• 著者: Mary O’Brien, Luis Paz-Ares, Sandrine Marreaud, Urania Dafni, Kersti Oselin, Libor Havel, Emilio Esteban, Dolores Isla, Alex Martinez-Marti, Martin Faehling, Masahiro Tsuboi, Jong-Seok Lee, Kazuhiko Nakagawa, Jing Yang, Ayman Samkari, Steven M Keller, Murielle Mauer, Nitish Jha, Rolf Stahel, Benjamin Besse, Solange Peters
  • Corresponding author: Mary O’Brien (Lung Unit, Royal Marsden Hospital, Sutton, Surrey, SM2 5PT, UK)
  • 雑誌: Lancet Oncology
  • 発行年: 2022
  • Epub日: 2022-08-17
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 36108662

背景

早期非小細胞肺癌(NSCLC)の標準治療は、完全切除後にプラチナベースの補助化学療法(ステージII-IIIA)を行うことである。しかし、この治療法における5年生存率は50-70%程度であり、再発率が高いことが長年の課題であった Butts et al. JClinOncol 2010。近年、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)が進行NSCLCの標準治療として確立され、その効果は早期NSCLCの術後補助療法においても期待されていた。特に、PD-L1阻害薬であるアテゾリズマブの術後補助療法を評価したIMpower010試験では、ステージII-IIIAのPD-L1発現率1%以上の患者群において無病生存期間(DFS)の改善が示され、ICIの術後補助療法への導入が開始された Felip et al. Lancet 2021

ペムブロリズマブはPD-1阻害薬であり、進行NSCLCにおいて優れた生存ベネフィットと管理可能な安全性プロファイルが示されている Reck et al. NEnglJMed 2016Herbst et al. Lancet 2016Mok et al. Lancet 2019、Reck et al。また、切除不能な局所進行ステージIII NSCLCに対する化学放射線療法との併用においても有効性と忍容性が報告されている Jabbour et al。これらの背景から、完全切除された早期NSCLC患者に対するペムブロリズマブの術後補助療法の有効性と安全性を検証する必要性が生じた。

PEARLS/KEYNOTE-091試験(EORTC-1416-LCG [European Organisation for Research and Treatment of Cancer Lung Cancer Group] / ETOP 8-15 [European Thoracic Oncology Platform] - PEARLS/KEYNOTE-091)は、完全切除後のステージIB-IIIA NSCLC患者を対象に、ペムブロリズマブを術後補助療法として検討する国際多施設第3相試験である。本試験は、PD-L1発現(腫瘍細胞のPD-L1腫瘍細胞比率 [TPS])による階層的検証を組み込むことで、PD-L1発現レベルに応じた治療効果の差異を評価することを目的とした。これまでの研究では、PD-L1発現が進行期NSCLCにおけるペムブロリズマブ単剤療法の効果予測因子として重要であることが示されているが、早期NSCLCの術後補助療法におけるPD-L1発現の意義は未解明な部分が残されていた。

特に、PD-L1発現を問わない全集団での効果と、高PD-L1発現群での効果を同時に検証することで、より広範な患者集団への適用可能性を探る必要があった。先行研究では、PD-L1発現が1%未満の患者群におけるICIの術後補助療法の有効性については、十分なデータが不足している状況であった。本研究は、早期NSCLCにおけるICIの役割をさらに明確にする上で重要な知見を提供するものと期待された。

目的

本研究の目的は、完全切除されたステージIB(腫瘍径4cm以上)-IIIAの非小細胞肺癌(NSCLC)患者に対し、プラチナベースの補助化学療法(任意)後にペムブロリズマブを1年間投与する術後補助療法が、プラセボと比較して無病生存期間(DFS)を改善するかを検証することである。

主要評価項目は、以下の2つの集団におけるDFSである。

  1. 全集団(PD-L1発現レベルを問わない)
  2. PD-L1 TPS(腫瘍細胞のPD-L1腫瘍細胞比率)が50%以上のサブグループ

副次評価項目は、以下の通りである。

  • PD-L1 TPSが1%以上の集団におけるDFS
  • 全集団、PD-L1 TPSが50%以上の集団、およびPD-L1 TPSが1%以上の集団における全生存期間(OS)
  • 全集団における肺癌特異的生存期間
  • 安全性プロファイル

本試験は、早期NSCLCにおけるペムブロリズマブの術後補助療法としての有効性と安全性を評価し、PD-L1発現レベルが治療効果に与える影響を詳細に解析することで、新たな標準治療の確立に貢献することを目指した。

結果

患者背景の均衡: 2016年1月20日から2020年5月6日までに1955例がスクリーニングされ、1177例がランダム化された(ペムブロリズマブ群 n=590、プラセボ群 n=587)。ITT集団における患者背景は両群間で概ね均衡がとれていた (Table 1)。全ITT集団の年齢中央値は65歳(IQR 59-70)、男性が68%であった。ECOG PS 0の患者はペムブロリズマブ群で380例(64%) vs プラセボ群で343例(58%)であった。組織型は腺癌が約66%、扁平上皮癌が約30%であった。PD-L1 TPSの内訳は、<1%が39%、1-49%が33%、≥50%が28%であった。補助化学療法は86%の患者で実施されており、そのほとんどが3-4サイクルであった。

全集団における主要エンドポイントのDFS改善: データカットオフ時点(2021年9月20日)で、ペムブロリズマブ群の212例(36%)とプラセボ群の260例(44%)にDFSイベントが発生した。全集団におけるDFS中央値は、ペムブロリズマブ群で53.6 vs プラセボ群で42.0 monthsであり、ハザード比および生存期間の解析結果は、DFS中央値 53.6 vs 42.0 months (HR 0.76, 95% CI 0.63-0.91, p=0.0014) となり、ペムブロリズマブ群で統計学的に有意なDFS延長が示された (Figure 2A)。18ヶ月DFS率はペムブロリズマブ群で73% vs プラセボ群で64%、24ヶ月DFS率は62% vs 55%であった。

PD-L1 TPS 50%以上集団におけるDFS解析: PD-L1 TPSが50%以上の集団では、ペムブロリズマブ群の54例(32%)とプラセボ群の63例(38%)にDFSイベントが発生した。DFS中央値は両群ともに未到達(not reached)であった (Figure 2B)。ハザード比は HR 0.82 (95% CI 0.57-1.18, p=0.14) であり、この高発現サブグループではプラセボ群に対する統計学的な有意差は認められなかった。

サブグループにおける治療効果の傾向: DFSのサブグループ解析では、全集団におけるペムブロリズマブの優位性が概ね一貫して認められた (Figure 2C)。特に、ECOG PS 0の患者群では HR 0.78 (95% CI 0.62-0.99) 、ステージIIの患者群では HR 0.70 (95% CI 0.55-0.91) 、補助化学療法実施例では HR 0.73 (95% CI 0.60-0.89) 、非扁平上皮癌では HR 0.67 (95% CI 0.54-0.83) と良好な傾向を示した。EGFR変異陽性患者群(n=73)では HR 0.44 (95% CI 0.23-0.84) と、ペムブロリズマブ群で顕著なDFS改善が認められた。

全生存期間の中間解析結果: 中間解析時点ではOSデータは未成熟であり、ペムブロリズマブ群で98例(17%)、プラセボ群で111例(19%)の死亡イベントが発生していた。OS中央値は両群ともに未到達であり、HR 0.87 (95% CI 0.67-1.15, p=0.17) と統計学的な有意差は認められなかった (Figure 3)。

安全性と有害事象プロファイル: 安全性評価対象集団(ペムブロリズマブ群 n=580、プラセボ群 n=581)において、グレード3以上の有害事象(AE)は、ペムブロリズマブ群で198例(34%) vs プラセボ群で150例(26%)に発生した (Table 2)。最も頻度の高かったグレード3以上のAEは高血圧(ペムブロリズマブ群 35例 [6%] vs プラセボ群 32例 [6%])であった。治療関連のAEによる治療中止は、ペムブロリズマブ群で115例(20%) vs プラセボ群で34例(6%)であった。治療関連死はペムブロリズマブ群で4例(0.7%)報告された。

免疫関連有害事象の発生状況: 免疫関連有害事象(irAE)は、ペムブロリズマブ群で226例(39%) vs プラセボ群で75例(13%)に発生した (Table 3)。グレード3以上のirAEは、ペムブロリズマブ群で46例(8%) vs プラセボ群で11例(2%)であった。最も頻度の高かったirAEは甲状腺機能低下症(ペムブロリズマブ群 119例 [21%] vs プラセボ群 27例 [5%])であり、多くはグレード1-2で管理可能であった。

考察/結論

PEARLS/KEYNOTE-091試験の第2回中間解析において、完全切除されたステージIB-IIIA NSCLCの全集団に対し、ペムブロリズマブの術後補助療法がプラセボと比較して無病生存期間(DFS)を有意に延長することが示された(HR 0.76, 95% CI 0.63-0.91, p=0.0014)。

先行研究との違い: 本研究の結果は、アテゾリズマブのIMpower010試験 Felip et al. Lancet 2021 と対照的な結果を示した。IMpower010試験では、PD-L1発現率50%以上の集団において極めて顕著なDFS改善(HR 0.43)が報告されたのに対し、本研究ではPD-L1 TPSが50%以上のサブグループにおいて、予想に反してDFSの有意な改善が認められなかった(HR 0.82, 95% CI 0.57-1.18, p=0.14)。この差異の原因としては、PD-L1 TPSが50%以上の集団における統計的検出力不足、アテゾリズマブとペムブロリズマブの薬剤特性の違い、あるいは本試験のプラセボ群におけるPD-L1 TPSが50%以上の患者群で、予想よりも良好なDFSが観察されたこと(プラセボ群の過剰な良好成績)が考えられる。

新規性: 本研究は、PD-L1発現を問わない完全切除後ステージIB-IIIA NSCLCの全集団において、免疫チェックポイント阻害薬がプラセボと比較してDFSを有意に改善することを本研究で初めて示した。これにより、術後補助療法としての免疫チェックポイント阻害薬の適用範囲が、PD-L1発現レベルに関わらず拡大される可能性が示された。

臨床応用: 本試験の結果は、完全切除されたステージIB-IIIA NSCLC患者に対する術後補助療法として、ペムブロリズマブが新たな治療選択肢となる臨床的有用性を強く支持する。実際に、本試験の結果を受けて、米国FDAは2023年1月にPD-L1発現を問わずステージIB-IIIA NSCLC完全切除後の補助療法としてペムブロリズマブを承認した。臨床現場での意思決定において、PD-L1発現を問わない全集団でのDFS改善は、より多くの患者がこの治療の恩恵を受けられることを示唆している。

残された課題: 今後の検討課題として、まずOSの最終解析結果が待たれる。中間解析時点ではOSデータは未成熟であり、DFSの改善がOSの延長に繋がるかを確認する必要がある。また、本研究のlimitationとして、EGFR変異やALK転座の検査が必須ではなかったため、これらのドライバー変異を有するサブグループでの詳細な解析ができなかった点が挙げられる。さらに、補助化学療法との最適な組み合わせ(化学療法先行 vs 同時併用)、バイオマーカーを用いた患者選択の最適化、および長期的な免疫毒性の管理も残された課題である。

方法

本研究は、国際多施設共同の第3相、ランダム化、トリプルブラインド、プラセボ対照試験(PEARLS/KEYNOTE-091、ClinicalTrials.gov識別子 NCT02504372)として実施された。29カ国の196医療センターから患者が募集された。

対象患者: 対象は18歳以上の患者で、AJCC(American Joint Committee on Cancer)第7版に基づき病理学的に完全切除されたステージIB(腫瘍径4cm以上)、II、またはIIIAのNSCLCと診断された者である。組織型やPD-L1発現レベルは問われなかった。ECOGパフォーマンスステータスは0または1であった。術後補助化学療法は必須ではなかったが、ステージIBでは考慮され、ステージIIおよびIIIAでは各国および地域のガイドラインに従い強く推奨された。補助化学療法を受けた患者は、手術後12週間以内に最大4サイクルのプラチナベース化学療法を完了し、最終化学療法投与後3週間以上12週間以内に治験薬の初回投与を受ける必要があった。補助化学療法を受けなかった患者は、手術後12週間以内に治験薬の初回投与を受ける必要があった。活動性自己免疫疾患の既往がある患者などは除外された。

ランダム化と盲検化: 適格患者は、中央のインタラクティブ音声応答システムを用いて、ペムブロリズマブ群(200 mgを3週間ごとに1年間、最長18サイクル)またはプラセボ群に1:1でランダムに割り付けられた。ランダム化は、病期(IB vs II vs IIIA)、補助化学療法の有無(あり vs なし)、PD-L1 TPS(<1% vs 1-49% vs ≥50%)、および地理的地域(アジア vs 東欧 vs 西欧 vs その他の地域)を層別化因子として実施された。患者、治験担当医師、およびデータ解析者は治療割り付けに対して盲検化された。

評価項目: 主要評価項目は、全集団およびPD-L1 TPSが50%以上の集団における無病生存期間(DFS)であった。DFSは、RECISTバージョン1.1 Eisenhauer et al. EurJCancer 2009 に基づく局所再発または遠隔転移、二次原発性NSCLCまたはその他の悪性腫瘍の出現、あるいはあらゆる原因による死亡のいずれか早い方と定義された。

統計解析: 有効性はintention-to-treat(ITT)集団で評価され、安全性は治験薬を少なくとも1回投与された全患者で評価された。ファミリーワイズタイプIエラー率は、Maurer and Bretzのグラフィカル法を用いて片側α=0.025で厳密に制御された。DFSのハザード比(HR)は、ランダム化時の層別化因子、組織型(扁平上皮 vs 非扁平上皮)、および喫煙状況(非喫煙 vs 過去喫煙または現在喫煙)で調整した多変量Cox(コックス)比例ハザードモデル(Cox regression)を用いて推定された。本解析は、PD-L1 TPSが50%以上の集団で約118件のDFSイベントが発生した時点で実施された第2回中間解析の結果を報告する。データカットオフは2021年9月20日であり、追跡期間中央値は35.6ヶ月であった。比例ハザード仮定は、全体集団(p=0.27)およびPD-L1 TPSが50%以上の集団(p=0.55)のいずれにおいても違反しなかった。