- 著者: Heather Wakelee, Moishe Liberman, Terufumi Kato, Masahiro Tsuboi, Se-Hoon Lee, Shugeng Gao, Ke-Neng Chen, Christophe Dooms, Margarita Majem, Ekkehard Eigendorff, Gastón L Martinengo, Olivier Bylicki, Delvys Rodríguez-Abreu, Jamie E Chaft, Silvia Novello, Jing Yang, Steven M Keller, Ayman Samkari, Jonathan D Spicer
- Corresponding author: Heather Wakelee (Stanford University School of Medicine, Stanford, CA)
- 雑誌: New England Journal of Medicine
- 発行年: 2023
- Epub日: 2023-06-03
- Article種別: Original Article
- PMID: 37272513
背景
PD-1/PD-L1阻害薬は進行非小細胞肺癌 (NSCLC) の標準治療として確立されており、その有効性は早期病期のNSCLCにおいても複数の臨床試験で示されてきた。切除不能III期NSCLCを対象としたPACIFIC試験では、化学放射線療法後のデュルバルマブが病勢進行のない生存期間 (PFS) および全生存期間 (OS) を改善することが報告された (Antonia et al. NEnglJMed 2017、Antonia et al. NEnglJMed 2018)。また、切除可能NSCLCの術前療法として、CheckMate-816試験ではニボルマブと化学療法の併用がイベントフリー生存期間 (EFS) を有意に改善することが示された (ハザード比 [HR] 0.63; 97.38%信頼区間 [CI], 0.43-0.91; p=0.005) (Forde et al. NEnglJMed 2022)。術後補助療法としては、IMpower010試験において、アテゾリズマブがPD-L1発現陽性のII-IIIA期NSCLC患者の無病生存期間 (DFS) を改善することが示され (HR 0.66; 95% CI, 0.50-0.88; p=0.004) (Felip et al. Lancet 2021)、PEARLS/KEYNOTE-091試験では、ペムブロリズマブがPD-L1発現を問わないIB-IIIA期NSCLC患者のDFSを改善することが報告された (HR 0.76; 95% CI, 0.63-0.91; p=0.001) (OBrien et al. LancetOncol 2022)。
これらの試験により、術前または術後単独の免疫チェックポイント阻害薬の有効性が確立されたものの、多くの患者が依然として再発リスクに晒されており、長期的な転帰のさらなる改善が求められていた。特に、術前免疫療法と術後免疫療法の両方を組み合わせる「周術期免疫療法」のアプローチは、術前療法による抗腫瘍免疫の活性化と腫瘍縮小効果、および術後療法による残存微小転移の根絶という相乗効果を通じて、より強力な治療効果をもたらす可能性が示唆されていた。しかし、周術期免疫療法 (perioperative immunotherapy) の有効性と安全性に関する大規模な検証は未解明な点が残されていた。
これまでの研究では、術前または術後単独の免疫療法が一定の成果を上げてきた一方で、治療効果が限定的な患者群も存在し、特に微小残存病変に対する効果が不足している可能性が指摘されていた。また、術前化学療法単独と比較して、免疫チェックポイント阻害薬を組み込んだ周術期レジメンが、切除可能NSCLC患者のEFSおよびOSをどの程度改善できるか、その安全性プロファイルは許容範囲内かといった重要な臨床的疑問が残されていた。本研究は、これらのギャップを埋めることを目的として、周術期ペムブロリズマブの有効性と安全性を評価する大規模な第III相試験として実施された。
目的
本試験 (KEYNOTE-671) は、切除可能Stage II、IIIA、またはIIIB (N2期) の非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者を対象に、周術期ペムブロリズマブの有効性と安全性を評価することを目的とした。具体的には、術前ペムブロリズマブとシスプラチンベースの化学療法を併用し、その後に手術を行い、さらに術後ペムブロリズマブを投与するレジメンが、術前化学療法単独、その後の手術、および術後プラセボと比較して、イベントフリー生存期間 (EFS) および全生存期間 (OS) を統計学的に有意に改善するかどうかを検証することを主要な目的とした。
副次評価項目としては、主要病理学的奏効 (MPR) および病理学的完全奏効 (pCR) の割合、ならびに治療の安全性プロファイルを評価することが含まれた。本研究は、周術期免疫療法が切除可能NSCLC患者の治療成績を向上させる新たな標準治療選択肢となり得るか否かを判断するための重要なエビデンスを提供することを目指した。また、PD-L1発現レベルや組織型などのサブグループにおける治療効果の一貫性も探索的に評価された。
結果
イベントフリー生存期間 (EFS) の有意な改善: 初回中間解析時点での追跡期間中央値は25.2ヶ月であった。イベントまたは死亡を経験した患者は全体で344例 (43.2%) であった。24ヶ月EFS率は、ペムブロリズマブ群で62.4% (95% CI, 56.8-67.5)、プラセボ群で40.6% (95% CI, 34.8-46.3) であった。EFS中央値は、ペムブロリズマブ群では未到達 (95% CI, 34.1ヶ月-未到達)、プラセボ群では17.0ヶ月 (95% CI, 14.3-22.0) であった。ペムブロリズマブ群はプラセボ群と比較して、病勢進行、再発、または死亡のリスクを統計学的に有意に低減した (HR 0.58; 95% CI, 0.46-0.72; P<0.001)。このEFSのベネフィットは、解析された全てのサブグループで概ね一貫しており、特にPD-L1 TPSが50%以上の患者群で最も顕著な効果が認められた (HR 0.42)。PD-L1 TPS 1-49%の患者群ではHR 0.51、PD-L1 TPS <1%の患者群ではHR 0.77であった。これらの結果は、周術期ペムブロリズマブが切除可能NSCLC患者のEFSを大幅に改善することを示している (Figure 1A, 1B)。
全生存期間 (OS) における統計学的有意差の未達成: 全生存期間については、初回中間解析時点で177例 (22.2%) が死亡した。24ヶ月OS率は、ペムブロリズマブ群で80.9% (95% CI, 76.2-84.7)、プラセボ群で77.6% (95% CI, 72.5-81.9) であった。ペムブロリズマブ群のOS中央値は未到達であり、プラセボ群のOS中央値は45.5ヶ月 (95% CI, 42.0-未到達) であった。この解析時点でのP値は0.02であり、事前に規定された有意水準を満たさなかったため、統計学的に有意なOSの改善は示されなかった。48ヶ月時点での制限付き平均生存時間 (restricted mean survival time) の差は3.1ヶ月 (95% CI, 0.6-5.6) であった (Figure 2)。OSデータはまだ成熟しておらず、今後の長期追跡が待たれる。
病理学的奏効の顕著な改善: 主要病理学的奏効 (MPR) は、ペムブロリズマブ群で30.2% (95% CI, 25.7-35.0)、プラセボ群で11.0% (95% CI, 8.1-14.5) であった。両群間のMPRの差は19.2パーセンテージポイントであり (95% CI, 13.9-24.7; P<0.0001)、ペムブロリズマブ群で有意に高かった。病理学的完全奏効 (pCR) は、ペムブロリズマブ群で18.1% (95% CI, 14.5-22.3)、プラセボ群で4.0% (95% CI, 2.3-6.4) であった。両群間のpCRの差は14.2パーセンテージポイントであり (95% CI, 10.1-18.7; P<0.0001)、こちらもペムブロリズマブ群で統計学的に有意に高かった。探索的解析では、pCRを達成しなかった患者におけるEFSハザード比は、ペムブロリズマブ群で0.69 (95% CI, 0.55-0.85) であり、術後補助療法としてのペムブロリズマブの追加的な効果が示唆された (Figure 3B)。
手術実施率とR0切除率: 治験内手術を施行した患者の割合は、ペムブロリズマブ群で82.1% (n=325)、プラセボ群で79.4% (n=317) であり、両群間で大きな差はなかった。R0切除 (完全切除) 率は、ペムブロリズマブ群で92.0%、プラセボ群で84.2%であった。ペムブロリズマブ群でR0切除率が数値的に高かったものの、術式選択や術後合併症の発生率に周術期ペムブロリズマブが影響を与えることはなかった。手術後の入院期間中央値は、ペムブロリズマブ群で8日 (範囲, 1-50)、プラセボ群で7.5日 (範囲, 1-65) であった。
安全性プロファイル: 全治療期間を通じて、治療関連のGrade 3以上の有害事象は、ペムブロリズマブ群で44.9%、プラセボ群で37.3%に発生した。治療関連死は、ペムブロリズマブ群で4例 (1.0%)、プラセボ群で3例 (0.8%) であった。ペムブロリズマブ群の治療関連死の内訳は、免疫性肺障害、肺炎、突然心臓死、心房細動が各1例であった。プラセボ群では、急性冠症候群、肺炎、肺出血が各1例であった。免疫関連有害事象は、ペムブロリズマブ群で25.3% (Grade 3以上 5.8%)、プラセボ群で10.5% (Grade 3以上 1.5%) に認められた。最も頻繁に報告された免疫関連有害事象は、甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症、および肺臓炎であった。これらの安全性プロファイルは、既報のペムブロリズマブと化学療法の併用療法で観察されたものと概ね一致しており、新たな安全性シグナルは認められなかった。
考察/結論
KEYNOTE-671試験は、切除可能Stage II-IIIB (N2) 非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者において、周術期ペムブロリズマブ (術前ペムブロリズマブ+化学療法、手術、術後ペムブロリズマブ) が、術前化学療法単独と比較して、イベントフリー生存期間 (EFS)、主要病理学的奏効 (MPR)、および病理学的完全奏効 (pCR) を統計学的に有意に改善することを示した。EFSのハザード比は0.58 (95% CI, 0.46-0.72; P<0.001) であり、これは術前免疫療法単独のCheckMate-816試験で報告されたHR 0.63と比較して数値上良好な結果であった。このことは、術前と術後の両方で免疫療法を組み合わせる周術期アプローチの優位性を示唆する。
新規性: 本研究で初めて、周術期ペムブロリズマブが切除可能NSCLC患者のEFSを大幅に改善し、特にpCR未達成患者においてもEFSのベネフィットが認められた点が重要である。pCR未達成患者におけるEFSのハザード比は0.69 (95% CI, 0.55-0.85) であり、これはCheckMate-816試験のpCR未達成患者におけるHR 0.84よりも良好な結果であった。このことは、術後補助療法としてのペムブロリズマブが、術前療法で十分な病理学的奏効が得られなかった患者に対しても追加的な効果をもたらす可能性を示唆する新規の知見である。
先行研究との違い: 本試験の結果は、周術期デュルバルマブを評価したAEGEAN試験や、周術期トリパリマブを評価したNeotorch試験といった他の第III相試験の結果と概ね一致しており、切除可能NSCLCにおける周術期免疫チェックポイント阻害薬の有効性を複数の試験で裏付けるものである。しかし、本試験では術前化学療法としてシスプラチンベースのレジメンのみが許容され、カルボプラチンベースのレジメンは含まれていなかった点が、他の試験と異なる点として挙げられる。これは、一部の患者にとって臨床実用上の制約となる可能性がある。
臨床応用: 本研究の結果は、切除可能Stage II-IIIB (N2) NSCLC患者に対する周術期ペムブロリズマブを新たな標準治療選択肢として確立するものである。EFSの有意な改善は、患者の長期的な予後向上に直接的に貢献すると考えられる。特に、病理学的奏効の改善は、腫瘍の生物学的特性に対する免疫療法の効果を明確に示しており、臨床現場での治療戦略に大きな影響を与える。
残された課題: 全生存期間 (OS) については、初回中間解析時点では統計学的に有意な差に到達しなかった (P=0.02)。追跡期間中央値が25.2ヶ月と比較的短いため、OSの長期データが今後の検討課題として残されている。また、本試験デザインのlimitationとして、術前ペムブロリズマブと術後ペムブロリズマブの相対的な寄与を直接的に分離して評価することはできない。将来の研究では、これらの各成分の独立した効果を評価するための試験デザインが必要となる。さらに、EGFR変異やALK転座などのドライバー遺伝子変異を有する患者における周術期免疫療法の効果については、本試験では十分なデータが得られておらず、今後の研究で詳細な検討が求められる。
方法
本研究は、国際多施設共同二重盲検プラセボ対照ランダム化第III相試験 (KEYNOTE-671, NCT03425643) として実施された。対象患者は、18歳以上で、未治療の病理学的に確認された切除可能Stage II、IIIA、またはIIIB (N2期) のNSCLC患者であった。ECOGパフォーマンスステータスは0または1であり、PD-L1評価のための腫瘍検体を提供できることが条件とされた。合計1364例がスクリーニングされ、797例がペムブロリズマブ群 (n=397) またはプラセボ群 (n=400) に1:1で無作為に割り付けられた。無作為化は、病期 (II期 vs III期)、PD-L1腫瘍細胞比率 (TPS; <50% vs ≥50%)、組織型 (扁平上皮癌 vs 非扁平上皮癌)、および地域 (東アジア vs その他) を層別因子として行われた。
治療プロトコルは以下の通りであった。術前療法として、両群ともにシスプラチンベースの化学療法を3週毎に4サイクル投与した。化学療法は、扁平上皮癌患者にはシスプラチンとゲムシタビン、非扁平上皮癌患者にはシスプラチンとペメトレキセドが用いられた。ペムブロリズマブ群の患者は、この化学療法に加えてペムブロリズマブ200 mgを3週毎に4サイクル投与された。プラセボ群の患者は、化学療法に加えてプラセボを投与された。術前療法後、手術が実施された。手術は、術前療法開始から20週以内に行われることとされた。術後療法として、ペムブロリズマブ群の患者はペムブロリズマブ200 mgを3週毎に最大13サイクル投与され、プラセボ群の患者はプラセボを投与された。術後療法は、手術後4週から12週の間に開始された。
主要評価項目は、イベントフリー生存期間 (EFS) と全生存期間 (OS) であった。EFSは、無作為化から、計画された手術を妨げる局所進行、切除不能腫瘍、病勢進行または再発、あるいはあらゆる原因による死亡のいずれか最初の発生までの期間と定義された。OSは、無作為化からあらゆる原因による死亡までの期間と定義された。副次評価項目には、主要病理学的奏効 (MPR: 切除された原発腫瘍およびリンパ節における生存腫瘍細胞が10%以下と定義) および病理学的完全奏効 (pCR: 切除された原発腫瘍およびリンパ節における浸潤性癌の残存なし [ypT0/Tis ypN0] と定義) の割合、ならびに安全性プロファイルが含まれた。MPRおよびpCRは、盲検化された中央病理医による評価に基づき決定された。
統計解析計画では、約786例の患者を無作為化し、416件のイベント発生により、ハザード比0.7を片側α=0.01で検出する90%の検出力を確保するよう設計された。EFSとOSの解析には、層別Cox回帰モデル (stratified Cox regression model) と層別ログランク検定 (stratified log-rank test) が用いられた。MPRとpCRの比較には、層別Miettinen and Nurminen法が用いられた。本解析は、最初の事前に規定された中間解析であり、データカットオフ日は2022年7月29日であった。この解析における多重度調整済み片側α水準は、EFSで0.00462、MPRおよびpCRで0.0001と設定された。安全性は、少なくとも1回の治験薬投与を受けた患者集団 (as-treated population) で評価され、有害事象はNCI-CTCAE v4.03に基づいてグレード分類された。