- 著者: Felip E, Altorki N, Zhou C, Csőszi T, Vynnychenko I, Goloborodko O, Luft A, Akopov A, Martinez-Marti A, Kenmotsu H, Chen YM, Chella A, Sugawara S, Voong D, Wu F, Deng Y, McCleland M, Sherwin N, Woll PJ
- Corresponding author: Enriqueta Felip, MD (Vall d’Hebron University Hospital, Barcelona, Spain)
- 雑誌: The Lancet
- 発行年: 2021
- Epub日: 2021-09-20
- Article種別: Original Article
- PMID: 34555333
背景
切除可能非小細胞肺がん (NSCLC) の約50%は局所または局所進行期であり、根治的外科手術が治療の第一選択となる。しかし、完全切除後も再発リスクは高く、特にStage IIIAでは5年生存率が36%に低下すると報告されている。補助白金製剤化学療法 (adjuvant CT) は、完全切除後Stage IB (腫瘍径 ≥4 cm) からIIIAのNSCLC患者における標準治療であり、5年生存率を約4-5%改善するものの、その効果は限定的であると報告されている Arriagada et al. NEnglJMed 2004、Pignon et al. JClinOncol 2008。近年、進行期NSCLCにおいて免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) が治療パラダイムを大きく変革しており、PD-L1 (programmed death-ligand 1) 阻害薬であるアテゾリズマブは、転移性NSCLCの一次治療および二次治療以降において臨床的有用性と許容可能な安全性プロファイルを示している Fehrenbacher et al. Lancet 2016、Rittmeyer et al. Lancet 2017、Socinski et al. NEnglJMed 2018。
術後補助療法としてICIを追加することで、微小残存病変の排除を促進し、再発リスクをさらに低減できる可能性が示唆されていたが、その有効性と安全性に関する大規模な第III相試験のデータは未解明であった。IMpower010試験は、補助化学療法後のアテゾリズマブが、切除後早期NSCLC患者の転帰を改善するかどうかを評価する目的で実施された、初の無作為化第III相試験である。この領域における治療選択肢の不足が指摘されており、新たなエビデンスが強く求められていた。
目的
本研究の目的は、完全切除されたStage IBからIIIAのNSCLC患者において、補助白金製剤化学療法後にアテゾリズマブを投与する群と最良支持療法 (BSC) を行う群との間で、主要評価項目である無病生存期間 (DFS) および副次評価項目である全生存期間 (OS)、ならびに安全性を比較評価することである。特に、PD-L1発現状況に応じたアテゾリズマブの有効性を検証することを目的とした。
結果
患者背景と治療状況: 2015年10月7日から2018年9月19日までに1280名の患者が登録され、1269名が補助化学療法を受けた。そのうち1005名がアテゾリズマブ群 (n=507) またはBSC群 (n=498) に無作為化された (ITT集団)。Stage II-IIIA患者は882名であり、そのうち476名がPD-L1 TC (腫瘍細胞) ≥1%の腫瘍を有していた。ベースライン特性は両群間で概ね均衡がとれていた (Table 1)。アテゾリズマブ群の治療期間中央値は10.4ヶ月 (IQR 4.8-10.6) であり、323名 (65%) の患者が16サイクルを完遂した。
Stage II-IIIA PD-L1 TC≥1%集団におけるDFS (主要評価項目): 中央値追跡期間32.8ヶ月において、アテゾリズマブ群はBSC群と比較してDFSを有意に改善した。アテゾリズマブ群のDFS中央値は未到達であったのに対し、BSC群では35.3ヶ月であった。この集団におけるDFSのHRは0.66 (95% CI 0.50-0.88, p=0.0039) であり、統計学的に有意な差が認められた (Figure 2A)。3年DFS率は、アテゾリズマブ群で60.0%、BSC群で48.2%であり、アテゾリズマブ群で11.8%の絶対差が認められた。特にPD-L1 TC≥50%の患者では、アテゾリズマブ群のDFS利益がより顕著であり、HR 0.43 (95% CI 0.27-0.68) であった (Figure 3B)。
全Stage II-IIIA集団におけるDFS: 階層的検定の次のステップとして、全Stage II-IIIA患者集団においてもアテゾリズマブ群はDFSを有意に改善した。アテゾリズマブ群のDFS中央値は未到達、BSC群では37.2ヶ月であった。この集団におけるDFSのHRは0.79 (95% CI 0.64-0.96, p=0.020) であった (Figure 2B)。3年DFS率は、アテゾリズマブ群で56.3%、BSC群で49.0%であった。
ITT集団におけるDFS: ITT集団 (Stage IB-IIIA) におけるDFSのHRは0.81 (95% CI 0.67-0.99, p=0.040) であった。この結果は統計的有意性の境界を満たさなかったが、名目上のP値として報告された (Figure 2C)。3年DFS率は、アテゾリズマブ群で58.1%、BSC群で53.0%であった。Stage IB患者ではアテゾリズマブのDFS利益は認められなかった (HR 1.05, 95% CI 0.69-1.60)。
PD-L1サブグループ解析: PD-L1発現レベルが高いほど、アテゾリズマブのDFS利益が大きい傾向が認められた。PD-L1 TC≥50%の患者ではHR 0.43 (95% CI 0.27-0.68) と最大の利益が示された一方、PD-L1 TC<1%の患者ではHR 0.97 (95% CI 0.72-1.31) と、アテゾリズマブによる利益は認められなかった (Figure 3B)。この結果は、PD-L1発現がアテゾリズマブ補助療法の効果を予測するバイオマーカーとして機能する可能性を示唆する。
全生存期間 (OS): データカットオフ時点 (中央値追跡期間32.2ヶ月) では、OSデータは未成熟であった。ITT集団におけるOSのHRは1.07 (95% CI 0.80-1.42) であり、統計的有意性は認められなかった。Stage II-IIIA PD-L1 TC≥1%集団におけるOSのHRは0.77 (95% CI 0.51-1.17) であった。最終的なOS解析にはさらなる追跡期間が必要である。
安全性: アテゾリズマブ群におけるGrade 3-4の治療関連有害事象 (TRAE) は53名 (11%) に発生し、Grade 5のTRAEは4名 (1%) に発生した (Table 2)。最も一般的なアテゾリズマブ関連TRAEは、甲状腺機能低下症 (11%)、そう痒症 (9%)、発疹 (8%) であった。免疫関連有害事象 (irAE) はアテゾリズマブ群の256名 (52%) で発生し、Grade 3-4のirAEは39名 (8%) に認められた。irAEによる治療中止は52名 (11%) であった。安全性プロファイルは、既報のアテゾリズマブ単剤療法と一致しており、新たな安全性シグナルは認められなかった。
考察/結論
IMpower010試験は、補助化学療法後の補助アテゾリズマブが、切除後Stage II-IIIA PD-L1 TC≥1%のNSCLC患者において、DFSを統計学的に有意に改善することを初めて大規模な第III相試験で実証した。この結果は、早期NSCLCにおける術後免疫療法の有効性を示す画期的な知見である。特に、PD-L1 TC≥50%の患者ではHR 0.43という顕著なDFS利益が認められ、このサブグループにおけるアテゾリズマブ補助療法の強い根拠を提供する。
先行研究との違い: これまでの補助化学療法がもたらす生存利益が限定的であったのと異なり、本研究は免疫チェックポイント阻害薬が術後補助療法として再発リスクを大幅に低減できることを示した。ADAURA試験でEGFR変異陽性NSCLCに対するオシメルチニブの補助療法が有効性を示したように、本研究はPD-L1発現陽性NSCLCに対する免疫療法の有用性を確立した点で、従来の治療パラダイムを大きく変える可能性を提示する。
新規性: 本研究で初めて、補助化学療法後のアテゾリズマブが、切除後Stage II-IIIA PD-L1 TC≥1% NSCLC患者のDFSを改善することを新規に示した。この結果は、術後補助免疫療法の新たな標準治療としての可能性を提示するものであり、これまで報告されていない重要な臨床的意義を持つ。
臨床応用: 本試験の結果は、切除後Stage II-IIIA PD-L1 TC≥1% NSCLC患者、特にPD-L1高発現患者に対するアテゾリズマブ補助療法を臨床現場に導入するための強力なエビデンスを提供する。PD-L1発現レベルに基づく患者選択の重要性が示され、個別化医療の進展に貢献する。安全性プロファイルは既報のアテゾリズマブ単剤療法と一致しており、新たな懸念は認められなかったことから、臨床応用におけるリスク・ベネフィットバランスは良好であると考えられる。
残された課題: OSデータは未成熟であり、DFS利益がOS利益に転換するかどうかは、今後の長期追跡解析によって明らかになる残された課題である。また、PD-L1 TC<1%の患者ではDFS利益が認められなかったことから、この集団に対する最適な術後補助療法は今後の検討課題である。本研究はオープンラベルデザインであったため、盲検化されていないことによるバイアスの可能性がlimitationとして挙げられるが、Good Clinical PracticeおよびNCCN (National Comprehensive Cancer Network) ガイドラインに準拠することで、この影響は最小限に抑えられたと考えられる。さらに、アテゾリズマブと化学療法の併用が、単剤療法よりもさらに臨床的有効性を高めるかどうかも、今後の研究で解明すべき点である。
方法
IMpower010は、22カ国227施設で実施された第III相、無作為化、多施設共同、オープンラベル試験 (ClinicalTrials.gov登録番号: NCT02486718) である。対象患者は、18歳以上、ECOG (Eastern Cooperative Oncology Group) Performance Status 0または1、UICC (Union Internationale Contre le Cancer) およびAJCC (American Joint Committee on Cancer) 第7版に基づき完全切除 (R0) されたStage IB (腫瘍径 ≥4 cm) からIIIAのNSCLC患者であった。EGFR (上皮成長因子受容体) 変異またはALK (未分化リンパ腫キナーゼ) 転座陽性腫瘍の患者は除外された。
患者は、補助白金製剤化学療法 (1〜4サイクル) 完了後、疾患再発がないことを確認した上で、アテゾリズマブ群 (1200 mgを21日ごとに静脈内投与、最大16サイクルまたは1年間) またはBSC群に1:1で無作為に割り付けられた。無作為化は、性別、組織型 (扁平上皮 vs 非扁平上皮)、病期 (Stage IB vs II vs IIIA)、PD-L1発現状況 (SP142 IHCアッセイによるTC0/1かつIC0/1 vs TC0/1かつIC2/3 vs TC2/3かつ任意のIC) を層別因子として実施された。
主要評価項目は、治験責任医師評価によるDFSであった。DFSは、SP263 IHCアッセイによりPD-L1が1%以上発現している腫瘍を有するStage II-IIIA患者集団、次に全Stage II-IIIA患者集団、最後にITT (intention-to-treat) 集団 (Stage IB-IIIAの全無作為化患者) の順に階層的に検定された。副次評価項目には、ITT集団におけるOS、SP263アッセイによりPD-L1が50%以上発現している腫瘍を有するStage II-IIIA患者集団におけるDFS、および各集団における3年・5年DFS率が含まれた。安全性は、アテゾリズマブまたはBSCを投与された全ての無作為化患者で評価された。データカットオフは2021年1月21日であり、中央値追跡期間は32.2ヶ月であった。
統計解析では、DFSのハザード比 (HR) はCox回帰モデルにより推定され、95%信頼区間 (CI) が算出された。治療群間の比較は層別ログランク検定に基づき実施された。DFS中央値、3年および5年DFS率はKaplan-Meier法により推定された。本試験は、Stage II-IIIA PD-L1 TC≥1%集団におけるDFS解析で90%の検出力を持つように設計された (HR 0.65)。ITT集団におけるOS解析は、DFSの階層的検定がITT集団で有意差を示さない場合、正式には検定されない計画であった。