• 著者: Kim MY, Koh J, Kim S, Go H, Jeon YK, Chung DH
  • Corresponding author: Yoon Kyung Jeon, MD (Department of Pathology, Seoul National University Hospital, Seoul, Republic of Korea) and Doo Hyun Chung, MD (Department of Pathology, Seoul National University College of Medicine, Seoul, Republic of Korea)
  • 雑誌: Lung Cancer
  • 発行年: 2015
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 25662388

背景

非小細胞肺癌 (NSCLC) は肺癌全体の約85%を占め、世界的に癌関連死の主要な原因である Siegel et al. CA 2013。その中で、腺癌 (ADC) と扁平上皮癌 (SqCC) は主要な組織学的サブタイプであり、疫学的、生物学的、遺伝学的に異なる特徴を示す Ginsberg et al. RadiolClinNorthAm 2007。過去10年間、NSCLCの治療は、EGFR変異やALK再構成などの癌遺伝子ドライバーの状態に基づく個別化標的療法へと進化してきた。特に、EGFRまたはALKを標的とする小分子阻害剤は、EGFR変異またはALK転座を有する肺腺癌患者の生存期間を延長させたことが報告されている Mok et al. NEnglJMed 2009Shaw et al. NEnglJMed 2013。しかし、SqCCではFGFR1、PI3K、DDR2、METなどの限定的な遺伝子変異を除き、標的可能なドライバーが乏しく、既存の細胞傷害性化学療法が中心の治療体系が続いていた Oxnard et al. JClinOncol 2013Reck et al. Lancet 2013

近年、Programmed cell death-1 (PD-1) / programmed cell death-ligand-1 (PD-L1) 軸を介する免疫チェックポイント経路を標的とする免疫療法が、NSCLCにおいて有望な治療選択肢として浮上している Pardoll et al. NatRevCancer 2012。この経路はT細胞のエフェクター機能を抑制し、腫瘍の免疫回避機構として作用する。PD-1/PD-L1阻害薬であるニボルマブ、ペムブロリズマブ、アテゾリズマブなどは、扁平上皮癌および非扁平上皮癌の両組織型で客観的奏効を示し、特に肺扁平上皮癌 (pSqCC) においても有望な治療法として注目されている Brahmer et al. NEnglJMed 2012

これまでにNSCLCにおけるPD-L1発現は多様な頻度で報告されており (Pan et al. AdvAnatPathol 2014のメタアナリシスではPD-L1陽性率が19-65%と報告)、pSqCCに特化した大規模コホートでのPD-L1およびPD-L2 (Programmed cell death-ligand 2) の同時解析、ならびにEGFR、FGFR1、METなどの癌遺伝子ドライバーとの関連は未解明な点が多かった。特に、PD-L2のpSqCCにおける発現とその臨床的意義、PD-1/PD-L1/PD-L2/CD8+ T細胞を含む腫瘍微小環境 (TME) の包括的解析は、知識のギャップとして残されていた。先行研究はPD-L1単独の解析にとどまることが多く、PD-L1、PD-L2、PD-1+およびCD8+腫瘍浸潤リンパ球 (TILs) をネットワークとして捉え、SqCC特異的な癌遺伝子ドライバー (FGFR1増幅、MET過剰発現) との相互作用を体系的に検証したデータが不足していた。本研究は、このような状況下で、pSqCCにおけるPD-1/PD-L経路標的療法の合理性を提示することを目的として計画された。

目的

本研究の目的は、肺扁平上皮癌 (pSqCC) 患者を対象に、以下の点を網羅的に検証することである。(1) PD-L1およびPD-L2の腫瘍細胞における発現頻度と分布パターンを明らかにすること。(2) PD-1陽性およびCD8陽性腫瘍浸潤リンパ球 (TILs) の浸潤パターンと、PD-L1/PD-L2発現との相関関係を評価すること。(3) 原発腫瘍とリンパ節転移巣間におけるPD-L1/PD-L2発現の一貫性を比較すること。(4) EGFR、FGFR1、METなどの癌遺伝子ドライバーの状態と、PD-L1/PD-L2発現およびTIL浸潤との関連性を解析すること。(5) PD-L1/PD-L2発現、ならびにCD8陽性およびPD-1陽性TILsの数が、pSqCC患者の無病生存期間 (DFS) に与える予後的影響を評価すること。これらの解析を通じて、pSqCCにおけるPD-1/PD-L経路の生物学的および臨床的意義に関する包括的な情報を提供し、新たな治療戦略の基礎を築くことを目指す。

結果

患者背景と癌遺伝子ドライバーの状態: 本研究には331例のpSqCC患者が含まれた。患者のほとんど (95.8%、317/331) は男性であり、平均年齢は66.35±8.21歳であった。患者の大部分 (90.9%、301/331) は喫煙者であり、平均喫煙量は46.75±23.82パックイヤーであった。EGFR変異は3.8% (7/185) の患者で検出され、EGFR FISH陽性は30.1% (34/113) であった。EGFR IHC陽性は43.6% (144/330)、MET発現陽性は26.9% (89/331) の症例で認められた。FGFR1増幅は20.6% (66/320) の症例で観察された。病期分布は、Stage Iが39.6%、Stage IIが35.6%、Stage IIIが23.9%であった。リンパ節転移は42.0% (139/331) の患者で認められた。

PD-L1/PD-L2発現とTIL浸潤の分布: PD-L1発現は26.9% (89/331) のpSqCCサンプルで陽性であり、PD-L2発現は23.9% (79/331) で陽性であった (Table 1、Fig 1E)。PD-L1の染色強度は、2+が19.3%、3+が7.6%の症例で認められた。PD-L2の染色強度は、2+が17.8%、3+が6.0%の症例で認められた。PD-L1発現とPD-L2発現の間には有意な相関は認められなかった (カイ二乗検定 p=0.718)。PD-1陽性TILsの数は0から572.3 cells/mm²の範囲であり (中央値 33.4 cells/mm²)、CD8陽性TILsの数は0から2501.0 cells/mm²の範囲であった (中央値 251.5 cells/mm²)。PD-1陽性TILsとCD8陽性TILsの数には、有意な強い正の相関が認められた (Spearman r=0.565、p<0.001、Fig 1F)。

PD-L1発現とCD8+ TILsおよび臨床病理学的因子の関連: 高いPD-L1発現は、CD8陽性T細胞浸潤と強く正に相関していた (p<0.001、Fig 2A、Supplementary Fig. S2A)。この関連性は、年齢、喫煙状況、腫瘍径、リンパ節転移、病期、EGFR、FGFR1、METの状態といった各サブグループ解析においても一貫して観察された (Fig 2C-H)。一方、PD-L2発現とPD-1陽性またはCD8陽性TILsの数の間には有意な相関は検出されなかった。EGFR IHC陽性群ではPD-L1発現が有意に低かった (EGFR陽性群でPD-L1陽性20.8% vs EGFR陰性群で31.7%、p=0.027)。EGFR変異陽性7例中、PD-L1陽性例は0例であった (野生型では32%が陽性、p=0.102)。

MET発現とPD-L2およびPD-1+ TILsの関連: MET発現陽性群では、PD-L2発現率が有意に高かった (37.1% (33/89) vs MET陰性群19.0% (46/242)、p=0.001、カイ二乗検定)。同様に、PD-1陽性TILsの数もMET発現陽性群で有意に高かった (p=0.001)。一方、PD-L1発現とMET発現の間には有意な差は認められなかった (p=0.984)。FGFR1増幅は、PD-L1 (p=0.162) およびPD-L2 (p=0.627) のいずれとも有意な関連は示さなかった。PD-L1発現と高PD-1+ TILsの組み合わせはMET陽性群でより頻繁に認められた (24.7% vs 11.6%、p=0.003)。また、PD-L2陽性かつ/または高PD-1+ TILsのプロファイルもMET陽性群で有意に高かった (85.4% vs 54.5%、p<0.001)。

原発腫瘍とリンパ節転移巣間のPD-L1/PD-L2発現の一貫性: 77例の原発腫瘍とリンパ節転移巣のペア解析では、原発腫瘍でPD-L1陽性であった症例の81.1% (52/74例で維持、8/74例で増加) で、リンパ節転移巣においてもPD-L1発現が維持または増加していた (Fig 3)。PD-L2では、93.5% (48/77例で維持、24/77例で増加) の症例で同様に発現が維持または増加していた。陰性転換はPD-L1で18.9% (14/74)、PD-L2で6.5% (5/77) に認められた。この結果は、原発腫瘍と転移リンパ節間でPD-L1/PD-L2発現が一貫していることを示唆しており、小生検標本に基づく臨床判定が転移部位の評価にも代替可能である可能性を示している。

生存解析 (DFS): CD8陽性TILs高値群は、低値群と比較して有意にDFSが延長した (ログランク検定 p=0.025)。同様に、PD-1陽性TILs高値群もDFSの延長と有意に関連した (p=0.014)。Cox回帰多変量解析においても、CD8陽性TILs高値は独立した予後因子であった (HR 0.62, 95% CI 0.42-0.91, p=0.015)。一方、PD-L1発現およびPD-L2発現は、DFSに有意な予後的な影響を与えなかった (PD-L1 p=0.621、PD-L2 p=0.481、Fig 5)。この結果は、pSqCCにおいてTILsの数が予後因子として機能する一方で、PD-L1/PD-L2発現単独では予後予測価値がないという対照的な所見を示している。

考察/結論

本レトロスペクティブ単施設組織マイクロアレイベースのトランスレーショナル研究は、肺扁平上皮癌 (n=331) におけるPD-L1・PD-L2発現と癌遺伝子ドライバー状況・TIL浸潤の包括的なクロストークを体系化した初の大規模解析である。

新規性: 主要な新規な発見は以下の通りである。(1) PD-L1発現が26.9%、PD-L2発現が23.9%のpSqCCで観察され、これまでの異質なPD-L1メタアナリシス結果 (Pan et al. AdvAnatPathol 2014では19-65%) と対照的に一貫した中間値を示したこと。(2) PD-1陽性TILsとCD8陽性TILsの間にSpearman r=0.565という強い相関 (p<0.001) が認められ、免疫活性の高いサブグループの存在を示唆したこと。(3) MET発現がPD-L2発現およびPD-1陽性TILs数と強い相関 (p=0.001) を示したことで、これまでPD-L1中心であった免疫回避機構研究の枠組みと異なり、MET-PD-L2軸がpSqCC特異的に存在することを示した新規なメカニズム的洞察が得られたこと。(4) PD-L1発現はCD8陽性TILsと強相関 (p<0.001) するが、DFSに予後予測価値がないという対照的な所見。(5) 原発腫瘍とリンパ節転移巣間でPD-L1/PD-L2発現が81-93%で一貫しており、小生検に基づく臨床判定の妥当性を示唆したこと、が挙げられる。

先行研究との違い: これまでのNSCLCにおけるPD-L1研究 (Pan et al. 2014など) は、異質なコホートで組織型を混在させており、pSqCC特異的なバイオマーカー相関を提示できなかったのと対照的に、本研究はSqCC専門コホートで癌遺伝子ドライバーとPD-L経路のクロストークを明確に示した点で知識を深化させた。特に、MET発現とPD-L2発現およびPD-1+ TILsとの関連は、これまで報告されていない新規の知見である。

臨床応用: MET-PD-L2軸の発見は、SqCCにおいてMET阻害剤 (カプマチニブ、テポチニブなど) とPD-1/PD-L1阻害剤の併用療法の合理性を提供する新規な治療仮説を示唆する。臨床的意義として、(a) pSqCCへのPD-1/PD-L1阻害薬 (ペムブロリズマブ、ニボルマブ、アテゾリズマブなど) 適用時、TPS (Tumor Proportion Score) とCD8陽性TILs数の併用評価が予測精度向上に寄与する可能性、(b) MET過剰発現SqCCサブグループでのPD-L2標的戦略 (抗PD-L2抗体は臨床開発段階) の合理性、(c) リンパ節生検のみが得られた状況でも原発部位のPD-L1/PD-L2評価代替が可能であるという、bench-to-bedside実装視点を提供する。

残された課題: 残された課題 (limitation) として、(1) 単一施設における韓国人SqCCコホートであるため、民族多様性への一般化には限界があること。(2) TMAベースのスコアリングは腫瘍内不均一性を完全には捉えられない可能性があること。(3) EGFR変異評価はn=185、FGFR1 FISHはn=320と、サブセット解析ではやや検出力が不足していたこと。(4) MET-PD-L2の機序的関連に関するin vitro/in vivo検証が不足していること。(5) 生存データはDFSのみで、OSデータがないこと。(6) IHCクローン (E1L3N) が近年の商業診断グレードクローン (22C3、SP263など) との一致性が未検証であること。(7) 免疫関連遺伝子発現プロファイリング (NanoStringなど) や空間マルチプレックスIHCとの統合解析が実施されていないこと。(8) 化学療法/放射線療法中のPD-L1/PD-L2動態変化が未評価であること、が今後の検討課題として挙げられる。本研究は、今後のSqCC特異的な免疫微小環境の特性評価と、MET阻害剤と免疫チェックポイント阻害剤の併用試験への基礎を提供し、SqCC特異的バイオマーカーポートフォリオの確立に向けた重要なエビデンスとなった。

方法

患者集団とサンプル: 本研究では、2004年から2012年にかけてソウル大学病院 (SNUH、ソウル、韓国) で外科的切除を受けた原発性pSqCC患者331例をレトロスペクティブに登録した。対象患者は術前補助化学療法や放射線療法を受けておらず、診断時に遠隔転移は認められなかった。77例 (23.3%) の患者からは、原発腫瘍と対になった所属リンパ節転移標本も得られ、両者の比較解析に用いられた。組織マイクロアレイ (TMAs) は、代表的な腫瘍内領域から直径2mmの組織コアを採取して作製された。病理学的TNM病期分類は、第7版米国癌合同委員会 (AJCC) ガイドラインに従って決定された。本研究は世界医師会ヘルシンキ宣言の勧告に従い、SNUHの治験審査委員会 (IRB) の承認 (H-1404-100572) を得て実施されたレトロスペクティブコホート研究である。本研究はレトロスペクティブなアーカイブ研究であるため、NCT番号は付与されていない。

免疫組織化学 (IHC): PD-1経路関連分子、EGFR、METの発現はVentana Benchmark XT自動染色システム (Ventana Medical Systems) を用いて、CD8の発現はBond-Max自動免疫染色装置 (Leica Microsystems) を用いて評価された。一次抗体として、抗PD-L1 (E1L3N XP rabbit mAb、Cell Signaling)、マウス抗PD-L2 (clone 176611、R&D Systems)、マウス抗PD-1 (clone MRQ-22、Cell Marque)、ウサギ抗MET (SP44、Ventana)、ウサギ抗EGFR (clone 3C6、Ventana)、ウサギ抗CD8 (clone SP16、Thermo Fisher Scientific) が使用された。アイソタイプコントロールとして、ウサギIgG、マウスIgG2B、マウスIgG1が用いられた。ヒト胎盤および扁桃組織はPD-L1、PD-L2、PD-1、CD8の陽性コントロールとして免疫染色された (Supplementary Fig. S1)。

IHCスコアリング基準: PD-L1およびPD-L2のIHCは、0 (染色なし)、1+ (腫瘍細胞の10%未満に細胞質および/または弱い膜染色)、2+ (腫瘍細胞の10%以上に弱いから中程度の膜染色)、3+ (腫瘍細胞の10%以上に強い膜染色) の4段階でスコアリングされた (Fig. 1A, 1B)。染色強度は、PD-L1については肺胞マクロファージまたは胎盤栄養膜細胞の染色と比較して中程度と判断された。スコア2+または3+の症例は、PD-L1またはPD-L2陽性と定義された。EGFR染色については、腫瘍細胞の10%未満の染色または染色なしを0、10%以上の腫瘍細胞に弱い (1+)、中程度 (2+)、強い (3+) 膜/細胞質染色をそれぞれスコアリングした。EGFR発現は、スコア2+または3+を陽性と分類した。METのIHCは、先行研究を参考にわずかに修正して解釈された。腫瘍細胞の10%以上に中程度から強い膜染色を示す症例、または腫瘍細胞の50%以上に弱い膜染色を示す症例をMET陽性と定義した。

TILの自動計数: PD-1およびCD8で染色されたTMAスライドは、Aperio ScanScope (Aperio Technologies) を用いてデジタル顕微鏡でスキャンされた。PD-1陽性およびCD8陽性TILsの単位面積 (mm²) あたりの数は、Aperio ImageScopeソフトウェア (Aperio Technologies) の修正核IHCアルゴリズムを用いて、壊死領域を除外した無傷の腫瘍領域から自動的に計算された。この自動計算は、選択された症例における手動計数データとの比較解析により検証された。統計解析のため、各症例におけるPD-1陽性およびCD8陽性TILsの数は、全症例から得られた中央値を閾値として低値と高値に分類された。生存解析には、他種のカットオフ値も適用された。

遺伝子コピー数および変異解析: EGFRおよびFGFR1遺伝子コピー数は、蛍光in situハイブリダイゼーション (FISH) により解析された。EGFR FISHにはEGFR Spectrum Orange/CEP7 Spectrum Greenプローブセット (Abbott Molecular) が適用され、既報の通り解釈された。FGFR1 FISHはFGFR1 (8p11)/SE8 (D821) (Kreatech) を用いて実施され、既報の通り解釈された。本研究では、高増幅と低増幅の両方がFGFR1増幅とみなされた。EGFR変異の状態は、既報の通りダイレクトシークエンシングにより解析された (n=185で実施)。

統計解析: 全ての統計解析はSPSSソフトウェア (バージョン19; SPSS, Inc.) を用いて実施された。変数の比較には、カイ二乗検定、Fisherの正確検定、Studentのt検定、またはANOVAが用いられた。PD-1陽性TILsとCD8陽性TILs間の相関は、Spearmanの相関係数検定を用いて評価された。生存解析は、Kaplan-Meier法を用いてログランク検定またはCox回帰解析により実施された。全ての統計解析において、両側p値が0.05未満を有意水準とした。