- 著者: Matthew A. Gubens, Lecia V. Sequist, James P. Stevenson, Steven F. Powell, Liza C. Villaruz, Shirish M. Gadgeel, Corey J. Langer, Amita Patnaik, Hossein Borghaei, Shadia I. Jalal, Joseph Fiore, Sanatan Saraf, Harry Raftopoulos, Leena Gandhi
- Corresponding author: Matthew A. Gubens (University of California San Francisco, Helen Diller Family Comprehensive Cancer Center, San Francisco, CA, USA)
- 雑誌: Lung Cancer
- 発行年: 2019
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 30885353
背景
免疫チェックポイント阻害薬は、進行非小細胞肺がん (NSCLC) の治療に革命をもたらした。特に、抗PD-1抗体であるペムブロリズマブは、既治療のPD-L1陽性NSCLC患者において、KEYNOTE-010試験でドセタキセルと比較して全生存期間 (OS) を有意に改善することが示された Herbst et al. Lancet 2016。また、未治療のPD-L1高発現NSCLC患者を対象としたKEYNOTE-024試験では、ペムブロリズマブ単剤療法がプラチナ製剤ベースの化学療法と比較して、無増悪生存期間 (PFS) およびOSを改善することが報告されている Reck et al. NEnglJMed 2016。
免疫チェックポイント阻害薬は、PD-1/PD-L1経路の阻害によりT細胞の抗腫瘍応答を再活性化する Tumeh et al. Nature 2014。一方、イピリムマブは細胞傷害性Tリンパ球抗原-4 (CTLA-4) を標的とする抗体であり、T細胞のプライミング段階を制御することで免疫応答を増強する Hodi et al. NEnglJMed 2010。これら2つの免疫チェックポイント阻害薬は、がん免疫サイクルの異なる段階を標的とするため、併用することで相加的または相乗的な抗腫瘍効果が期待される。
ニボルマブとイピリムマブの併用療法は、悪性黒色腫において高い奏効率とOSの改善を示すことがCheckMate 067試験で報告されている (ORR 58%、OS HR 0.55 vs nivo単剤) Larkin et al. NEnglJMed 2015。また、未治療の進行NSCLC患者を対象としたCheckMate 227試験では、PD-L1発現レベルに関わらず、ニボルマブとイピリムマブの併用療法が化学療法と比較してOSを改善することが示された。しかし、これらの併用療法では、単剤療法と比較してグレード3-5の治療関連有害事象 (TRAE) の発生率が55-60%と高く、毒性の増加が課題として認識されている。
既治療の進行NSCLC患者におけるペムブロリズマブとイピリムマブの併用療法の安全性と有効性については、これまで十分に検証されていなかった。特に、この集団における最適な用量設定、抗腫瘍活性、および毒性プロファイルは未解明な点が多かった。先行研究では、ニボルマブとイピリムマブの併用において、イピリムマブの3週間ごとの投与スケジュールが毒性過剰と判断され、より低頻度の投与スケジュールが検討されるなど、最適な投与方法に関する知識が不足していた。本研究は、この知識のギャップを埋めることを目的とする。
目的
KEYNOTE-021試験の用量設定コホート (コホートD) および拡大コホート (コホートH) において、既治療の進行NSCLC患者に対するペムブロリズマブとイピリムマブの併用療法の安全性、忍容性、および抗腫瘍活性を評価することを目的とする。具体的には、以下の点を明らかにする。
- 推奨用量の決定: コホートDにおいて、ペムブロリズマブとイピリムマブの併用療法における用量制限毒性 (DLT) を評価し、推奨される第2相試験用量 (RP2D) を特定する。
- 抗腫瘍活性の評価: RP2Dで治療された患者集団における客観的奏効率 (ORR) を主要評価項目とし、無増悪生存期間 (PFS) および全生存期間 (OS) を副次評価項目として評価する。ORRについては、歴史的対照群 (ペムブロリズマブ単剤療法におけるORR約20%) と比較して統計的に有意な改善があるか否かを検証する。
- 安全性プロファイルの把握: 併用療法における治療関連有害事象 (TRAE) の種類、頻度、重症度、および免疫関連有害事象 (irAE) の発生状況を詳細に分析し、毒性プロファイルを明らかにする。
- PD-L1発現との関連性: PD-L1腫瘍細胞比率 (TPS) 別にORRを評価し、PD-L1発現が併用療法の効果予測バイオマーカーとして機能するか否かを探索的に検討する。
これらの評価を通じて、既治療進行NSCLC患者におけるペムブロリズマブとイピリムマブ併用療法のベネフィット・リスクバランスを総合的に判断し、今後の開発方向性に関する臨床的示唆を得ることを目指す。
結果
患者背景: 米国11施設から合計51例の患者がコホートDおよびHに登録された。コホートDには18例が登録され、ペムブロリズマブ10 mg/kg + イピリムマブ1 mg/kg群 (n=3)、ペムブロリズマブ10 mg/kg + イピリムマブ3 mg/kg群 (n=3)、およびプロトコル改訂後のペムブロリズマブ2 mg/kg + イピリムマブ1 mg/kg群 (n=12) に割り振られた。コホートHには33例が登録され、全例がペムブロリズマブ2 mg/kg + イピリムマブ1 mg/kgのレジメンを受けた。有効性解析の対象は、ペムブロリズマブ2 mg/kg + イピリムマブ1 mg/kg群の44例であった (1例は後に悪性黒色腫と判明し、有効性解析から除外)。患者の年齢中央値は61歳 (範囲28-79歳) であった。ECOG PS 1の患者が76%を占め、71%の患者が2レジメン以上の前治療歴を有し、33%が3レジメン以上の前治療歴を有していた (Table 1)。腺癌が82%、扁平上皮癌が9%であった。EGFR変異陽性患者は22%、脳転移を有する患者は31%であった。PD-L1 TPS評価可能例では、<1%が47%、1-49%が40%、≥50%が13%であった。
用量設定とDLT評価: ペムブロリズマブ10 mg/kg + イピリムマブ1 mg/kgおよび10 mg/kg + 3 mg/kgのいずれの用量レベルにおいてもDLTは発生しなかった。プロトコル改訂後、ペムブロリズマブ2 mg/kg + イピリムマブ1 mg/kgを投与された12例においてもDLTは認められなかった。したがって、このレジメンが推奨される第2相試験用量として決定され、用量拡大コホートHでこの用量が使用された。
客観的奏効率 (ORR) および疾患制御率 (DCR): ペムブロリズマブ2 mg/kg + イピリムマブ1 mg/kg群 (n=44) におけるORRは30% (95% CI 17-45%) であった (Table 2)。内訳は、完全奏効 (CR) が1例 (2%)、部分奏効 (PR) が12例 (27%) であった。疾患制御率 (DCR) は55%であった。このORRは、主要評価項目として設定された歴史的対照の20%と比較して数値的には高かったものの、統計的に有意な差には達しなかった (片側P値=0.0858)。奏効までの期間中央値は2.7ヶ月 (範囲1.3-6.2ヶ月) であり、奏効期間中央値は10.5ヶ月 (範囲2.5ヶ月以上-21.0ヶ月) であった。
PD-L1 TPS別のORR: PD-L1 TPS別のORRは、<1%の患者で25% (n=20中5例)、1-49%の患者で39% (n=18中7例)、≥50%の患者で17% (n=6中1例) であった (Table 2)。PD-L1発現レベルとORRの間に明確な用量反応関係は認められず、PD-L1 TPS ≥50%の患者群で数値的に低いORRが観察されたことは予想外の結果であった。EGFR変異陽性患者10例中1例が奏効を示し、ORRは10%であった。前治療歴が2ライン未満の患者ではORR 38% (n=13中5例)、2ライン以上の患者ではORR 26% (n=31中8例) であった。
無増悪生存期間 (PFS) および全生存期間 (OS): ペムブロリズマブ2 mg/kg + イピリムマブ1 mg/kg群 (n=44) におけるPFS中央値は4.1ヶ月 (95% CI 1.4-5.8ヶ月) であり、6ヶ月PFS率は32% (95% CI 19-46%) であった (Figure 2A)。OS中央値は10.9ヶ月 (95% CI 6.1-23.7ヶ月) であり、6ヶ月OS率は67% (95% CI 51-79%) であった (Figure 2B)。これらの結果は、ペムブロリズマブ単剤療法を評価したKEYNOTE-010試験の既治療PD-L1陽性NSCLC患者におけるPFS中央値3.9ヶ月、OS中央値10.4ヶ月と比較して、明らかな改善を示すものではなかった。
治療関連有害事象 (TRAE) プロファイル: ペムブロリズマブ2 mg/kg + イピリムマブ1 mg/kg群 (n=45、安全性解析対象) において、何らかのTRAEは29例 (64%) に発生した (Table 3)。Grade 3-5のTRAEは13例 (29%) に発生し、ペムブロリズマブ単剤療法 (KEYNOTE-010試験のGrade 3-5 TRAE率約13-16%) と比較して明らかに増加していた。Grade 4のTRAEは3例 (汎血球減少症、大腸穿孔、糖尿病性ケトアシドーシス) に発生し、治療関連死が1例 (膵炎、サイクル23中に発生) 報告された。TRAEによる治療中止は9例 (20%) で発生し、ペムブロリズマブ単剤療法 (KEYNOTE-010試験の4-5%) の約4倍以上であった。最も頻繁に報告されたTRAE (10%以上) は、疲労 (27%)、甲状腺機能低下症 (22%)、食欲減退 (11%)、下痢 (11%)、およびそう痒症 (11%) であった。免疫関連有害事象 (irAE) は19例 (42%) に発生し、甲状腺機能低下症が最も多かった (24%)。Grade 3-5のirAEは8例 (18%) に発生し、Grade 5の膵炎 (n=1)、Grade 4の糖尿病性ケトアシドーシス (n=1)、Grade 3の重症皮膚反応 (n=3)、大腸炎 (n=2)、副腎機能不全 (n=1)、肺炎 (n=1) などが含まれた。
考察/結論
既治療の進行NSCLC患者に対するペムブロリズマブとイピリムマブの併用療法 (2 mg/kg + 1 mg/kg Q3W) は、抗腫瘍活性の兆候 (ORR 30%) を示したものの、事前に設定された主要評価項目である「歴史的対照 (20%) を統計的に有意に上回る」という閾値には達しなかった (P=0.0858)。本研究で観察されたORR 30%は、ペムブロリズマブ単剤療法 (KEYNOTE-010試験の2 mg/kg群でORR約18%) と比較して数値的には高いものの、毒性の増加を考慮すると、その臨床的意義は限定的であると考えられる。
先行研究との違い: 本研究の結果は、ペムブロリズマブ単剤療法と比較して毒性が明らかに増加することを示した。Grade 3-5のTRAE発生率は29%であり、KEYNOTE-010試験におけるペムブロリズマブ単剤療法での発生率 (約13-16%) と対照的であった。また、TRAEによる治療中止率も20%と、単剤療法の4-5%と比較して大幅に高かった。これは、ニボルマブとイピリムマブの併用療法で報告された毒性プロファイルと類似しており、CTLA-4阻害薬の追加が毒性増加に寄与することを示唆する。特に、本研究で採用されたイピリムマブの3週間ごとの投与スケジュールは、CheckMate 012試験で毒性が過剰と判断され、その後の臨床開発には不適切とされたスケジュールと一致しており、この投与頻度が毒性増加の一因となった可能性が高い。
新規性: 本研究は、既治療の進行NSCLC患者において、ペムブロリズマブとイピリムマブの併用療法が抗腫瘍活性を示すものの、単剤療法と比較して毒性が増加することを初めて詳細に報告した。また、PD-L1 TPS別のORRにおいて、PD-L1高発現群で数値的に低い奏効率が観察されたことは、これまでのPD-1単剤療法における知見とは異なる新規の所見であった。この結果は、PD-L1発現が併用療法の効果予測バイオマーカーとして単剤療法ほど明確に機能しない可能性を示唆する。
臨床応用: 本研究の知見は、既治療の進行NSCLC患者において、ペムブロリズマブとイピリムマブの併用療法が単剤療法よりも優れた選択肢ではない可能性を示唆する。高い毒性プロファイルと、単剤療法と比較して統計的に有意な有効性の改善が認められなかったことから、このレジメンの臨床応用には慎重な検討が必要である。しかし、本研究の経験は、より最適化された併用免疫療法の開発に重要な示唆を与える。具体的には、イピリムマブの投与頻度を減らす (例: 6週間ごと) ことで毒性を軽減し、ベネフィット・リスクバランスを改善できる可能性がある。この知見に基づき、PD-L1 TPS ≥50%の未治療NSCLC患者を対象に、イピリムマブを6週間ごとに投与するKEYNOTE-598試験が計画・実施された。
残された課題: 本研究にはいくつかの限界がある。第一に、単アーム試験であるため、ペムブロリズマブ単剤療法や化学療法との直接比較ができない点である。第二に、有効性評価対象患者数 (n=44) が比較的少なく、統計的検出力が不足していた可能性がある。第三に、PD-L1 TPSの測定方法 (22C3) は標準化されているものの、バッチ間の変動や測定のタイミングが結果に影響を与えた可能性も否定できない。第四に、患者集団が多様であり、2レジメン以上の前治療歴を持つ患者が71%を占め、EGFR/ALK変異陽性患者も含まれていたため、結果の一般化には注意が必要である。今後の検討課題として、PD-1/PD-L1とCTLA-4以外の免疫チェックポイント阻害薬の組み合わせ (例: LAG-3, TIGIT, TIM-3阻害薬)、イピリムマブの投与スケジュール最適化、バイオマーカー駆動型患者選択戦略の開発、および一次治療における併用療法のさらなる検証が挙げられる。これらの課題を解決するための今後の研究が、進行NSCLC患者に対する併用免疫療法の最適な戦略を確立するために不可欠である。
方法
本研究は、多施設共同、多コホートの第1/2相試験であるKEYNOTE-021 (ClinicalTrials.gov, NCT02039674) のコホートD (用量設定) およびコホートH (用量拡大) の結果を報告する。
患者適格基準: 組織学的または細胞学的に確認されたStage IIIB/IVの進行NSCLC患者 (組織型不問) で、プラチナ製剤ベースの化学療法または適切な分子標的薬治療 (EGFR/ALK遺伝子異常陽性患者の場合) を含む1レジメン以上の前治療歴があり、治療失敗を経験した患者が対象とされた。RECIST v1.1基準で測定可能な病変が1つ以上存在し、ECOG Performance Statusが0または1、期待余命が3ヶ月以上、十分な臓器機能を有することが求められた。PD-L1発現評価のために腫瘍生検組織の提出が必要であった。主要な除外基準には、免疫調節受容体またはメカニズムを標的とする過去の治療 (例: PD-1, PD-L1, CTLA-4)、過去6ヶ月以内に肺への30Gyを超える放射線治療、過去2年以内に全身治療を要する活動性自己免疫疾患、活動性間質性肺疾患または静脈内グルココルチコイドを要する肺炎の既往、未治療の脳転移 (安定した治療済み転移は許容) などが含まれた。患者は書面によるインフォームドコンセントを提供し、研究プロトコルは各施設の治験審査委員会によって承認された。
試験デザインと治療レジメン: コホートDは3+3デザインの用量設定コホートであり、最初の3週間サイクルにおける用量制限毒性 (DLT) を評価し、推奨される第2相試験用量 (RP2D) を決定した。当初、ペムブロリズマブ10 mg/kgとイピリムマブ1 mg/kgまたは3 mg/kgを3週間ごとに4サイクル投与し、その後ペムブロリズマブ10 mg/kg単剤を最長2年間継続する計画であった。しかし、外部試験からの安全性懸念 (ニボルマブとイピリムマブの併用試験における治療関連死など) を受け、プロトコルが改訂され、以降の患者はペムブロリズマブ2 mg/kgとイピリムマブ1 mg/kgを3週間ごとに投与するレジメンに変更された。コホートH (用量拡大コホート) の全患者は、このRP2Dであるペムブロリズマブ2 mg/kgとイピリムマブ1 mg/kgの併用療法を受けた。イピリムマブはペムブロリズマブ点滴後30分以上経過してから投与された。4サイクルの併用療法後、ペムブロリズマブ単剤療法を最長2年間継続した。治療は、RECIST v1.1に基づく疾患進行、忍容できない毒性、治験責任医師の判断、または同意撤回まで継続された。
評価項目: 主要評価項目は、盲検独立中央判定 (BICR) によるRECIST v1.1に基づく客観的奏効率 (ORR) であった Eisenhauer et al. EurJCancer 2009。副次評価項目には、DLT、治療関連有害事象 (TRAE)、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、奏効期間 (DOR)、およびPD-L1 TPS別のORRが含まれた。有害事象はNCI CTCAE v4.0に基づき評価された。PD-L1発現は、診断時の固定腫瘍組織サンプルを用いて、PD-L1 IHC 22C3 pharmDxアッセイ (Agilent Technologies) により中央検査室で評価され、TPSとして報告された。
統計解析: 解析対象は、治験薬を投与された全ての患者とした。プロトコルに事前に規定された通り、ペムブロリズマブ2 mg/kgとイピリムマブ1 mg/kgを投与されたコホートDおよびHの患者データは統合して解析された。ORRの評価では、観察されたORRと歴史的対照率20%との差を片側正確二項検定を用いて評価した。44例の患者数で、本研究はα=0.05において、観察ORRと歴史的ORRの20%の差を検出する約90%の検出力を持っていた。PFS、OS、およびDORはカプラン・マイヤー法を用いて推定された。PFSは治療開始から疾患進行または死亡のいずれか早い方までの期間と定義され、OSは治療開始から死亡までの期間、DORは客観的奏効が最初に確認された時点から疾患進行または死亡のいずれか早い方までの期間と定義された。