび広東肺がんセンター (GLCI) の切除早期NSCLC検体に基づき、PD-L1/CD8発現と変異プロファイルを統合的に分析する。さらに、EGFR変異とPD-L1発現の相関、およびEGFR変異ステータスと抗PD-1/PD-L1療法への応答との関連性を明らかにするための2つのプール解析を実施する。これらの解析を通じて、EGFR変異が免疫チェックポイント阻害薬への不応性を示す分子的根拠と、その背景にある免疫微小環境の特性を包括的に解明することを目指す。最終的に、EGFR変異陽性NSCLCにおける免疫回避のメカニズムを深く理解し、より効果的な治療戦略の開発に貢献する知見を提供することを目的とする。
結果
EGFR変異とPD-L1低発現の逆相関 (メタ解析 OR 1.79): 15件の公表研究から得られたn=3,283例の患者データを対象としたメタ解析(ランダム効果モデル)の結果、EGFR野生型腫瘍はEGFR変異腫瘍と比較してPD-L1陽性率が有意に高かった (OR: 1.79, 95% CI: 1.10-2.93, p=0.02)。この解析ではI²=0%であり、研究間の異質性が低いことが示され、EGFR変異とPD-L1低発現の逆相関の頑健性が裏付けられた (Figure 1A)。さらに、TCGAコホートのRPPAデータ(n=237例)でも、EGFR変異は低PD-L1タンパク質発現と有意に相関することが確認された (p=0.014) (Figure 1B)。GLCIコホートのmRNA解析でも同様に、EGFR変異患者はPD-L1 mRNA発現が有意に低いことが示された (p=0.044) (Figure 1C)。GLCIの切除NSCLC検体n=255例を用いたIHC解析では、EGFR野生型群でPD-L1強陽性 (TC ≥ 50%またはIC ≥ 10%) の割合がEGFR変異群よりも有意に高いことが示され (p=0.014)、EGFR変異とPD-L1発現の逆相関が複数の独立したデータセットと解析手法で一貫して確認された (Figure 1D)。
EGFR変異とCD8 TIL低浸潤およびuninflamed免疫表現型: GLCIコホートのRNA-seqデータ解析により、EGFR変異群ではCD8A mRNA発現がEGFR野生型群よりも有意に低いことが明らかになった (p=0.031) (Figure 2A)。また、GLCIの切除NSCLC検体n=255例におけるCD8陽性TILのIHC解析では、EGFR変異腫瘍でT細胞浸潤が有意に少ないことが確認された (p=0.003) (Figure 2B)。免疫微小環境の表現型解析では、GLCIコホートにおいてEGFR変異群でPD-L1陰性/CD8A陰性 (dual-negative) の割合が著しく高く、PD-L1陽性/CD8A陽性 (dual-positive) の割合が低いことが示された (p < 0.001) (Figure 2C)。IHCデータを用いた解析でも、EGFR変異群でPD-L1陽性/CD8陽性TILの割合が有意に減少し、dual-negativeの割合が増加することが観察された (p=0.005) (Figure 2D, 2E)。これらの結果は、EGFR変異腫瘍が免疫学的寛容を伴う「uninflamed」な表現型を示すことを強く示唆している。
EGFR変異と低TMBおよび弱免疫原性: 腫瘍変異負荷 (TMB) とPD-1阻害薬への応答性の関連が近年注目されていることから、EGFR変異状態とTMBの関係を調査した。ディスカバリーセットとしてTCGAコホート(肺腺がんn=542例)を解析した結果、EGFR変異群ではTMBが有意に低いことが示された(中央値:変異群56 vs 野生型181, p < 0.001) (Figure 3A)。Broadデータベース(n=183例)を用いた検証でも、EGFR変異患者はTMBが低いことが確認された(中央値:変異群59 vs 野生型209, p=0.003) (Figure 3B)。さらに、GLCIコホートのn=85例の肺腺がん患者における全ゲノムシーケンスデータを用いたバリデーションセット解析でも、EGFR変異群はTMBが低い傾向を示した(中央値:変異群162 vs 野生型197, p=0.029) (Figure 3C)。EGFR変異は純粋なイベントではないため、EGFR変異を感受性変異(exon 19Del, L858R, L861Q, G719X, S768I)と耐性/不明変異に分類してTMBを比較した。TCGAコホートの解析では、EGFR感受性変異群が耐性/不明変異群と比較してTMBが有意に低いことが判明した(中央値:感受性変異群60 vs 耐性/不明変異群283, p < 0.001) (Figure 3D)。Broadコホートでも同様に、感受性EGFR変異腫瘍は耐性/不明変異腫瘍よりもTMBが有意に低いことが確認された(感受性変異群59 vs 耐性/不明変異群159, p=0.042) (Figure 3E)。これらの結果は、特に感受性EGFR変異がNSCLCにおける低免疫原性の主要な原因であることを示唆している。
4RCTプール解析:ICI群でOS改善なし・PFS悪化 (HR 1.44, p=0.02): EGFR変異が免疫学的寛容と低免疫原性に関連していることから、EGFR変異がPD-1阻害薬治療の負の予測因子である可能性を検証するため、4件のRCT(CheckMate-057、KEYNOTE-010、OAK、POPLAR)から得られたn=2,752例の患者データを対象にプール解析を実施した。EGFR変異群では、PD-1/PD-L1阻害薬とドセタキセルを比較したOSにおいて有意な改善は認められず (HR 1.09, 95% CI 0.84-1.41, p=0.51)。さらに、PFSではPD-1/PD-L1阻害薬群がドセタキセル群よりも有意に不良な結果を示した (HR 1.44, 95% CI 1.05-1.98, p=0.02) (Figure 4A, 4B)。これは、EGFR変異患者においてICI単剤療法が化学療法と比較してPFSを悪化させる可能性を示唆する。対照的に、EGFR野生型/不明群では、PD-1/PD-L1阻害薬がドセタキセルと比較してOS (HR 0.67, 95% CI 0.61-0.76, p < 0.001) およびPFS (HR 0.86, 95% CI 0.77-0.95, p=0.004) の両方で有意な優位性を示した。このプール解析は、EGFR変異患者に対する単剤ICI治療を避けるべきであるという大規模なエビデンスを提供するものであった。
個別症例の治療応答: 本研究では、PD-1阻害薬で治療された3つの代表的な症例を提示した。患者AはEGFR L858R変異陽性、PD-L1陰性、CD8陽性TIL低密度の重喫煙男性肺腺がん患者であり、ペンブロリズマブ2サイクル後に劇的な病勢進行を認めた。患者BはEGFR exon 19欠失陽性、PD-L1強陽性 (PD-L1 50%)、CD8陽性TIL強陽性 (CD8 50%) の非喫煙女性肺扁平上皮がん患者であったが、ペンブロリズマブ3サイクル後に臨床的利益はほとんどなく、病勢進行 (+120%) を示した。患者CはEGFR野生型、PD-L1中等度陽性 (PD-L1 10%)、CD8陽性TIL低密度の軽喫煙男性肺扁平上皮がん患者であり、ニボルマブ6サイクル後に部分奏効 (-90%) を示した。特に患者Bのケースは、PD-L1およびCD8陽性TILが高発現しているにもかかわらず、EGFR変異が存在するために免疫療法に反応しなかった可能性を示唆しており、EGFR変異による低TMBが反応欠如の主要な原因である可能性が考えられる。
考察/結論
本研究は、EGFR変異陽性NSCLC患者が免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) に応答しないメカニズムを、PD-L1低発現、CD8陽性T細胞浸潤の欠如、および低腫瘍変異負荷 (TMB) という「三重のuninflamed免疫環境」という統合的観点から初めて包括的に解明した研究である。
先行研究との違い: これまでの研究では、EGFR変異がPD-L1発現を増加させ、ICIの効果を高める可能性が示唆されていたが (Akbay et al. 2013)、本研究のメタ解析ではEGFR変異とPD-L1低発現の逆相関が示され、先行研究とは対照的な結果が得られた。この矛盾は、研究集団の異質性や、PD-L1発現評価に用いられる抗体やカットオフ値の違い、あるいは共変異遺伝子(KRAS/TP53/STK11など)の影響による可能性がある。本研究は、PD-L1発現だけでなく、CD8陽性T細胞浸潤とTMBという複数の免疫関連バイオマーカーを統合的に解析することで、EGFR変異と免疫回避のより深い関係性を明らかにした点で新規性がある。
新規性: 本研究で初めて、EGFR変異、特に感受性EGFR変異(exon 19Del, L858Rなど)がTMBの著明な低下と関連することを示した。これは、EGFR変異が非喫煙者に多く発生するという疫学的背景(喫煙関連変異が少ない→低TMB)と一致する。低TMBは、T細胞が認識可能な腫瘍新抗原ペプチドの絶対量を減少させ、腫瘍の免疫原性を構造的に弱体化させる。この「三重低免疫原性」プロファイルは、EGFR変異NSCLCがPD-1/PD-L1阻害薬に応答しにくい根本的な生物学的根拠となる。
臨床応用: 4つのRCTのプール解析において、EGFR変異患者ではICI単剤がOS改善効果を示さず (HR 1.09, 95% CI 0.84-1.41, p=0.51)、PFSはむしろ悪化する (HR 1.44, 95% CI 1.05-1.98, p=0.02) という結果は、EGFR変異患者への単剤ICI治療を積極的に避けるべきであるという重要な臨床的含意を持つ。この知見は、その後のEGFR変異患者におけるアテゾリズマブ単剤のリスク(IMpower150サブグループ解析など)に関する議論の基盤となった。本研究は、EGFR変異NSCLC患者においてはPD-1/PD-L1阻害薬よりもEGFR-TKIを優先すべき生物学的根拠を強化し、TKI耐性後の免疫療法移行においても、奏効率が低い層(PD-L1/TMB双方低値群)を事前に同定することの重要性を示唆する。
残された課題: 本研究にはいくつかのlimitationが存在する。第一に、EGFR変異患者の一部がPD-1/PD-L1阻害薬に部分奏効を示し、より長いPFSを達成する可能性があり、これらの患者群の特定とその背景にあるメカニズムは今後の検討課題である。第二に、PD-L1発現、CD8陽性T細胞浸潤、TMBといった連続変数に対する明確なカットオフ値を設定し、EGFR変異患者の中でICIに反応する可能性のある患者を特定することはできなかった。これらのカットオフ値は、将来の研究で定義され、臨床的に検証される必要がある。今後の研究では、EGFR変異とICIの併用療法、特に放射線療法との組み合わせ(放射線療法が腫瘍を「cold」から「hot」に変換する可能性)がEGFR変異患者の免疫応答を改善するかどうかを検討することも重要である。
方法
本研究では、EGFR変異と免疫チェックポイント阻害薬への応答性との関連を多角的に評価するため、複数のデータセットと解析手法を組み合わせた統合解析を実施した。本研究は、GLCIの施設内審査委員会によって承認され、全ての患者から書面によるインフォームドコンセントを得た。
プール解析① (PD-L1発現とEGFR変異の関連) : 15件の公表研究から合計n=3,283例のNSCLC患者を対象に、EGFR変異とPD-L1発現の関連性を評価するメタ解析を実施した。解析にはランダム効果モデルを用いた。研究間の異質性はI²統計量とχ²検定を用いて評価し、I²値が50%超またはχ² p値が0.1未満の場合に有意な異質性があると判断した。
TCGA・GLCIコホート解析:
- TCGAデータ解析: The Cancer Genome Atlas (TCGA) データベースから、肺腺がんn=542例のRPPA (Reverse Phase Protein Array) データおよびRNA-seqデータを取得し、PD-L1タンパク質およびmRNA発現とEGFR変異状態との関連を解析した。
- GLCIコホート解析: 広東肺がんセンター (GLCI) の内部コホートから、RNA-seqデータを用いてPD-L1 mRNA発現とEGFR変異状態を比較した。また、GLCIで切除されたNSCLC患者n=255例の組織検体を用いて、PD-L1およびCD8の免疫組織化学 (IHC) 染色を実施し、PD-L1タンパク質発現とCD8陽性T細胞浸潤の程度をEGFR変異状態別に比較した。PD-L1発現は、腫瘍細胞 (TC) または免疫細胞 (IC) の染色割合に基づき、強陽性 (TC ≥ 50%またはIC ≥ 10%)、弱陽性 (TC 5-49%またはIC 5-9%)、陰性 (<5% for TC or IC) の3段階で評価した。CD8陽性リンパ球の浸潤は、間質内の全有核細胞に対する割合として評価し、低密度 (<25%)、中密度 (25-49%)、高密度 (≥50%) に分類した。
腫瘍変異負荷 (TMB) 解析:
- ディスカバリーセット: TCGA (肺腺がんn=542例) およびBroadデータベース (肺腺がんn=183例) の体細胞変異データを用いて、EGFR変異状態と非同義変異数 (TMB) の関連を解析した。TMBは、各腫瘍における少なくとも1つの非同義変異を持つ遺伝子の数として算出した。
- バリデーションセット: GLCIの肺腺がん患者n=85例から得られた全ゲノムシーケンス (WGS) データを用いて、TMBを測定し、EGFR変異群と野生型群で比較した。また、変異スペクトル(6種類の単一ヌクレオチド置換の割合)も解析した。
プール解析② (ICIのランダム化比較試験 [RCT] 解析) : 4件のランダム化比較試験 (CheckMate-057、KEYNOTE-010、OAK、POPLAR) から合計n=2,752例の患者データを対象に、EGFR変異の有無別にPD-1/PD-L1阻害薬とドセタキセルのOS (全生存期間) およびPFS (無増悪生存期間) を比較するプール解析を実施した。この解析は、セカンドライン治療におけるPD-1/L1阻害薬とドセタキセルの有効性を比較する目的で設計された。解析には固定効果モデルを用いた。ハザード比 (HR) と95%信頼区間 (CI) を算出し、有意水準はp < 0.05とした。
統計解析: 統計解析にはReview Manager Version 5.2、GraphPad Prism (version 7.01)、およびSPSS version 22.0を用いた。プール解析における統計的異質性はχ²検定とI²統計量で評価した。散布図、箱ひげ図は中央値と95% CIを示した。EGFR変異群と野生型群間の免疫関連パラメータの比較には、Mann-Whitney U検定およびχ²検定を用いた。全てのp値は両側検定であり、p ≤ 0.05を有意と判断した。