- 著者: Mazieres J, Rittmeyer A, Gadgeel S, Hida T, Gandara DR, Cortinovis DL, Barlesi F, Yu W, Matheny C, Ballinger M, Park K
- Corresponding author: Julien Mazieres, MD, PhD (Institut Universitaire du Cancer de Toulouse, Toulouse University Hospital, Toulouse, France)
- 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
- 発行年: 2020
- Epub日: 2020-09-30
- Article種別: Original Article
- PMID: 33166718
背景
進行非小細胞肺がん (NSCLC) 患者において、化学療法後の予後は不良であり、ドセタキセル (docetaxel) が標準治療の一つであった。近年、免疫チェックポイント阻害薬、特に抗PD-L1抗体であるアテゾリズマブ (atezolizumab) が、既治療進行NSCLC患者に対する新たな治療選択肢として登場した。アテゾリズマブの有効性と安全性は、第2相POPLAR試験 Fehrenbacher et al. Lancet 2016 および第3相OAK試験 Rittmeyer et al. Lancet 2017 で評価され、ドセタキセルと比較して全生存期間 (OS) の有意な改善が示された。OAK試験の初回解析では、アテゾリズマブ群のOS中央値は13.8ヶ月に対しドセタキセル群は9.6ヶ月 (ハザード比 [HR] 0.73) であった。POPLAR試験でも同様に、アテゾリズマブ群のOS中央値は12.6ヶ月に対しドセタキセル群は9.7ヶ月 (HR 0.73) であった。これらの結果に基づき、アテゾリズマブは2次治療以降のNSCLC治療薬として承認された Fehrenbacher et al. JThoracOncol 2018。
しかし、免疫療法における長期生存の全貌を把握するには、より長期の追跡データが不可欠である。例えば、ニボルマブ (nivolumab) のCheckMate 017/057試験では、5年OS率が13.4% (ドセタキセル群2.6%) と報告されており Borghaei et al. NEnglJMed 2015、アテゾリズマブにおいても同様の長期データは不足していた。特に、PD-L1発現レベルや組織型による長期生存ベネフィットの差異、および長期生存者の臨床的特徴については、さらなる詳細な解析が求められており、この点が未解明な課題として残されていた。本研究は、POPLARおよびOAK試験の最終解析結果を報告し、アテゾリズマブの長期的な有効性、安全性、および長期生存者のプロファイルを明らかにすることを目的とする。
目的
本研究の目的は、既治療進行NSCLC患者を対象としたPOPLAR (第2相、n=287) およびOAK (第3相、n=1225) の両試験における最終フォローアップ解析の結果を報告することである。具体的には、中央値約48ヶ月の追跡期間におけるアテゾリズマブとドセタキセルの4年全生存期間 (OS) 率、長期生存者の臨床的特徴、および長期安全性を評価し、PD-L1発現レベルや組織型による効果の差異を明らかにすることを目指した。
結果
POPLAR試験における最終OS結果: POPLAR試験 (n=287) の最終解析において、アテゾリズマブ群のOS中央値は12.6ヶ月、ドセタキセル群は9.7ヶ月であり、アテゾリズマブ群でOSの延長が認められた (HR 0.76, 95% CI 0.58-1.00, p=0.0455)。3年OS率はアテゾリズマブ群で18.7% (95% CI 12.1-25.3%)、ドセタキセル群で10.0% (95% CI 4.7-15.2%) であった。さらに、4年OS率はアテゾリズマブ群で14.8% (95% CI 8.7-20.8%)、ドセタキセル群で8.1% (95% CI 3.2-13.0%) となり、アテゾリズマブ群で約2倍の長期生存率が示された (Figure 1A)。PD-L1高発現群 (TC3/IC3) では、アテゾリズマブ群の4年OS率は33.3%に対し、ドセタキセル群は14.9%であった。PD-L1陰性群 (TC0/IC0) においても、アテゾリズマブ群の4年OS率は15.2%に対し、ドセタキセル群は6.8%であり、PD-L1発現レベルにかかわらずアテゾリズマブの長期生存ベネフィットが示唆された (Table 1)。
OAK試験における最終OS結果: OAK試験 (n=1225) の最終解析では、アテゾリズマブ群のOS中央値は13.3ヶ月、ドセタキセル群は9.8ヶ月であり、アテゾリズマブ群でOSの有意な延長が確認された (HR 0.78, 95% CI 0.68-0.89, p=0.0003)。3年OS率はアテゾリズマブ群で21.0% (95% CI 17.7-24.4%)、ドセタキセル群で12.4% (95% CI 9.6-15.2%) であった。4年OS率はアテゾリズマブ群で15.5% (95% CI 12.4-18.7%)、ドセタキセル群で8.7% (95% CI 6.2-11.3%) となり、POPLAR試験と同様にアテゾリズマブ群で優れた長期生存が認められた (Figure 1B)。PD-L1高発現群 (TC3/IC3) では、アテゾリズマブ群の4年OS率は27.8%に対し、ドセタキセル群は9.8%であった。PD-L1陰性群 (TC0/IC0) においても、アテゾリズマブ群の4年OS率は13.9%に対し、ドセタキセル群は5.1%であり、PD-L1陰性患者でもアテゾリズマブの長期生存ベネフィットが示された (Table 1)。組織型別では、非扁平上皮癌患者においてアテゾリズマブ群の4年OS率は17.9%に対しドセタキセル群は10.1%、扁平上皮癌患者ではアテゾリズマブ群の4年OS率は8.5%に対しドセタキセル群は4.8%であった (Table 1)。
長期生存者のプロファイル: アテゾリズマブ群で4年以上生存した患者 (POPLAR n=15、OAK n=43) の特徴が解析された。これらの長期生存者の治療期間中央値は、POPLARで7.1ヶ月、OAKで6.0ヶ月であり、全体集団の治療期間中央値 (POPLAR 3.7ヶ月、OAK 3.4ヶ月) よりも有意に長かった。長期生存者の約半数 (POPLAR 47%、OAK 56%) が客観的奏効 (CR/PR) を達成していた (Table 2)。また、POPLARの4年生存者の53%、OAKの42%がRECIST進行後もアテゾリズマブ治療を継続しており、病勢進行後も臨床的ベネフィットを享受していた可能性が示唆された (Figure 3)。ドセタキセル群の4年生存者では、POPLARで50%、OAKで65%が後続の免疫療法を受けており、後続治療が長期生存に寄与した可能性も考えられる。4年生存者の多くはECOG PS 0であり、非扁平上皮癌の割合が高かった。KRAS変異はPOPLARの4年生存者のうち2/5例、OAKでは3/17例で認められた。
安全性プロファイル: 全体集団におけるGrade 3/4の治療関連有害事象 (TRAE) の発生率は、アテゾリズマブ群 (POPLAR 15%、OAK 15%) がドセタキセル群 (POPLAR 40%、OAK 42%) と比較して有意に低かった (Table 3)。Grade 5のTRAEは、POPLARのアテゾリズマブ群で1% (1例)、ドセタキセル群で2% (3例) であったが、OAKではアテゾリズマブ群で0%、ドセタキセル群で0.2% (1例) であった。4年生存者における新規のGrade 3以上の免疫関連有害事象の発生は稀であり、POPLARで1例 (Grade 3心筋炎) のみが報告され、OAKでは報告がなかった。これは、アテゾリズマブの長期投与における安全性が既報のプロファイルと一貫していることを示している。治療期間が1年以上であった患者において、ほとんどの有害事象は最初の1年以内に発生しており (POPLAR 97.7%、OAK 98.1%)、長期投与における新たな安全性シグナルは認められなかった。
考察/結論
POPLARおよびOAK試験の最終解析は、白金製剤既治療の進行NSCLC患者において、アテゾリズマブがドセタキセルと比較して一貫した長期生存ベネフィットを提供することを確認した。アテゾリズマブ群の4年OS率は約15%であり、これはニボルマブのCheckMate 017/057試験で報告された5年OS率13.4% Borghaei et al. NEnglJMed 2015 や、ペムブロリズマブのKEYNOTE-001試験で報告された5年OS率15.6% Garon et al. JClinOncol 2019 と整合する結果であり、抗PD-L1療法においても一定割合の長期生存者が存在することが示された。
先行研究との違い: これまでの免疫チェックポイント阻害薬の長期追跡研究では、PD-L1高発現患者でのベネフィットが強調されることが多かった。しかし、本研究ではPD-L1陰性 (TC0/IC0) 患者においても、アテゾリズマブ群の4年OS率がドセタキセル群の2倍以上 (OAK: 13.9% vs 5.1%) であり、PD-L1発現レベルにかかわらず長期利益が存在することが示された点で、これまでの報告と異なる重要な知見である。
新規性: 本研究で初めて、アテゾリズマブの治療期間中央値が3〜4ヶ月という比較的短期間であるにもかかわらず、4年という長期生存が達成されることが示された。これは、免疫チェックポイント阻害薬の治療中断後も免疫記憶が維持され、持続的な抗腫瘍効果が発揮されるという新規のメカニズムを強く示唆するものである。また、RECIST進行後も治療を継続した患者が長期生存者の約半数を占めていたことも、免疫療法のユニークな特徴であり、従来の化学療法とは異なる治療戦略の重要性を裏付ける。
臨床応用: これらの知見は、既治療進行NSCLC患者に対するアテゾリズマブの臨床的有用性をさらに強化するものである。特に、PD-L1陰性患者においても長期生存の可能性が示されたことは、より広範な患者集団に対する免疫療法の適用を支持する。また、治療期間が比較的短くても長期生存が期待できるというデータは、患者のQOL維持や医療経済的側面からも臨床応用において重要な意義を持つ。
残された課題: 今後の検討課題として、長期生存者の免疫学的バイオマーカーの同定が挙げられる。どのような患者がアテゾリズマブによる長期ベネフィットを享受できるのかを事前に予測するマーカーは、個別化医療の推進に不可欠である。また、RECIST進行後の治療継続が長期生存に寄与するメカニズムのさらなる解明や、ドセタキセル群における後続免疫療法の効果を考慮した上でのアテゾリズマブ単独の真の長期効果の評価も今後の研究方向性として残されている。
方法
POPLAR (NCT01903993) およびOAK (NCT02008227) は、白金製剤を含む1〜2レジメンの化学療法歴を有する進行期または転移性NSCLC患者 (ECOG PS 0〜1) を対象とした、無作為化非盲検試験である。POPLAR試験はヨーロッパ、アジア、北米で、OAK試験はヨーロッパ、アジア、北米、南米、ニュージーランドで実施された。患者はアテゾリズマブ 1200mg (固定用量) またはドセタキセル 75mg/m² を3週間ごとに、病勢進行または許容できない毒性が発現するまで静脈内投与された。アテゾリズマブ群では、治験責任医師が臨床的ベネフィットがあると判断した場合、RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) version 1.1に基づく病勢進行後も治療継続が許可された。
データカットオフは、POPLARが2018年8月31日 (中央値追跡期間48.6ヶ月)、OAKが2019年1月9日 (中央値追跡期間47.7ヶ月) であった。主要評価項目は、ITT (intent-to-treat) 集団およびPD-L1サブグループにおけるOSであった。OSの比較には、POPLARでは層別ログランク検定 (p=0.0455)、OAKでは層別ログランク検定 (p=0.0003) が用いられた。ハザード比 (HR) および95%信頼区間 (CI) は、層別Cox回帰モデルにより推定された。OS中央値はカプラン・マイヤー法により推定され、3年および4年OS率はカプラン・マイヤー法とGreenwoodの公式を用いて算出された。PD-L1発現はVENTANA SP142 (免疫組織化学) アッセイにより中央判定され、腫瘍細胞 (TC) および免疫細胞 (IC) のスコアに基づいて分類された (TC0/IC0: <1%、TC1/2/3またはIC1/2/3: ≥1%、TC3またはIC3: ≥50%TCまたは≥10%IC)。安全性解析は、治験薬を1回以上投与された全患者を対象とし、SAS version 9.2以上を用いて統計解析が実施された。