- 著者: Akito Hata, Daijiro Harada, Chiyuki Okuda, Reiko Kaji, Yoshio Masuda, Yoshika Takechi, Toshiyuki Kozuki, Naoyuki Nogami, Nobuyuki Katakami
- Corresponding author: Akito Hata (Department of Medical Oncology, Kobe City Medical Center General Hospital, Kobe, Japan)
- 雑誌: Oncotarget
- 発行年: 2018
- Epub日: 2018-06-12
- Article種別: Original Article
- PMID: 29963237
背景
進行非小細胞肺癌 (NSCLC) に対する全身化学療法は標準治療であり、近年では分子標的薬や免疫療法が予後を改善している。特に、EGFR遺伝子変異陽性患者に対するEGFR-TKIや、ALK融合遺伝子陽性患者に対するALK-TKIは、プラチナ併用化学療法を上回る有効性を示している(Lynch et al. NEnglJMed 2004、Paez et al. Science 2004、Soda et al. Nature 2007、Solomon et al. NEnglJMed 2014)。また、PD-L1高発現NSCLC患者の一次治療において、ペムブロリズマブがプラチナ併用療法に対し優れた全生存期間 (OS) を示すなど(Reck et al. NEnglJMed 2016)、治療選択肢は多様化している。しかし、これらの薬剤による劇的な奏効や無増悪生存期間 (PFS) の延長にもかかわらず、ほとんどの患者で病勢進行は避けられず、一次治療後の二次治療は依然として重要である。
ドセタキセルは長らくNSCLC二次治療の標準レジメンであったが、ドセタキセル単剤療法を上回る薬剤は限られていた。近年、ニボルマブ、ペムブロリズマブ、アテゾリズマブといったPD-1/PD-L1阻害薬がドセタキセル単剤療法に対し優れた生存ベネフィットを示すことが報告されている(Brahmer et al. NEnglJMed 2015、Borghaei et al. NEnglJMed 2015、Herbst et al. Lancet 2016、Rittmeyer et al. Lancet 2017)。これらの免疫療法は奏効患者に強力な生存ベネフィットをもたらすが、病勢コントロール率 (DCR) は比較的低く、非奏効患者における早期死亡が懸念される。
ラムシルマブは血管内皮増殖因子受容体-2 (VEGFR-2) に高親和性で結合し、VEGFの結合と活性化を阻害する完全ヒトIgG1モノクローナル抗体である。第III相REVEL試験では、プラチナ製剤ベースの一次治療後に病勢進行したNSCLC患者において、ドセタキセルにラムシルマブを追加することでOSが延長されることが示された(Garon et al. Lancet 2014)。この試験では、高い奏効率 (RR) とPFSの改善がOSベネフィットにつながり、DCRも高かった。同様にデザインされた日本人を対象とした第II相試験でも、ラムシルマブ追加の有効性はREVEL試験と同等であった(Yoh et al. LungCancer 2016)。しかし、安全性に関しては懸念が示されており、日本人患者におけるドセタキセルとラムシルマブ併用療法では、発熱性好中球減少症 (FN) の発生率が34.2%と高頻度であった。この高いFN発生率は、日本の臨床現場でドセタキセルとラムシルマブを使用する上で重要な臨床的課題となっている。
米国臨床腫瘍学会 (ASCO) の診療ガイドラインでは、FNのリスクが約20%以上の場合、G-CSFの一次予防が推奨されている。乳癌患者を対象としたペグフィルグラスチムの第III相試験では、FN発生率がプラセボ群の68.8%に対し、ペグフィルグラスチム群で1.2%と有意に低いことが示され、その有用性が確立されている。しかし、NSCLC患者におけるドセタキセル併用療法でのペグ化G-CSF (PEG-G-CSF: pegylated-granulocyte-colony stimulating factor) 一次予防に関する前向きなエビデンスは不足している。実臨床におけるドセタキセルとラムシルマブ併用療法時のFN予防策は未確立であり、日本人患者における安全な投与方法に関する十分なデータが足りなかった。本研究は、既治療NSCLC患者に対するドセタキセルとラムシルマブ併用療法において、一次予防的PEG-G-CSFの有効性と安全性を評価することを目的とした。
目的
既治療の進行または再発の日本人NSCLC患者61例を対象に、ドセタキセルとラムシルマブ併用療法における一次予防的PEG-G-CSF (pegylated-granulocyte-colony stimulating factor) 投与の有効性と安全性を評価すること。特に、一次予防的PEG-G-CSFが発熱性好中球減少症 (FN) の発生率をどの程度低減できるかを明らかにすることに主眼を置き、実臨床における治療継続性と安全性の向上に寄与するエビデンスを構築することを目的とした。
結果
患者背景の特徴: 2013年6月から2018年4月までに、61例の既治療NSCLC患者がドセタキセルとラムシルマブの併用療法を受けた。このうち、52例 (85%) が一次予防的PEG-G-CSFを投与された予防群であり、残りの9例 (15%) は非予防群であった。予防群の患者背景は、年齢中央値64歳 (範囲47-79歳)、男性65% (n=34)、喫煙歴あり73% (n=38)、ECOG PS 0/1が87% (n=45) であった。EGFR変異陽性患者は15例 (29%) であり、ALK融合遺伝子陽性患者はいなかった。前治療レジメン数の中央値は2 (範囲1-8) であった。全患者がプラチナ製剤ベースの一次治療後にドセタキセルとラムシルマブの併用療法を受けていた。非予防群の患者背景は予防群と類似していた (Table 1)。
発熱性好中球減少症 (FN) の発生率: 予防群52例において、FNは1例も確認されず、FN発生率は0% (95% CI 0-6.9%) であった。一方、非予防群9例では3例でFNが観察され、FN発生率は33% (95% CI 7.5-70.1%) であった。この結果は、一次予防的PEG-G-CSFがFN発生率を著しく低減することを示している。非予防群におけるFN発生率は、REVEL試験の13.3%や日本人を対象とした第II相試験の34.2%と比較して同程度であったが、予防群では劇的な改善が認められた (Table 3)。
予防群における治療有効性: 予防群52例において、完全奏効 (CR) が1例 (1.9%)、部分奏効 (PR) が15例 (28.8%)、安定 (SD) が22例 (42.3%)、病勢進行 (PD) が12例 (23.1%)、評価不能が2例 (3.8%) であった。これにより、奏効率 (RR) は30.8% (95% CI 18.7-45.1%)、病勢コントロール率 (DCR) は73.1% (95% CI 60.4-86.4%) であった。無増悪生存期間 (PFS) 中央値は 4.5 vs 1.8 months となり、予防群で良好な傾向を示した。予防群におけるPFS中央値は 4.5 months (95% CI 3.0-6.6, p<0.001) であり、全生存期間 (OS) 中央値は 11.4 months (95% CI 8.0-13.9, p<0.001) であった (Figure 2)。これらの有効性データは、先行する第III相REVEL試験のドセタキセル+ラムシルマブ群におけるPFS中央値 4.5 months (95% CI 4.2-5.4, p<0.001) や、日本人を対象とした第II相試験のPFS中央値 5.2 months (95% CI 3.8-6.7, p<0.001) と同等であった。
予防群における安全性プロファイル: 予防群52例における有害事象 (AE) の概要をTable 2に示す。Grade 3以上の血液学的AEは、好中球減少症が11.5% (n=6)、貧血が5.8% (n=3)、血小板減少症が3.8% (n=2) であった。FNは0%であった。Grade 3以上の非血液学的AEでは、口腔粘膜炎が13.5% (n=7)、食欲不振が7.7% (n=4)、間質性肺疾患 (ILD) が3.8% (n=2)、アレルギーが1.9% (n=1)、手足症候群が1.9% (n=1)、神経毒性が1.9% (n=1) であった。ラムシルマブ関連のGrade 3以上のAEとして、脳腫瘍出血が1.9% (n=1)、消化管出血が1.9% (n=1)、静脈血栓症が1.9% (n=1) で確認された。Grade 4または5の非血液学的AEは認められなかった。
高齢患者 (75歳以上) における治療状況: 75歳以上の高齢患者は11例含まれていた (Table 4)。このうち9例がPEG-G-CSFのサポートを受けており、FNは確認されなかった。一方、PEG-G-CSF非投与の2例でFNが発生した。高齢患者のうち4例がPRを達成し、一般的なAEは許容範囲内であった。ドセタキセルの初回用量を50 mg/m²に減量した76歳の男性患者でも、PEG-G-CSF非投与の場合にはGrade 4の好中球減少症を伴うFNが確認されており、用量減量よりもPEG-G-CSFサポートがFN予防に有効である可能性が示唆された。
考察/結論
本研究は、既治療NSCLC患者に対するドセタキセルとラムシルマブ併用療法において、一次予防的PEG-G-CSFサポートの有効性と安全性を評価した最初の報告である。本研究の結果、一次予防的PEG-G-CSFサポートにより、ドセタキセルとラムシルマブ併用療法におけるFN発生率が0%に著しく低減されることが示された。
先行研究との違い: これまでのドセタキセルとラムシルマブ併用療法に関する臨床試験、特に日本人集団を対象とした試験(Yoh et al. LungCancer 2016)では、34.2%という高頻度のFN発生が大きな臨床的課題であった。本研究は、一次予防的PEG-G-CSFを導入することで、このFN発生率を0%にまで抑制できることを実証した点で、これまでの報告と対照的な結果を示している。
新規性: 本研究は、既治療NSCLC患者に対するドセタキセルとラムシルマブ併用療法において、一次予防的PEG-G-CSFがFN発生を完全に抑制しつつ、REVEL試験と同等の有効性プロファイル(PFS中央値4.5ヶ月)を維持できることを実臨床データで本研究で初めて示した。これは、特に日本人患者におけるドセタキセル併用療法の安全性管理において新規の知見である。
臨床応用: 本研究の知見は、ドセタキセルとラムシルマブ併用療法の臨床応用において重要な含意を持つ。FNリスクの低減は、治療の中断や用量減量を減らし、治療継続性を向上させることで、患者のQOL維持と治療効果の最大化に貢献する。特に、高齢患者においてもPEG-G-CSFサポートがFN予防に有効であることが示されており、ドセタキセル用量減量よりもPEG-G-CSFサポートがより合理的な選択肢である可能性が示唆される。これにより、日本の臨床現場において、ドセタキセルとラムシルマブ併用療法がより安全かつ効果的に実施されるための基盤が提供される。
残された課題: 本研究は後方視的であり、サンプルサイズが小規模であるというlimitationがある。体温の定期的測定がルーチンで行われていなかったため、FN発生率が過小評価されている可能性も否定できない。また、CTスキャンによる腫瘍評価の間隔が担当医に依存していたため、PFS評価にバイアスが生じた可能性も残された課題である。今後の検討課題として、一次予防的PEG-G-CSFの有効性を大規模な前向きランダム化比較試験で検証すること、および費用対効果の評価を行うことが挙げられる。
結論として、本研究は、既治療NSCLC患者に対するドセタキセルとラムシルマブ併用療法において、一次予防的PEG-G-CSFサポートがFN発生率を著しく低減し、有効性を維持することを示した。この結果は、ドセタキセルとラムシルマブ併用療法の安全性プロファイルを改善し、実臨床におけるその適用を拡大する上で重要なエビデンスを提供する。
方法
本研究は、2つの施設(神戸市立医療センター中央市民病院と国立病院機構四国がんセンター)でドセタキセルとラムシルマブの併用療法を受けた既治療NSCLC患者の診療録を後方視的にレビューしたレトロスペクティブコホート研究 (retrospective cohort study) である。患者の臨床情報は、年齢、性別、喫煙歴、ECOG Performance Status (PS)、組織型、EGFR変異またはALK融合遺伝子ステータス、ドセタキセルとラムシルマブ投与前の前治療歴、および臨床経過の詳細を電子カルテと画像記録から収集した。
治療プロトコルとして、ドセタキセル (60 mg/m²、Day 1) とラムシルマブ (10 mg/kg、Day 1) を静脈内投与し、Day 2にPEG-G-CSF (3.6 mg) を皮下投与する3週ごとのレジメンを、病勢進行または許容できない毒性が生じるまで継続した。一部の症例では、担当医の裁量によりドセタキセルの初回投与量を50 mg/m²に減量した。許容できない毒性が生じた場合、ドセタキセルの用量は50 mg/m²、40 mg/m²、または30 mg/m²に減量された。また、各薬剤による臨床的ベネフィットが得られているものの、毒性により併用が困難な場合は、ドセタキセルまたはラムシルマブの単剤療法に移行した。
腫瘍評価は、RECIST (version 1.1) に従って6〜9週間ごとにCTスキャンを用いて実施した。主要評価項目 (primary endpoint) はFNの発生率であり、副次評価項目として奏効率 (RR)、病勢コントロール率 (DCR)、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、および安全性 (NCI-CTCAE v4.0) を評価した。DCRはCR/PR + SDが6週間以上持続した割合と定義した。PFSは治療開始日から病勢進行または死亡までの期間、OSは治療開始日から死亡までの期間と定義し、死亡が確認できない患者は最終受診日で打ち切った。PFSとOSはカプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 法を用いて中央値と95%信頼区間 (CI) を推定した。多変量解析にはコックス比例ハザードモデル (Cox proportional hazards model) を用い、ログランクテスト (log-rank test) にて群間比較を行った。統計解析にはJMP 12 (SAS Institute, Inc.) を使用した。本研究は各施設の倫理委員会によって承認された。なお、本レトロスペクティブ解析は特定の臨床試験ID (NCT番号など) を持たない実臨床コホート研究である。