- 著者: Langer CJ, Gadgeel SM, Borghaei H, Papadimitrakopoulou VA, Patnaik A, Powell SF, Gentzler RD, Martins RG, Stevenson JP, Jalal SI, Panwalkar A, Yang JC, Gubens MC, Sequist LV, Awad MM, Fiore J, Ge Y, Raftopoulos H, Gandhi L
- Corresponding author: Dr Corey J. Langer (Abramson Cancer Center, University of Pennsylvania, Philadelphia, PA, USA)
- 雑誌: Lancet Oncology
- 発行年: 2016
- Epub日: 2016-10-09
- Article種別: Original Article
- PMID: 27745820
背景
進行非扁平上皮非小細胞肺がん (NSCLC) の一次治療において、プラチナ製剤併用化学療法は標準治療として確立されているが、その効果には限界があった。過去の臨床試験では、ベバシズマブの追加が全生存期間 (OS) の改善を示した例 (Sandler et al. NEnglJMed 2006、Reck et al. AnnOncol 2010) はあるものの、他の多くの分子標的薬や細胞傷害性薬剤の追加は、プラチナ製剤併用化学療法単独と比較して無増悪生存期間 (PFS) やOSの優位性を示せていないのが現状であった。このため、進行非扁平上皮NSCLC患者の予後改善には、新たな治療戦略が強く求められていた。
近年、免疫チェックポイント阻害薬、特に抗PD-1抗体は、進行NSCLCの治療において有望な結果を示している。ペムブロリズマブは、KEYNOTE-001試験およびKEYNOTE-010試験 (Herbst et al. Lancet 2016、Garon et al. NEnglJMed 2015) において、PD-L1陽性NSCLC患者に対する二次治療以降での有効性を確立した。特に、PD-L1腫瘍細胞比率 (TPS) が50%以上の患者を対象としたKEYNOTE-024試験では、ペムブロリズマブ単剤が化学療法と比較して、PFSおよびOSにおいて優越性を示した。しかし、PD-L1 TPSが50%未満の患者群では、ペムブロリズマブ単剤の効果は限定的であり、PD-L1発現レベルにかかわらず有効な一次治療戦略の確立が依然として重要な課題として残されていた。
化学療法は、腫瘍細胞の免疫原性細胞死 (ICD) を誘導し、腫瘍抗原の放出を促進することで、T細胞のクロスプレゼンテーションを増強する可能性が前臨床研究で示唆されていた。また、化学療法がPD-L1の発現を誘導したり、制御性T細胞の機能を抑制したりする機序も報告されており、これらの作用がPD-1阻害薬の抗腫瘍効果を相乗的に増強しうると考えられていた。このような前臨床的根拠に基づき、化学療法とPD-1阻害薬の併用療法が模索され、KEYNOTE-021のPhase 1コホートCでは、カルボプラチン、ペメトレキセド、ペムブロリズマブの3剤併用療法が評価された。このコホートでは、n=24例の患者において客観的奏効率 (ORR) が71%、無増悪生存期間 (PFS) 中央値が10.2ヶ月 (95% CI 6.2-15.2) という有望な結果が示されており、化学免疫療法の臨床的有用性が強く示唆されていた。しかし、この知見は小規模なPhase 1試験の結果であり、大規模なランダム化比較試験による検証が不足していた。特に、PD-L1発現レベルに関わらず、化学免疫療法の効果を検証する大規模なデータは未解明な点が多かった。
目的
本研究の目的は、未治療の進行非扁平上皮NSCLC (EGFR遺伝子変異およびALK転座陰性) 患者を対象として、カルボプラチン (AUC=5 mg/mL/min) およびペメトレキセド (500 mg/m²) のプラチナ製剤併用化学療法にペムブロリズマブ (200 mg) を追加する併用療法群と、化学療法単独群の有効性および安全性を比較することであった。主要評価項目は、独立中央画像診断評価委員会による評価に基づく客観的奏効率 (ORR) であり、副次評価項目として、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、奏効期間 (DoR)、および安全性が評価された。本試験は、化学療法と免疫チェックポイント阻害薬の併用療法が、未治療進行非扁平上皮NSCLC患者の治療成績を改善しうるか否かを、ランダム化比較試験として検証することを意図した。特に、PD-L1発現レベルにかかわらず有効性を示すことが期待された。
結果
患者登録と背景: 2014年11月25日から2016年1月25日までにn=219例がスクリーニングされ、n=123例が本試験に無作為に割り付けられた。ペムブロリズマブ併用化学療法群にはn=60例、化学療法単独群にはn=63例が割り付けられた。各群1例が治療未実施であったため、治療集団はそれぞれn=59例とn=62例であった (Figure 1)。追跡期間中央値は10.6ヶ月 (IQR 8.2-13.3) であった。患者背景は両群間で概ねバランスが取れていた (Table 1)。年齢中央値は約62歳、女性がやや多く (ペムブロリズマブ群63%、化学療法群59%)、ほとんどがStage IVの腺癌であった。PD-L1 TPSの分布も両群で類似しており、PD-L1 TPS <1%が約35%、1-49%が約35%、≥50%が約30%であった。化学療法単独群の患者のうちn=20例 (32%) が、プロトコルで許容されたペムブロリズマブ単剤療法へのクロスオーバーを受けた。
客観的奏効率 (ORR) の有意な改善: ペムブロリズマブ併用化学療法群のORRは55% (n=33/60例、95% CI 42-68) であったのに対し、化学療法単独群では29% (n=18/63例、95% CI 18-41) であった (Table 2)。推定治療差は26% (95% CI 9-42%) であり、統計学的に有意な差が認められた (p=0.0016)。全ての奏効は部分奏効 (PR) であり、完全奏効 (CR) は認められなかった。疾患進行 (PD) と判定された患者の割合は、ペムブロリズマブ群で3% (n=2/60例) であったのに対し、化学療法群では17% (n=11/63例) と顕著な差があった。評価可能であった患者において、ベースラインからの腫瘍縮小を認めた割合は、ペムブロリズマブ群で98% (n=55/56例)、化学療法群で82% (n=45/55例) であった (Figure 2)。腫瘍サイズ変化の中央値は、ペムブロリズマブ群で-44% (IQR -62〜-27)、化学療法群で-28% (IQR -50〜-10) であった。
PD-L1サブグループ別のORR: PD-L1 TPS <1%の患者群では、ペムブロリズマブ群で57% (n=12/21例)、化学療法群で13% (n=3/23例) のORRであった。PD-L1 TPS 1-49%の患者群では、ペムブロリズマブ群で26% (n=5/19例)、化学療法群で39% (n=9/23例) のORRであった。PD-L1 TPS ≥50%の患者群では、ペムブロリズマブ群で80% (n=16/20例)、化学療法群で35% (n=6/17例) のORRであった。PD-L1高発現群において、ペムブロリズマブ併用療法のORRは特に高かった。
無増悪生存期間 (PFS) の有意な延長: ペムブロリズマブ併用化学療法群のPFS中央値は13.0ヶ月 (95% CI 8.3〜未到達) であったのに対し、化学療法単独群では8.9ヶ月 (95% CI 4.4〜10.3) であった (Figure 3A)。ハザード比 (HR) は0.53 (95% CI 0.31-0.91, p=0.010) であり、ペムブロリズマブ併用群でPFSが統計学的に有意に延長した。PFSイベント発生数は、ペムブロリズマブ群でn=23例 (38%)、化学療法群でn=33例 (52%) であった。6ヶ月時点でのPFS率は、ペムブロリズマブ群で77% (95% CI 64-86)、化学療法群で63% (95% CI 49-74) であった。
奏効期間 (DoR) と全生存期間 (OS): 奏効期間中央値は、ペムブロリズマブ群で未到達 (IQR 4.2-9.0ヶ月)、化学療法群で未到達 (IQR 3.5-10.4ヶ月) であった。データカットオフ時点で、多くの奏効が継続中であった。6ヶ月以上奏効が持続した患者の割合は、ペムブロリズマブ群で92% (95% CI 73-98)、化学療法群で81% (95% CI 51-93) であった。全生存期間 (OS) については、データカットオフ時点 (追跡中央値10.6ヶ月) では、両群間で有意な差は認められなかった。死亡イベント数は、ペムブロリズマブ群でn=13例 (22%)、化学療法群でn=14例 (22%) であった。OSのハザード比は0.90 (95% CI 0.42-1.91, nominal p=0.39) であり、6ヶ月OS率は両群ともに92%であった (Figure 3B)。OSデータは追跡期間が短く、未成熟であった。
安全性プロファイル: グレード3以上の治療関連有害事象の発生率は、ペムブロリズマブ併用化学療法群で39% (n=23/59例)、化学療法単独群で26% (n=16/62例) であった (Table 3)。主なグレード3以上の有害事象は、ペムブロリズマブ群で貧血 (12%、n=7例)、好中球数減少 (5%、n=3例) などであった。化学療法群では貧血 (15%、n=9例)、好中球数減少 (3%、n=2例) などが報告された。免疫関連有害事象 (irAE) の発生率は、ペムブロリズマブ群で22% (n=13/59例)、化学療法群で11% (n=7/62例) であった。グレード3以上のirAEは、ペムブロリズマブ群で4% (n=2例、グレード4の輸液反応1例、グレード3の皮膚反応1例、グレード3の肺臓炎1例) であった。最も一般的なirAEは甲状腺機能低下症 (15%、n=9例)、甲状腺機能亢進症 (8%、n=5例)、肺臓炎 (5%、n=3例) であった。治療関連死は、ペムブロリズマブ群でn=1例 (敗血症)、化学療法群でn=2例 (敗血症1例、汎血球減少1例) 報告された。有害事象による治療中止は、ペムブロリズマブ群で10% (n=6例)、化学療法群で13% (n=8例) であり、両群で同程度であった。
考察/結論
KEYNOTE-021 Cohort Gは、未治療進行非扁平上皮NSCLC患者に対する一次治療として、プラチナ製剤併用化学療法にペムブロリズマブを追加することの有効性と安全性を、ランダム化比較試験で初めて示した画期的な研究である。本研究の結果は、ペムブロリズマブ併用化学療法群が化学療法単独群と比較して、ORRを55% vs 29% (p=0.0016) と有意に改善し、PFS中央値も13.0ヶ月 vs 8.9ヶ月 (HR 0.53, 95% CI 0.31-0.91, p=0.010) と有意に延長することを示した。これらの知見は、化学免疫療法が進行NSCLCの一次治療において、従来の化学療法を上回る効果をもたらすことを明確に実証した。
先行研究との違い: これまでのPD-1阻害薬単剤療法では、PD-L1発現レベルが低い患者群での効果が限定的であることが報告されていたが、本研究ではPD-L1 TPS <1%の集団においてもペムブロリズマブ併用化学療法群で57%という高いORRが観察された点が特筆される。これは、ペムブロリズマブ単剤療法の結果 (Garon et al. NEnglJMed 2015) と対照的であり、化学療法がPD-L1発現に依存しない形で免疫チェックポイント阻害薬の効果を増強する可能性を示唆している。化学療法による免疫原性細胞死の誘導、腫瘍抗原の放出、制御性T細胞の一過性抑制といった機序が、PD-1阻害薬のT細胞活性化効果と相乗的に作用するという前臨床的仮説が、臨床的に裏付けられたと考えられる。
新規性: 本研究は、NSCLCにおいてPD-1経路阻害薬と化学療法の併用療法が、治療未経験の患者に対して有効性を示すことを前向きに検証した最初のランダム化比較試験である。また、プラチナ製剤併用化学療法に第三の薬剤を追加することで、PFSを1年以上 (13.0ヶ月) に延長した数少ない研究の一つである。この新規性は、進行NSCLCの一次治療におけるパラダイムシフトの起点となった。
臨床応用: 本研究の肯定的な結果は、米国食品医薬品局 (FDA) によるペムブロリズマブの加速承認 (2017年5月、ベバシズマブなしの非扁平上皮NSCLC一次治療) に直結した。さらに、本試験の成功は、より大規模な第3相試験であるKEYNOTE-189試験 (NCT02578680) の実施へと繋がり、ペムブロリズマブとプラチナ製剤・ペメトレキセド併用療法が、非扁平上皮NSCLCの一次治療における標準治療としての地位を確立する上で極めて重要な役割を果たした。本知見は、進行非扁平上皮NSCLC患者の臨床現場における治療選択肢を大きく広げる臨床的意義を持つ。
残された課題: 本研究の限界としては、第2相試験であるため患者数が比較的少ないこと (n=123)、オープンラベルデザインであること、およびOSデータが追跡期間中央値10.6ヶ月の時点では未成熟であったことが挙げられる。特に、化学療法単独群の患者の32%が疾患進行後にペムブロリズマブ単剤療法にクロスオーバーしたことは、OSの解釈を複雑にする可能性が残された課題である。しかし、ORRおよびPFSの評価は独立中央画像診断評価委員会による盲検化されたレビューに基づいており、有効性評価の信頼性は高いと考えられる。今後の検討課題として、長期的なOSデータや、PD-L1発現レベルと治療効果のより詳細な関連性については、KEYNOTE-189のような大規模な第3相試験の結果が待たれる。
方法
本研究は、国際多施設共同オープンラベル第2相無作為化試験であるKEYNOTE-021のコホートGとして実施された (ClinicalTrials.gov登録番号: NCT02039674)。米国23施設および台湾3施設が参加した。
対象患者: 化学療法未治療のStage IIIBまたはIVの非扁平上皮NSCLC患者が登録された。EGFR遺伝子変異およびALK転座は陰性である必要があり、ECOG Performance Status (PS) は0または1であった。RECIST v1.1基準に基づき測定可能病変を有し、生命予後が3ヶ月以上と見込まれる患者が対象とされた。PD-L1腫瘍細胞比率 (TPS) による選択は行われず、全PD-L1発現レベルの患者が組み入れられた。主な除外基準には、過去6ヶ月以内の30Gyを超える肺への放射線照射、全身性コルチコステロイドまたはその他の免疫抑制剤の使用、過去2年以内に全身療法を必要とした活動性自己免疫疾患、未治療の脳転移 (安定化・治療済みの脳転移は許容)、活動性間質性肺炎またはステロイド治療を要する肺臓炎の既往などが含まれた。
無作為化と盲検化: 患者は、PD-L1 TPSが1%未満か1%以上かで層別化され、1:1の比率でペムブロリズマブ併用化学療法群と化学療法単独群に無作為に割り付けられた。無作為化はインタラクティブ音声応答システムを用いてブロックサイズ4で実施された。患者、担当医師、および研究資金提供者の代表者は、PD-L1発現レベルについては盲検化されたが、治療割り付けについては非盲検であった。
治療プロトコル:
- ペムブロリズマブ併用化学療法群: ペムブロリズマブ200mg、カルボプラチン (AUC=5 mg/mL/min)、ペメトレキセド500mg/m²を3週間ごとに4サイクル静脈内投与した。その後、ペムブロリズマブは最大2年間継続され、ペメトレキセド維持療法は任意で無期限に継続された。ペムブロリズマブは化学療法剤の少なくとも30分前に投与された。
- 化学療法単独群: カルボプラチン (AUC=5 mg/mL/min) およびペメトレキセド500mg/m²を3週間ごとに4サイクル静脈内投与した。その後、ペメトレキセド維持療法は任意で無期限に継続された。化学療法単独群の患者は、疾患進行後にプロトコルで許容される場合、21日間のウォッシュアウト期間を経てペムブロリズマブ単剤療法にクロスオーバーすることが可能であった。
評価: 腫瘍評価は、ベースライン時、最初の18週間は6週ごと、その後12ヶ月までは9週ごと、それ以降は12週ごとにCTまたはMRIにより実施された。奏効は、独立中央画像診断評価委員会によるRECIST v1.1基準 (Eisenhauer et al. EurJCancer 2009) に基づき判定された。PD-L1発現は、診断時に採取された腫瘍生検サンプルを用いて、中央検査室でIHC 22C3 pharmDxアッセイにより評価された。
エンドポイント:
- 主要エンドポイント: 客観的奏効率 (ORR)。ITT (intention-to-treat) 集団で評価された。
- 主要副次エンドポイント: 無増悪生存期間 (PFS)。ITT集団で評価された。
- その他の副次エンドポイント: 全生存期間 (OS)、奏効期間 (DoR)、安全性、およびPD-L1発現レベルと抗腫瘍活性の相関。安全性は、少なくとも1回治療を受けたas-treated集団で評価された。有害事象はNCI-CTCAE v4.0に基づきグレード分類された。
統計解析: 解析は最終患者登録から少なくとも6ヶ月後に計画された。約n=108例の登録を想定し、片側α=0.025でORRの30%差を検出する検出力は89%以上であった。PFSについては、68イベントを想定し、ハザード比 (HR) 0.5を検出する検出力は81.5%であった。主要エンドポイントであるORRの優越性が片側α=0.025で示された場合、PFSの解析に進むという固定順序閉鎖型検定手順 (fixed-sequence, closed testing procedure) が適用された。OSおよびPD-L1サブグループ解析にはαは割り当てられなかった。ORRの群間差は層別Miettinen-Nurminen法を用いて評価された。PFS、OS、DoRはカプラン・マイヤー法により推定され、群間差は層別ログランク検定により評価された。ハザード比と95%信頼区間 (CI) は層別Cox比例ハザードモデルを用いて算出された。